解説記事2017年12月18日 【ニュース特集】 賃上げ・投資税制の全容(2017年12月18日号・№719)
ニュース特集
賃上げ・投資税制は生産性革命税制、IoT投資減税、“ムチ税制”の三位一体で
賃上げ・投資税制の全容
本誌717号(7頁参照)で既報のとおり、平成30年度税制改正では、経済産業省が拡充と適用期限延長を要望した所得拡大促進税制のうち「大企業」に対応する部分を大幅改組し、「賃上げ+設備投資」に積極的な企業の法人税負担を引き下げる「生産性革命税制」を導入する一方で、消極的な企業に対しては租税特別措置の適用を制限するいわゆる“ムチ(鞭)税制”が導入される(なお、中小企業については、所得拡大促進税制が拡充された上で存続)。
生産性革命税制の恩恵をフルに受けた場合、法人実効税率は現行の29.74%から25%程度に下げたのと同じ結果になるが、政府が“2段ロケット”とも宣伝するように、同じく平成30年度税制改正で新設される情報連携投資等の促進に係る税制(IoT投資減税)の適用を受けるとさらに実効税率を5%程度下げ約20%にしたのと同じことになる。いずれも3年間の時限措置となる。
このように、世間で言われている「賃上げ・投資税制」は、生産性革命税制、IoT投資減税、租税特別措置の適用要件の見直し(“ムチ税制”)の三つによって形成されている。本特集では、これら三つの制度それぞれについて、「適用要件」「税メリット」「税デメリット(“鞭”)」を分かりやすく整理したうえで、適用上のポイント・留意点をお伝えする。
生産性革命税制(賃上げ・生産性向上のための税制)
〔対象企業〕大企業 したがって、中小企業は生産性革命税制の適用対象外ということになる。
〔適用条件〕
従来の所得拡大促進税制では平成24年度等を「基準年度」とし、当該年度における給与等支給総額を基準に、給与等支給総額が5%以上増加したかどうかが税額控除の要件の一つになっていたが、所得拡大促進税制の改組(バージョンアップ)版と言える生産性革命税制では、「基準年度」という考え方は廃止され、シンプルに前年度との比較により、「平均給与等支給額が前年度比3%以上増加」しているかどうかが、適用条件の一つとされる。
②における「減価償却費」は「損金経理した償却費(償却超過額除き、特別償却準備金含む)」をいう。また、「国内設備投資」の対象となるのは基本的に国内の減価償却資産であり、ここには「建物」や「ソフトウェア」も入る見込みだ。
〔税制特典の内容〕
税制特典の内容は、「給与等支給総額の対前年度増加額に対し15%の税額控除」が基本となるが(①)、「一定の教育訓練費の増加」を要件に、控除率が20%に上乗せされる(③)。「一定の教育訓練費の増加」とは、「当期の教育訓練費≧前期・前々期の教育訓練費の1.2倍」となる場合を指す。
ただし、税額控除額は法人住民税には反映されない。
生産性革命税制により実質的な税負担割合は25%へ 生産性革命税制の適用により税額控除を受ける結果、法人実効税率は概算で平成30年度の29.74%から、概ね25%程度へと引き下げられたのと同等の効果が得られることになる(控除上限20%に達した場合)。ただし、当然のことながら実際の控除額が税額控除限度額(20%)に達しない場合には、法人実効税率概算の数値がそこまで引き下がるわけではない。
IoT投資減税
〔対象法人〕すべての法人(大企業か中小企業かは問わない) 生産性革命税制、“ムチ税制”と異なり、中小企業も対象とされていることがポイント。
〔適用要件〕
ここでいう「認定」を受けるには、来年度の通常国会での立法が予定される「生産性向上のための臨時措置法(仮称)」上の要件を満たすことが求められる。具体的には下記のような要件が求められる。
<認定要件の例>
※自民党税調資料より抜粋
〔税制特典の内容〕
IoT投資減税の最大の特徴は、“賃金要件”が付いたという点だ。上述のとおり、 基本パターンは30%の特別償却又は3%の税額控除となるが、賃上げ3%以上を達成した場合、5%の税額控除が利用可能となる。税額控除割合5%の場合の税額控除限度は20%に設定されている。すなわち、生産性革命税制と併せると税額控除限度額は最大40%(20%+20%)となり、この場合、法人実効税率を概算で20%程度に引き下げたのと同等となる。
ムチ税制
〔対象法人〕大企業 中小企業が適用対象外とされたことがポイント。
〔適用要件〕
上記①②の両方に該当する場合でも、所得金額が前事業年度の所得金額以下の場合には適用対象外となる。
〔措置(ペナルティ)の内容〕
納税者にとってもっとも気になるのは、具体的にどの租税特別措置の適用が停止とされるのかという点だろう。適用停止の対象になるのは下記の「生産性の向上に関連する措置」となる。逆に、中小企業関連措置(少額減価償却資産の特例、中小企業投資促進税制等)、特定の地域に限定した措置(特区税制、沖縄税制)、特定の業種に限定した措置(海外投資等損失準備金、農業経営基盤強化準備金等)のほか、特定の資産の買換え特例、土地税制(収容等)等は適用停止の対象とならない。
<適用停止の対象となる租税特別措置>
賃上げ・投資税制は生産性革命税制、IoT投資減税、“ムチ税制”の三位一体で
賃上げ・投資税制の全容
本誌717号(7頁参照)で既報のとおり、平成30年度税制改正では、経済産業省が拡充と適用期限延長を要望した所得拡大促進税制のうち「大企業」に対応する部分を大幅改組し、「賃上げ+設備投資」に積極的な企業の法人税負担を引き下げる「生産性革命税制」を導入する一方で、消極的な企業に対しては租税特別措置の適用を制限するいわゆる“ムチ(鞭)税制”が導入される(なお、中小企業については、所得拡大促進税制が拡充された上で存続)。
生産性革命税制の恩恵をフルに受けた場合、法人実効税率は現行の29.74%から25%程度に下げたのと同じ結果になるが、政府が“2段ロケット”とも宣伝するように、同じく平成30年度税制改正で新設される情報連携投資等の促進に係る税制(IoT投資減税)の適用を受けるとさらに実効税率を5%程度下げ約20%にしたのと同じことになる。いずれも3年間の時限措置となる。
このように、世間で言われている「賃上げ・投資税制」は、生産性革命税制、IoT投資減税、租税特別措置の適用要件の見直し(“ムチ税制”)の三つによって形成されている。本特集では、これら三つの制度それぞれについて、「適用要件」「税メリット」「税デメリット(“鞭”)」を分かりやすく整理したうえで、適用上のポイント・留意点をお伝えする。
生産性革命税制(賃上げ・生産性向上のための税制)
〔対象企業〕大企業 したがって、中小企業は生産性革命税制の適用対象外ということになる。
〔適用条件〕
① 平均給与等支給額が前年度比3%以上増加 ② 国内設備投資額が減価償却費の9割以上 |
②における「減価償却費」は「損金経理した償却費(償却超過額除き、特別償却準備金含む)」をいう。また、「国内設備投資」の対象となるのは基本的に国内の減価償却資産であり、ここには「建物」や「ソフトウェア」も入る見込みだ。
〔税制特典の内容〕
① 給与等支給総額の対前年度増加額に対し15%の税額控除(現行12%)。 ② 税額控除限度額は20%(現行10%) ③ 一定の教育訓練費の増加を要件に、控除率を20%にアップ |
ただし、税額控除額は法人住民税には反映されない。
生産性革命税制により実質的な税負担割合は25%へ 生産性革命税制の適用により税額控除を受ける結果、法人実効税率は概算で平成30年度の29.74%から、概ね25%程度へと引き下げられたのと同等の効果が得られることになる(控除上限20%に達した場合)。ただし、当然のことながら実際の控除額が税額控除限度額(20%)に達しない場合には、法人実効税率概算の数値がそこまで引き下がるわけではない。

IoT投資減税
〔対象法人〕すべての法人(大企業か中小企業かは問わない) 生産性革命税制、“ムチ税制”と異なり、中小企業も対象とされていることがポイント。
〔適用要件〕
企業の内外におけるデータの連携・高度利活用による生産性向上等、生産性向上の実現のための臨時措置法(仮称)の要件を満たすものとして認定された計画に基づく投資 |
<認定要件の例>
① データ連携の内容 ・社外データやこれまで取得したことのないデータを社内データと連携 ・企業の競争力における重要データをグループ企業間や事業所間で連携 ② セキュリティ面 必要なセキュリティ対策が講じられていることをセキュリティの専門家が担保 ③ 生産性向上目標 投資年度から一定期間において、以下のいずれも達成見込みがあること ・労働生産性:年平均伸率2%以上 ・投資利益率:年平均15%以上 など |
〔税制特典の内容〕
① ソフトウェア・器具備品・機械装置(器具備品・機械装置はソフトウェアと同時に取得するものに限定)につき30%の特別償却又は3%の税額控除。賃上げ3%以上達成で5%の税額控除。 ※最低投資合計額5,000万円。なお、税額控除額が法人住民税に反映されるのは中小企業のみ。 ② 税額控除限度額は、税額控除割合3%の場合は15%、5%の場合は20% |
ムチ税制
〔対象法人〕大企業 中小企業が適用対象外とされたことがポイント。
〔適用要件〕
① 平均給与等支給額が前事業年度の平均給与等支給額以下 かつ、 ② 国内設備投資額が減価償却費の10%以下の場合 |
〔措置(ペナルティ)の内容〕
一部の租税特別措置の適用を停止とする。 |
<適用停止の対象となる租税特別措置>
・研究開発税制 ・地域未来投資促進税制 ・IoT投資減税 の3つ限定 |
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