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解説記事2017年09月18日 【ニュース特集】 有償新株予約権の行方(2017年9月18日号・№707)

ニュース特集
公開草案にコメント253件、大部分が反対を表明
有償新株予約権の行方

 平成29年度税制改正における役員給与税制の拡充等を受け、2017年6月株主総会シーズンでは譲渡制限付株式報酬などを導入する企業が相次いだが、それ以前に多くの上場企業や上場を目指す企業で役職員に付与されてきたのが有償新株予約権だ。
 有償新株予約権を巡っては、2017年5月10日に企業会計基準委員会(ASBJ)からその会計処理に関する実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」が公表され、7月10日までパブリック・コメントに付されていたところだが、これに対し253件ものコメントが寄せられ、関係者の間で話題を呼んでいる。
 コメントの数はもちろん、その内容を見ると、IFRSとの整合性など一定の合理性を有すると思われるものもあるだけに、正式な会計処理のリリースに向け、ASBJは慎重な検討が求められることになりそうだ。
 有償新株予約権の会計処理が議論の渦中にある中、時価発行新株予約権信託と呼ばれる新たな新株予約権を導入する企業が今年に入ってから目に付き始めている。有償新株予約権の会計処理案の行方とともに、こちらの動向も注目される。

決着したかに見えた有償新株予約権の会計処理
 平成18年における会社法の施行によって付与が可能となった有償新株予約権を導入した企業の大部分は企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」を適用することで、発行時の払込金額を「新株予約権」として計上し、権利行使時において「行使された新株予約権の金額」および「権利行使に伴う払込金額」の合計額を資本金または資本剰余金に計上してきた。この会計処理であれば費用計上を要しないため、企業の損益への影響がない。
 有償新株予約権を導入した企業の一部には企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」を適用し、費用計上していたところもあったが、有償新株予約権に関するASBJ等によるオフィシャルな会計処理は存在しなかっただけに、企業会計基準適用指針第17号に基づく会計処理がデファクトスタンダードとなってきた。
 こうした中、企業会計基準委員会(ASBJ)が2017年5月10日に公表した有償新株予約権の会計処理に関する実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」では、有償新株予約権も、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」に定める無償で発行される新株予約権と同様に、企業が従業員等から払い込まれる金銭の対価および従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として付与されるものであると整理され、役職員等への報酬として費用計上が求められることとなった。
 この会計処理は実務対応報告の「公表日以降」に適用することとされたが、パブリック・コメントの締切りが2017年7月10日であることから、通常の流れを想定すれば、その約2か月後の10月にも正式な会計処理が公表されるのではないかとの見方もあったところだ。しかし、ここに来て、このスケジュールにズレが生じる可能性が出てきた。本公開草案に対するパブリック・コメントの内容がASBJから2017年8月25日に公表されたが、それによると、実に253件ものコメントが寄せられ、しかもその大部分が会計処理案に反対するものとなっているからだ。「253」というコメント数は、恐らくこれまで出された公開草案の中でも最多だろう。

ストック・オプション会計基準に含まれるとする案に反対が203件
 公開草案がパブリック・コメントに付された際には、ASBJから(1)ストック・オプション会計基準に含まれることに関する質問(下記参照)、(2)会計処理に関する質問(有償新株予約権の会計処理をストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針に準拠した取扱いとすることに同意するか)、(3)注記に関する質問(有償新株予約権の開示をストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針に準拠した取扱いとすることに同意するか)、(4)適用時期及び経過措置に関する質問(適用時期を公表日以後適用とし、公表日より前の付与分については、注記を要件に従来の会計処理を継続することに同意するか)、(5)その他(自由意見)の5つの質問が投げかけられたが、会計処理の行方にもっとも大きな影響を与えると思われるのが、下記の質問1(ストック・オプション会計基準に含まれることに関する質問)だ。
>質問1(ストック・オプション会計基準に含まれることに関する質問)
 本公開草案では、対象とする権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引が、ストック・オプション会計基準第2項(4)に定める報酬としての性格を持つと考えられるため(実務対応報告公開草案第17項から第23項を参照)、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、企業が従業員等から払い込まれる金銭の対価及び従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として付与するものと整理し、ストック・オプション会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものと提案しています。この提案に同意しますか。同意しない場合は、その理由をご記載ください。

 本誌の調査によると、253のコメントのうち、この質問に対し「賛成」するものは僅か6件にとどまっている。一方、「反対」するものは203件と全コメントの大部分を占めている。ASBJの実務対応専門委員会によると、質問1に対する反対意見203件のうち60~70件は、有償新株予約権の発行企業からの意見であったという。有償新株予約権の(上場企業を中心とする)企業への浸透ぶりを示していると言えよう。
 質問1~4に対する賛否は表1のとおり。


反対意見の多くが「報酬性なし」とコメント
 質問1への反対意見として目に付くのが、有償新株予約権の「報酬性」に着目したものだ。具体的には、有償新株予約権は金銭を対価とし、損失が発生する可能性もある「投資制度」であり、新株予約権者が有償新株予約権の公正価値について金銭により対価を支払っているのであれば報酬性はないとしている。
 質問5では自由意見が求められているが、その中で一定の合理性があると思われるのが、IFRSとの整合性に関する指摘だ。公開草案では、「勤務条件がなく業績条件がある有償新株予約権」も報酬として費用計上することを求めているが、IFRSでは、有償新株予約権を報酬として費用計上するのは、権利確定条件として勤務条件がある場合に限定されていることから、両会計基準間にギャップが生じてしまうとしている。

ASBJは公開草案の内容を見直す方針は示さず
 このほか、公開草案で有償新株予約権に対しても適用することとされたストック・オプション会計基準は、公表当時一般的に利用されていた無償で付与されるストック・オプションを念頭において検討されたものであり、有償新株予約権を考慮して報酬概念が検討されていたわけではない旨を指摘した上で、「報酬概念の再定義が必要であり、実務対応報告で対応する本公開草案で対応するよりも、ストック・オプション会計基準そのものを見直すべき」といった本質的な意見も見られた(質問1に対するコメント)。
 ASBJは、例えば上述した有償新株予約権の報酬性の問題に対しては、「従業員等に対して権利付き有償新株予約権を付与する取引については、従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込むという点で資金調達としての性格を有すると考えられる」としつつも、「企業は追加的なサービスの提供も期待して権利確定条件付き有償新株予約権を付与しているものと考えられることから、報酬としての性格も併せ持つ」とするなど、現時点では公開草案の内容を見直す方針を示していない。
 とはいえ、253件ものコメントが寄せられ、その多くが反対意見だったという点は考慮せざるを得ないだろう。正式な会計処理案の公表が予定より遅れる可能性は十分ありそうだ。

新興上場企業中心に広がりつつある時価発行新株予約権信託
 このように有償新株予約権の会計処理が議論の渦中にある中、時価発行新株予約権信託(42頁参照)と呼ばれる新たな新株予約権を導入する企業が今年に入ってから目に付き始めている(表2参照)。

 時価発行新株予約権信託は、オーナー個人が信託の委託者となって金銭を信託するという点に特徴があり、金銭を拠出するのがオーナー個人である以上、有償新株予約権のように会社の費用に計上するという話が出て来ることはない。この点から、有償新株予約権の受皿とも目される時価発行新株予約権信託だが、純粋にインセンティブプランとしての機能を評価する声もある。
 例えば従来の新株予約権は、社員や役員の過去の実績を踏まえ将来の貢献度を予測した上で付与することになるため、実際の貢献度と付与数が整合しないという問題や、新規発行時に株価が上昇していた場合には行使価額も高くなるため、既存社員と新入社員・役員の間に不公平が生じかねないという問題がある。後者の問題を解決するために株価上昇時に新入社員・役員への発行規模を増やぜば、今度は「希薄化」という別の問題が生じる。
 これに対し、時価発行新株予約権信託では、信託した新株予約権の分配方法を定めておくことにより実際の貢献度に応じた分配が可能となる上、新入社員・役員に対しても、既存社員・役員と同条件で新株予約権を分配することができる。
 ここ最近、人手不足が深刻化しており、企業間の人材獲得競争も厳しさを増している。こうした中、新たに採用された役職員に対しても既存の役職員と同条件で新株予約権を付与することができれば、優秀な人材を獲得する上でも有利となる。例えば、今年3月に時価発行新株予約権の導入をリリースした株式会社PR TIMESは、新入社員に対し、採用時に時価発行新株予約権信託を付与している。
 また、既存社員に対しては、新規案件の獲得金額や原価の低減といった定量的な成果にに対し(達成金額に応じて)事業年度ごとに「ポイント(獲得ポイントに応じて新株予約権を比例配分)」を付与するといった形で、既存の評価制度では評価し切れない個人評価に活用されている(株式会社アイドママーケティングコミュニケーションの事例)。
 上記の通り、今年に入って採用企業が(上場企業だけで)既に7社出ているが、時価発行新株予約権信託のメリットが理解されれば、今後導入が広がっていく可能性はあろう。

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