解説記事2017年05月15日 【未公開裁決事例紹介】 役員の人間ドック費用が給与になるか争われた裁決(2017年5月15日号・№690)
未公開裁決事例紹介
役員の人間ドック費用が給与になるか争われた裁決
従業員に係る健康診断費用と大きな差
○役員が受診した人間ドック費用が役員に対する給与等に該当するか否かが争われた裁決で、国税不服審判所は従業員に係る健康診断の費用と比べ大きな差があることを考慮すると、本件費用に相当する経済的利益は役員だけ対象として供与された場合に該当すると指摘。課税する必要がない給与所得には当たらず、本件各役員に対する給与等に該当するとの判断を示した(平成28年9月20日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その役員が受診した人間ドック(成人病総合健診及びその他内視鏡健診等)に係る費用を損金の額に算入し、法人税及び復興特別法人税の申告を行ったところ、原処分庁が、当該費用はいずれも損金の額に算入することができない役員給与に該当するとして、法人税及び復興特別法人税の各更正処分等を行うとともに、当該費用の額は当該役員の給与所得の収入金額に算入すべき金額であるとして、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の各納税告知処分等を行ったのに対し、請求人が、当該費用のうち成人病総合健診に係る費用については当該役員に経済的利益をもたらすものではなく給与には該当しないなどとして、その一部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、廃棄物の処理等を目的とし、事業年度を毎年10月1日から翌年9月30日までとする法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である。
以下、請求人の平成21年10月1日から平成22年9月30日まで、平成22年10月1日から平成23年9月30日まで及び平成23年10月1日から平成24年9月30日までの各事業年度並びに平成25年10月1日から平成26年9月30日までの事業年度及び課税事業年度を、順次「平成22年9月期」などといい、これらを併せて「本件各事業年度」という。
ロ 請求人の代表取締役は××(以下「本件代表取締役」という。)、専務取締役は××(以下「本件専務取締役」といい、本件代表取締役と併せて「本件各役員」という。)であった。
ハ 請求人は、平成20年7月4日に、××の××の規定による××になった。
ニ 本件各役員は、本件各事業年度において、それぞれ別表1(略)のとおり、上記ハの医療法人が実施する成人病総合健診(以下「本件成人病健診」という。)及びその他内視鏡健診等(以下、本件成人病健診と併せて「本件人間ドック」という。)を受診し、請求人が別表2(略)のとおり消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を含めた本件人間ドックに係る費用を支払った。
ホ 本件各役員以外の請求人の従業員は、本件各事業年度において、本件人間ドックを受診する機会は与えられなかったが、××が実施する健康診断(以下「本件健康診断」という。)を受診した。
なお、本件健康診断の受診に係る費用は一人当たり最大で18,522円(消費税等を含む。)であり、請求人が当該費用を支払った。
へ 請求人は、消費税等について税抜経理方式を選択し適用していることから、本件人間ドックに係る費用のうち消費税等を除いた額を、本件各事業年度の法人税の所得の金額の計算上、福利厚生費又は雑費に当たるとして損金の額に算入して確定申告をした。
なお、請求人の本件成人病健診に係る費用のうち消費税等を除いた額(以下「本件費用」という。)の計上状況は、別表3(略)のとおりである。
ト 請求人は、平成20年9月2日に本件代表取締役が受診した本件人間ドックに係る費用388,500円のうち消費税等を除いた370,000円(以下「本件前回費用」という。)を、平成19年10月1日から平成20年9月30日までの事業年度(以下「平成20年9月期」という。)の法人税の所得の金額の計算上、福利厚生費に当たるとして損金の額に算入して確定申告をした。その後、請求人は、平成20年9月期の法人税について、原処分庁所属の調査担当職員(以下「前回調査担当職員」という。)による調査を受けたが、本件前回費用は更正処分等の対象とはされなかった。
(3)審査請求に至る経緯 イ 原処分のうち、法人税及び復興特別法人税の各更正処分等についての審査請求(平成28年1月19日請求)に至る経緯は、別表4(略)の(1)及び(2)のとおりである。
以下、別表4(略)の(1)の「更正処分及び賦課決定処分」欄及び(2)の「更正処分」欄に記載の各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、別表4(略)の(1)の「更正処分及び賦課決定処分」欄に記載の過少申告加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分1」という。
ロ 原処分のうち、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)及び源泉徴収に係る復興特別所得税(以下、源泉所得税と併せて「源泉所得税等」という。)の各納税告知処分等についての審査請求(平成28年1月19日請求)に至る経緯は、別表5(略)の(1)及び(2)のとおりである。
以下、別表5(略)の(1)及び(2)の「納税告知処分」欄に記載の各納税告知処分を併せて「本件各告知処分」といい、「賦課決定処分」欄に記載の不納付加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分2」という。
(4)関係法令等の要旨(略)
争点および主張
(1)争点1 本件費用は本件各役員に対する給与等に該当するか否か。
(2)争点2 (仮に、本件費用が本件各役員に対する給与等に該当すると判断される場合に)請求人には、通則法第65条第4項及び第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か(略)。 当事者の主張は表のとおり。
審判所の判断
(1)争点1(本件費用は本件各役員に対する給与等に該当するか否か。)について
イ 法令等解釈 所得税法第28条第1項及び第36条第1項の規定によるところ、使用者が役員又は使用人の人間ドックの費用を負担することは、当該費用の支払を受けた役員又は使用人が当該費用相当分の経済的利益を受けたことになるから、その役員又は使用人に対する給与等に該当し、当該利益相当分は給与所得の収入金額とされるのが原則である。
もっとも、役員又は使用人の健康管理の必要から、使用者に対し、労働安全衛生法第66条《健康診断》及び労働安全衛生規則第44条《定期健康診断》に基づき、健康診断の実施が義務付けられていることに鑑みて、一定年齢以上の希望者は全て人間ドックを受けることができ、かつ、健診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担するような場合で著しく多額でないものについては、給与所得として課税する必要まではないと解される。
本件通達(編注:所得税基本通達36-29)の定めによるところ、これは人間ドック等の費用についての適用を考えれば、上記のような解釈に沿うものであり、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 当てはめ 本件費用は、請求人が負担しているから、本件各役員に対する給与等に該当し、給与所得の収入金額とされるのが原則である。
そして、本件各役員以外の請求人の従業員は、本件各事業年度において本件人間ドックの費用を請求人が負担して受診する機会を与えられず、また、本件健康診断を受診したものの、その一人当たりの費用の最大額は18,522円(消費税等を含む。)であり、本件成人病健診の一人当たりの費用346,500円又は356,400円(いずれも消費税等を含む。)とは大きな差があることを考慮すると、本件費用に相当する経済的利益は役員だけを対象として供与された場合に該当するといえるから、上記イの解釈に照らし、課税する必要がない給与所得には当たらず、また、本件通達に定める要件も満たさない。
したがって、本件費用は本件各役員に対する給与等に該当する。
ハ 請求人の主張について 請求人は、生活習慣病の予防を目的とした人間ドックは一般的であり、本件成人病健診を受診することは本件各役員に経済的利益をもたらすものではない旨主張する。
しかしながら、生活習慣病の予防を目的とした人間ドックを無償あるいは低額で受診することが経済的利益の享受に当たることは自明の理である。
また、請求人は、本件成人病健診は一般的な人間ドックとおおむね同じであり、本件費用が著しく多額であるとはいえず、また、請求人の経営上のリスクを考慮すると、本件各役員だけが受診することには合理性がある旨主張する。
しかしながら、上記ロのとおり、本件費用は、上記イの解釈に照らし、課税する必要がない給与所得には当たらない上、本件費用に相当する経済的利益が役員だけを対象として供与された場合に該当するから、本件通達に定める要件も満たさない。また、請求人が主張する経営上のリスクといった事情は本件費用が給与等に該当するか否かとは無関係であり、上記ロの結論を左右するものではない。
したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。
(2)本件各更正処分及び本件各告知処分の適法性について
イ 本件各更正処分 本件費用は、上記(1)のとおり、本件各役員に対する給与等に該当するところ、当該給与等は、法人税法第34条第1項各号に規定する役員に対して支給する給与のいずれにも該当しないから、同項本文に基づき、請求人の所得の金額の計算上、損金の額に算入することはできない。そして、本件各更正処分の納付すべき税額の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても、請求人の本件各事業年度における納付すべき税額を算出すると、いずれも本件各更正処分の納付すべき税額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件各告知処分 (イ)本件費用は、上記(1)のとおり、本件各役員に対する給与等に該当するため、請求人には、所得税法第183条《源泉徴収義務》に規定する源泉徴収の義務が存することになる。
(ロ)ところで、原処分庁は、消費税等を除いた本件人間ドックに係る費用の金額(別表2(略)の「②税抜金額」欄記載の各金額。)を基に請求人の源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額を算出している。
しかしながら、平成元年1月30日付直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」(国税庁長官通達)の1《給与所得等に対する源泉徴収》は、所得税法第183条の規定が適用される給与等が物品又は用役などにより支払われる場合において、当該物品又は用役などの価額に消費税等の額が含まれているときは、当該消費税等の額を含めた金額が給与等の金額となる旨定めていることから、請求人の源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額は、消費税等を含めた本件人間ドックに係る費用の金額を基に算出するのが相当である。
(ハ)以上のことを前提に、当審判所において、請求人の源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額を算出すると、別表6(略)の「審判所認定額」欄の「④納付すべき税額」欄の各金額のとおりとなり、いずれも審判所認定額が本件各告知処分の額を上回るから、本件各告知処分はいずれも適法である。
役員の人間ドック費用が給与になるか争われた裁決
従業員に係る健康診断費用と大きな差
○役員が受診した人間ドック費用が役員に対する給与等に該当するか否かが争われた裁決で、国税不服審判所は従業員に係る健康診断の費用と比べ大きな差があることを考慮すると、本件費用に相当する経済的利益は役員だけ対象として供与された場合に該当すると指摘。課税する必要がない給与所得には当たらず、本件各役員に対する給与等に該当するとの判断を示した(平成28年9月20日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その役員が受診した人間ドック(成人病総合健診及びその他内視鏡健診等)に係る費用を損金の額に算入し、法人税及び復興特別法人税の申告を行ったところ、原処分庁が、当該費用はいずれも損金の額に算入することができない役員給与に該当するとして、法人税及び復興特別法人税の各更正処分等を行うとともに、当該費用の額は当該役員の給与所得の収入金額に算入すべき金額であるとして、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の各納税告知処分等を行ったのに対し、請求人が、当該費用のうち成人病総合健診に係る費用については当該役員に経済的利益をもたらすものではなく給与には該当しないなどとして、その一部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、廃棄物の処理等を目的とし、事業年度を毎年10月1日から翌年9月30日までとする法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である。
以下、請求人の平成21年10月1日から平成22年9月30日まで、平成22年10月1日から平成23年9月30日まで及び平成23年10月1日から平成24年9月30日までの各事業年度並びに平成25年10月1日から平成26年9月30日までの事業年度及び課税事業年度を、順次「平成22年9月期」などといい、これらを併せて「本件各事業年度」という。
ロ 請求人の代表取締役は××(以下「本件代表取締役」という。)、専務取締役は××(以下「本件専務取締役」といい、本件代表取締役と併せて「本件各役員」という。)であった。
ハ 請求人は、平成20年7月4日に、××の××の規定による××になった。
ニ 本件各役員は、本件各事業年度において、それぞれ別表1(略)のとおり、上記ハの医療法人が実施する成人病総合健診(以下「本件成人病健診」という。)及びその他内視鏡健診等(以下、本件成人病健診と併せて「本件人間ドック」という。)を受診し、請求人が別表2(略)のとおり消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を含めた本件人間ドックに係る費用を支払った。
ホ 本件各役員以外の請求人の従業員は、本件各事業年度において、本件人間ドックを受診する機会は与えられなかったが、××が実施する健康診断(以下「本件健康診断」という。)を受診した。
なお、本件健康診断の受診に係る費用は一人当たり最大で18,522円(消費税等を含む。)であり、請求人が当該費用を支払った。
へ 請求人は、消費税等について税抜経理方式を選択し適用していることから、本件人間ドックに係る費用のうち消費税等を除いた額を、本件各事業年度の法人税の所得の金額の計算上、福利厚生費又は雑費に当たるとして損金の額に算入して確定申告をした。
なお、請求人の本件成人病健診に係る費用のうち消費税等を除いた額(以下「本件費用」という。)の計上状況は、別表3(略)のとおりである。
ト 請求人は、平成20年9月2日に本件代表取締役が受診した本件人間ドックに係る費用388,500円のうち消費税等を除いた370,000円(以下「本件前回費用」という。)を、平成19年10月1日から平成20年9月30日までの事業年度(以下「平成20年9月期」という。)の法人税の所得の金額の計算上、福利厚生費に当たるとして損金の額に算入して確定申告をした。その後、請求人は、平成20年9月期の法人税について、原処分庁所属の調査担当職員(以下「前回調査担当職員」という。)による調査を受けたが、本件前回費用は更正処分等の対象とはされなかった。
(3)審査請求に至る経緯 イ 原処分のうち、法人税及び復興特別法人税の各更正処分等についての審査請求(平成28年1月19日請求)に至る経緯は、別表4(略)の(1)及び(2)のとおりである。
以下、別表4(略)の(1)の「更正処分及び賦課決定処分」欄及び(2)の「更正処分」欄に記載の各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、別表4(略)の(1)の「更正処分及び賦課決定処分」欄に記載の過少申告加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分1」という。
ロ 原処分のうち、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)及び源泉徴収に係る復興特別所得税(以下、源泉所得税と併せて「源泉所得税等」という。)の各納税告知処分等についての審査請求(平成28年1月19日請求)に至る経緯は、別表5(略)の(1)及び(2)のとおりである。
以下、別表5(略)の(1)及び(2)の「納税告知処分」欄に記載の各納税告知処分を併せて「本件各告知処分」といい、「賦課決定処分」欄に記載の不納付加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分2」という。
(4)関係法令等の要旨(略)
争点および主張
(1)争点1 本件費用は本件各役員に対する給与等に該当するか否か。
(2)争点2 (仮に、本件費用が本件各役員に対する給与等に該当すると判断される場合に)請求人には、通則法第65条第4項及び第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か(略)。 当事者の主張は表のとおり。
【表】当事者の主張(本件費用は本件各役員に対する給与等に該当するか否か) |
原処分庁 | 請 求 人 |
以下の理由により、本件費用は本件各役員に対する給与等に該当する。 イ 使用者が役員等の人間ドックの費用を負担した場合には、当該役員等がその費用相当分の経済的利益を受けたことになる。 ロ 本件費用は、請求人の従業員が受診した本件健康診断の費用と比較して著しく多額であり、かつ、それが、本件各役員だけを対象として供与されているから、本件通達の定めにより給与所得として課税しなくて差し支えないとされている場合に該当しない。 | 以下の理由により、本件費用は本件各役員に対する給与等に該当しない。 イ 生活習慣病の予防を目的とした人間ドックは一般的であり、本件成人病健診を受診することは本件各役員に経済的利益をもたらすものではない。 ロ 本件成人病健診の内容は、一般的に実施されている人間ドックとおおむね同じであり、本件費用が著しく多額であるとはいえない。また、役員が病気に罹患した場合に一般の従業員が罹患した場合より影響が大きいという請求人の経営上のリスクを考慮すると、本件各役員だけが本件成人病健診を受診することには合理性がある。 |
審判所の判断
(1)争点1(本件費用は本件各役員に対する給与等に該当するか否か。)について
イ 法令等解釈 所得税法第28条第1項及び第36条第1項の規定によるところ、使用者が役員又は使用人の人間ドックの費用を負担することは、当該費用の支払を受けた役員又は使用人が当該費用相当分の経済的利益を受けたことになるから、その役員又は使用人に対する給与等に該当し、当該利益相当分は給与所得の収入金額とされるのが原則である。
もっとも、役員又は使用人の健康管理の必要から、使用者に対し、労働安全衛生法第66条《健康診断》及び労働安全衛生規則第44条《定期健康診断》に基づき、健康診断の実施が義務付けられていることに鑑みて、一定年齢以上の希望者は全て人間ドックを受けることができ、かつ、健診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担するような場合で著しく多額でないものについては、給与所得として課税する必要まではないと解される。
本件通達(編注:所得税基本通達36-29)の定めによるところ、これは人間ドック等の費用についての適用を考えれば、上記のような解釈に沿うものであり、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 当てはめ 本件費用は、請求人が負担しているから、本件各役員に対する給与等に該当し、給与所得の収入金額とされるのが原則である。
そして、本件各役員以外の請求人の従業員は、本件各事業年度において本件人間ドックの費用を請求人が負担して受診する機会を与えられず、また、本件健康診断を受診したものの、その一人当たりの費用の最大額は18,522円(消費税等を含む。)であり、本件成人病健診の一人当たりの費用346,500円又は356,400円(いずれも消費税等を含む。)とは大きな差があることを考慮すると、本件費用に相当する経済的利益は役員だけを対象として供与された場合に該当するといえるから、上記イの解釈に照らし、課税する必要がない給与所得には当たらず、また、本件通達に定める要件も満たさない。
したがって、本件費用は本件各役員に対する給与等に該当する。
ハ 請求人の主張について 請求人は、生活習慣病の予防を目的とした人間ドックは一般的であり、本件成人病健診を受診することは本件各役員に経済的利益をもたらすものではない旨主張する。
しかしながら、生活習慣病の予防を目的とした人間ドックを無償あるいは低額で受診することが経済的利益の享受に当たることは自明の理である。
また、請求人は、本件成人病健診は一般的な人間ドックとおおむね同じであり、本件費用が著しく多額であるとはいえず、また、請求人の経営上のリスクを考慮すると、本件各役員だけが受診することには合理性がある旨主張する。
しかしながら、上記ロのとおり、本件費用は、上記イの解釈に照らし、課税する必要がない給与所得には当たらない上、本件費用に相当する経済的利益が役員だけを対象として供与された場合に該当するから、本件通達に定める要件も満たさない。また、請求人が主張する経営上のリスクといった事情は本件費用が給与等に該当するか否かとは無関係であり、上記ロの結論を左右するものではない。
したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。
(2)本件各更正処分及び本件各告知処分の適法性について
イ 本件各更正処分 本件費用は、上記(1)のとおり、本件各役員に対する給与等に該当するところ、当該給与等は、法人税法第34条第1項各号に規定する役員に対して支給する給与のいずれにも該当しないから、同項本文に基づき、請求人の所得の金額の計算上、損金の額に算入することはできない。そして、本件各更正処分の納付すべき税額の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても、請求人の本件各事業年度における納付すべき税額を算出すると、いずれも本件各更正処分の納付すべき税額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件各告知処分 (イ)本件費用は、上記(1)のとおり、本件各役員に対する給与等に該当するため、請求人には、所得税法第183条《源泉徴収義務》に規定する源泉徴収の義務が存することになる。
(ロ)ところで、原処分庁は、消費税等を除いた本件人間ドックに係る費用の金額(別表2(略)の「②税抜金額」欄記載の各金額。)を基に請求人の源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額を算出している。
しかしながら、平成元年1月30日付直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」(国税庁長官通達)の1《給与所得等に対する源泉徴収》は、所得税法第183条の規定が適用される給与等が物品又は用役などにより支払われる場合において、当該物品又は用役などの価額に消費税等の額が含まれているときは、当該消費税等の額を含めた金額が給与等の金額となる旨定めていることから、請求人の源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額は、消費税等を含めた本件人間ドックに係る費用の金額を基に算出するのが相当である。
(ハ)以上のことを前提に、当審判所において、請求人の源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額を算出すると、別表6(略)の「審判所認定額」欄の「④納付すべき税額」欄の各金額のとおりとなり、いずれも審判所認定額が本件各告知処分の額を上回るから、本件各告知処分はいずれも適法である。
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