解説記事2016年12月05日 【税務マエストロ】 日本・台湾租税協定と国内法の整備⑥(2016年12月5日号・№669)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
日本・台湾租税協定と国内法の整備⑥

#178 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#179 
租税公課と消費税の関係
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
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3 日台租税協定に係る国内法の整備(承前)
(4)源泉徴収の特例のための手続き  
 ① 原則的手続き
 外国居住者等(台湾居住者)が支払いを受ける配当等に対する源泉徴収税率は、原則として10%に軽減される(15条1項)。また、 「外国の権限ある機関等」が支払を受ける対象利子及び外国居住者等(台湾居住者)が支払を受ける「非課税対象利子」については、所得税が課されないこととされた(15条2項)。つまり源泉徴収税率が0%となる。こうした源泉徴収税率の減免等は、所得税法における源泉徴収に関する規定(所得税法212条、213条)の特例となるが、こうした特例を適用するための手続きについて、一般の租税条約を適用する場合の手続き等と同様に、日台租税協定実施法に定められた(実際には法律ではなく、省令にあたる日台租税協定実施法規則6条1項、6項及び7項)。
 具体的な手続きとしては、以下のとおり(規則6条1項において準用する実特法規則2条1項)。
イ)外国居住者等(台湾居住者)が、所得税法に基づき源泉徴収をされるべき対象配当等を受ける際に減免等の適用を受ける場合には、
ロ)当該対象配当等に係る源泉徴収義務者ごとに、
ハ)一定の事項を記載した届出書を、
ニ)原則として、平成29年1月1日以後最初に当該配当等の支払いを受ける日の前日までに
ホ)当該源泉徴収義務者を経由して、当該源泉徴収義務者の納税地の所轄税務署長に提出する。
(参考)条約実施特例法規則第2条第1項
 「相手国居住者等は、その支払いを受ける法第3条の2第1項(配当等に対する源泉徴収に係る所得税の税率の特例等)に規定する相手国居住者等配当等(以下この条において「相手国居住者等配当等」という。)につき所得税法第212条第1項若しくは第2項又は租税特別措置法第9条の3の2第1項、第41条の9第3項若しくは第41条の12の2第2項若しくは第3項の規定により徴収されるべき所得税について当該相手国居住者等に係る相手国等との間の租税条約の規定に基づき軽減又は免除を受けようする場合には、当該相手国居住者等配当等に係る源泉徴収義務者ごとに、次の各号に掲げる事項を記載した届出書を、当該租税条約の効力発生の日以後最初に支払いを受ける日の前日まで(その支払いを受ける相手国居住者等配当等が無記名の株式、出資若しくは受益証券に係るもの又は無記名の債券に係るものである場合にあっては、その支払いを受ける都度、当該支払を受ける時)に、当該源泉徴収義務者を経由して、当該源泉徴収義務者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。(以下各号略)
 なお、届出書の記載事項は、おおむね次のものとされている(規則6条1項において準用する実特法規則2条1項各号)が、具体的な届出書としては、配当等については、「租税条約に関する届出(様式1)」、利子に関しては(様式2)及びロイヤリティに関しては(様式3)を用い、その記載要領にしたがって記載することとなる。
イ)対象配当等の支払いを受ける台湾居住者の氏名、住所もしくは居所(台湾内)、個人番号、又は本店又は主たる事務所の所在地
ロ)対象配当等の支払いを受ける台湾居住者の当該対象配当等に係る台湾内での納税地及び台湾での納税者番号
ハ)対象配当等につき、日台租税協定の規定に基づき租税の軽減又は免除を受けることができる事情の詳細
ニ)対象配当等の支払者の氏名及び住所もしくは居所又名称及び本店もしくは主たる事務所の所在地
ホ)日台租税協定上の配当の支払いを受ける場合には、当該配当に係る株式、出資、基金又は受益権の銘柄又は名称、種類及び数量並びにその取得の日
ヘ)日台租税協定上の利子で債券に係るものの支払いを受ける場合には、当該債権の種類、名称、額面金額及び数量並びにその取得の日
ト)日台租税協定上の利子で債券に係るもの以外のもの(一般的にはローン利子など)の支払いを受ける場合には、当該利子の支払いの基因となった契約の締結の日、契約金額及び契約期間並びに当該契約期間において支払われる当該利子の金額及びその支払期日
チ)日台租税協定上の使用料の支払いを受ける場合には、当該使用料の支払いの基因となった契約の締結の日及び契約期間並びに当該契約期間において支払われる使用料の金額及びその支払期日
リ)日台租税条約上のその他の所得の支払いを受ける場合には、当該その他の所得の種類、金額、支払い方法、支払期日及び支払いの基因となった契約内容
ヌ)対象配当等の支払いを受ける台湾居住者が、日本の納税管理人の届出をしている場合には、当該納税管理人の氏名及び住所又は居所
ル)その他参考となるべき事項
 ② 届出書の内容に異動があった場合の取扱い  台湾居住者が、日本において、日台租税協定に定める対象配当等に対する源泉所得税の減免を受ける場合に提出する①の届出書について、その記載内容に変更等の異動が生じた場合には、その異動が生じた事項、異動が生じた日及びその他参考となる事項を記載した届出書を、異動が生じた日以後最初に当該届出書に係る対象配当等の支払いを受ける日の前日までに、当該対象配当等に係る源泉徴収義務者を経由して、当該源泉徴収義務者の納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(規則6条1項において準用する実特法規則2条2項)。
 なお、異動が生じた事項が、上記ホ)からリ)に規定する事項(一般的な配当以外の配当(親子間配当等)である場合には、その支払いの基因となった株式の数量、私募債等の利子である場合にはその支払いの基因となった債券の額面金額又はローン契約等に基づく利子の支払いである場合には、当該ローン契約の契約金額)のみである場合には、異動に関する届出書の提出を省略することができる(規則6条1項において準用する実特法規則2条3項)。
 ③ 免税の場合の取扱い  一般に、租税条約では特定の配当、利子、ロイヤルティ等に対して源泉税の免除を定めているところであるが、日台租税協定では、「台湾の権限ある機関等」が支払いを受ける利子及び「非課税対象利子」(脚注1)についてのみ源泉税の免除が定められている。これら「台湾の権限ある機関等」である台湾居住者が、日本において、日台租税協定に定める利子やその他台湾居住者が支払いを受ける「非課税対象利子」に対する源泉所得税の減免を受ける場合には、台湾居住者は、前記の届出書に、台湾の権限ある当局(財政部長または権限が与えられた代理者(脚注2))による、台湾居住者が対象手配当等につき租税の免除を定める日台租税協定の規定の適用を受けることができる台湾居住者であることを証する書類を添付する必要がある(規則6条1項において準用する実特法規則2条5項)。
 また、台湾の権限ある当局が、こうした書類の発行又は発給ができない場合には、当該書類に代えて、当該台湾居住者が「台湾の権限ある機関等」であること又は当該利子が「非課税対象利子」であることを明らかにする書類(台湾語である場合には日本語翻訳を含む)を添付することもできる。なお、この場合には、台湾の権限ある当局による「居住者証明書」を合わせて添付する必要がある(規則6条1項において準用する実特法規則2条6項)。
 なお、この居住者証明書は、台湾居住者が当該利子の源泉徴収義務者に提示して、その確認を受けた場合(提示の日前1年以内に作成されたものに限る)には添付する必要がない。ただし、源泉徴収義務者は、居住者証明書の写しを作成し、保管することとなる(規則6条1項において準用する実特法規則9条の10第1項、2項、3項)。
 ④ 源泉徴収後の還付請求  日台租税協定に定める軽減税率の適用を受けることができる台湾居住者が、何らかの理由(たとえば添付書類の不備)で、その支払い時に軽減税率の適用を受けずに所得税法に定める税率で源泉徴収された場合に、その後に日台租税協定に定める軽減税率での源泉徴収税額に軽減することができる。この場合には、一般税率と軽減税率の差額(免税の場合には源泉徴収された税額)の還付を請求することとなる(規則6条1項において準用する実特法規則2条8項)。この場合、必要書類を添付した「還付請求書」を、当該源泉税に係る源泉徴収義務者を経由して、当該源泉徴収義務者の納税地の税務署長に提出する必要がある(規則6条1項において準用する実特法規則2条9項)。具体的には、「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求」(様式11)を使用することとなる。
(5)課税上の取扱が異なる事業体の場合の適用関係  日台租税協定では、日本と台湾で課税上の取扱が異なる事業体が取得する所得の取扱が定められている(協定1条2項)。これは、当該事業体が取得する所得について、当該所得の源泉地が相手国である場合には、源泉地である相手国の課税については、居住地における課税上の取扱に基づいて日台租税協定に定める減免の効果が及ぶようにするものである。
(参考)日台租税協定第1条
2 この取決めの適用上、いずれか一方の地域において設立される団体若しくは仕組みであって、いずれか一方の地域の租税に関する法令の下において全面的に若しくは部分的に課税上存在しないものとして取り扱われるものによって、又は当該団体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、一方の地域における課税上当該一方の地域の居住者の所得として取り扱われる限りにおいて、当該一方の居住者の所得とみなす。この2の規定は、いかなる場合にも、一方の地域が当該一方の地域の居住者に対して租税を課する権利をいかなる態様においても制限するものと解してはならない。この2の規定の適用上、「課税上存在しない」とは、一方の地域の租税に関する法令の下において、団体又は仕組みの所得の全部又は一部について、当該団体又は仕組みに対してではなく、当該団体又は仕組みの持分を有する者に対して租税が課される場合をいう。
 この規定を実施するために、日本と台湾において課税上の取扱が異なる事業体が取得する対象配当等について、通常の台湾居住者が源泉税の減免の適用を受ける際の手続きと同様の手続きが定められた(15条③~⑪、 、規則6条2項~7項)。なお、これらの措置は、両国で課税上の取扱いが異なる事業体について一般的な租税条約の適用における規定に関する手続き等と基本的には同様のものとなっている。具体的には、租税条約実施特例法3条の2第3項から第26項、租税条約実施特例法政令第2条の2、2条の3、租税条約実施特例法規則第2条の2から第3条の3、第9条の10と同様の内容となっている。

脚注
1 「外国の権限ある機関等」とは外国の権限ある機関(一般的には政府が該当し、この場合は台湾政府)、外国の中央銀行又は政府系金融機関(外国の権限ある機関によりその発行済株式又は出資の全部を保有されているものに限る。)が該当する(15条2項、政令14条1項、規則6条10項)。また、「非課税利子等」とは、対象利子のうち、外国の中央銀行又は輸出入銀行によって保証された債務に係る債権、保険の引受けが行われた債権又は間接に融資された債権に係るものが該当する(政令14条2項)。
2 協定第3条第1項(f)

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