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解説記事2017年01月09日 【税務マエストロ】 平成29年度税制改正~国際課税関連について(2017年1月9日号・№673)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
平成29年度税制改正~国際課税関連について

#180 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#181 
相殺取引(1)
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  政権与党による平成29年度税制改正大綱が昨年(平成28年)12月8日に公表された。平成29年度税制改正においては、現行の配偶者控除制度が女性の社会進出の妨げになっているのではないかという問題意識からその廃止等の是非が議論されていたが、他方、「パナマ文書」等が示唆する海外への資本や財産の移転等を通じた「租税回避」の問題も取り上げられ、今後の国際課税のあり方についても深く議論されたようである。
 その結果、国際課税については、「日本企業の健全な海外展開を支え、その果実の国内還流を促すとともに、租税回避に対してはこれまで以上に効果的に対応していく」という基本的な考え方のもと、個別の制度改正に当たっては、次の3つの基本方針が示されている。
① BEPSプロジェクトの合意事項の着実な実施を通じた国際協調の推進
② BEPSプロジェクトの基本的考え方(経済活動や価値創造の場と税が支払われる場所を一致させる)を踏まえ、健全な海外展開を歪める誘因を除去
③ 税に関する透明性の向上に向けた国際的な協調
 このように、国際課税分野の改正は、「BEPSプロジェクト」及び「国際協調」がキーワードと考えられるが、こうした国際的な動きが真実のものなのか、政府の示す通りのものなのかどうかについては冷静に考える必要もあろう。

1 国際課税関係の主な改正項目
(1)外国子会社合算税制の抜本的見直し
 
 外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)が抜本的に改正される。具体的には、経済実体がなくとも稼得することができる所得(いわゆる受動的所得)は合算課税対象とする一方で、実体ある事業からの所得であれば、子会社の税負担率が低くとも合算課税が免除されるという制度に改正される。これは、外国子会社を通じた租税回避リスクを、子会社の租税負担割合や会社全体の事業実態の有無といった「会社の外形」によって判断するアプローチから、個々の所得の内容や稼得方法といった「所得の内容」に応じて把握するアプローチへの変更といえる。
 その際、例えば金融機関が本業から得る金融所得は合算対象から除く等、企業のビジネス実態を十分に踏まえて合算対象を決定するとともに、企業にとっての予見可能性にも留意することとされている。また、租税回避に関わっていない企業の子会社に事務負担が発生しないよう、所要の措置を講ずることとされている。(次回号においてより詳細に解説予定)
 本件改正は、2018年4月1日以降に開始する外国関係会社の事業年度から適用される。
(2)非永住者の課税所得の範囲の見直し  非永住者の課税所得の範囲から、所得税法に規定する有価証券(過去10年以内において非永住者であった期間内に取得したもの(2017年4月1日以後に取得したものに限る。)を除く。)で次に掲げるものの譲渡により生ずる所得(国内において支払われ、または国外から送金されたものを除く。)が除外される。
-外国金融商品取引所において譲渡されるもの
-国外において金融商品取引業等を営む者への売委託により国外において譲渡されるもの
-国外において金融商品取引業等を営む者の国外営業所等に開設された有価証券の保管等に係る口座に受け入れられているもの
 本件改正は2017年4月1日以後に行う有価証券の譲渡について適用される。
(3)外国金融機関等の債券現先取引等に係る利子等の課税の特例の拡充 ① 特定金融機関等の範囲に、主としてコール資金の貸付けまたはその貸借の媒介を業として行う者のうち一定のものおよび金融商品取引清算機関が加えられる。また、外国金融機関等の範囲に、金融商品債務引受業を営む外国法人が加えられる。
 この改正は、2017年4月1日以後に開始する債券現先取引等につき支払いを受ける利子および貸借料等について適用される。
② 非課税の対象となる所得の範囲に、外国金融機関等以外の外国法人(特定金融機関等の関連者および租税条約等の相手国等以外の国または地域の法人を除く。)が特定金融機関等との間で振替国債を用いて行う取引期間3月以内等の要件を満たす債券現先取引で、2017年4月1日から2019年3月31日までの間に開始するものにつき支払いを受ける利子および貸借料等が加えられる。なお、この「関連者」とは、特定金融機関等との間に、直接・間接の持分割合50%以上の関係にある者及び実質支配・被支配関係にある者が該当する。
(4)100%子会社株式の現物分配に係る組織再編税制の見直し  現物分配をする内国法人が、100%子会社株式の全部を現物分配する場合に、当該子会社株式の交付を受けた非居住者又は外国法人株主(「非居住者等株主」)について、分割型分割と同様に取り扱うために、次の措置が講じられた。
① 事業譲渡類似の株式等の譲渡益課税について、子会社株式その他の資産が交付される場合の適用要件の整備
② 内国法人である現物分配法人の非居住者等株主の持株数に応じて外国子会社のみが交付される場合には、旧株(内国法人である現物分配法人の株式)の譲渡益に対して課税
 ただし、この取り扱いは、非居住者等株主がその有する恒久的施設において旧株を管理する場合には、適用しない。この場合、非居住者等株主がその交付を受けた外国子会社株式をその
交付の時にその恒久的施設において管理しなくなったときは、その交付の時に非居住者株主の恒久的施設と事業所等または本店等との間の内部取引があったものとして、恒久的施設帰属所得に係る所得の金額が計算される。
(5)租税条約の相互協議手続の改正に伴う関連規定の整備 ① 相互協議の申立手続きについて、租税条約の相手国等における居住者が国税庁長官に対し相互協議の申し立てができることとする。
② 仲裁の要請手続きについて、租税条約の相手国等の権限ある当局に対し相互協議の申立てをした者が国税庁長官に対し仲裁の要請をすることができることとする。
③ 国外関連者との取引に係る課税の特例等に係る納税猶予制度について所要の措置が講じられる。

2 来年以降に延期された改正項目  平成29年度税制改正大綱では、その末尾に「補論:今後の国際課税のあり方についての基本的考え方」として、国際課税分野における今後の課題が述べられている。その中で、具体的項目として、「義務的開示制度」、「所得相応性基準」の導入、「過大支払利子税制」の見直し(厳格化)が中期的に取り組むべき事項として挙げられている。
(1)義務的開示制度  義務的開示制度とは、BEPSプロジェクトの最終報告書においてその創設が勧告されたものであるが、これは、企業の活動に関する透明性向上の観点から、租税回避スキームについて会計士や税理士等のプロモーター及び利用者である企業が、当該スキームを税務当局に報告(義務的開示)する制度とされている。制度の目的としては、リスク評価のために潜在的に行き過ぎた又は濫用的な租税回避スキームの早期の情報収集、租税回避スキームやその利用者・プロモーターの適時の特定、租税回避スキームのけん制・抑止が挙げられている。
 当該制度は、現在、米国、カナダ、アイルランド、イスラエル、韓国、ポルトガル、南アフリカで導入されているといわれているところであるが、「租税回避スキーム」の定義、範囲によっては、租税回避スキームの義務的開示制度ととらえることができるかどうか疑問なしとしない。また、その定義、報告内容によっては、報告者に過大な負担を強いることにもなりかねず、日本の租税法律主義に基づく税法体系との関係も踏まえる必要があることも指摘されている(参照)。

(2)所得相応性基準  所得相応性基準とは、ロイヤルティ収入の基因となる知的財産などの無形資産の移転(譲渡)に当たって、その価値(価格)を後付で見直すことをいう。たとえば、譲渡時に1億円で評価、課税処理された無形資産が、譲渡後、より多額の収益を生むことが判明した段階で、譲渡時の評価額を、その後の所得に応じて後付で見直すことをいう。これは、移転価格税制に関し、知的財産等の無形資産を、税負担を軽減する目的で海外に移転する行為等に対応するために効果的な制度とされている。大綱の「補論」の文章からも、こうした行為に対して、課税当局は大きな懸念を抱いていることが読み取れるところである。
 「すなわち、海外への投資や技術移転は、企業競争力の向上や投資先の市場環境の活用といった事業目的で行われるべきであり、税負担の軽減を目的とすべきでない。例えば、日本のインフラや良質な労働力を活用した研究開発という実態ある活動を通じて生み出された知的財産が、海外につくったペーパーカンパニーへと移されるという「知の国外流出」ともいえる状況が発生すれば、課税機会の喪失だけでなく、日本の知的財産の保全を阻害することになりかねない。日本経済全体にとっても、知的財産使用料を受け取る立場であったものから、使用料を支払う立場となることから、サービス収支の悪化を招き、日本の経済成長にとってのマイナス要因をつくる。以上を踏まえ、国際課税に関連する制度の見直しに当たっては、「グローバル企業の経済活動が行われた場所と、税が支払われる場所とを一致させる」との「BEPSプロジェクト」が示した考え方に即して、日本企業の健全な海外展開を支援しつつ、租税回避を効果的に抑制していくことが必要である。」

記事に関連するお問い合わせ先 記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:ta@lotus21.co.jp
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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