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解説記事2017年06月12日 【税制改正解説】 持分なし医療法人への非課税移行税制の創設(2017年6月12日号・№694)

税制改正解説
持分なし医療法人への非課税移行税制の創設
 税理士 佐々木克典

Ⅰ はじめに

 平成18年医療法改正により、医療法人の非営利性の徹底と地域医療の安定性の確保のため、財団医療法人または持分の定めのない社団医療法人である、「持分なし医療法人」の新設のみを認めることとされた。
 また、法改正前に設立認可申請された持分あり医療法人については経過措置型医療法人とされ、残余財産の帰属先を国または地方公共団体などに限定し、出資者に医療法人の財産を分配できないこととする定款に変更する手続きは「当分の間」適用せず、持分なし医療法人への移行は自主的な取組みと位置づけられた。
 出資者に医療法人の財産を分配するという営利行為を廃止したい厚生労働省は、平成26年医療法改正において、持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行促進が法律に定められ(医療法附則10条の2)、3年間に限り持分なし医療法人への計画的な移行取組みを行う医療法人を国が認定する仕組みを設けた(医療法附則10条の3)。
 認定を受けた医療法人の出資者には医業継続を目的とした、持分放棄に伴う相続税と贈与税を猶予、免除する税制(措法70の7の5から70の7の9)が創設された。

1 これまでの納税猶予制度の概要  医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置(措法70の7の5から70の7の9)は、持分なし医療法人への移行計画を厚生労働大臣から認定を受けた医療法人の出資者に関して課される、相続税・贈与税が猶予・免除される制度である(図表1参照)。

 具体的には、出資者の死亡により相続税が発生することがあっても、医療法人の個人出資者に係る相続税の猶予を受け、持分なし医療法人に移行した際には相続税の免除を受けることが可能である。
 その他、持分を有する一部の者が持分を放棄したことにより、他の者に対して課される贈与税について猶予を受け、持分なし医療法人に移行した際には贈与税の免除を受けることも可能となっている。

2 持分なし医療法人への移行に伴う課税  しかし、持分なしとなった医療法人に対する課税を避けることは困難であった。
 厚生労働大臣による認定を受けた医療法人が、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の適用を受けても、特定医療法人(措法67の2)の承認を受けない限り、個人出資者の全員が放棄した場合の課税を避けることは難しいとされているからである(医政発第0406002号 平成17年4月6日 出資持分の定めのある社団医療法人が特別医療法人に移行する場合の課税関係について)。

3 平成29年改正の概要  持分あり医療法人は約4万法人あり、一層の持分なし法人への移行を促進する必要があった(脚注1)。
 特に、日本維新の会から提出された、持分あり医療法人を株式会社に転化できる法案(医療・介護・保育における法人制度改革法案4条)の存在は、株式会社など営利法人の医業参入阻止を目指す厚生労働省において、一層の持分なし法人への移行促進が必要と再確認されたことは容易に想像できる。
 平成29年度税制改正及び医療法等一部改正法により、厚生労働省の認定を受けた医療法人が、持分なし医療法人へ移行した際の課税はなされないこととなり、一定の課税問題の解決がなされた。
【税制改正の骨格】 (1)持分あり医療法人から持分なし医療法人へ移行する際、出資者が持分を放棄すると、この経済的利益が法人へ贈与されたものとして、法人に対して贈与税が課税される場合がありますが、新たな認定要件を満たす認定医療法人制度(平成29年10月1日施行)を受けることによって、法人への贈与税を非課税等とする措置が講じられました。
(2)現行の規定による移行計画の認定を受けた医療法人で、計画書に記載した持分なし医療法人への移行が未達の法人で、移行期限が平成29年10月1日をまたぐ医療法人については、改正後の新たな移行計画の認定を受けることができる経過措置が講じられました。

Ⅱ 平成29年度税制改正の解説

1 医療法人に対する贈与税課税の改正
(1)これまで
 持分あり医療法人が定款変更を行い、持分なし医療法人に移行する際に、持分を有する個人がその持分を放棄した場合、一定の要件を満たさないときは、相続税法66条4項の規定により、その医療法人を個人とみなして贈与税が課される。
 この場合の一定の要件とは、相続税法施行令33条3項や個別通達(脚注2)15(その運営組織が適正であるかどうかの判定)、16(特別の利益を与えること)に規定され、その事業が社会的存在として認識される程度の規模を有していることなど、特定医療法人や社会医療法人並みの公益性要件が求められ、ハードルの高いものとなっている。
 特定医療法人の承認を受けることなく、個別通達に該当し課税を受けず持分なし医療法人に移行できるかどうかは、税務署の事後の判断であった。
 このため非課税要件を満たして、持分なし医療法人に移行できる保証を事前に受けることは出来ず、持分なし医療法人への移行を検討する際、大きな障害要因となっていた。
(2)改正概要  平成29年度税制改正により、医療法人が持分の放棄を受けた場合の贈与税の課税の特例(措法70の7の10)が創設され、厚生労働大臣の認定を受けている限り、個人が行った持分の放棄に伴う贈与税課税はなされないこととなった。
 具体的には、厚生労働大臣から持分なし医療法人への移行計画の認定を受けた医療法人(認定医療法人)の持分を有する個人が、当該持分の全部又は一部の放棄をしたことにより、その認定医療法人が経済的利益を受けた場合であっても、その経済的利益については、相続税法66条4項の規定は適用しないこととされた。
 その結果、認定医療法人である限り、医療法人への贈与税課税は、原則としてなされない。
 これまでの通達を中心とした事後の税法解釈から、厚生労働大臣による認定による事前判断に大きく制度が改正された。
 厚生労働大臣による認定基準は執筆時点において明確になっていないが、役員の親族制限を撤廃するなど、現在の税法基準からは大幅に緩和される見込みだ。
(3)改正の注意点
 ① 法人出資者の取り扱い
 他の法人が、医療法人の持分を有する場合がある。
 この他の法人が、定款変更に伴い持分を放棄した場合、持分の放棄が経済的利益の供与に該当するため、その供与することについて相当な理由がない限り、その持分の時価相当額については、寄附金として扱われる。
 改正措置法(措法70の7の10)は、個人の持分放棄のみを射程にしていることから、法人出資者の放棄に関して課税上の改正はない。
 ② 遺言による放棄が除外  これまでの認定医療法人制度は、遺言による放棄でも相続後に認定を受け、持分に対する相続税・贈与税の猶予・免除を受けることが出来た(措法70の7の7①カッコ書き)。
 しかし、改正措置法においては、遺言による放棄を対象としていない(措法70の7の10カッコ書き)。
 したがって、持分の放棄に伴う課税免除は生前の放棄か、相続人の納税猶予(措法70の7の8)を受けた後の相続人による放棄のいずれかしか対応することが出来ない。
 新たな認定医療法人制度は役員への特別の利益提供制限などの要件を満たさなければ、移行計画の認定申請を行うことが出来ない。同族性の高い医療法人が多い現状から考えると、相続開始後10カ月以内に、要件を満たした移行計画の策定・認定を受けられる医療法人はまれであろう。
(4)医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の法体系  創設された納税猶予の特例措置の法体系をまとめると、図表2の通りになる。

 平成29年度税制改正により追加されたのが、措置法70条の7の10である。通常、移行計画の認定を受け持分なし医療法人に移行する場合、措置法70条の7の10のみを適用することになる。
 相続開始後に、相続人が持分を放棄する場合、措置法70条の7の8と措置法70条の7の10を組み合わせて適用する場合もあるが、これが可能なケースは稀なことは前述の通りである。

2 認定医療法人の基準
(1)認定要件の改正
 現行の認定要件は下記の3項目に過ぎなかった。
① 社員総会の議決があること
② 移行計画が有効かつ適正であること
③ 移行計画期間が3年以内であること
 平成29年10月以降はこれに、認定要件(運営の適正性要件)を追加し、移行後6年間、要件を維持していることを確認する仕組みに改められた(図表3参照)。

 改正後の移行計画認定制度は平成29年10月1日に施行されるが、その詳細は今後明らかになる予定である。
【主な運営の適正性要件】 ・法人関係者に利益供与しないこと
・役員報酬について不当に高額にならないよう定めていること
・社会保険診療収入が全体の80%以上 等
 新たな認定医療法人は、特定医療法人や社会医療法人と異なり、役員の親族制限は要件に加えられない見込みである。
 これは、役員の親族制限を設けなくても利益提供の制限にはつながらない考えと推察できる。
 認定医療法人の恩恵は、相続税の免除を受ける個人である。この個人やその親族が、相続税の課税を逃れることによって、経営が安定した医療法人から高額の役員報酬などの利益提供を受けることは、免除された相続税が役員報酬などに転嫁したとも考えられる。
 役員の親族制限があっても、特定の役員への特別利益提供を制限できるとは限らないことから、役員の親族制限を設けなくても利益提供の制限にはつながらないという考えである。
(2)医療法人の関係者に対し特別の利益を与えないもの  認定医療法人の要件には、「関係者に対し特別の利益を与えない」ことが要件とされているが、この要件は執筆時点では明らかにされていない。
 個別通達(脚注3)を参考に実務判断を行うことになると考えられ、具体的には次のようなケースは特別の利益提供と考えられる。
○親族等に対して、勤務実態にそぐわない役員報酬、職員給与を支払っていること
○法人社用車で買い物やコンサートに行くなど私的利用していること。
○役員のみが利用するゴルフ会員権が存在し、その利用を行っていること
○役員のみが、決済を受けることなく交際費の支払いを行っていること
○役員の書籍費を、法人が負担していること。
○役員へ高額な賃料を支払っていること。
○入札なく、関連法人との取引を行うこと。
(3)認定要件の取り消し  認定医療法人が、持分なし医療法人への移行をした日から起算して6年を経過する日までの間に、厚生労働大臣認定が取り消された場合には、その認定医療法人を個人とみなして、経済的利益について贈与税が課されることになる(措法70の7の10②)。
 そのため、最低でも持分なし医療法人へ移行後6年間は認定要件を維持する必要があり、その運営の状況を厚生労働大臣に報告しなければならない(医療法等一部改正法附則10条の8)。
 また、厚生労働大臣認定が取り消された場合、その認定医療法人は取り消された日の翌日から2月以内に、規定の適用を受けた年分の贈与税について修正申告書を提出し、かつ、納付すべき税額を納付しなければならない。
 この修正申告がなされなくても、国税庁長官又は所轄税務署長は、厚生労働大臣から認定医療法人の取り消し事実の通知を受けるので、取消は課税当局の知り得るところになる。

3 経過措置  既に認定医療法人であった法人は、その移行計画の認定を取り下げると、再び認定申請を行うことが出来ない。
 そのため、すでに認定を受けていた医療法人が、新たな認定制度に乗り換える道を作らなければ、既存の認定医療法人は不利な扱いとなる。
 そのため、平成29年10月1日前認定医療法人であって、認定移行計画に記載された移行の期限までの間にあるものは、平成29年10月1日から当該移行期限までの間のいずれかの日において、新たな認定を取り直すことができる(医療法等一部改正法附則8条)。

脚注
1 「持分あり」から「持分なし」への移行は累計513法人(平成28年3月末現在)。持分なし移行認定制度による認定件数は61件(うち完了件数は13件。平成28年9月末現在)。(厚生労働省資料より)
2 個別通達
 贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び公益法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて(昭和39年6月9日付 直審(資)24、直資77)
3 前出2

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