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解説記事2017年12月04日 【税務マエストロ】 租税条約と配当課税②(海外子会社からの配当と租税条約の適用)(2017年12月4日号・№717)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
租税条約と配当課税②(海外子会社からの配当と租税条約の適用)

#202 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#203
非課税(5)~金融取引・保険料(2)

税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 ta@lotus21.co.jp

3 租税条約における限度税率の適用
(1)源泉地課税の容認と制限
 OECDモデル条約第10条第1項では、「一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当については、当該他方の締約国において租税を課することができる。」と定めている。これは法人の居住地国(本国)における課税を定めるものであり、そもそも進出先である相手国での課税関係の明確化、制限が租税条約の意義であることに照らせば、あえてこの規定を租税条約に定める必要はないとも考えられる。しかしながら、それを「締約国間の課税権の配分」という点に着目すると、この規定の必要性も理解できよう。こうした様々な租税条約の意義の観点から、租税条約における配当の課税原則をとらえる場合、それは第1項のみならず第2項も併せて読む必要がある。
 OECDモデル条約第10条第2項では、「一方の締約国の居住者である法人が支払う配当に対しては、当該一方の締約国においても、当該一方の締約国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該配当の受益者が他方の締約国である場合には、次の額を超えないものとする。」と定め、源泉地国での課税を容認するとともに、その金額に制限をかけている。源泉地国で課税された金額(税額)は、原則として、居住地国においては外国税額控除等により二重課税が排除される(居住地国の税額が減少)こととなり、結果として、居住地国と源泉地国での課税権の配分という課題が達成されることとなる。
 なお、租税条約締結の意義について、「投資交流の促進」がその一つとして挙げられる。これは、租税条約が、締約国間での資本投資を促進させる効果を持つという考え方であるが、源泉地国での課税が制限されるのであれば、当然のことながら、対外資本投資(子会社形態での進出)は行いやすくなる。この観点に立てば、源泉地国での課税を完全に制限(つまり源泉地国免税)とされれば、その効果も最大化されると考えられる。昨今の租税条約では、親子間配当について源泉地国(支払地)で源泉徴収税率をゼロ(つまり免税)とするものが増えてきている。具体的には先進国間の租税条約では、その傾向が強いところである。
 しかしながら、一方で、源泉地国免税は課税権の配分という租税条約の意義とは相いれない側面も有している。源泉地国免税は投資交流の促進に資する一方、課税権の配分という効果は有していないといえよう。したがって、租税条約締結時において、交流の促進という意義を重視するのか、課税権の配分という意義を重視するのかによって、配当に対する課税原則は異なることとなろう。具体的には、先進国間では、まさに対外資本投資の交流を促進させることが政策目的となるが、資本投資の方向が一方通行となる先進国と途上国との間では、課税権の適度な配分という意義が重要となると考えられる。
 なお、現実的には、多くの国が、自国経済活性化を目的とした外国資本の誘致が重要な政策課題となっている。特に、途上国では先進国以上に重要な政策課題であるといえよう。こうした状況下で、源泉地国課税にこだわることは疑問なしとしないといえよう。源泉地国(途上国側)で配当に対する源泉税率をゼロにするほうが、先進国側(投資側)にとって投資環境は望ましい状況と判断され、当該途上国に対する投資の促進効果は進むものと考えられる。途上国側も、外国資本の誘致が進むこととなる。こうしたことから、昨今は、国内法により、配当に対する源泉税を免除する国が増えてきていることも事実である。具体的には、マレイシア、ベトナム、シンガポールが挙げられる。また、タイにおいても実質的には支払配当に対する源泉税は免除となる(「BOI」という投資委員会の認可が必要であるが、日本法人がタイで事業投資をする場合には、通常BOIの認可を得ることとなる)。これは、配当に対する課税原則として、租税条約による課税権の配分という税務上の視点ではなく、外国資本の誘致という経済上のメリットを重視した政策判断と考えられる。
(2)制限税率の適用  わが国は、多くの租税条約において、ポートフォリオ投資から生じる配当と、事業投資(子会社での事業進出)から生じる配当(つまりは子会社から親会社に対する親子間配当)とに分け、それぞれにおいて異なる「制限税率」を定めている。この制限税率とは、源泉地国での課税についての最大税率であり、制限税率として定める税率以上での課税は受けないこととなる。こうしたことから、投資に対する課税の明確化、安定に資するとされており、「限度税率」といわれることもある。
 一般的には、日本法人等が、ポートフォリオ投資として外国法人株式を保有し配当を受けるケースはそれほど多くはないと予想される。通常は、事業投資として外国に子会社を所有し、これら子会社から配当を受けるケースがほとんどであることから、親子間配当としての制限税率がより重要となる。また、親子間配当に該当するための要件も重要なポイントとなる。
 一般配当に対する税率は、通常、15%もしくは10%であり、親子間配当は、一般配当に比べてさらに低い税率が定められている。親子間配当に該当するための要件(子会社株式の保有割合等の要件)は、一般的には25%以上を6か月以上保有する場合が該当し、こうした親子間配当に対する制限税率は10%もしくは5%とする条約が多いところである。
 また昨今は、一般的な親子間配当の制限税率は10%もしくは5%としつつ、一定の要件を充足する特定の場合にはゼロ税率(つまり免税)とする条約も増えてきている。
 ① 一般配当に対する制限税率 (i)15%と定める条約
  OECDモデル条約、アイルランド、イスラエル、イタリア、インドネシア、カナダ、韓国、シンガポール(日本からの支払いのみ。シンガポールからの支払いは免税)、スペイン、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、ブルガリア、南アフリカ、メキシコ、ルクセンブルグなど
(ii)10%と定める条約
  アメリカ、イギリス、インド、オーストラリア、オランダ、スイス、スウェーデン、中国、フランス、ベトナム、ポルトガルなど
 ② 親子間配当に対する制限税率 (i)10%と定める条約
  イタリア、インドネシア、オーストリア、スペイン、フィリピン、フィンランド、ブルガリアなど
(ii)5%と定める条約
  OECDモデル条約、アメリカ(10%以上の保有)、イスラエル、オーストラリア(10%以上の保有)、オランダ(10%以上、6か月以上保有)、カナダ、スイス(10%以上、6か月以上保有)、ドイツ(10%以上、6か月以上保有)、ノルウェー、フランス(10%以上、6か月以上保有)、ポルトガル、南アフリカ、メキシコ、ルクセンブルグなど
 ※国名の後ろに要件の記載のないものは、25%以上、6か月以上の保有
(3)源泉地免税とされる配当の要件  親子間配当のうち、特定の場合には、源泉地国免税(制限税率がゼロ)とされる租税条約がある。この特定の場合は、租税条約により異なるところである。
(ア)アメリカ
  議決権のある株式の50%超を、配当の受領者が特定されるとする12か月の期間を通じて保有する法人株主(特典条項の要件を満たす者)に支払われる配当。この50%超を保有しているか否かの判定に当たっては、間接所有を含むが、中間の株主は、日本もしくはアメリカの居住者法人である必要がある。
(イ)イギリス
  間接所有を含め10%以上の株式を6か月以上の期間保有していること。なお、この要件に該当しない場合には、一般配当となり、制限税率は10%となる。
(ウ)オーストラリア
  直接所有のみで80%以上の株式を12か月以上保有していること。
(エ)オランダ
  間接所有を含め50%以上の株式を6か月以上の期間保有していること。
(オ)スイス
  間接所有を含め50%以上の株式を6か月以上の期間保有していること。
(カ)スウェーデン
  間接所有を含め10%以上の株式を6か月以上の期間保有していること。なお、この要件に該当しない場合には、一般配当となり、制限税率は10%となる。
(キ)ドイツ
  直接所有のみで80%以上の株式を18か月以上保有していること。
(ク)ニュージーランド
  間接所有を含め10%以上の株式を6か月以上の期間保有していること。なお、配当の受領者が上場法人等であること等の要件が課される。
(ケ)フランス
  配当の支払法人がフランス法人である場合には、当該法人の15%以上の株式等を直接又は間接に6か月以上保有していること。配当の支払法人が日本法人である場合には、直接に15%以上を6か月以上保有しているか、もしくは直接又は間接に25%以上を6か月以上保有していること。
(コ)メキシコ
  間接所有を含め25%以上の株式を6か月以上の期間保有していること。なお、配当の受領者が上場法人等であること等の要件が課される。

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