解説記事2017年07月10日 【税理士のための相続法講座】 遺言(3)-自筆証書遺言の方式(2017年7月10日号・№698)
税理士のための相続法講座
第29回
遺言(3)-自筆証書遺言の方式
弁護士 間瀬まゆ子
自筆証書遺言は、誰でも、自分の手で作成できる遺言です。ただ、厳格な方式が定められており、それを守らないと、折角書いた遺言が無効になってしまうリスクがあります。ですから、あくまで公正証書遺言を作成するまでの仮のものと位置付けるべきでありますが、実際に必要となる場面もありますので、以下では、その厳格な方式に関して説明したいと思います。
1 全文の自書
自筆証書遺言は、全文を遺言者自身が「自書」しなければなりません。不動産目録のみタイプするということも認められません(東高判昭和59年3月22日判時1115号103ページ)。したがって、上記の事例では、「自書」の要件を欠く不動産目録の部分が無効になってしまいます(ただ、自筆の部分で財産が特定されれば、遺言内容を実現できる可能性もあります。)。
なお、民法相続編改正の議論の中で、財産目録に関しては、この「自書」の要件を緩和することが検討されており(ワープロで作成したり、登記事項証明書や預金通帳のコピーを添付したりする方法が認められることになりそうです。)、今後の動向が注目されます。
2 日付の自書 本文に加えて、日付の「自書」も求められます。日付の記載が求められるのは、遺言能力を判断する上で不可欠な情報であり、また、遺言の先後関係を明らかにするためにも欠かせない情報であるからです(民法1023条1項により、前の遺言と後の遺言が抵触するときは、前の遺言が撤回されたとみなされます。なお、前の遺言が公正証書遺言で、後の遺言が自筆証書遺言だったという場合も同様です。)。
そして、記載する日付は、真実の作成日と同一である必要があります。この点、故意による不実記載を認定し、遺言を無効とした最近の裁判例もあります(東京地判平成28年3月30日判時2328号71ページ)。これに対し、故意ではなく錯誤による不実記載の場合には、程度にもよりますが、救済される可能性がないわけではありません。しかし、どの程度なら救済されるのかにつき明確な基準があるわけでもありませんので、やはり正確な日付を記載しておくべきところです。
また、日付は特定されていなければなりません。冒頭の事例のような「平成29年7月吉日」という記載の仕方では、日付の自書があったとは認められず、遺言は無効となってしまいます(最一小判昭和54年5月31日判時930号64ページ)。厳しいようにも思いますが、遺言の先後関係の判断に関わりますので、ここは厳格さが求められるのです。
3 署名・押印 氏名も、遺言者自身の手で記載する必要があります。また、押印も必須です。この場合の押印は、実印であることは求められておらず、認印でも構いません。しかし、署名の横に、カタカナで押印の代わりのサインをした事例で有効性が否定されており(東地判平成25年10月24日判時2215号118ページ)、花押が押印の要件を満たさないとした最二小判平成28年6月3日も記憶に新しいところです。
本人の印鑑かどうかで後に揉める可能性があることをも考えると、やはり実印にしておくのがいちばん安心でしょう。
さて、冒頭の事例についてです。認印による押印である点は法的には問題がないのですが、遺言書本体に押印がない点はどうでしょうか。
この点、実は救済判例が出ています。最二小判平成6年6月24日(家月47巻3号60ページ)は、遺言書本文に押印がなく、遺言書の入った封筒の封じ目に押印があった事例について、「押印」の要件を満たしていると判示しました。
したがって、冒頭の事例も「押印」の要件は満たすことになりそうですが、ただ、専門家としてアドバイスする場合には、遺言書本文への署名押印が必要と説明すべきことはもちろんです。
4 共同遺言の禁止 仲の良いご夫婦が、2人で一通の遺言を残したというと、何とも微笑ましいことのように思えます。しかし、このような遺言も無効です。民法975条が、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定めているためです。
5 死因贈与による救済
このような遺言は、残念ながら、日付の自書と押印の要件を欠き無効です。そうなると、Bが残した遺言が無駄になってしまいそうですが、実は、このような場合でも、遺言の記載のとおり、Cが全財産を取得できる可能性があります。それは、BとCの間に死因贈与契約が成立していたと認められる場合です。
この点、上記の事例について、広島家裁昭和62年3月28日審判(家月39巻7号60ページ)は、「遺言としての法的効力はないとしても、前記認定事実に徴すると死因贈与契約の成立を証明する文書であることは明らかである」として、BとCの間に死因贈与契約があったと認定し、Cを救済しました。死因贈与については、遺言のような厳格な方式が要求されていないため、このような認定が可能なのです。
ただ、死因贈与はあくまでも「契約」ですので、死因贈与の申込みとこれに対する承諾という要素の存在が必須です。すなわち、BがCの知らないところで遺言を書いて保管していたというような場合には、死因贈与による救済は困難なのです。
もし無効な遺言に行き当たった場合には、当事者から遺言が作成された当時の事情を聴取し、死因贈与契約があったと認める余地がないか、是非検討してみて下さい。
※ なお、広島家裁の事件は、Cが死因贈与の執行者の選任を求めたものでした。執行者が選任されれば、不動産の移転登記等が可能となります。しかし、執行者選任の審判は、前提となる死因贈与契約の有効性を認めるものではありませんので(東京高決平成9年3月17日家月49巻9号108ページ参照)、後に、死因贈与契約は成立していないと主張する他の相続人から民事訴訟を提起されて争うこととなる可能性は残ります。
第29回
遺言(3)-自筆証書遺言の方式
弁護士 間瀬まゆ子
自筆証書遺言は、誰でも、自分の手で作成できる遺言です。ただ、厳格な方式が定められており、それを守らないと、折角書いた遺言が無効になってしまうリスクがあります。ですから、あくまで公正証書遺言を作成するまでの仮のものと位置付けるべきでありますが、実際に必要となる場面もありますので、以下では、その厳格な方式に関して説明したいと思います。
| Aが亡くなった。自筆証書遺言が見つかったが、相続人から相談された税理士が見たところ、以下のような問題があることが分かった。 ・不動産登記事項証明書(登記簿謄本)の内容をタイプした目録が添付されていた。 ・日付が「平成29年7月吉日」と記載されていた。 ・封筒の封じ目に押印(認印による)がされていたが、本文には押印がなかった。 |
なお、民法相続編改正の議論の中で、財産目録に関しては、この「自書」の要件を緩和することが検討されており(ワープロで作成したり、登記事項証明書や預金通帳のコピーを添付したりする方法が認められることになりそうです。)、今後の動向が注目されます。
2 日付の自書 本文に加えて、日付の「自書」も求められます。日付の記載が求められるのは、遺言能力を判断する上で不可欠な情報であり、また、遺言の先後関係を明らかにするためにも欠かせない情報であるからです(民法1023条1項により、前の遺言と後の遺言が抵触するときは、前の遺言が撤回されたとみなされます。なお、前の遺言が公正証書遺言で、後の遺言が自筆証書遺言だったという場合も同様です。)。
そして、記載する日付は、真実の作成日と同一である必要があります。この点、故意による不実記載を認定し、遺言を無効とした最近の裁判例もあります(東京地判平成28年3月30日判時2328号71ページ)。これに対し、故意ではなく錯誤による不実記載の場合には、程度にもよりますが、救済される可能性がないわけではありません。しかし、どの程度なら救済されるのかにつき明確な基準があるわけでもありませんので、やはり正確な日付を記載しておくべきところです。
また、日付は特定されていなければなりません。冒頭の事例のような「平成29年7月吉日」という記載の仕方では、日付の自書があったとは認められず、遺言は無効となってしまいます(最一小判昭和54年5月31日判時930号64ページ)。厳しいようにも思いますが、遺言の先後関係の判断に関わりますので、ここは厳格さが求められるのです。
3 署名・押印 氏名も、遺言者自身の手で記載する必要があります。また、押印も必須です。この場合の押印は、実印であることは求められておらず、認印でも構いません。しかし、署名の横に、カタカナで押印の代わりのサインをした事例で有効性が否定されており(東地判平成25年10月24日判時2215号118ページ)、花押が押印の要件を満たさないとした最二小判平成28年6月3日も記憶に新しいところです。
本人の印鑑かどうかで後に揉める可能性があることをも考えると、やはり実印にしておくのがいちばん安心でしょう。
さて、冒頭の事例についてです。認印による押印である点は法的には問題がないのですが、遺言書本体に押印がない点はどうでしょうか。
この点、実は救済判例が出ています。最二小判平成6年6月24日(家月47巻3号60ページ)は、遺言書本文に押印がなく、遺言書の入った封筒の封じ目に押印があった事例について、「押印」の要件を満たしていると判示しました。
したがって、冒頭の事例も「押印」の要件は満たすことになりそうですが、ただ、専門家としてアドバイスする場合には、遺言書本文への署名押印が必要と説明すべきことはもちろんです。
4 共同遺言の禁止 仲の良いご夫婦が、2人で一通の遺言を残したというと、何とも微笑ましいことのように思えます。しかし、このような遺言も無効です。民法975条が、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定めているためです。
5 死因贈与による救済
| Bとその妻Cには子がなかった。Cから「ちゃんとしておいてほしい」と言われ、Bは全ての財産をCが取得するという遺言を書き、Cに渡した。ところが、Bが書いた遺言には、日付の記載がなく、押印もなかった。 |
この点、上記の事例について、広島家裁昭和62年3月28日審判(家月39巻7号60ページ)は、「遺言としての法的効力はないとしても、前記認定事実に徴すると死因贈与契約の成立を証明する文書であることは明らかである」として、BとCの間に死因贈与契約があったと認定し、Cを救済しました。死因贈与については、遺言のような厳格な方式が要求されていないため、このような認定が可能なのです。
ただ、死因贈与はあくまでも「契約」ですので、死因贈与の申込みとこれに対する承諾という要素の存在が必須です。すなわち、BがCの知らないところで遺言を書いて保管していたというような場合には、死因贈与による救済は困難なのです。
もし無効な遺言に行き当たった場合には、当事者から遺言が作成された当時の事情を聴取し、死因贈与契約があったと認める余地がないか、是非検討してみて下さい。
※ なお、広島家裁の事件は、Cが死因贈与の執行者の選任を求めたものでした。執行者が選任されれば、不動産の移転登記等が可能となります。しかし、執行者選任の審判は、前提となる死因贈与契約の有効性を認めるものではありませんので(東京高決平成9年3月17日家月49巻9号108ページ参照)、後に、死因贈与契約は成立していないと主張する他の相続人から民事訴訟を提起されて争うこととなる可能性は残ります。
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