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解説記事2017年09月04日 【特別解説】 わが国におけるIFRS任意適用企業の分析(2)~のれん計上後の減損処理等~(2017年9月4日号・№705)

特別解説
わが国におけるIFRS任意適用企業の分析(2)
~のれん計上後の減損処理等~

はじめに

 前回は、2017年3月期までにIFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した日本企業(IFRS任意適用日本企業)が連結財政状態計算書に計上しているのれんの総額や純資産に対する比率等を、欧米や豪州の企業や、日本基準を適用している日本企業等と比較するとともに、IFRS任意適用日本企業の中でみられる傾向等も分析した。今回は、IFRSを任意適用した後の、各社ののれんの残高の推移や減損処理の状況等を中心に分析を試みたい。前回と同様に、欧米や豪州の企業や、日本基準を適用している日本企業等との比較も適宜行っている。
(文責:編集部)

今回の分析対象とした企業
 前回と同様に、2016年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した、リサーチ・ペーパー第2号「のれん及び減損に関する定量的調査」の内容の一部を引用しつつ、編集部による追加的な調査分析の結果を加える形をとることとしたい。分析対象とした企業数や分析対象年度等は、表1のとおりである。

 「IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)に関するデータは、編集部が今回新たに追加している。そのため、米国、欧州の企業等とは、分析対象年度が一部異なっていることに留意されたい。

各国の企業が計上したのれんの減損損失の合計金額等
 分析対象とした各国の企業が、2014年度に計上したのれんの減損損失の合計額は表2のとおりである。のれんの減損損失の合計金額を、減損損失を計上した企業数で除すことにより、1社当たりの平均計上額を算出している。

 なお、IFRS任意適用日本企業が2015年度に計上したのれんの減損損失は、合計で2,385億円(計上社数:38社。1社当たり平均で約62億円)、2016年度は1,807億円(計上社数:35社。1社当たり平均で約51億円)であった。
 のれんの減損損失を認識した企業数は、欧州の企業が最も多く、次いで、IFRS任意適用日本企業、豪州の企業、米国の企業の順になった。日本基準がのれんの償却を要求しているため、日本の株価指数を構成する企業は一般的には減損損失を認識しにくい状況にあると考えられるが、のれんの減損損失を計上した企業の割合は米国の企業よりも高く、1社あたりの計上金額も相当大きい(米国の企業は下回るが、欧州の企業は上回る)という結果となった。

のれんの費用化率
 2014年度ののれんの費用化率(2013年度末ののれんの残高に対して、2014年度に減損損失を計上した程度)を各国の企業別に示すと、表3のとおりである。

 なお、IFRS任意適用日本企業の2015年度ののれんの費用化率は2.3%、2016年度は1.6%であった。
 のれんを非償却としているIFRSや米国会計基準を適用する企業(IFRS任意適用日本企業を含む)の費用化率が概ね1%から2%程度となっているのに対して、日本基準を適用する日本企業の費用化率は10%と突出して高い。裏を返せば、認識されたのれんが完全に費用化されるまでの期間は、日本基準を適用する日本企業は10年弱であるのに対して、欧州の企業は80年強、米国の企業の場合は100年以上であることを意味する。

IFRS任意適用日本企業の分析
 これ以後は、IFRS任意適用日本企業について、より詳細な分析を行う。表1に示したとおり、分析の対象とした企業は120社である。分析対象年度は2014年度、2015年度及び2016年度であるが、一部の項目については、それよりも以前の年度についてのデータも集めている。
(1)IFRS任意適用日本企業が計上しているのれん残高の増減の状況  IFRS任意適用企業が、IFRSへの移行日時点で計上していたのれんの残高と、直近期末に計上しているのれんの残高の増減を示すと、表4のとおりである。

 IFRS適用開始後、6割強の企業ののれん残高が増加している。一方で、減損処理や為替換算差額等の発生により、のれん残高が減少している企業も2割弱存在している。
(2)IFRS任意適用後、直近期末までののれん残高の増減が大きい企業  IFRS任意適用後、直近の期末までに、のれんの残高が大きく増減している企業を列挙すると、表5-1及び表5-2のとおりである。

 大型買収で毎年のように話題となるソフトバンクが突出しているが、そのほかにも、積極的にM&Aを手がけている大企業が、表5-1に名を連ねている。一方、日本板硝子やアサヒホールディングスは、IFRS任意適用後、大規模な企業買収等は行っておらず、その後の減損処理や為替換算差額等の要因により、のれんの残高が減少している。
(3)IFRS任意適用日本企業が、IFRS任意適用以後直近期までに、のれんの減損損失を計上した回数の分布  IFRS任意適用日本企業が、IFRSを任意適用してから直近期(2016年度)までに、のれんの減損損失を計上した回数の分布を示すと、表6のとおりである。

 IFRS任意適用日本企業120社のうち48社が、のれんの残高があるにもかかわらず、IFRS任意適用後現在までに、のれんの減損損失を一度も計上していない。のれんの減損損失の計上の状況を見ると、これまでに一度も計上していない企業と、頻繁に計上している企業(表7も参照。)の両極に分かれている印象を受ける。なお、IFRSを適用して新規上場した企業10社のうちの7社(すかいらーく、テクノプロ・ホールディングス、ベルシステム24ホールディングス、ツバキ・ナカシマ、コメダホールディングス、ベイカレントコンサルティング、スシロー・グローバルホールディングス)は、いずれも100億円を大きく超えるのれんの残高を有しているが、上場後直近期までに、のれんの減損損失を計上していない。

 なお、のれんの減損損失を頻繁に計上している企業は、大手商社とIT関連企業が大部分を占めている。IFRSを任意適用後、毎期のれんの減損損失を計上している企業と毎期の計上額は表7のとおりである。
(4)のれんの減損損失を、IFRSを任意適用後これまでに一度も計上していない、主なIFRS任意適用日本企業
 表8
で列挙した各社は、IFRSを任意適用してから3年以上が経過し、かつ、いずれも1,000億円を超えるのれんの残高を有するが、IFRSを任意適用後、これまでにのれんの減損損失を一度も計上していない企業である。

 このほか、武田薬品工業(直近期末ののれん残高:1兆227億円)は、2016年度に、のれんの減損損失903百万円を、IFRSを任意適用(2014年3月期)後初めて計上している。
(5)多額ののれんの減損損失を計上したIFRS任意適用日本企業  2016年度に多額ののれんの減損損失を計上
したIFRS任意適用日本企業を、計上額が多い順に列挙すると、表9のとおりである。

 また、IFRSを任意適用した期以降、2016年度までに累計で多額ののれんの減損損失を計上したIFRS任意適用日本企業を、計上額の累計が多い順に列挙すると、表10のとおりである。

 表7でも分析したとおり、大手商社とIT関連企業が上位を占めている。様々な案件に投資を行い、頻繁に入れ替えも行っているこれらの企業のダイナミックさが伺える数字であろう。
(6)耐用年数を確定できない無形資産について、減損損失を計上したIFRS任意適用日本企業  耐用年数を確定できない無形資産の場合、のれんほど開示が充実していないため、減損損失の計上額を特定することが難しいが、ソフトバンクが2014年3月期と2016年3月期に合計で115億円、ファーストリテイリングが2014年8月期、2015年8月期、及び2016年8月期に合計で97億円を計上していた(計上の対象はいずれも商標権)。
 耐用年数を確定できない無形資産は、企業結合等で取得した商標権やブランドが大半であり、「対象となる事業が継続する限り基本的に存続するため、耐用年数を確定できない。」と判断されて、非償却となっているものが多い。そのため、その性質上、のれんよりも減損処理の優先順位が低くなり、その結果減損損失計上の頻度が少なくなるのもうなずける。
 2016年度末において耐用年数を確定できない無形資産を計上しているIFRS任意適用日本企業は32社あり、残高は5兆7千億円強(のれん残高の37.6%)に達する。その一方で、耐用年数を確定できない無形資産の減損処理・費用化は、のれんと比較するとまだほとんど「手付かず」の状態であろう。言うまでもなく、無形資産計上の対象となった事業の収益性等が十分に保たれている限り減損処理は不要であろうが、ひとたびブランドや商標権等が毀損されるような事態になった場合には、多額の減損処理を求められる可能性がある。

終わりに
 本稿の前半部分では、IFRS任意適用日本企業が計上したのれんの減損損失の金額や、のれんの費用化率(前年度ののれんの残高に対する当年度の減損損失の比率)等を、米国基準を適用する米国企業やIFRSを適用する欧州や豪州の企業、さらには日本の会計基準を適用する日本企業と比較することによって、全体的な傾向や特徴をつかもうと試みた。そして、後半部分では、分析対象をIFRS任意適用日本企業120社のみに絞って、のれんの減損損失の計上額のみならず、計上の頻度や業種別の傾向等について、より詳細な分析を行った。また、非償却といった会計処理の点でのれんと共通点が多い、耐用年数が確定できない無形資産についても、減損損失の計上の状況について調査し、分析を試みた。
 最後に、今回の調査分析から得られた結果について簡単にまとめてみたい。
(1)日本基準を適用する日本企業ののれんの費用化は相当進んでいる  この結論自体は当然予想されたことであったが、日本基準を適用する日本企業が、のれんを毎期償却することに加えて、相当な額の減損処理も行っていることが分かった。また、同じ日本企業であっても、IFRSを任意適用する企業ののれんの費用化率は、欧米の企業を若干上回る程度であった。
(2)IFRS任意適用日本企業の4割が、IFRS任意適用後直近期までにのれんの減損損失を計上したことがない  IFRS任意適用日本企業のIFRS適用後ののれんの減損損失計上の頻度を調査したところ、120社中48社が、のれんの残高があるにもかかわらず、IFRS適用後ののれんの減損損失を計上していなかった。業界別では、表8でランクインしているアステラス製薬やエーザイなど、製薬企業の減損損失計上額の少なさが目立った。参天製薬(のれんの直近の残高:299億円)や創薬ベンチャーのそーせいグループ(のれんの直近の残高:141億円)も、IFRS適用後現在までに、のれんの減損損失を計上していない。一方で、中外製薬と小野薬品はのれんそのものを計上していない。各社の成長戦略の違いからくるものであろう。製薬業界は、総合商社と並んで、早い段階からIFRSの任意適用が進んだ業界であるが、創薬という長期間を要する事業の性質もあって、投資先の事業についても、長期的な視点から事業計画が立てられている可能性が高いと考えられる。なお、製薬企業は、多額の仕掛研究開発(非償却の無形資産)を有している場合も多いため、減損処理の検討にあたって留意が必要である。
(3)IFRSを適用して新規上場した企業は、のれんの減損損失をほとんど計上していない  すかいらーくが1460億円、ベルシステム24が970億円、コメダが380億円など、IFRSを適用して新規上場した企業は、上場当初から多額ののれんを有している場合が多い。これらの企業が計上しているのれんは、受け皿として設立された企業が旧企業本体を吸収合併する過程で生じたものが多く、従来の、ある事業等を外部から買うことによって生じる「伝統的なのれん」とは意味合いが少し異なる。こういった企業ののれんは、本業の収益力が大幅に低下する等の「よほどのこと」がない限り、減損処理されることはないであろう。今後もこのような形態で生じた多額ののれんを有する企業が、IFRSを適用して新規上場する事例が生じる可能性がある。
(4)IFRS任意適用日本企業で、多額ののれんの減損損失を計上しているのは、大手商社とIT関連企業が多い  わが国の大手商社や大手IT、通信企業等が毎期のように減損損失を計上しつつも積極果敢に新規のM&Aにも挑み、投資資産の入れ替えを活発に進めている姿が改めて示された。
(5)耐用年数を確定できない無形資産の減損処理は、のれんと比較するとほとんど行われていない。  のれんに比べ、耐用年数を確定できない無形資産に対する注目度は、わが国では決して高いとはいえない。とはいえ、IFRS任意適用日本企業の4分の1以上が耐用年数を確定できない無形資産を計上しており、ソフトバンク以外にも、LIXILグループや大手商社、日本板硝子、DMG森精機など、多額の耐用年数を確定できない無形資産を計上している日本企業も決して少なくない。
 最近IFRSを適用して新規上場したスシローのように、のれんを上回る耐用年数を確定できない無形資産残高を有する企業も出てきている(のれん残高:303億円、無形資産(ブランド)残高:535億円)。
 一般的に、耐用年数を確定できない無形資産の減損処理は、のれんよりも遅いタイミングになることが多いと考えられるが、これまで減損処理がほとんど行われていないことを考えると、減損処理によるリスクに対して、今後十分に目配りをする必要があると考える。

参考文献
リサーチ・ペーパー第2号「のれん及び減損に関する定量的調査」2016年9月 企業会計基準委員会(ASBJ)

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