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解説記事2016年12月26日 【未公開裁決事例紹介】 非居住者判定は滞在日数等の客観的諸事情を総合勘案(2016年12月26日号・№672)

未公開裁決事例紹介
非居住者判定は滞在日数等の客観的諸事情を総合勘案
諸外国と比べて日本の方が生活実態あり

○会社の代表者である請求人が所得税法2条1項3号に規定する「居住者」に該当するか否かが争われた裁決で、国税不服審判所は、滞在日数は諸外国と比べ日本には定期的に帰国して滞在する傾向がより強かったといえると指摘。また、資産の所在も日本国内に最も多く保有し、住民登録も日本居宅の所在地になることなど、客観的諸事情を総合的に勘案すると、日本の方が諸外国よりも請求人の生活の本拠たる実態をより一層具備していたというべきであり、請求人の住所は日本にあったと認定した(平成28年3月1日、棄却)(本誌669号40頁参照)。

基礎事実等
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が所得税法第2条《定義》第1項第3号に規定する「居住者」に当たることを前提とする平成21年分ないし平成24年分の所得税の各期限後申告書を提出したことについて、①原処分庁が当該各期限後申告に基づき当該各年分の無申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとして当該各処分の全部の取消しを求めるとともに、②請求人が非居住者であって確定申告書を提出すべき者に該当しなかったとして平成23年分及び平成24年分の各更正の請求をしたのに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたことから、請求人が当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯 イ 請求人は、平成21年分ないし平成24年分(以下「本件各年分」という。)の所得税に関し、法定申告期限までに各確定申告書を提出していなかった。
ロ 原処分庁所属の調査担当職員は、請求人の本件各年分の所得税の調査を行い、本件各年分において請求人が居住者に該当するとの調査結果を請求人に説明した。
  請求人は、平成26年12月17日、確定申告書第二表「特例適用条文等」欄に「調査結果に不服があります。外税控除のために期限後申告します。」と記載した本件各年分の所得税の各確定申告書を原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、平成26年12月26日付で、本件各年分の所得税に係る無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、平成27年1月16日、本件各年分において請求人が居住者に当たらず総合課税される所得が存在しなかったことを理由として、本件各年分のうち平成21年分及び平成22年分の所得税については総所得金額及び納付すべき税額をそれぞれ零円とすべき旨の各更正の申出を、平成23年分及び平成24年分の所得税については総所得金額及び納付すべき税額をそれぞれ零円とすべき旨の各更正の請求をそれぞれしたが、原処分庁は、平成27年2月10日付で、平成21年分及び平成22年分の各更正の申出に対しては更正の理由がない旨の各通知を、平成23年分及び平成24年分の各更正の請求に対しては更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をそれぞれした。
ホ 請求人は、平成27年6月24日、本件各賦課決定処分に対する審査請求をし、同年7月22日、本件各通知処分に対する審査請求をした。
  なお、請求人は、上記ニの平成21年分及び平成22年分の更正の理由がない旨の各通知に対する審査請求もしていたが、当審判所は、平成27年9月7日付で、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する「国税に関する法律に基づく処分」に該当せず、不適法であるとしてこれらを却下した。
へ 以上のほか、本件各賦課決定処分及び本件各通知処分に対する審査請求に至る経緯は別表1(略)のとおりである。
  なお、本件各賦課決定処分に対する異議申立てに係る異議決定については、平成27年5月20日付でなされているが、異議決定書謄本が請求人に送達されたのは平成27年5月25日であり、通則法第77条《不服申立期間》第2項に規定する要件を満たしている。
(3)関係法令の要旨(略)
(4)基礎事実
 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 内国法人である①××、②××、③××及び④××、××の法人である⑤××、××の法人である⑥××、××の法人である⑦××並びに××の法人である⑧××はいずれも関連法人であるところ、請求人は、本件各年分において、これらのうち××以外の法人の代表者であった。
ロ 請求人は、本件各年分において、主に仕事上の必要から、上記法人の所在国である日本、××、××を中心に、ある国に数日ないし数週間滞在すると別の国に移動しており、一カ国に長期間滞在することはなかった。なお、××、××へは××を拠点に移動していた。
  なお、請求人は、このうち日本滞在時には、××に所在する請求人が共有持分権を有する居宅(以下「本件日本居宅」という。)に、××滞在時には、肩書地に所在する××が借り上げた賃貸住宅に、××滞在時には、××に所在するコンドミニアムにおいてそれぞれ生活していた。
ハ 請求人、その妻である××(以下「妻」という。)、長男である××(以下「長男」という。)、長女である××(以下「長女」という。)及び次女である××(以下「次女」という。)は、平成4年4月3日、上記ロの本件日本居宅の所在地に転入した旨の届出をしており、その後、本件各年分中に転出の届出をしていない。
ニ 請求人は、平成16年分ないし平成20年分の各年分の所得税について法定申告期限までに各確定申告書を提出していなかった。そこで、××所属の調査担当職員は、平成21年から平成22年にかけて、請求人が平成16年分ないし平成20年分(以下「本件前回各調査年分」という。)において居住者に該当するか否かの確認を含む所得税の調査(以下「本件前回調査」という。)を行ったが、最終的に、当該各年分の所得税の課税処分をしない旨を請求人に説明した。

争点および主張  本件各年分において、請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」に当たるか否か。当事者の主張はのとおり。

【表】当事者の主張
請 求 人 原 処 分 庁
 次のことから、本件各年分において、請求人の住所が本件日本居宅にあったとはいえないから、請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」には当たらない。
イ 本件各年分における請求人の日本の滞在日数は、年間183日を大きく下回り、平成24年を除けば、年間の4分の1程度であって、居住者該当性が争われた他の裁判例・裁決例と比較しても居住者該当性が肯定される根拠とはなり得ない。
ロ 請求人の生活の場所として、本件日本居宅、本件××居宅及び本件××居宅の間に有意な差は存在しない。
  請求人は、本件××居宅や本件××居宅においても飲食や消費活動等の日常生活を行っており、この点からも本件日本居宅、本件××居宅及び本件××居宅における生活状況に有意な差は存在しない。
ハ 請求人の××及び××の取締役会及び株主総会並びに毎月の経営会議への出席は、日常的なものではなく、日本に継続して居住することを必要とするものではないことから、住所が日本にあることの根拠とならない。
  また、金融機関の保証人になることは、どこで生活をするかに何ら影響を及ぼすものではないため、請求人の住所の判断において考慮すべき事情とはならない。
ニ 生計を一にする親族は単独では住所推定の事由とはなっておらず、また、本件××居宅において、請求人は、長男と同居して生計を一にしており、本件日本居宅のみに生計を一にする親族が居住しているわけではないから、判定要素として重視すべきではない。
ホ 資産の保有場所と現在の生活の本拠との関連性は、一般的にも強いとはいえず、また、過去に生活の本拠があった場所において多くの資産を保有したままであるということも通常であるから、両者の関連性は極めて低く、考慮すべき事情とはいえない。
へ 住民票の転出・転入の届出は、客観的な居住実態を反映するものとはいえず、重要性は低い。
 次の各事実を総合すると、本件各年分において、請求人の住所は本件日本居宅であったといえるから、請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」に当たる。
イ 本件各年分及び××の設立日以降平成24年末日までの期間において、請求人は、毎月必ず日本に滞在しており、請求人の日本滞在日数の合計は、他のいずれの国の滞在日数の合計よりも多い。

ロ 請求人は、日本滞在中は、自宅である本件日本居宅において起居し、病気治療等のために通院するほか、様々な商品を購入したり、サービスの提供を受けたりするなどの生活をしていた。他方、請求人が国外でこのような生活をしていた事実は認められなかった。


ハ 請求人は、××、××、××、××、××及び××の役員として重要な地位にあると認められるところ、××及び××の株主総会及び取締役会に出席して経営上重要な決定を行っているほか、××が金融機関から融資を受ける際には連帯保証人になるなど、日本国内において重要な職務を担っている。他方、国外の関係各社については、請求人が常駐していなければ職務を遂行できないという立場にはない。

ニ 妻及び次女は、請求人と生計を一にしており、本件日本居宅で暮らしている。




ホ 請求人の主な資産は、日本国内又は××国内にあり、××国内には一部の預金及び株式を保有する程度である。



へ 住民登録の状況は、生活の本拠を判定する上で重要な判断要素になり得るものであるところ、請求人は、自分の意思によって平成4年3月20日以降、継続して本件日本居宅を住民登録地としている。

審判所の判断
 イ 法令解釈
 所得税法第2条第1項第3号は、「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいうと規定しているところ、同法上、住所についての定義規定はないから、同法における住所とは、民法第22条の定める住所の意義のとおり、各人の生活の本拠をいうものと解される(最高裁判所昭和29年10月20日大法廷判決・民集8巻10号1907頁参照)。そして、各人の生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり(最高裁判所昭和35年3月22日第3小法廷判決・民集14巻4号551頁参照)、一定の場所がその者の住所であると認定するについては、その者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実体を具備していることを必要とするものと解すべきである(最高裁判所昭和32年9月13日第2小法廷判決・裁判集民事27号801頁、同裁判所平成23年2月18日同小法廷判決・判時2111号3頁参照)。
 そうすると、各人の住所の認定は、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容・従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して行うのが相当である。
 ロ 認定事実  請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件各年分における請求人の各国別の滞在日数は別表2(略)のとおりであり、滞在日数は日本が最も多く、年間平均滞在日数は多い順に日本が102日、××が91日、××が75日、××が43日、××が32日である。また、請求人の滞在状況を月単位でみると、日本には本件各年分を通じて必ず毎月一度は滞在しているのに対し、日本を除く本件各国(以下「本件諸外国」という。)についてはいずれも全く滞在実績のない月が存する。
(ロ)請求人は、日本滞在時には本件日本居宅において妻、長女及び次女と共に生活し、クレジットカードを利用して種々の消費活動をしたほか、病気の治療のためほぼ毎月通院しており、××には××こともある。
(ハ)請求人は、××及び××においては、代表者として、日本で月に一回開催される経営会議に出席し、営業等の報告を受けて経営判断を示す、あるいは、取締役会に出席するなどしていたほか、株主総会で議長を務めていた。一方、××においては、代表者として事業戦略の決定をするとともに、従業員から日常的な業務に関する相談を受けて指示を出すなど、具体的な関与をする立場にあった。
  また、××においては、役員として関与している長男に業務の相当部分を任せていたが、重要な経営判断については自らしていた。
(ニ)請求人は、××が××との当座勘定貸越取引に基づき負う債務について、極度額100,000,000円の連帯保証をしたほか、××が××との銀行取引に基づき負う手形債務等について、本件日本居宅及び本件日本居宅に係る土地に極度額120,000,000円の根抵当権を設定しており、本件各年分においても引き続きこれらの責任を負っていた。
(ホ)妻及び次女は、本件各年分を通じて本件日本居宅に居住しており、長女も、本件各年分のうち平成24年3月までは本件日本居宅に居住していた。妻らは、請求人名義の銀行預金口座から利用料金が引き落とされるクレジットカードを利用して種々の消費活動をしたほか、請求人名義の銀行預金口座から生活費として現金を引き出していた。また、本件各年分における本件日本居宅に係る電力料金、ガス料金及び水道料金は、請求人名義の銀行預金口座から支払われていた。このように、妻、長女(本件日本居宅に居住していた上記期間に限る。)及び次女は、本件各年分において請求人と生計を一にしていた。
(へ)本件各年分において、請求人が日本から××等に出国するときに、妻、長女及び次女が請求人と長期にわたり帯同したことはなかった。
(ト)当審判所の調査において把握された、請求人が本件各年分の末日において、保有していた資産の状況は、別表3(略)のとおりであり、日本国内に最も多く資産を保有している。
(チ)請求人は、昭和54年4月2日、××(現名称は××)の組合管掌健康保険に加入し、その後、本件各年分中において脱退していない。
(リ)本件各年分において、①××及び××の履歴事項全部証明書の役員に関する事項欄、②××、××及び××の法人税の確定申告書並びに③××及び××が作成した請求人に係る給与所得に対する源泉徴収簿及び給与所得の源泉徴収票には、いずれも、本件日本居宅が請求人の住所地である旨が記載されている(②の点に関する記載の詳細は別表4(略)のとおりである。)。
 ハ 当てはめ  以上の事実により請求人の住所を認定すると、以下のとおりである。
(イ)滞在日数について
 上記ロの(イ)によれば、請求人の本件各年分における年間平均滞在日数は、××及び××と比較して突出しているとまではいえないものの日本が最も多く、また、請求人は、本件諸外国と比較して、日本には定期的に帰国して滞在する傾向がより強かったといえる。
(ロ)生活場所及び同所での生活状況について
 請求人は、上記ロの(ロ)とおり、日本滞在時には本件日本居宅において妻らと共に生活し、種々の消費活動のほか、病気の治療のために通院するなどした。
(ハ)職業及び業務の内容・従事状況について
 請求人は、上記ロの(ハ)及び(ニ)のとおり、××及び××の代表者として経営判断等の業務を行い、××の多額の債務を連帯保証するなどしていた反面、××や××においても代表者として経営判断等の業務をしていたのであるから、請求人は、これらのいずれの会社にとっても不可欠の存在であり、本件各国における業務はいずれも重要性の高いものであったといえる。
(ニ)生計を一にする配偶者その他の親族の居住地について
 上記ロの(ホ)及び(へ)のとおり、妻らは、本件各年分において、本件日本居宅に居住して請求人と生計を一にしていた。
(ホ)資産の所在について
 上記ロの(ト)のとおり、請求人は、日本国内に最も多く資産を保有している。
(へ)生活に関わる各種届出状況等について
 請求人は、本件各年分において、本件日本居宅の所在地に住民登録されているほか、上記ロの(チ)及び(リ)のとおり、このことを前提として継続的に日本の健康保険に加入し、××をはじめとする関連法人においても本件日本居宅の所在地が住所であると扱われていた。
(ト)結論
 本件各年分において、上記(イ)ないし(へ)で摘示した客観的諸事情を総合的に勘案すると、日本の方が、本件諸外国よりも請求人の生活の本拠たる実体をより一層具備していたというべきであるから、本件各年分の請求人の住所は日本(本件日本居宅の所在地)にあったと認められる。
 したがって、本件各年分において、請求人は、所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」に当たる。
 ニ 請求人の主張について  請求人は、本件各年分における請求人の日本の滞在日数は、年の半数を大きく下回ること、請求人の生活の場所として、本件日本居宅、本件××居宅及び本件××居宅における生活状況に有意な差は存在しないこと、請求人の業務内容、顧客等との関連等から本件居宅に継続して居住する必要があること、生計を一にする親族の居住地は、判定要素として重視すべきではないこと、資産の保有場所と現在の生活の本拠との関連性は、一般的にも強いとはいえず、考慮すべき事情とはいえないこと、住民票の転出・転入の届出は、客観的な居住実態を反映するものとはいえず、重要性は低いこと、多国間を移動して生活する者の移動の際の起点となる場所は生活の中心であると推認され、請求人は、××起点の往復が突出して多いことから、請求人の住所が本件日本居宅にないことを伺わせる事情といえることなどの理由から、請求人は、居住者には当たらないと主張する。
 しかしながら、請求人のように多国間を移動する者にとっては、年間の過半数の期間滞在した国が存在しない場合も当然あり得るところ、このような場合にも、最も生活の実体を備えているといえる一つを住所として認定するべきであり、上記イのとおり、各人の住所の認定は、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容・従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案し、そうした客観的諸事情は、年分ごとに判断するものであり、この解釈に基づき、請求人の主張を斟酌し判断しても、いずれも上記ハの結論を左右するものではなく、その主張には理由がない。

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