解説記事2017年03月13日 【未公開裁決事例紹介】 個別対応方式の用途区分、課税仕入れの日で判断(2017年3月13日号・№682)
未公開裁決事例紹介
個別対応方式の用途区分、課税仕入れの日で判断
住宅用と事務所用の貸付けで共通区分に
○建物の取得に係る課税仕入れについて、個別対応方式により課税資産の譲渡等にのみ要するものに区分されるか否かで争われた裁決で、国税不服審判所は、個別対応方式による用途区分の判定は、原則として課税仕入れを行った日の状況により行うのが相当であると判断。本件建物は、引渡し時において、主として住宅用として貸し付ける目的で取得されたものと認められ、一方、全9室のうち1室は、その引渡し時において、事務所用として貸し付ける目的であったことが認められることから、本件課税仕入れの用途区分は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべきであるとした(平成28年4月19日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、不動産賃貸業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の消費税及び地方消費税について、原処分庁が、課税仕入れに係る支払対価の額及び消費税額の計算内容に誤りがあるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、新たに取得した賃貸用建物は、引渡しを受けた時点において、不動産管理会社に事業用建物として使用及び管理させていたことから、当該建物の取得は、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するなどとして、更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯 審査請求(平成27年7月31日請求)に至る経緯は、別表1(略)のとおりである。
以下、請求人が行った平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告を「本件確定申告」という。また、原処分庁が平成27年1月29日付で行った消費税等の更正処分を「本件更正処分」といい、過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。
なお、原処分庁は、本件更正処分及び本件賦課決定処分に係る通知書(以下「本件更正等通知書」という。)を請求人に対し平成27年2月6日に送達した。
(3)関係法令等(略)
(4)基礎事実 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件課税期間において、主として行政書士業及び不動産賃貸業により収入を得ていた者であり、消費税課税事業者選択届出書を原処分庁に提出し、本件課税期間より消費税の課税事業者となった。
ロ 請求人は、平成24年9月30日に、××との間で鉄骨造3階建ての建物(部屋数9室、所在地は××)の建築に係る工事請負契約を締結し、平成25年3月に当該建物の引渡しを受けた(以下、当該建物を「本件建物」といい、本件建物の取得に係る資産の譲受けを「本件課税仕入れ」という。)。
ハ 本件建物は、平成25年2月25日に同月19日新築を原因とし、種類を「共同住宅」として表題登記がされ、同年3月8日に請求人を所有者とする所有権保存登記がされた。
ニ 請求人は、原処分庁に対し、行政書士業に係る収入を事業所得とし、本件建物を含む不動産の貸付けに係る収入を不動産所得とするなどして、平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の確定申告書(以下「本件所得税等確定申告書」という。)を法定申告期限内に、また、平成26年7月23日及び平成27年3月31日に平成25年分の所得税等の修正申告書をそれぞれ提出した。
ホ 請求人が提出した本件所得税等確定申告書に添付した青色申告決算書(不動産所得用)の不動産所得の収入の内訳には、本件建物について、「貸マンション」と表示し、賃貸契約期間をいずれも平成25年3月から平成27年3月までとした上で、全9室のうち8室を住宅用として賃貸し、残り1室を住宅用以外として請求人が代表取締役を務める××(以下「××」)という。)に賃貸した旨の記載があった。
ヘ 請求人は、本件確定申告における控除対象仕入税額の計算に当たり、本件課税期間における課税売上割合が100分の95に満たなかったため、個別対応方式を適用し、別表2(略)の「確定申告」欄のとおり確定申告書等に記載し申告した。
ト 本件更正等通知書には、控除対象仕入税額の計算について、別紙1(略)のとおり、処分の理由が記載されていた。
争点および主張
(1)争点1 本件課税期間の消費税に係る仕入税額控除の金額の算定が適法か否か。
(2)争点2 本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。(略)
(3)争点3 消費税法が日本国憲法(以下「憲法」という。)に違反するか否か。(略) 当事者の主張は、表のとおりである。
審判所の判断
(1)争点1(本件課税期間の消費税に係る仕入税額控除の金額の算定が適法か否か。)について
イ 法令解釈 消費税法第30条第2項第1号は、課税売上割合が100分の95に満たない課税期間中に国内において行った課税仕入れについて、その用途区分が明らかにされている場合には、当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除される課税仕入れに係る消費税額は、個別対応方式により計算した金額とする旨規定している。
また、消費税法基本通達11-2-20の前段は、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、用途区分は、原則として課税仕入れを行った日の状祝により行う旨定めているが、用途区分はその課税仕入れがいずれの用途に「要するもの」であるかを判定するものである上、消費税法第34条《課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》第1項第1号及び同法第35条《非課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》第1号が、それぞれ課税仕入れを行った課税期間中に当該課税仕入れに係る資産の用途変更をした場合についての仕入れに係る消費税額の調整をあえて規定していることに照らせば、当該定めは、当審判所においても相当と認められる。
ロ 認定事実 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人と××との間で作成された本件建物の工事請負契約書に添付された各階の平面図には、本件建物の全9室について、「洋室」と表示し、間取りはワンルームでユニットバス及びキッチンを備えた仕様である旨の記載があった。
(ロ)請求人は、××との間において、契約期間を平成25年3月1日から平成27年2月末日までとして、本件建物について、居住者の募集、賃貸借契約に伴う媒介業務、管理業務(一部)及び賃貸借契約の更新に伴う業務を同社に委託することを内容とする「賃貸借物件の募集・媒介及び管理業務等覚書」と題する書面(以下「本件覚書」という。)を平成25年2月29日の日付で作成した。
なお、本件覚書には、本件建物について、××への「賃貸借は、居住者との賃貸借契約及び重要事項説明書の説明までの一時的な賃貸借とする。」旨及び貸室数は「ワンルームマンション9室」であるとの記載があった。
(ハ)請求人と××との間で作成された本件建物の1室に係る平成25年3月21日付建物賃貸借契約書の第1条には事務所を目的とする賃貸借契約である旨、また、その他8室に係る各賃借人との間で作成した内容と同一のものであるとして、請求人が当審判所に提出した建物賃貸借契約書の第1条には居住のみを目的とする賃貸借契約であり、さらに、上記各契約書において、いずれも管理業者は××である旨及び間取りはワンルームである旨それぞれ記載があった。
(ニ)本件建物のうち居住用として賃貸した8室に係る初回賃貸料、敷金及び礼金等は平成25年2月27日から同年3月19日の間に、各貸借人から××の請求人名義の普通預金口座(口座番号××)にそれぞれ振り込まれた。
(ホ)上記(ハ)の各建物賃貸借契約書の第3条第3項には、「契約開始の場合、1ヶ月に満たない期間の賃料等は、1ヶ月を30日として日割計算とします。」との記載があり、上記(ニ)の各貸借人からの初回賃貸料分の入金額によれば、8室のうち2室については平成25年3月23日、1室については同月28日、2室については同月30日及び残り3室については同年4月1日からそれぞれ居住用として賃貸が開始されたことが認められる。
また、請求人は、残り1室について、平成25年3月21日より事務所用として××に賃貸を開始した。
(ヘ)請求人は、原処分調査の担当者に対して、本件確定申告の基礎資料となる次のAからCの資料を提示した。
A 課税取引金額計算表(事業所得用)(税抜)(要旨別表3(略)のとおり)
B 課税取引金額計算表(不動産所得用)(税抜)(要旨別表4(略)のとおり)
C ××借入の資金使途明細(要旨別表5(略)のとおり)
(ト)別表3(略)から別表5(略)の各資料及び本件所得税等確定申告書に添付された各青色申告決算書(一般用及び不動産所得用)によれば、本件確定申告において、請求人が課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)とした金額64,848,362円(別表2(略)の「確定申告」欄の⑥)の内訳は、次のAとBの合計額と認められる。
A 事業所得に対応する課税仕入れに係る支払対価の額
800,252円=762,145円(別表3(略)のC欄の経費の計欄)×1,05
B 不動産所得に対応する課税仕入れに係る支払対価の額
64,048,110円=[2,581,128円(別表4(略)のC欄の必要経費の計欄)+58,417,072円(別表5(略)の「支払金額(税抜)」欄の課税取引の計)]×1,05
(チ)請求人は、本件確定申告における課税売上割合の計算に当たり、課税売上額及び非課税売上額をそれぞれ次のとおりとしたことが認められる。
A 課税売上額(別表2(略)の「確定申告」欄の①)
事業所得として申告した行政書士業に係る収入××(別表3(略)のC欄の「売上(収入)金額」欄)及び不動産所得として申告した収入のうち××に事務所用として賃貸した本件建物1室分の不動産貸付けに係る収入××(別表4(略)のC欄の収入金額の計欄)の合計額××
B 非課税売上額(別表2(略)の「確定申告」欄の④)
上記Aの××に対する不動産貸付けに係る収入以外の不動産所得に係る収入として申告した金額××(別表4(略)のB欄の収入金額の計欄)
(リ)請求人は、本件確定申告における控除対象仕入税額の計算に当たり、課税対応のものに係る消費税額及び共通対応のものに係る消費税額をそれぞれ次のとおりとしたことが認められる。
A 課税対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「確定申告」欄の⑨)
上記(ト)のAの事業所得に対応する課税仕入れの金額と同額の金額800,252円
B 共通対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「確定申告」欄の⑩)
上記(ト)の課税仕入れ64,848,362円に係る消費税額2,470,413円(64,848,362円×4/105、別表2(略)の「確定申告」欄の⑦)から上記Aの課税対応のものに係る消費税額とした800,252円を控除した金額1,670,161円
(ヌ)原処分庁の行った××に対する調査資料及び別表5(略)の資料によれば、請求人は、平成25年3月8日に水道局局納金1,062,150円を支払っており、当該支払金額の内訳は、課税仕入れに当たる本件建物に係る水道加入金882,000円(税込み)及び課税仕入れに当たらないその他手数料等180,150円であるところ、当該水道加入金882,000円は、上記(ト)の課税仕入れに係る支払対価の額64,848,362円に含まれていなかった。
(ル)原処分庁は、本件更正処分における控除対象仕入税額の計算に当たり、課税対応のものに係る消費税額及び共通対応のものに係る消費税額をそれぞれ次のとおりとしたことが認められる。
A 課税対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「原処分庁主張額」欄の⑨)
上記(リ)のAの請求人が事業所得に対応する課税仕入れとした金額800,252円に係る消費税額30,485円(800,252円×4/105)
B 共通対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「原処分庁主張額」欄の⑩)
上記(ト)のBの請求人が不動産所得に対応する課税仕入れとした金額64,048,110円に上記(ヌ)の水道加入金882,000円を加算した金額64,930,110円に係る消費税額2,473,528円(64,930,110円×4/105)
ハ 当てはめ 上記イのとおり、消費税法基本通達11-2-20の前段は、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、用途区分は、原則として課税仕入れを行った日の状況により行う旨定めているところ、この課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れを行う目的や当該課税仕入れに対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容を総合的かつ客観的に勘案して判断すべきものと解するのが相当であり、これを本件課税仕入れについてみると、次のとおりである。
(イ)本件建物は、平成25年2月25日に種類を「共同住宅」とする表題登記がされていること、また、上記ロの(イ)及び(ハ)のとおり、本件建物の全9室の間取りはワンルームであり、その仕様は一般住宅と特段変わるところがないと認められる。
さらに、上記ロの(ニ)及び(ホ)のとおり、居住用に賃貸した8室については、初回賃貸料等が平成25年2月27日から同年3月19日までの間に各賃借人から請求人名義の銀行口座にそれぞれ振り込まれ、同年3月23日から順次、賃貸が開始されていたことが認められ、また、かかる事案からすると、本件建物は、その引渡し時において、主として住宅用として貸し付ける目的で取得されたものであったことが認められる。
一方、全9室のうち1室については、上記ロの(ホ)のとおり、平成25年3月21日より××に事務所用として賃貸が開始されていたことが認められ、当該1室については、本件建物の引渡し時において、事務所用として貸し付ける目的であったことが認められる。
したがって、以上を総合して判断すれば、本件建物の取得は、居住用及び事務所用の賃貸の双方に対応するものであると認められることから、本件課税仕入れの用途区分は共通対応のものに区分すべきであり、これに係る消費税額については、個別対応方式の計算上、課税売上割合を乗じて計算した金額が仕入税額控除の対象となる。
(ロ)また、控除対象仕入税額について、原処分庁が行った本件更正処分の内容は上記ロの(ル)のとおりであるところ、請求人は本件確定申告において、上記ロの(チ)及び(リ)のとおり、事業所得に係る収入については全て課税売上げとし、不動産所得に係る収入については××に賃貸した本件建物1室分の不動産貸付けに係る収入を課税売上げ、それ以外の収入を全て非課税売上げとする一方、控除対象仕入税額の計算に当たり、課税対応のものに係る消費税額を事業所得に対応する課税仕入れの金額と同額の800,252円とし、それ以外の課税仕入れに係る消費税額1,670,161円を共通対応のものに係る消費税額としていたことが認められるのであるから、これを受けて原処分庁が、本件確定申告の基礎資料であるとして、請求人が原処分調査の担当者に対して提示した別表3(略)から別表5(略)の各資料及び上記ロの(ヌ)の××に対する調査の結果に基づいて、課税対応のものに係る消費税額を事業所得に対応する課税仕入れに係る消費税額30,485円とし、併せて、共通対応のものに係る消費税額を水道加入金を含めた不動産所得に対応する課税仕入れに係る消費税額2,473,528円として控除対象仕入税額を計算したことは相当と認められる。
ニ 請求人の主張について (イ)請求人は、平成25年2月29日より、××との間で本件覚書を取り交わし、本件建物について専任媒介を依頼するとともに、同社に対し、建物賃貸借契約を締結するまでの一時的な短期賃貸借を認め、全9室の使用及び管理を任せており、本件建物の引渡し時を基準とすれば、9室全てを民法上の賃貸借によって事業用建物として××に使用及び管理させていたことから、本件課税仕入れが全て課税対応のものに区分される旨主張する。
しかしながら、上記ロの(ニ)のとおり、たとえ本件覚書に本件建物を××に一時的に賃貸する旨の記載があったとしても、上記ロの(ホ)のとおり、本件建物の8室について、平成25年4月1日までには、全て請求人自らが賃貸人となり、居住用として各賃借人への賃貸が開始されていたことが認められる。
さらに、上記ロの(ニ)のとおり、平成25年2月27日には既に請求人名義の銀行口座に、上記居住用として賃貸することとなった賃借人からの初回賃貸料等の振込みがなされていたことからすれば、必然、本件覚書の作成日付とされる平成25年2月末日(なお、本件覚書に記載された作成日付は、上記ロの(ロ)のとおり、平成25年2月29日であるが、平成25年はうるう年には当たらないため、2月29日は存在しない。)ないし本件覚書に記載された契約期間の開始日とされる平成25年3月1日より前に、請求人は、本件建物を居住用として賃貸する目的で入居者の募集を行った上、一部の部屋について居住用として賃貸することを決定していたということになる。そうだとすれば、本件覚書は、××が本件建物を事業用として自ら使用し、若しくは自ら賃貸人となるべく、請求人から本件建物を一括で賃借する趣旨で作成されたものではなく、単に請求人と入居者が賃貸借契約を行うための仲介業務及びその後の本件建物の管理業務を××に委託し、若しくは委託していたことを事後的に確認する目的で作成されたにすぎないものといわざるを得ない。
したがって、請求人が主張する××への事業用建物としての短期賃貸借があったとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、本件確定申告において、確定申告書等に記載した別表2(略)の「確定申告」欄の金額は、将来、消費税法が違憲であることを争うため、故意に根拠がない数字を記載したものであるにもかかわらず、原処分庁は、これに依拠し、さらに、消費税法第30条には所得の種類ごとに課税又は非課税の判断を行うとする定めがないのに、事業所得に係る課税仕入れについては課税対応のもの、不動産所得に係る課税仕入れについては共通対応のものとして仕入税額控除を算定している。そこで、個別対応方式を選択し、本件課税仕入れに係る消費税額の点も含め、正しく区分経理したところで計算すれば、消費税額は、同表の「請求人主張額」欄のとおりとなる旨主張する。
しかしながら、かかる請求人が主張する消費税額は、本件課税仕入れを課税対応のものに区分し、これに係る消費税額の全てを仕入税額控除の対象として計算されているところ、上記ハの(イ)のとおり、本件課税仕入れは共通対応のものとして区分すべきであることから、これに係る消費税額については課税売上割合を乗じて計算した金額が仕入税額控除の対象となる。
また、原処分庁の行った更正処分は、本件確定申告の内容及びその基礎資料であるとして、請求人が原処分調査の担当者に対して提示した別表3(略)から別表5(略)の各資料に基づいて、請求人の行った区分経理の内容を前提としてなされたものである上、本件課税仕入れの点以外の請求人が主張する取引金額及び用途区分を含めた仕入税額控除に係る個別対応方式の計算については、請求人が当審判所に提出した証拠からはその詳しい内容及び計算根拠を確認することができず、さらに、課税仕入れの相手方及び課税仕入れに係る資産又は役務の内容等を記載した帳簿等の提出を求めたところ、請求人はこれに応じず、当審判所においてその内容が正しいことを裏付けるに足る事実は認められなかった。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(2)争点2(本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)について(略)
(3)争点3(消費税法が憲法に違反するか否か。)について(略)
(4)本件更正処分について 上記(1)のハのとおり、本件課税仕入れの用途区分は共通対応のものに該当し、本件課税仕入れ以外の課税仕入れに係る消費税額についても原処分庁の計算した結果に誤りは認められず、これらに基づき本件課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
(5)本件賦課決定処分について 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合には該当しないことから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。
個別対応方式の用途区分、課税仕入れの日で判断
住宅用と事務所用の貸付けで共通区分に
○建物の取得に係る課税仕入れについて、個別対応方式により課税資産の譲渡等にのみ要するものに区分されるか否かで争われた裁決で、国税不服審判所は、個別対応方式による用途区分の判定は、原則として課税仕入れを行った日の状況により行うのが相当であると判断。本件建物は、引渡し時において、主として住宅用として貸し付ける目的で取得されたものと認められ、一方、全9室のうち1室は、その引渡し時において、事務所用として貸し付ける目的であったことが認められることから、本件課税仕入れの用途区分は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべきであるとした(平成28年4月19日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、不動産賃貸業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の消費税及び地方消費税について、原処分庁が、課税仕入れに係る支払対価の額及び消費税額の計算内容に誤りがあるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、新たに取得した賃貸用建物は、引渡しを受けた時点において、不動産管理会社に事業用建物として使用及び管理させていたことから、当該建物の取得は、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するなどとして、更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯 審査請求(平成27年7月31日請求)に至る経緯は、別表1(略)のとおりである。
以下、請求人が行った平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告を「本件確定申告」という。また、原処分庁が平成27年1月29日付で行った消費税等の更正処分を「本件更正処分」といい、過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。
なお、原処分庁は、本件更正処分及び本件賦課決定処分に係る通知書(以下「本件更正等通知書」という。)を請求人に対し平成27年2月6日に送達した。
(3)関係法令等(略)
(4)基礎事実 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件課税期間において、主として行政書士業及び不動産賃貸業により収入を得ていた者であり、消費税課税事業者選択届出書を原処分庁に提出し、本件課税期間より消費税の課税事業者となった。
ロ 請求人は、平成24年9月30日に、××との間で鉄骨造3階建ての建物(部屋数9室、所在地は××)の建築に係る工事請負契約を締結し、平成25年3月に当該建物の引渡しを受けた(以下、当該建物を「本件建物」といい、本件建物の取得に係る資産の譲受けを「本件課税仕入れ」という。)。
ハ 本件建物は、平成25年2月25日に同月19日新築を原因とし、種類を「共同住宅」として表題登記がされ、同年3月8日に請求人を所有者とする所有権保存登記がされた。
ニ 請求人は、原処分庁に対し、行政書士業に係る収入を事業所得とし、本件建物を含む不動産の貸付けに係る収入を不動産所得とするなどして、平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の確定申告書(以下「本件所得税等確定申告書」という。)を法定申告期限内に、また、平成26年7月23日及び平成27年3月31日に平成25年分の所得税等の修正申告書をそれぞれ提出した。
ホ 請求人が提出した本件所得税等確定申告書に添付した青色申告決算書(不動産所得用)の不動産所得の収入の内訳には、本件建物について、「貸マンション」と表示し、賃貸契約期間をいずれも平成25年3月から平成27年3月までとした上で、全9室のうち8室を住宅用として賃貸し、残り1室を住宅用以外として請求人が代表取締役を務める××(以下「××」)という。)に賃貸した旨の記載があった。
ヘ 請求人は、本件確定申告における控除対象仕入税額の計算に当たり、本件課税期間における課税売上割合が100分の95に満たなかったため、個別対応方式を適用し、別表2(略)の「確定申告」欄のとおり確定申告書等に記載し申告した。
ト 本件更正等通知書には、控除対象仕入税額の計算について、別紙1(略)のとおり、処分の理由が記載されていた。
争点および主張
(1)争点1 本件課税期間の消費税に係る仕入税額控除の金額の算定が適法か否か。
(2)争点2 本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。(略)
(3)争点3 消費税法が日本国憲法(以下「憲法」という。)に違反するか否か。(略) 当事者の主張は、表のとおりである。
【表】当事者の主張(本件課税期間の消費税に係る仕入税額控除の金額の算定が適法か否か) |
原処分庁 | 請 求 人 |
(1)本件課税仕入れの用途区分について 請求人の主張によれば、工事請負契約の段階から本件建物を事業用と住宅用のどちらにも使用できるよう設備を充実させていたこと、また、平成25年2月には、本件建物について、薬局としての賃借の打診を受けるとともに、××の住宅用としての賃借の下見も始まっていたことから、同月末には、××に本件建物の賃貸借の募集及び媒介を依頼していたことがうかがえる。また、本件所得税等確定申告書に添付された青色申告決算書(不動産所得用)の記載内容からすると、本件建物の全9室のうち8室については、平成25年3月ないし4月から本件課税期間の末日まで住宅用として賃貸され、残り1室が××に対して住宅用以外として賃貸されている。 したがって、請求人は、本件建物の工事請負契約時から本件建物を住宅用として賃貸する意図を持ち、本件建物の引渡し時においてもその状況が変わったとは認められず、実際、本件課税期間においても全9室のうち8室については住宅用として賃貸されていたのであるから、課税仕入れ等の用途区分の判定時期の原則である課税仕入れ等を行った日においてみても、また、その時点で用途区分が明らかにされていない場合において課税期間の末日までに用途区分が明らかにされた場合の区分としてみても、いずれの時期においても、客観的に見て本件建物の用途区分を課税対応のものと判断するのは相当ではない。 (2)本件課税仕入れ以外の課税仕入れの用途区分について 請求人の事業所得に係る収入金額は課税売上げのみであることから、事業所得に係る課税仕入れについては、課税対応のものと区分するのが相当であり、また、不動産所得に係る収入金額は課税売上げと非課税売上げがあることから、不動産所得に係る課税仕入れについては、課税対応のものはなく、共通対応のものと区分することが相当である。 したがって、事業所得に係る課税仕入れについては、課税対応のものとし、不動産所得に係る課税仕入れについては、共通対応のものとして計算すべきところ、当該計算方法によって消費税等の額を計算した結果、消費税等の還付金額は本件更正処分の額(××)と同額となることから、本件更正処分は適法である。 | (1)本件課税仕入れの用途区分について 請求人は、平成24年9月30日に本件建物の工事請負契約を締結したが、その時点では、本件建物の用途は定めず、事業用建物及び住宅用建物のいずれとして賃貸できるように設備も充実させた。 そして、平成25年3月21日に本件建物についての引渡しを受けたが、引渡し前の同年2月には内科の院外薬局として賃借の打診があるなどの動向から、同年2月29日付で宅地建物取引業者である××に専任媒介を依頼し、「賃貸借物件の募集及び媒介・管理業務等覚書」を締結するとともに、本件建物について、建物賃貸借契約を締結するまでの一時的な短期賃貸借を認め、本件建物1棟(全9室)の使用及び管理を任せた。 その点、消費税法別表第一第13号の住宅の貸付け(非課税)は、契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合及び居住用の家屋やマンションを事務所に使う場合については除かれている。 そこで、個別対応方式による用途区分の判断は、課税仕入れを行った日の契約状況などにより判断されるべきであるところ、本件建物の引渡しが完了した平成25年3月21日を基準として個別対応方式により区分すると、本件建物は、請求人が9室全てを××に民法上の賃貸借によって賃貸し、××によって事業用建物として使用及び管理されていたことから、本件課税仕入れは課税対応のものに区分され、これに係る消費税額の全てが仕入税額控除の対象となる。 (2)本件課税仕入れ以外の課税仕入れの用途区分について 請求人が本件確定申告に係る申告書に記載した消費税等の金額は、将来、消費税法が違憲であることを争うため、故意に根拠がない数字を記載したものであるところ、原処分庁は、当該申告書に記載した金額を基に、個別対応方式の課税対応のものに係る消費税額を修正した上で更正処分を行っており、更正処分の金額に根拠がない。 請求人は、行政書士業及び不動産賃貸業に加え、不動産売買業、広告業及び新規事業(内容は平成28年3月22日時点未公表)を展開するための準備を行っており、正しく区分経理を行った上で、個別対応方式を選択しているのに対し、原処分庁は、所得の種類ごとに課税又は非課税を判断している。しかし、仕入税額控除を定める消費税法第30条には、所得の種類ごとに課税又は非課税の判断を行うとする定めはなく、また、課税売上と非課税売上を区分するような明確な基準もないことからすれば、事業所得に係る課税仕入れについては課税対応のものとし、不動産所得に係る課税仕入れについては共通対応のものとして仕入税額控除を算定した原処分庁の計算方法は、法令の趣旨に合致しないものである。 |
審判所の判断
(1)争点1(本件課税期間の消費税に係る仕入税額控除の金額の算定が適法か否か。)について
イ 法令解釈 消費税法第30条第2項第1号は、課税売上割合が100分の95に満たない課税期間中に国内において行った課税仕入れについて、その用途区分が明らかにされている場合には、当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除される課税仕入れに係る消費税額は、個別対応方式により計算した金額とする旨規定している。
また、消費税法基本通達11-2-20の前段は、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、用途区分は、原則として課税仕入れを行った日の状祝により行う旨定めているが、用途区分はその課税仕入れがいずれの用途に「要するもの」であるかを判定するものである上、消費税法第34条《課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》第1項第1号及び同法第35条《非課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》第1号が、それぞれ課税仕入れを行った課税期間中に当該課税仕入れに係る資産の用途変更をした場合についての仕入れに係る消費税額の調整をあえて規定していることに照らせば、当該定めは、当審判所においても相当と認められる。
ロ 認定事実 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人と××との間で作成された本件建物の工事請負契約書に添付された各階の平面図には、本件建物の全9室について、「洋室」と表示し、間取りはワンルームでユニットバス及びキッチンを備えた仕様である旨の記載があった。
(ロ)請求人は、××との間において、契約期間を平成25年3月1日から平成27年2月末日までとして、本件建物について、居住者の募集、賃貸借契約に伴う媒介業務、管理業務(一部)及び賃貸借契約の更新に伴う業務を同社に委託することを内容とする「賃貸借物件の募集・媒介及び管理業務等覚書」と題する書面(以下「本件覚書」という。)を平成25年2月29日の日付で作成した。
なお、本件覚書には、本件建物について、××への「賃貸借は、居住者との賃貸借契約及び重要事項説明書の説明までの一時的な賃貸借とする。」旨及び貸室数は「ワンルームマンション9室」であるとの記載があった。
(ハ)請求人と××との間で作成された本件建物の1室に係る平成25年3月21日付建物賃貸借契約書の第1条には事務所を目的とする賃貸借契約である旨、また、その他8室に係る各賃借人との間で作成した内容と同一のものであるとして、請求人が当審判所に提出した建物賃貸借契約書の第1条には居住のみを目的とする賃貸借契約であり、さらに、上記各契約書において、いずれも管理業者は××である旨及び間取りはワンルームである旨それぞれ記載があった。
(ニ)本件建物のうち居住用として賃貸した8室に係る初回賃貸料、敷金及び礼金等は平成25年2月27日から同年3月19日の間に、各貸借人から××の請求人名義の普通預金口座(口座番号××)にそれぞれ振り込まれた。
(ホ)上記(ハ)の各建物賃貸借契約書の第3条第3項には、「契約開始の場合、1ヶ月に満たない期間の賃料等は、1ヶ月を30日として日割計算とします。」との記載があり、上記(ニ)の各貸借人からの初回賃貸料分の入金額によれば、8室のうち2室については平成25年3月23日、1室については同月28日、2室については同月30日及び残り3室については同年4月1日からそれぞれ居住用として賃貸が開始されたことが認められる。
また、請求人は、残り1室について、平成25年3月21日より事務所用として××に賃貸を開始した。
(ヘ)請求人は、原処分調査の担当者に対して、本件確定申告の基礎資料となる次のAからCの資料を提示した。
A 課税取引金額計算表(事業所得用)(税抜)(要旨別表3(略)のとおり)
B 課税取引金額計算表(不動産所得用)(税抜)(要旨別表4(略)のとおり)
C ××借入の資金使途明細(要旨別表5(略)のとおり)
(ト)別表3(略)から別表5(略)の各資料及び本件所得税等確定申告書に添付された各青色申告決算書(一般用及び不動産所得用)によれば、本件確定申告において、請求人が課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)とした金額64,848,362円(別表2(略)の「確定申告」欄の⑥)の内訳は、次のAとBの合計額と認められる。
A 事業所得に対応する課税仕入れに係る支払対価の額
800,252円=762,145円(別表3(略)のC欄の経費の計欄)×1,05
B 不動産所得に対応する課税仕入れに係る支払対価の額
64,048,110円=[2,581,128円(別表4(略)のC欄の必要経費の計欄)+58,417,072円(別表5(略)の「支払金額(税抜)」欄の課税取引の計)]×1,05
(チ)請求人は、本件確定申告における課税売上割合の計算に当たり、課税売上額及び非課税売上額をそれぞれ次のとおりとしたことが認められる。
A 課税売上額(別表2(略)の「確定申告」欄の①)
事業所得として申告した行政書士業に係る収入××(別表3(略)のC欄の「売上(収入)金額」欄)及び不動産所得として申告した収入のうち××に事務所用として賃貸した本件建物1室分の不動産貸付けに係る収入××(別表4(略)のC欄の収入金額の計欄)の合計額××
B 非課税売上額(別表2(略)の「確定申告」欄の④)
上記Aの××に対する不動産貸付けに係る収入以外の不動産所得に係る収入として申告した金額××(別表4(略)のB欄の収入金額の計欄)
(リ)請求人は、本件確定申告における控除対象仕入税額の計算に当たり、課税対応のものに係る消費税額及び共通対応のものに係る消費税額をそれぞれ次のとおりとしたことが認められる。
A 課税対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「確定申告」欄の⑨)
上記(ト)のAの事業所得に対応する課税仕入れの金額と同額の金額800,252円
B 共通対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「確定申告」欄の⑩)
上記(ト)の課税仕入れ64,848,362円に係る消費税額2,470,413円(64,848,362円×4/105、別表2(略)の「確定申告」欄の⑦)から上記Aの課税対応のものに係る消費税額とした800,252円を控除した金額1,670,161円
(ヌ)原処分庁の行った××に対する調査資料及び別表5(略)の資料によれば、請求人は、平成25年3月8日に水道局局納金1,062,150円を支払っており、当該支払金額の内訳は、課税仕入れに当たる本件建物に係る水道加入金882,000円(税込み)及び課税仕入れに当たらないその他手数料等180,150円であるところ、当該水道加入金882,000円は、上記(ト)の課税仕入れに係る支払対価の額64,848,362円に含まれていなかった。
(ル)原処分庁は、本件更正処分における控除対象仕入税額の計算に当たり、課税対応のものに係る消費税額及び共通対応のものに係る消費税額をそれぞれ次のとおりとしたことが認められる。
A 課税対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「原処分庁主張額」欄の⑨)
上記(リ)のAの請求人が事業所得に対応する課税仕入れとした金額800,252円に係る消費税額30,485円(800,252円×4/105)
B 共通対応のものに係る消費税額(別表2(略)の「原処分庁主張額」欄の⑩)
上記(ト)のBの請求人が不動産所得に対応する課税仕入れとした金額64,048,110円に上記(ヌ)の水道加入金882,000円を加算した金額64,930,110円に係る消費税額2,473,528円(64,930,110円×4/105)
ハ 当てはめ 上記イのとおり、消費税法基本通達11-2-20の前段は、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、用途区分は、原則として課税仕入れを行った日の状況により行う旨定めているところ、この課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れを行う目的や当該課税仕入れに対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容を総合的かつ客観的に勘案して判断すべきものと解するのが相当であり、これを本件課税仕入れについてみると、次のとおりである。
(イ)本件建物は、平成25年2月25日に種類を「共同住宅」とする表題登記がされていること、また、上記ロの(イ)及び(ハ)のとおり、本件建物の全9室の間取りはワンルームであり、その仕様は一般住宅と特段変わるところがないと認められる。
さらに、上記ロの(ニ)及び(ホ)のとおり、居住用に賃貸した8室については、初回賃貸料等が平成25年2月27日から同年3月19日までの間に各賃借人から請求人名義の銀行口座にそれぞれ振り込まれ、同年3月23日から順次、賃貸が開始されていたことが認められ、また、かかる事案からすると、本件建物は、その引渡し時において、主として住宅用として貸し付ける目的で取得されたものであったことが認められる。
一方、全9室のうち1室については、上記ロの(ホ)のとおり、平成25年3月21日より××に事務所用として賃貸が開始されていたことが認められ、当該1室については、本件建物の引渡し時において、事務所用として貸し付ける目的であったことが認められる。
したがって、以上を総合して判断すれば、本件建物の取得は、居住用及び事務所用の賃貸の双方に対応するものであると認められることから、本件課税仕入れの用途区分は共通対応のものに区分すべきであり、これに係る消費税額については、個別対応方式の計算上、課税売上割合を乗じて計算した金額が仕入税額控除の対象となる。
(ロ)また、控除対象仕入税額について、原処分庁が行った本件更正処分の内容は上記ロの(ル)のとおりであるところ、請求人は本件確定申告において、上記ロの(チ)及び(リ)のとおり、事業所得に係る収入については全て課税売上げとし、不動産所得に係る収入については××に賃貸した本件建物1室分の不動産貸付けに係る収入を課税売上げ、それ以外の収入を全て非課税売上げとする一方、控除対象仕入税額の計算に当たり、課税対応のものに係る消費税額を事業所得に対応する課税仕入れの金額と同額の800,252円とし、それ以外の課税仕入れに係る消費税額1,670,161円を共通対応のものに係る消費税額としていたことが認められるのであるから、これを受けて原処分庁が、本件確定申告の基礎資料であるとして、請求人が原処分調査の担当者に対して提示した別表3(略)から別表5(略)の各資料及び上記ロの(ヌ)の××に対する調査の結果に基づいて、課税対応のものに係る消費税額を事業所得に対応する課税仕入れに係る消費税額30,485円とし、併せて、共通対応のものに係る消費税額を水道加入金を含めた不動産所得に対応する課税仕入れに係る消費税額2,473,528円として控除対象仕入税額を計算したことは相当と認められる。
ニ 請求人の主張について (イ)請求人は、平成25年2月29日より、××との間で本件覚書を取り交わし、本件建物について専任媒介を依頼するとともに、同社に対し、建物賃貸借契約を締結するまでの一時的な短期賃貸借を認め、全9室の使用及び管理を任せており、本件建物の引渡し時を基準とすれば、9室全てを民法上の賃貸借によって事業用建物として××に使用及び管理させていたことから、本件課税仕入れが全て課税対応のものに区分される旨主張する。
しかしながら、上記ロの(ニ)のとおり、たとえ本件覚書に本件建物を××に一時的に賃貸する旨の記載があったとしても、上記ロの(ホ)のとおり、本件建物の8室について、平成25年4月1日までには、全て請求人自らが賃貸人となり、居住用として各賃借人への賃貸が開始されていたことが認められる。
さらに、上記ロの(ニ)のとおり、平成25年2月27日には既に請求人名義の銀行口座に、上記居住用として賃貸することとなった賃借人からの初回賃貸料等の振込みがなされていたことからすれば、必然、本件覚書の作成日付とされる平成25年2月末日(なお、本件覚書に記載された作成日付は、上記ロの(ロ)のとおり、平成25年2月29日であるが、平成25年はうるう年には当たらないため、2月29日は存在しない。)ないし本件覚書に記載された契約期間の開始日とされる平成25年3月1日より前に、請求人は、本件建物を居住用として賃貸する目的で入居者の募集を行った上、一部の部屋について居住用として賃貸することを決定していたということになる。そうだとすれば、本件覚書は、××が本件建物を事業用として自ら使用し、若しくは自ら賃貸人となるべく、請求人から本件建物を一括で賃借する趣旨で作成されたものではなく、単に請求人と入居者が賃貸借契約を行うための仲介業務及びその後の本件建物の管理業務を××に委託し、若しくは委託していたことを事後的に確認する目的で作成されたにすぎないものといわざるを得ない。
したがって、請求人が主張する××への事業用建物としての短期賃貸借があったとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、本件確定申告において、確定申告書等に記載した別表2(略)の「確定申告」欄の金額は、将来、消費税法が違憲であることを争うため、故意に根拠がない数字を記載したものであるにもかかわらず、原処分庁は、これに依拠し、さらに、消費税法第30条には所得の種類ごとに課税又は非課税の判断を行うとする定めがないのに、事業所得に係る課税仕入れについては課税対応のもの、不動産所得に係る課税仕入れについては共通対応のものとして仕入税額控除を算定している。そこで、個別対応方式を選択し、本件課税仕入れに係る消費税額の点も含め、正しく区分経理したところで計算すれば、消費税額は、同表の「請求人主張額」欄のとおりとなる旨主張する。
しかしながら、かかる請求人が主張する消費税額は、本件課税仕入れを課税対応のものに区分し、これに係る消費税額の全てを仕入税額控除の対象として計算されているところ、上記ハの(イ)のとおり、本件課税仕入れは共通対応のものとして区分すべきであることから、これに係る消費税額については課税売上割合を乗じて計算した金額が仕入税額控除の対象となる。
また、原処分庁の行った更正処分は、本件確定申告の内容及びその基礎資料であるとして、請求人が原処分調査の担当者に対して提示した別表3(略)から別表5(略)の各資料に基づいて、請求人の行った区分経理の内容を前提としてなされたものである上、本件課税仕入れの点以外の請求人が主張する取引金額及び用途区分を含めた仕入税額控除に係る個別対応方式の計算については、請求人が当審判所に提出した証拠からはその詳しい内容及び計算根拠を確認することができず、さらに、課税仕入れの相手方及び課税仕入れに係る資産又は役務の内容等を記載した帳簿等の提出を求めたところ、請求人はこれに応じず、当審判所においてその内容が正しいことを裏付けるに足る事実は認められなかった。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(2)争点2(本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)について(略)
(3)争点3(消費税法が憲法に違反するか否か。)について(略)
(4)本件更正処分について 上記(1)のハのとおり、本件課税仕入れの用途区分は共通対応のものに該当し、本件課税仕入れ以外の課税仕入れに係る消費税額についても原処分庁の計算した結果に誤りは認められず、これらに基づき本件課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
(5)本件賦課決定処分について 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合には該当しないことから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。
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