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解説記事2017年02月06日 【第2特集】 借用概念を巡る学説を検証する─第2回(2017年2月6日号・№677)

第2特集
ヤフー・IBM事件や収益計上基準で弊害浮き彫り、納税者に実害も
借用概念を巡る学説を検証する─第2回

 第一回(本誌675号参照)のインタビューでは、現在、日本で租税法の解釈論の通説と言われている借用概念論(統一説)について、「ドイツの学説」と「法的安定性」がその採用理由とされているものの、それらは「統一説」を採用すべき理由とはならないという注目すべき話をうかがうことができた。財務省で長年法人税法の立法に携わり、近年の法人税法改正の基礎を創った朝長税理士は、ドイツの学説の通説は既に数十年前から「統一説」ではなく「無限定目的適合説」となっているのではないか、また、「法人」の定義規定さえいずれの法にも存在しない中、借用概念は原則として私法におけるそれと同義に解すべきであるとする「統一説」はむしろ税法の法的安定性を損なうものとなっているのではないか、と語った。
 第二回目となる今回は、裁判所が借用概念に関してどのような立場をとっているのか過去の裁判例を分析していただくほか、税法の趣旨・目的を根拠に課税処分が肯定されたヤフー・IDCF事件判決が学説に与える影響、さらに「統一説」の根拠の一つとなっている「実質課税の原則を根拠に課税当局が租税法に自由な解釈を持ち込むことに対して歯止めをかける」という主張の妥当性などにも踏み込んで話を聞いた。

Ⅳ 過去の裁判例

1 過去の裁判例は基本的には税法の趣旨・目的を踏まえて判断

――我が国ではこれまで統一説が通説であったわけですから、過去の判例は他の法の解釈を優先したもの、つまり、他の法が税法よりも優位な関係にあることを前提に判断を下したものが多いはずですよね。
朝長
 税法の解釈と適用が問題となった過去の裁判例においては、当然ながら「借用概念」と言われる用語の解釈だけが問題になるわけではありませんが、「趣旨」「目的」といった用語で税関係の判決を検索すると、非常に多くの判決が表示されます。要するに、税法の規定の趣旨・目的から判断を下したものが多く存在するわけです。もちろん、「趣旨」や「目的」という言葉は使っていないものの、内容を見れば、税法の規定の趣旨・目的や考え方に基づいて判断を下しているものも少なからず存在します。
――確かに、論点が用語の解釈であろうが取扱いであろうが、判決が税法の規定の趣旨・目的に反するものであってはならないはずですよね。
朝長
 そうです。その当たり前のことを、まずはっきりと確認しておく必要があります。

2 『租税法』で統一説の論拠とされる26件の判例にも目的適合説の論拠が複数存在
朝長
 税法の規定の中に用いられている用語の概念が他の法の規定の中に用いられている同じ用語の概念と同じであったとしても、それが「統一説が正しい」ということにつながるわけではない、という点も理解しておく必要があります。
 当然のことながら、目的適合説を採っていても、趣旨・目的から判断して、税法の中に用いられている用語の概念が他の法の中に用いられている同じ用語の概念と一致するということがあるわけです。
 『租税法』では、「借用概念について、本来の法分野におけると同じ意義に解して、概念の統一的理解の立場をとっている」(120頁)ものとして26件の判決(119・120頁)を挙げる一方、それに反する立場の判決としては、後に述べる最高裁昭和43年11月13日大法廷判決の1件(119頁)のみを挙げています。
 しかし、この26件の中には、「法の文言と趣旨とに照らし」「民法21条にいう住所と同一の意義を有する」としたもの(大阪高判昭和61年9月25日)、「一応は、税法学上にいわれる借用概念に属すると解される」「これと同時に、右租税特別措置の趣旨・目的及び企業会計原則その他関連諸規定の解釈との調和等の概念から、総合的にこれを考察すること」によって租税特別措置法65条の7第2項の「資産の取得」の意義を私法上の「土地の所有権の取得」と同義としたもの(京都地判昭和57年12月17日)がありますが、これらは、目的適合説が正しいと判断する根拠となるものと考えています。
 また、この26件の中には、「地方税法第三四三条第一乃至第三項によると、固定資産税の納付義務を負う所有者とは土地、家屋のような不動産にあつては登記簿若しくは課税台帳に所有者として登記若しくは登録をされている者を償却資産については課税台帳に所有者として登録されている者をいうと規定されている」ことから固定資産の所有者を私法上の概念で捉えることとしたもの(福岡高判昭和42年10月20日。福岡高判昭和42年10月24日も同旨。)、「不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課せられるもの」であるとして不動産の取得を私法上の不動産の取得によって捉えることとしたもの(最判昭和48年11月16日)がありますが、これらの根拠規定は、元々、私法上の形式に従って課税するという趣旨・目的で定められているものであって、それらの規定の趣旨・目的からして当然に私法上の形式に従って課否が判断されるべきものであり、目的適合説を採れば必然的にそのような判断となります。
――なるほど。26件の中のいくつかは、良く見ると目的適合説が正しいと判断する根拠ともなっている、ということですね。

3 通説と判決には循環関係がある
朝長
 『租税法』に挙げられている26件の判決の中には、「相続税法上の「住所」は、同法固有の「住所」概念として構成されるべきではなく、民法の借用概念としての意味とならざるを得ない」というように、通説が統一説となっていることを主たる理由として、税法における用語の概念は私法における用語の概念と同義に解すべきであると判断したもの(最判平成23年2月18日)も存在します。
 ただ、このような判決は、本来、統一説が正しいと主張する論拠にはなり得ないと考えています。通説が目的適合説であれば、上記のような判断とはならないと解されるからです。
 この例からも分かるとおり、通説と判決との間には循環関係が生ずることとなります。判決文だけから判決に通説がどの程度の影響を与えたのかということを正確に読み取ることは難しく、この例のように通説が判断の主たる理由となっているということがはっきりと読み取れるケースはむしろ例外と考えてもよいように思われますが、現実には、通説が判決に影響を与えた例は少なくないと考えています。そして、そのような判決は、その後、通説が正しいことを証明する根拠とされる、ということになります。
 判決と学説との間には、そのような循環関係が生ずるが故に、通説が本当に正しいと言えるのかということを問題とせざるを得ないわけです。

4 判例は税法の規定の趣旨・目的を重視する方向に
朝長
 「借用概念と目的論的解釈」の冒頭の部分では、「清永敬次『税法(第5版)』(ミネルヴァ書房・1998年)41頁、金子宏『租税法(第6版補正版)』(弘文堂・1998年)115頁,等参照。」と引用を付して「我が国では、学説及び判例の立場が基本的には統一説で固まってきた」(105頁)と述べられていますが、上記においても述べたとおり、判例に関しては、現時点ではそのようなことにはなっていないと考えています。
――学説の通説が統一説であるにもかかわらず、統一説の主張とは異なる判決を下したものにこそ注目すべきではないのでしょうか。
朝長
 どちらかに注目すべきということではなく、正しく見るべきであるということです。
――なるほど。先般、ある法曹関係者の方から、ヤフー事件判決について、「学者の意見が全て否定され、税法の趣旨・目的を根拠に課税処分が肯定された衝撃は大きかった」という話を聞きましたが、税法の規定の趣旨・目的を重視するという点では、ヤフー事件判決が税務訴訟に大きな影響を与えることになるのではないでしょうか。
朝長
 そうですね。ヤフー・IDCF事件判決は、法の規定は趣旨・目的に合うように解釈しなければならないという当たり前のことを改めて確認したものですから、今後の税務訴訟においては、国側であろうが納税者側であろうが、法の規定の趣旨・目的を置き去りにしたまま通説だけを拠り所にして主張を述べるといったリスクのあることはしないようになっていくものと思われます。
 ただ、ヤフー・IDCF事件判決の前にも、既にそのような傾向は現われていたと考えています。
 例えば、DES(デット・エクイティ・スワップ)において債務免除益が法人税法22条2項の益金の額になるのか否かが争われた事件の裁判が平成23年3月29日に最高裁の上告不受理によって納税者敗訴で確定していますが、この事件においては、「取引」が民法上の取引の概念と同じものであるのか否かということが問題となりました。これに関しては、東京地裁判決(東京地判平成21年4月28日)は、納税者が『租税法〔第13版〕』を証拠資料として挙げ、民商法等の他の法分野で定める「取引」と同義に解さなければならないという統一説に基づく主張を展開したのに対して、次のとおり、その主張を明確に否定しています。
 原告は、法人税法22条2項にいう取引(損益取引)は、税法上明確な特則が法律によって定められていない限り、民商法等の他の法分野で定める取引と同義に解さなければならず、民商法上、混同は、人の精神作用を要件としない法律事実である事件であって、取引に当たらない旨主張する。しかしながら、法人税法22条2項の規定の性質上、同項の「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受け」は「取引」の例示であり、同項の「その他の取引」には、民商法上の取引に限られず、債権の増加又は債務の減少など法人の収益の発生事由として簿記に反映されるものである限り、人の精神作用を要件としない法律事実である混同等の事件も含まれると解するのが相当である。(第3、2(1)カ)
 この判決では「規定の性質上」という文言が用いられており、「趣旨」「目的」という用語が用いられているわけではありませんが、この判決が法人税法22条2項の趣旨・目的から「取引」の解釈を導いていることは間違いありません。
 また、昨年(平成27年)の7月に判決が確定した3件のLPS(リミテッドパートナーシップ)に関する裁判においては、いずれも所得税法に定められている「外国法人」の定義の中の「法人」の概念がどのようなものかということが争われたわけですが、これに関する最高裁の判決(最判平成27年7月17日)も、「趣旨」「目的」という用語こそ使ってはいないものの、その内容を見ると、税法の規定の趣旨・目的に沿うように解釈を行っています。この最高裁判決は、名古屋高裁判決(名古屋高判平成25年1月24日)の納税者勝訴判決を覆したものですが、この名古屋高裁判決は、次の引用から分かるとおり、「準拠法」(私法)によって税法上の「法人」に該当するか否かを判断するべきであるとしていました。
 法人、人格のない社団及び組合という概念自体は、内国のものであろうと外国のものであろうと、共通かつ同一の概念であるべきであることが法令の規定上明らかであるといえる。そして、我が国の法人については、人格のない社団及び組合との区別については法人法定主義が採用されており、内国法人であるか否かは形式的判断により判断されるのであるから、外国の法人についても、第一義的には、内国法人と同じく、準拠法上の法人格の有無という形式的判断により判断するのが論理的帰結である。(第3、2(1))
 この名古屋高裁判決は、納税者側の「借用概念論」による主張を認めて、「租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には、租税法律主義(憲法84条)や法的安定性の確保の観点から、本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当であること(いわゆる借用概念)を大前提」(第3、2(1))と認識した上で判断を下したものとなっています。
 この名古屋高裁判決は、最高裁判決で覆されることになるわけですが、最高裁判決では、名古屋高裁判決には存在しなかった税法の考え方が次のように示されています。
 我が国の租税法は、外国法に基づいて設立された組織体のうち内国法人に相当するものとしてその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを外国法人と定め、これを内国法人等とともに自然人以外の納税義務者の一類型としているものと解される。このような組織体の納税義務に係る制度の仕組みに照らすと、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは、当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されているものということができる。(理由4イ)
 この部分には、「趣旨」「目的」という文言は存在しませんが、記載内容から分かるとおり、最高裁判決は、所得税法2条1項7号等に定められている「外国法人」について、税法が考えていることや予定していることを踏まえた上で、「外国法人」の定義の中にある「法人」をどのように解釈するべきかということを判断しています。
――最高裁は、税法の「外国法人」の定義規定の考え方を踏まえた上で、名古屋高裁判決で「いわゆる借用概念」と言われていた「法人」の概念について判断を下した、ということですね。
朝長
 そうです。名古屋高裁が統一説の解釈を採り、最高裁がその解釈を否定して税法の考え方―これは趣旨・目的の範疇に含まれるものと考えていますが―に合うように解釈した、と評価できると考えています。
 ここで挙げたDESの事件とLPSの3件の事件の判決は統一説の主張を否定したものですが、いずれも『租税法』の上記の判例には出てきません。
 以上のように、判例は「統一説で固まってきた」などという状況では全くなく、単に統一説を否定した判例を探して挙げる研究者が居ないだけであって、むしろ現在は、税法の規定の趣旨・目的を重視する方向にあることが明確である、と考えています。
 このような状況下では、弁護士が法の規定の趣旨・目的を置き去りにしたまま通説だけを拠り所に主張を述べて敗訴し、納税者から専門家としての責任を問われる、ということも起こり得るのではないかと思われます。

Ⅴ 議論の整理

1 借用概念と固有概念という区別が議論を誤った方向に
朝長
 借用概念と固有概念という区別を設けることとした理由について、「租税法と私法」の中では、次のように説明されています。
 筆者は、かねて、租税法規において用いられている概念を、他の法分野で用いられていない租税法独自の概念と、すでに他の法分野で用いられている概念の二つに分けて、前者を固有概念と呼び、後者を借用概念と呼んできた。このような区別を用いたのは、それによって、租税法の解釈に関する錯綜した議論を多少とも整理し、またいわゆる実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈をもち込むことに対して歯止めをかけることに役立つのではないか、と考えたからである。(2・3頁)
――「租税法の解釈に関する錯綜した議論を多少とも整理」すること、そして、課税当局が「実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈をもち込むことに対して歯止めをかけること」、この二つを目的として固有概念と借用概念というものを用いることとした、とされているわけですね。
朝長
 そのように説明されています。
 前者の租税法の解釈に関する錯綜した議論の整理ということに関しては、「錯綜した議論」がどのようなものか、また、借用概念と固有概念を区別することが議論の整理にどのように役立っているのかということが良く分かりませんので、はっきりとしたことは言えません。
 しかし、私は、ドイツの税法の解釈論のところで述べたとおり、借用概念と固有概念を区別する意味や実益がなく、また、後においても詳しく述べるとおり、税法に他法と異なる立法原理があるわけではないにもかかわらず、固有概念と借用概念という他法にはない特異な区別を税法の解釈に持ち込んだことで、税法の解釈を誤った方向に導いてしまっている弊害の方がはるかに大きい、と考えています。

2 借用概念や固有概念という特異な概念を持ち込まなければ税法の解釈はシンプルに
――税法の解釈においてだけ、借用概念や固有概念というような特異なものを用いなければならない理由はないということですね。
朝長
 そうです。
 借用概念や固有概念というものを税法の解釈に持ち込まなければ、借用概念や固有概念に当たるのか否かというような明確な答えが得にくい議論も不要となります。そして、税法の趣旨・目的に合うように解釈することを考えれば良い、ということになるわけですから、税法の解釈はシンプルで分かり易いものとなり、税法の解釈に関する議論も非常に簡素に整理できるはずです。
――なるほど。

Ⅵ 実質課税

1 「実質課税を拡大させない」ことは借用概念と固有概念を区別する理由にならない
――金子先生は、借用概念と固有概念という区別を設けた理由の一つに、課税当局が「実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈を持ち込むことに対して歯止めをかけることに役立つ」ということを挙げておられるということですが、これに関してはどのように考えていらっしゃいますか。
朝長
 課税当局と納税者とが対等の関係にあるとは言い難い状態の下では、課税当局が実質課税の原則を根拠として税法に自由な解釈を持ち込むことを許さないということは、確かに実質課税への対応としては忘れてはならない非常に重要なことだとは思いますが、それは税法全体の解釈論を変える理由となる性質のものではなく、実質課税の適否の問題は、あくまで実質課税の原則の適用に関する問題として検討を行うべきものであると考えています。
 本来、税法の解釈論の適否は、実質課税というような特定の分野における特別な意図によってバイアスをかけて判断してよいようなものではありません。立法に当たって概念の「借用」を行った事実があれば同一の概念と解し、そのような事実がなければ異なる概念と解すべきである、という主張は有り得るわけですが、課税当局による実質課税の拡大に歯止めをかけることに役立つから税法上の概念は私法上の概念と同一に解すべきである、という主張は有り得ない、と考えています。

2 実質課税は納税者にとって不利?
――実質課税によって納税者が不利になるということ自体は否定できないわけですよね。
朝長
 課税当局の審理部門で仕事をしてみると分かりますが、個々の事案の課否を判定する際には、「実態から判断して課税するべきかどうか(経済的、実質的見地から見て課税するべきかどうか)」というような判断は、程度の差こそあれ、常に行われています。当然のことながら、実態に合わない取扱いは好ましくないわけですが、実態に合わないとして「課税する」と判断するものもあれば、「課税しない」と判断するものもあります。私の経験から申し上げると、どちらが多いとは一概には言えません。先日も、国税局で審理事務に長く携わってきた人に、「実態を見て課税するべきである」と判断したものと「実態を見て課税するべきでない」と判断したものとではどちらが多かったかと質問をしてみましたが、やはり「どちらとも言えない」という答えでした。
 「実態」や「経済的、実質的見地」などから「課税しない」と判断した事案は争いになることはありませんので、裁判などの争いになって表に出てくるのは「課税する」と判断したものの一部ということになります。つまり、「実態」や「経済的、実質的見地」などから「課税しない」と判断された事案は全て表に出ない状態にあります。このため、裁判例だけを見ると、必然的に「実態」や「経済的、実質的見地」などから「課税する」としたものが多くなります。
 実質課税が納税者に有利か不利かということは、納税者に有利になって争いにならなかったものも含めて判断するのが正しく、そうなると、実質課税の有利不利は一概には言えない、ということです。
 金子先生が『租税判例百選』の中の「11 実質課税の原則(2)―納税者の利益に適用した例―」で評釈されている判決も、他の法の「概念」を採用せず、税に独自の「経済的、実質的見地」から判断したものですが、納税者有利に判断して課税を取り消したものです。
 また、昭和40年に大蔵省主税局において現在の法人税法の制定に携わられた武田昌輔先生は、「経済的実質」を重視する見解を主張しておられましたが、法人が一般に公正妥当な会計処理の基準に従って処理をしている場合には課税当局は課税すべきではないという観点に立って、昭和42年に法人税法22条4項を追加する改正を主導されており、個別事案の課否の判断においても是々非々で臨まれるのが常で、当然のことながら、実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈を持ち込んで国側に有利な結果となるように判断されるなどということは全くなかったと記憶しています。
 また、昭和43年に、国税庁所得税課長をなされていた植松守雄先生が起稿された「税法上の実質主義」(税経通信 1968年9月号(昭和43年9月号))においても、次のように述べられています。
 税法の、実質主義的な解釈は、納税者に有利な方向ではそうとうに弾力的に働いているけれども、逆の方向にはどうも働きにくい。この点は裁判所の判例だけでなく国税庁の行政においても、同様の傾向があるように思います。さきに述べた借地権設定の際の権利金を不動産所得の収入とするような条文の字句にとらわれた解釈を固執している場合もありますが、相当、条文の字句を超越して納税者に有利な取扱をしている例は数多くあります。(138頁)
 ここで述べられている状況がその後大きく変わったと考えるべき事情はないはずです。
 このように、実質課税が現実にどのように働いているのかということを良く見てみると、「実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈をもち込むことに対して歯止めをかけることに役立つ」ということを理由にして「借用概念」と「固有概念」という区別をするべきであると主張することの妥当性には、多分に疑問がある、と考えています。実質課税の話は、税法の解釈論の基本的な枠組みをどうするのかという話とは別に、実質課税自体の話として語るべきものだと考えます。
 (第3回に続く)

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