解説記事2017年07月03日 【税制改正解説】 対象会社の株式を2/3以上保有している場合等のスクイーズ・アウト税制の創設(2017年7月3日号・№697)
税制改正解説
対象会社の株式を2/3以上保有している場合等のスクイーズ・アウト税制の創設
公認会計士・税理士 有田賢臣
税理士 竹内陽一
Ⅰ スクイーズ・アウト税制の創設
平成29年度改正において、スクイーズ・アウト税制として次の5つの改正が行われ、平成29年10月1日に施行される。
(1)吸収合併 吸収合併の適格対価要件について、合併法人が単独で被合併法人株式の2/3以上を有する場合に、少数株主に金銭を交付しても、要件を満たすものとされた。
(2)株式交換 株式交換の適格対価要件について、株式交換完全親法人が単独で株式交換完全子法人株式の2/3以上を有する場合に、少数株主に金銭を交付しても、要件を満たすものとされた。
次の(3)から(5)では、実行後において、株式交換等完全親法人(最大株主法人又は特別支配株主法人)と対象法人との間に完全支配関係が成立するときを株式交換等と定義し、一定の要件(適格対価要件、支配関係要件、従業者継続従事要件及び事業継続要件)を満たす株式交換等が適格株式交換等とされた。
適格株式交換等である場合には、連結納税加入時の時価評価から除外され、かつ連結納税加入時に、対象法人の繰越欠損金を持込むことができる。
この解説においては、最大株主法人とは、対象法人の最大株主等である法人をいい、多数株主とは、最大株主法人、最大株主法人との間にすでに完全支配関係のある法人及び対象法人(自己株式を既に保有しているケース)をいう。
(3)全部取得条項付種類株式 全部取得条項付種類株式への定款変更を決議し、1万株を1株にするなどの一定の交付比率により多数株主のみが対象法人の株式を取得し、少数株主は対象法人の端株のみを取得し、その端株を対象法人等が金銭で取得することにより、最大株主法人と対象法人との間に完全支配関係を成立させるものが「株式交換等」に含まれるものとされた。
(4)株式併合 株主総会の決議によって、1万株を1株にするなどの一定の併合割合により多数株主のみが対象法人の株式を保有し、少数株主は対象法人の端株のみを保有し、その端株を対象法人等が金銭で取得することにより、最大株主法人と対象法人との間に完全支配関係を成立させるものが「株式交換等」に含まれるものとされた。
上記(3)、(4)には会社法の特別決議要件が必要となる。
(5)株式売渡請求 一の株主等(会社法179条の特別支配株主及びその完全子法人)が、対象法人の承認により、対象法人の少数株主の株式を強制的に金銭で取得することにより、一の株主等と対象法人との間で完全支配関係を成立させるものが「株式交換等」に含まれるものとされた。
(3)全部取得条項付種類株式及び(4)株式併合と(5)株式売渡請求との違いは、全部取得条項付種類株式と株式併合においては、行為前の最大株主法人が頂点に立つが、株式売渡請求においては、頂点=特別支配株主は行為前に単独で最大株主となっているとは限らない。
適格株式交換とその他の適格株式交換等=(3)~(5)を比べてみると前者の場合には直接の親子関係となり、後者の場合には、直接の親子関係があるときだけでなく間接の親子関係(グループによる完全親子関係)があるときも含まれる点に違いがある。
(2)株式交換と(5)株式売渡請求は、株式交換等完全親法人が少数株主に金銭を交付するが、(3)全部取得条項付種類株式と(4)株式併合は、対象法人=株式交換等完全子法人が、競売又は自己株式取得により、少数株主に1株未満の株式の対価として金銭を交付する。
表1は適格株式交換等の概要であるが、一般に、個人多数株主が全部取得条項付種類株式及び株式併合によって、少数株主の追い出しを図る場合は、上記の株式交換等に該当しない。
株式交換等は、そのほとんどが適格対価要件を満たすこととなることから、非適格株式交換等となるものは、株式交換等に該当し、かつ支配関係適格要件を満たさないもののみとなる。
買収法人側が連結納税を採用している場合には、株式交換等の要件を完全に満たすか否かが重要となる。
Ⅱ 合併法人が2/3以上の被合併法人の株式を有する場合の金銭交付適格合併の会計・税務処理等
次の状態の、被合併法人や対象法人において、少数株主(非支配株主)の持株割合を10%、抱合株式600、少数株主交付金銭400の例について処理を示すこととする。
〈合併法人の会計処理〉
〈合併法人の税務処理〉
株式交換の場合には、株式交換完全親法人は会計及び税務処理を次のように行うことになる。
株式売渡請求の場合には、特別支配株主は会計及び税務処理を次のように行うことになる。
株式交換、株式売渡請求の場合には、株式交換等完全親法人は整数株式の取得となり、対象法人の株主はすべて整数株式の譲渡となる。
全部取得条項付及び株式併合の場合には、対象法人が整数の旧株に対応する端数新株の自己株式の取得となる場合がある。
〈全部取得条項付種類株式及び株式併合において対象法人が端株を自己株式取得する場合の会計処理〉
〈この場合の対象法人の税務処理〉
となる。
これらは、少数株主の旧株は整数株式であるが、新株は一に満たない端数であり、対象法人はこれらを合計した数(合計数に一に満たない端数がある場合は切り捨てる)に相当する新株を競売又は自己株式取得して、少数株主に金銭を交付する(会社法234条、235条)。
全部取得条項付種類株式、株式併合において、少数株主の株式が、対象会社の自己株式になる場合には、少数株主にはみなし配当は発生しない(法令23③九、十、十一)。
Ⅲ 株式交換等の要件と適格対価要件
株式交換等の要件は、対象法人を株式交換等完全子法人とし、最大株主等又は一の株主等との間に完全支配関係を成立させることなので、表2の様に、グループの最大法人株主又は特別支配株主法人が株式交換等完全親法人になる場合に充足される。
この場合のすべての少数株主への金銭交付につき、適格対価要件が用意されているので、株式交換等に該当する場合、適格対価要件も満たしていることになる。
Ⅳ スクイーズ・アウトされる少数株主の課税関係
スクイーズ・アウトされる、少数株主の課税関係は、会社法上、反対株主となるか、争わずに単に所定の価額による金銭交付に応じるかにより次の表3のとおりの課税関係となる。
表3から分かるとおり、株主としては、基本的にすべてが譲渡所得として統一された。
例外的に、金銭交付適格株式交換において、反対株主の買取請求権を行使する場合は、株主にとってはみなし配当課税となる。
以上のとおり、適格合併を除き、株主の処理は、適格か非適格によって変わることはない。
全部取得条項付種類株式について、定款変更反対株主と価格決定申立株主との違いは、定款変更反対の効力発生日と価格決定申立てによる新株取得日とが異なり、定款変更反対株主の株式は定款変更効力発生日に、自己株式となる。
価格決定申立株主は、新株取得日に、自己株式となる。
実務は、種類株への定款変更議案と新株割当議案が同一株主総会で議論されることとなるはずであり、反対株主は、改正法令23条3項10号で、みなし配当は発生しないものとされている。
全部取得条項付種類株式と株式併合による場合、会社法の端株処理は、競売を原則とし、裁判所の許可により買収法人が買うか、対象法人が買取るかのいずれかとなる。
株式の価格は、常に、反対しない=争わない場合よりは反対する場合が高額になると考えられる。この反対しない場合の時価であるが、株式交換、吸収合併、株式売渡請求による場合は、買い手が多数株主であるため法人税基本通達9-1-14(上場有価証券等以外の株式の価額)を意識せざるをえない。
全部取得条項付種類株式と株式併合では、買い手が株式発行法人で行うことができるので、この場合は少数株主の立場のみを考慮しつつ、裁判所に買収価格の許可を得ることとなるため、新株有利発行に関する最高裁平成27年2月19日の判決などが参考となり、株式交換などの場合の交付対価より低額の時価で設定できる。
なお、争わない株主に設定された時価について、交付後、より高額な価格決定命令が出た場合であっても、この決定は当該株主のみの決定であり、すでに決済を終えた他の株主に影響を及ぼすものではない。
対象会社の株式を2/3以上保有している場合等のスクイーズ・アウト税制の創設
公認会計士・税理士 有田賢臣
税理士 竹内陽一
Ⅰ スクイーズ・アウト税制の創設
平成29年度改正において、スクイーズ・アウト税制として次の5つの改正が行われ、平成29年10月1日に施行される。
(1)吸収合併 吸収合併の適格対価要件について、合併法人が単独で被合併法人株式の2/3以上を有する場合に、少数株主に金銭を交付しても、要件を満たすものとされた。
(2)株式交換 株式交換の適格対価要件について、株式交換完全親法人が単独で株式交換完全子法人株式の2/3以上を有する場合に、少数株主に金銭を交付しても、要件を満たすものとされた。
次の(3)から(5)では、実行後において、株式交換等完全親法人(最大株主法人又は特別支配株主法人)と対象法人との間に完全支配関係が成立するときを株式交換等と定義し、一定の要件(適格対価要件、支配関係要件、従業者継続従事要件及び事業継続要件)を満たす株式交換等が適格株式交換等とされた。
適格株式交換等である場合には、連結納税加入時の時価評価から除外され、かつ連結納税加入時に、対象法人の繰越欠損金を持込むことができる。
この解説においては、最大株主法人とは、対象法人の最大株主等である法人をいい、多数株主とは、最大株主法人、最大株主法人との間にすでに完全支配関係のある法人及び対象法人(自己株式を既に保有しているケース)をいう。
(3)全部取得条項付種類株式 全部取得条項付種類株式への定款変更を決議し、1万株を1株にするなどの一定の交付比率により多数株主のみが対象法人の株式を取得し、少数株主は対象法人の端株のみを取得し、その端株を対象法人等が金銭で取得することにより、最大株主法人と対象法人との間に完全支配関係を成立させるものが「株式交換等」に含まれるものとされた。
(4)株式併合 株主総会の決議によって、1万株を1株にするなどの一定の併合割合により多数株主のみが対象法人の株式を保有し、少数株主は対象法人の端株のみを保有し、その端株を対象法人等が金銭で取得することにより、最大株主法人と対象法人との間に完全支配関係を成立させるものが「株式交換等」に含まれるものとされた。
上記(3)、(4)には会社法の特別決議要件が必要となる。
(5)株式売渡請求 一の株主等(会社法179条の特別支配株主及びその完全子法人)が、対象法人の承認により、対象法人の少数株主の株式を強制的に金銭で取得することにより、一の株主等と対象法人との間で完全支配関係を成立させるものが「株式交換等」に含まれるものとされた。
(3)全部取得条項付種類株式及び(4)株式併合と(5)株式売渡請求との違いは、全部取得条項付種類株式と株式併合においては、行為前の最大株主法人が頂点に立つが、株式売渡請求においては、頂点=特別支配株主は行為前に単独で最大株主となっているとは限らない。
適格株式交換とその他の適格株式交換等=(3)~(5)を比べてみると前者の場合には直接の親子関係となり、後者の場合には、直接の親子関係があるときだけでなく間接の親子関係(グループによる完全親子関係)があるときも含まれる点に違いがある。
(2)株式交換と(5)株式売渡請求は、株式交換等完全親法人が少数株主に金銭を交付するが、(3)全部取得条項付種類株式と(4)株式併合は、対象法人=株式交換等完全子法人が、競売又は自己株式取得により、少数株主に1株未満の株式の対価として金銭を交付する。
表1は適格株式交換等の概要であるが、一般に、個人多数株主が全部取得条項付種類株式及び株式併合によって、少数株主の追い出しを図る場合は、上記の株式交換等に該当しない。

株式交換等は、そのほとんどが適格対価要件を満たすこととなることから、非適格株式交換等となるものは、株式交換等に該当し、かつ支配関係適格要件を満たさないもののみとなる。
買収法人側が連結納税を採用している場合には、株式交換等の要件を完全に満たすか否かが重要となる。
Ⅱ 合併法人が2/3以上の被合併法人の株式を有する場合の金銭交付適格合併の会計・税務処理等
次の状態の、被合併法人や対象法人において、少数株主(非支配株主)の持株割合を10%、抱合株式600、少数株主交付金銭400の例について処理を示すこととする。

〈合併法人の会計処理〉

〈合併法人の税務処理〉

株式交換の場合には、株式交換完全親法人は会計及び税務処理を次のように行うことになる。

株式売渡請求の場合には、特別支配株主は会計及び税務処理を次のように行うことになる。

株式交換、株式売渡請求の場合には、株式交換等完全親法人は整数株式の取得となり、対象法人の株主はすべて整数株式の譲渡となる。
全部取得条項付及び株式併合の場合には、対象法人が整数の旧株に対応する端数新株の自己株式の取得となる場合がある。
〈全部取得条項付種類株式及び株式併合において対象法人が端株を自己株式取得する場合の会計処理〉

〈この場合の対象法人の税務処理〉

となる。
これらは、少数株主の旧株は整数株式であるが、新株は一に満たない端数であり、対象法人はこれらを合計した数(合計数に一に満たない端数がある場合は切り捨てる)に相当する新株を競売又は自己株式取得して、少数株主に金銭を交付する(会社法234条、235条)。
全部取得条項付種類株式、株式併合において、少数株主の株式が、対象会社の自己株式になる場合には、少数株主にはみなし配当は発生しない(法令23③九、十、十一)。
Ⅲ 株式交換等の要件と適格対価要件
株式交換等の要件は、対象法人を株式交換等完全子法人とし、最大株主等又は一の株主等との間に完全支配関係を成立させることなので、表2の様に、グループの最大法人株主又は特別支配株主法人が株式交換等完全親法人になる場合に充足される。

この場合のすべての少数株主への金銭交付につき、適格対価要件が用意されているので、株式交換等に該当する場合、適格対価要件も満たしていることになる。
Ⅳ スクイーズ・アウトされる少数株主の課税関係
スクイーズ・アウトされる、少数株主の課税関係は、会社法上、反対株主となるか、争わずに単に所定の価額による金銭交付に応じるかにより次の表3のとおりの課税関係となる。

表3から分かるとおり、株主としては、基本的にすべてが譲渡所得として統一された。
例外的に、金銭交付適格株式交換において、反対株主の買取請求権を行使する場合は、株主にとってはみなし配当課税となる。
以上のとおり、適格合併を除き、株主の処理は、適格か非適格によって変わることはない。
全部取得条項付種類株式について、定款変更反対株主と価格決定申立株主との違いは、定款変更反対の効力発生日と価格決定申立てによる新株取得日とが異なり、定款変更反対株主の株式は定款変更効力発生日に、自己株式となる。
価格決定申立株主は、新株取得日に、自己株式となる。
実務は、種類株への定款変更議案と新株割当議案が同一株主総会で議論されることとなるはずであり、反対株主は、改正法令23条3項10号で、みなし配当は発生しないものとされている。
全部取得条項付種類株式と株式併合による場合、会社法の端株処理は、競売を原則とし、裁判所の許可により買収法人が買うか、対象法人が買取るかのいずれかとなる。
株式の価格は、常に、反対しない=争わない場合よりは反対する場合が高額になると考えられる。この反対しない場合の時価であるが、株式交換、吸収合併、株式売渡請求による場合は、買い手が多数株主であるため法人税基本通達9-1-14(上場有価証券等以外の株式の価額)を意識せざるをえない。
全部取得条項付種類株式と株式併合では、買い手が株式発行法人で行うことができるので、この場合は少数株主の立場のみを考慮しつつ、裁判所に買収価格の許可を得ることとなるため、新株有利発行に関する最高裁平成27年2月19日の判決などが参考となり、株式交換などの場合の交付対価より低額の時価で設定できる。
なお、争わない株主に設定された時価について、交付後、より高額な価格決定命令が出た場合であっても、この決定は当該株主のみの決定であり、すでに決済を終えた他の株主に影響を及ぼすものではない。
【表4】多数株主の課税関係 |
全部取得条項付種類株式 | 端数相当の金銭交付は、少数株主と同じ扱い。 |
株 式 併 合 | 端数相当の金銭交付は、少数株主と同じ扱い。 |
株式売渡請求(特別支配株主以外の特別支配株主完全子法人で譲渡する場合) | 少数株主と同じ。 |
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