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解説記事2016年11月28日 【ニュース特集】 実録“グループ法人税制外し”(2016年11月28日号・№668)

ニュース特集
「取得条項付き」の自社株を総務経理部長に第三者割当増資
実録“グループ法人税制外し”

 本誌663号(7頁)では、“グループ法人税制外し”に対し法人税法132条1項が適用された事案が出たことを報じたが、その詳細が判明した。
 本件は審査請求に及んでおり、納税者側の請求が棄却されている。“グループ法人税制外し”は、請求人の総務経理部長への第三者割当増資という方法で行われたが、国税不服審判所は、本件第三者割当増資に当たり、経済合理性の観点から請求人の財産状況や経営状態等を具体的に検討した形跡がないことや、約1,000人の請求人の従業員の中で割当て対象となったのは総務経理部長ただ1人であり、請求人が主張する「従業員の士気高揚効果」は認め難いことなどから、同族会社に係る行為計算否認規定である法人税法132条1項を適用し、本件第三者割当増資自体を否認している。

総務経理部長とは「特殊の関係」なし
 まず、本件における“グループ法人税制外し”がどのような形で行われたかを見てみよう。
 請求人A社は株主が代表取締役及びその特殊関係人である個人のみという典型的な同族会社だが、店舗数35、従業員数約1,000人という規模を有する(平成25年10月現在)。
 請求人A社と完全支配関係にあったB社とは図1のような関係にあった。すなわち、A社とB社の間には、「一の者及びこれと特殊の関係にある個人が、法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係がある法人相互の関係」(法法2条12号7の6、法令4条の2②)があったことになる。

 その後、請求人A社は平成22年12月27日に、A社の従業員で総務経理部長の地位にあった者に対し、取得条項付株式20,000株の第三者割当増資を行った。総務経理部長は代表取締役aの間に「特殊な関係」はなかったことから、この第三者割当増資の結果、A社とB社の間の完全支配関係は消滅している。

3期にわたり固定資産売却損を計上
 A社とB社の間に完全支配関係がなくなった後、請求人A社は、平成23年9月期、24年9月期、25年9月期において、A社が有する不動産(法法61条の13①に規定する譲渡損益調整資産に該当)をB社に譲渡し、各期において固定資産売却損を計上した(なお、各期において売却した不動産はそれぞれの期において複数あり、平成23年9月期と24年9月期においては譲渡益が出たものもあったが、譲渡損が出たものと通算すると、各期とも損失が発生)。
 これに対し税務署は、平成26年9月29日付で更正処分を打ち、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)1項を適用して総務経理部長に対する第三者割当増資を否認、A社とB社の間には完全支配関係があるとした。そのうえで、グループ法人税制に係る法人税法61条の13第1項を適用し、平成23年9月期~25年9月期の3期において計上された固定資産売却損の損金算入を否認している。
 以上を時系列で示せば図3のとおりとなる。


審判所が示した132条1項の解釈がIBM高裁判決と類似
 本裁決では、法人税法132条1項による否認の対象となった総務経理部長に対する「第三者割当増資」が、同項にいう「不当」に該当するか否かが最大の争点となっている。
 法人税法132条1項は「その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」に適用されることになる。国税不服審判所は、法人税法132条1項にいう「不当」に該当するか否かは、「専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきもの」との解釈を示したが、ここで一つの争点となったのが、行為又は計算の「理由」や「目的」の有無だ。
 この点について請求人A社は、不当とは「異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められることをいう」旨主張。これに対し国税不服審判所は、同族会社の行為や計算も目的ないし意図が考慮されることはあるものの、同項は否認の要件として、「同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ことを必要としているにとどまり、文理上、「否認対象となる同族会社の行為又は計算が専ら租税回避目的でされたこと」は必要としていないとし、A社の主張を退けている。
 すなわち国税不服審判所は、A社が主張するように「正当な理由ないし事業目的」があったとしても132条の適用があり得るとしているわけだが、これはIBMの高裁判決(2016年2月18日付で国側の上告受理申立てが不受理とされたことにより確定)で示された解釈(下記参照)と同じものと言える(本誌592号14頁参照)。
 IBMの高裁判決が出たのは2015年3月25日であり、本裁決が出たのは2016年1月6日となっている。その間、1年近い期間があることからしても、本裁決が示した上記解釈はIBMの高裁判決を踏まえたものである可能性が高い。

>IBM 事件・高裁判決で示された法人税法132条1項の解釈(高裁判決より抜粋)
 同族会社の行為又は計算が、同項〔法人税法132条1項〕にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、専ら経済的、実質的な見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される(最高裁昭和53年4月21日第二小法廷判決・訟務月報24巻8号1694頁(最高裁昭和53年判決)、最高裁昭和59年10月25日第一小法廷判決・集民143号75頁参照)。そして、同項が同族会社と非同族会社の間の税負担の公平を維持する趣旨であることに鑑みれば、当該行為又は計算が、純粋経済人として不合理、不自然なもの、すなわち、経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含むものと解するのが相当であり、このような取引に当たるかどうかについては、個別具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。
 法人税法132条1項の「不当」か否かを判断する上で、同族会社の行為又は計算の目的ないし意図も考慮される場合があることを否定する理由はないものの、他方で、被控訴人が主張するように、当該行為又は計算が経済的合理性を欠くというためには、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められること、すなわち、専ら租税回避目的と認められることを常に要求し、当該目的がなければ同項の適用対象とならないと解することは、同項の文理だけでなく上記の改正の経緯にも合致しない。
 そのような解釈は、同族会社が少数の株主又は社員によって支配されているため、当該会社の法人税の税負担を不当に減少させる行為や計算が行われやすいことに鑑み、同族会社と非同族会社の税負担の公平を図るために設けられた同項の趣旨を損ないかねないものというべきである。

グループ法人税制の適用開始前から会計事務所に相談
 国税不服審判所が示した上記解釈によれば、法人税法132条1項による否認の対象となった総務経理部長に対する「第三者割当増資」が「不当」と言えるかどうかは、本件第三者割当増資が(「正当な理由ないし事業目的」の有無にかかわらず)「専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準」に従って判断されることになるが、結論から言うと、本件第三者割当増資は「不合理、不自然」と見られても致し方のないものだったと言えよう。
 図3に示したとおり、本件第三者割当増資はグループ法人税制の適用開始日である平成22年10月1日(同日以後に行われる譲渡損益調整資産の譲渡から適用開始)から程なくして実施されているが、国税不服審判所による認定事実によれば、A社は平成22年2月頃に、グループ法人税制の適用を免れ、譲渡損益調整資産の売却損を計上する方法の検討を会計事務所に依頼するとともに、弁護士からは、第三者に株式を発行することによるリスクを避けるために、「取得条項付株式」として株式を発行するべきとのアドバイスを受けている。
 このような事実に加え、本件第三者割当増資の内容も税務当局から租税回避の意図を疑われるのに十分なものだった。
 本件第三者割当増資では、税理士が「税務上問題にならない(1株当たりの)価額」ととした「(資本金+資本準備金)÷発行済株式総数×50%」により発行価額を計算し、20,000株の株式を発行したが、国税不服審判所は「請求人の事業規模に照らして、資金調達等の経済的効果はないに等しいと評価できる」としたほか、本件第三者割当増資に当たり、取得価額を単純に発行価額の倍額とするなど、経済合理性の観点からA社の財産状況や経営状態等を具体的に検討した形跡は認められないこと、また、取得条項の内容(例えば「取得可能日」を、税務上の更正処分の期間制限等を考慮して「株式発行日から7年後」としている)などから、本件第三者割当増資は「完全支配関係を解消してグループ法人税制の適用を免れる目的」で行われたものであると断じている。
 一方、A社は「本件割当増資には、従業員の士気高揚という目的もあった」と主張したが、国税不服審判所は、約1,000人の従業員を擁する中で総務経理部長ただ1人を割当て対象者とし、他の従業員に対しては募集の周知すらしていなかったことや、本件第三者割当増資に経済合理性を踏まえた士気高揚効果があったとは認め難いことを踏まえ、この主張についても一蹴している。
 以上を踏まえ国税不服審判所は、本件第三者割当増資は、「経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理、不自然な行為といわざるえ得ない」とし、法人税法132条の2第1項に規定する「不当」な行為であると結論付けている。

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