解説記事2017年10月30日 【税務マエストロ】 租税条約と配当課税①(海外子会社からの配当と租税条約の適用)(2017年10月30日号・№713)
税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
租税条約と配当課税①(海外子会社からの配当と租税条約の適用)
#200 品川克己
PwC税理士法人
略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。
次回のテーマ
#201
非課税(4)~金融取引・保険料(1)
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
ta@lotus21.co.jp
1 配当に対する課税原則
(1)海外子会社の進出先での課税 外国の法人から配当を受領するということは、その法人の株式を保有することが前提となる。居住者個人が外国の法人の株式を保有するケースとしては、たとえば金融資産投資の一部として、日本の証券市場に上場している外国の法人の株式を購入することが考えられる。こうした場合には、一般的には証券会社を通じて当該株式を購入することとなろう。また、日本法人が外国の法人の株式を保有することは、外国の法人に出資をすることを意味するが、それは事業の海外展開の手段として、自ら100%の出資により外国に子会社を設立する場合や、外国の法人等と合弁で外国に子会社を設立することが一般的である。
こうした外国の法人は、当然のことながら、その所在地国で法人税を負担することとなる。この法人税の対象となる利益(所得)は、あくまで当該法人が稼得者であり、その法人税を負担する者も当該法人となる。そして法人税負担後の剰余金等から、出資者である株主に分配される金額が、出資者の利益(配当)であり、この配当には、当該法人の所在地国において、当該法人税に加えて課税されるところとなる。この法人税負担と配当に対する課税については、その受領者は異なるものの、一の所得に対する二重課税との観点から、この二重課税の排除、調整のための制度(タックスクレジット)を有する国もあるが、一般的には配当の支払段階で源泉徴収という形で課税されることとなる。
配当に対する源泉課税(源泉徴収)は、配当を支払う法人の所在地国の国内法令に基づくこととなり、その税率は国によって異なる。たとえば、日本法人が外国の法人(外国法人)や個人(非居住者)に配当を支払う場合には、原則として20%で源泉徴収することが求められる(所法212、213)。米国では、原則30%で源泉徴収される。また昨今は、シンガポール、香港、マレーシアなど、支払配当に対して源泉徴収しない(つまり免税)国も増加している。
(2)受取配当に対する日本の課税 日本の法人や居住者個人が海外の子会社等から配当を受領する場合には、一定の場合を除き、その受取配当は日本で課税されることとなる。この配当は、そもそも支払法人の所在地国で法人税の負担を負った所得から支払われ、さらに源泉徴収の対象となり、その結果相当の税負担を負っていることとなる。配当の受領者段階でも、支払地国の源泉税と日本の法人税もしくは所得税の二重課税が生じることとなる。これら二重課税を調整する仕組みとして外国税額控除があり、当該配当の受領者は、当該配当等に対する法人税等から支払地国での源泉税を控除することとなる。
なお、配当の受領者が日本法人の場合には、国外配当益金不算入(法法23の2)が適用となる。これは、一定の要件(原則として25%以上の株式を6か月以上)を満たす海外の子会社からの受取配当については、その95%部分は益金に算入しないこととする制度であり、法人段階の法人税負担と配当との二重課税に配慮したものであり、「間接外国税額控除」と同様の二重課税の排除措置としての意味合いがある。この国外配当益金不算入の結果、当該受取配当は日本において実質非課税となる。また、この国外配当益金不算入の適用対象となる海外子会社等からの配当に課された源泉税は外国税額控除の対象外となる点にも注意を要する。当該配当は、日本で益金不算入とされ課税対象とならないことから、当該配当としての税負担は支払地国での源泉課税のみとなり、その結果二重課税が生じないため、日本で外国税額控除をする必要性がないこととなるためである。こうしたことから、日本で国外配当益金不算入の対象となる配当(通常は海外の子会社からの配当)については、その海外の子会社の現地での法人税負担及び支払配当に対する源泉税が最終的な税負担となることから、これらの負担が少ないほど、海外投資のリターンの最大化が図れることとなる。
2 租税条約における配当の範囲
(1)配当の定義 租税条約では、一般的に、配当に対する課税原則が個別に定められている。租税条約で定める配当とは、「一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当」(OECDモデル条約10条)であり、「配当」の具体的範囲としては、「株式、受益株式、鉱業株式、発起人株式その他利得の分配を受ける権利(信用に係る債権を除く。)から生ずる所得及びその他の持分から生じる所得であって分配を行う法人が居住者とされる締約国の租税に関する法令上株式から生ずる所得と同様に取り扱われるものをいう。」(OECDモデル条約10条)とされていることから、一般的な配当に加え、源泉課税を行う国である支払法人の所在地国で課税上「配当」と扱うものすべてが含まれる。このように、租税条約における「配当」の範囲が広めに捉えられているのは、租税条約における配当課税に関する定めが源泉地(配当の支払いをする国)での課税の軽減を定めるものであり、当該源泉地で配当として扱うのであれば、そのすべてに課税の軽減を適用すべきとの考え方に基づいていると考えられる。
なお、租税に関する法令上株式から生ずる所得と同様に取り扱われるものの典型例として、「みなし配当」が挙げられる。みなし配当は、各国の法令上様々であり、日本のみなし配当の概念とはかなり異なるものもある。たとえば、米国の国内法上、いわゆるみなし配当の概念は非常に広く、租税条約の適用にあたって、特に問題が生じる可能性があるものとして、米国連邦租税法であるInternal Revenue Code(IRC)304条に基づく配当課税が挙げられる。IRC304条では、米国法人の株式を譲渡した場合、その取引は単純な売買ではなく、その米国法人のE&P(日本での概念上は利益準備金に相当)までの金額は、みなし配当として源泉課税の対象となるというものである。極端な例としては、米国法人の株式を、日本法人から日本法人へ譲渡した場合も、その譲渡対価の一部が米国源泉のみなし配当として、米国の源泉課税の対象となるのである。
この場合、日米条約の適用については留意が必要であろう。このみなし配当の支払者がその株式に係る米国法人として捉えることができれば、「一方の締約国の法人が他方の締約国の居住者に支払う配当」に該当し、日米条約の限度税率(もしくは免税)が適用されるべきである。また、配当の支払者は当該株式の購入者(対価の支払者)であるととらえるのであれば、その所得は日米条約の配当条項の対象外となり、その他所得(21条)として取り扱うことになろう(米国の課税はなし)。
(2)配当の源泉地 租税条約における課税原則は、所得の源泉地における課税を定めるものであることから、その所得の発生地(いわゆる源泉地)の概念が重要となる。配当についていえば、どのような配当が一方の締約国で生じた配当とされるのかという問題である。この点について、配当の源泉地についての個別の規定は一般的には租税条約には設けられないが、「一方の締約国の法人が他方の締約国の居住者に支払う配当」を対象としていることから、配当の源泉地は法人の居住地と捉えることとなろう。
なお、一般的に租税条約では、一方の国の法人が支払う配当及び留保所得について、その配当及び留保所得の源泉が他方の国にあることを理由として、他方の国が課税することが禁じられている。いわゆる「追っかけ課税」の禁止である。他方の国がこうした課税を主張する根拠は、こうした配当については、その原資の源泉が当該他方の国にあるため、当該配当の源泉地も当該他方の国にあるという考え方に基づくものであろう。租税条約では、こうした課税を明示的に禁止しているのである。たとえば米国法人が配当を行う際に、当該米国法人から配当される利益のうち日本の恒久的施設(日本支店)が貢献した部分に対し、支店に対する法人税とは別に日本が課税することはできないのである(日米条約10条8項)。
記事に関連するお問い合わせ先 記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:ta@lotus21.co.jp
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今週のマエストロ&テーマ
租税条約と配当課税①(海外子会社からの配当と租税条約の適用)
#200 品川克己
PwC税理士法人
略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。
次回のテーマ
#201
非課税(4)~金融取引・保険料(1)
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
ta@lotus21.co.jp
1 配当に対する課税原則
(1)海外子会社の進出先での課税 外国の法人から配当を受領するということは、その法人の株式を保有することが前提となる。居住者個人が外国の法人の株式を保有するケースとしては、たとえば金融資産投資の一部として、日本の証券市場に上場している外国の法人の株式を購入することが考えられる。こうした場合には、一般的には証券会社を通じて当該株式を購入することとなろう。また、日本法人が外国の法人の株式を保有することは、外国の法人に出資をすることを意味するが、それは事業の海外展開の手段として、自ら100%の出資により外国に子会社を設立する場合や、外国の法人等と合弁で外国に子会社を設立することが一般的である。
こうした外国の法人は、当然のことながら、その所在地国で法人税を負担することとなる。この法人税の対象となる利益(所得)は、あくまで当該法人が稼得者であり、その法人税を負担する者も当該法人となる。そして法人税負担後の剰余金等から、出資者である株主に分配される金額が、出資者の利益(配当)であり、この配当には、当該法人の所在地国において、当該法人税に加えて課税されるところとなる。この法人税負担と配当に対する課税については、その受領者は異なるものの、一の所得に対する二重課税との観点から、この二重課税の排除、調整のための制度(タックスクレジット)を有する国もあるが、一般的には配当の支払段階で源泉徴収という形で課税されることとなる。
配当に対する源泉課税(源泉徴収)は、配当を支払う法人の所在地国の国内法令に基づくこととなり、その税率は国によって異なる。たとえば、日本法人が外国の法人(外国法人)や個人(非居住者)に配当を支払う場合には、原則として20%で源泉徴収することが求められる(所法212、213)。米国では、原則30%で源泉徴収される。また昨今は、シンガポール、香港、マレーシアなど、支払配当に対して源泉徴収しない(つまり免税)国も増加している。
(2)受取配当に対する日本の課税 日本の法人や居住者個人が海外の子会社等から配当を受領する場合には、一定の場合を除き、その受取配当は日本で課税されることとなる。この配当は、そもそも支払法人の所在地国で法人税の負担を負った所得から支払われ、さらに源泉徴収の対象となり、その結果相当の税負担を負っていることとなる。配当の受領者段階でも、支払地国の源泉税と日本の法人税もしくは所得税の二重課税が生じることとなる。これら二重課税を調整する仕組みとして外国税額控除があり、当該配当の受領者は、当該配当等に対する法人税等から支払地国での源泉税を控除することとなる。
なお、配当の受領者が日本法人の場合には、国外配当益金不算入(法法23の2)が適用となる。これは、一定の要件(原則として25%以上の株式を6か月以上)を満たす海外の子会社からの受取配当については、その95%部分は益金に算入しないこととする制度であり、法人段階の法人税負担と配当との二重課税に配慮したものであり、「間接外国税額控除」と同様の二重課税の排除措置としての意味合いがある。この国外配当益金不算入の結果、当該受取配当は日本において実質非課税となる。また、この国外配当益金不算入の適用対象となる海外子会社等からの配当に課された源泉税は外国税額控除の対象外となる点にも注意を要する。当該配当は、日本で益金不算入とされ課税対象とならないことから、当該配当としての税負担は支払地国での源泉課税のみとなり、その結果二重課税が生じないため、日本で外国税額控除をする必要性がないこととなるためである。こうしたことから、日本で国外配当益金不算入の対象となる配当(通常は海外の子会社からの配当)については、その海外の子会社の現地での法人税負担及び支払配当に対する源泉税が最終的な税負担となることから、これらの負担が少ないほど、海外投資のリターンの最大化が図れることとなる。
2 租税条約における配当の範囲
(1)配当の定義 租税条約では、一般的に、配当に対する課税原則が個別に定められている。租税条約で定める配当とは、「一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当」(OECDモデル条約10条)であり、「配当」の具体的範囲としては、「株式、受益株式、鉱業株式、発起人株式その他利得の分配を受ける権利(信用に係る債権を除く。)から生ずる所得及びその他の持分から生じる所得であって分配を行う法人が居住者とされる締約国の租税に関する法令上株式から生ずる所得と同様に取り扱われるものをいう。」(OECDモデル条約10条)とされていることから、一般的な配当に加え、源泉課税を行う国である支払法人の所在地国で課税上「配当」と扱うものすべてが含まれる。このように、租税条約における「配当」の範囲が広めに捉えられているのは、租税条約における配当課税に関する定めが源泉地(配当の支払いをする国)での課税の軽減を定めるものであり、当該源泉地で配当として扱うのであれば、そのすべてに課税の軽減を適用すべきとの考え方に基づいていると考えられる。
なお、租税に関する法令上株式から生ずる所得と同様に取り扱われるものの典型例として、「みなし配当」が挙げられる。みなし配当は、各国の法令上様々であり、日本のみなし配当の概念とはかなり異なるものもある。たとえば、米国の国内法上、いわゆるみなし配当の概念は非常に広く、租税条約の適用にあたって、特に問題が生じる可能性があるものとして、米国連邦租税法であるInternal Revenue Code(IRC)304条に基づく配当課税が挙げられる。IRC304条では、米国法人の株式を譲渡した場合、その取引は単純な売買ではなく、その米国法人のE&P(日本での概念上は利益準備金に相当)までの金額は、みなし配当として源泉課税の対象となるというものである。極端な例としては、米国法人の株式を、日本法人から日本法人へ譲渡した場合も、その譲渡対価の一部が米国源泉のみなし配当として、米国の源泉課税の対象となるのである。
この場合、日米条約の適用については留意が必要であろう。このみなし配当の支払者がその株式に係る米国法人として捉えることができれば、「一方の締約国の法人が他方の締約国の居住者に支払う配当」に該当し、日米条約の限度税率(もしくは免税)が適用されるべきである。また、配当の支払者は当該株式の購入者(対価の支払者)であるととらえるのであれば、その所得は日米条約の配当条項の対象外となり、その他所得(21条)として取り扱うことになろう(米国の課税はなし)。
(2)配当の源泉地 租税条約における課税原則は、所得の源泉地における課税を定めるものであることから、その所得の発生地(いわゆる源泉地)の概念が重要となる。配当についていえば、どのような配当が一方の締約国で生じた配当とされるのかという問題である。この点について、配当の源泉地についての個別の規定は一般的には租税条約には設けられないが、「一方の締約国の法人が他方の締約国の居住者に支払う配当」を対象としていることから、配当の源泉地は法人の居住地と捉えることとなろう。
なお、一般的に租税条約では、一方の国の法人が支払う配当及び留保所得について、その配当及び留保所得の源泉が他方の国にあることを理由として、他方の国が課税することが禁じられている。いわゆる「追っかけ課税」の禁止である。他方の国がこうした課税を主張する根拠は、こうした配当については、その原資の源泉が当該他方の国にあるため、当該配当の源泉地も当該他方の国にあるという考え方に基づくものであろう。租税条約では、こうした課税を明示的に禁止しているのである。たとえば米国法人が配当を行う際に、当該米国法人から配当される利益のうち日本の恒久的施設(日本支店)が貢献した部分に対し、支店に対する法人税とは別に日本が課税することはできないのである(日米条約10条8項)。
記事に関連するお問い合わせ先 記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:ta@lotus21.co.jp
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.