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解説記事2018年03月19日 【特別解説】 IFRSを適用して新規上場した企業の減損テスト(2018年3月19日号・№731)

特別解説
IFRSを適用して新規上場した企業の減損テスト

はじめに

 2014年10月に、外食業大手のすかいらーくがIFRSを適用して初めて上場して以来、3年半弱の間に12社が後に続き、2017年12月末日現在では13社となった。IFRSを適用して連結財務諸表を作成し、有価証券報告書を公表する我が国の企業(IFRS任意適用日本企業)の1割に届こうとしている。IFRSを適用して新規上場した企業は、いずれも成長性や収益性が高いことは言うまでもないが、一方で、のれんや耐用年数を確定できない無形資産といった非償却の無形資産を多額に有している場合が多い。毎年の定額償却を行わないのれんや耐用年数を確定できない無形資産は、減損テストによる定期的な収益性の検討が必須である。そこで本稿では、IFRSを適用して新規上場した企業各社ののれんの計上額や純資産に対する比率、仮に我が国の会計基準に基づいて、のれんを償却したとした場合の損益へのインパクト等を示したのちに、のれんや耐用年数を確定できない無形資産の減損テストに関する開示を見ていくこととしたい。

調査の対象とした企業
 今回調査の対象としたのは、2017年12月末日までにIFRSを適用して新規に上場した企業13社である(五十音順)。
 アルヒ、MS&Consulting、コメダホールディングス、すかいらーく、スシローグローバルホールディングス、ソレイジア・ファーマ、ツバキ・ナカシマ、テクノプロホールディングス、プレミアグループ、ベイカレント・コンサルティング、ベルシステム24ホールディングス、マクロミル、LINE

IFRSを適用して新規上場した企業が計上している非償却の無形資産額や連結純資産に対する比率等
 IFRSを適用して新規上場した13社が、上場した対象の決算期において計上していた非償却の無形資産の残高や、当該残高の当時の連結純資産に対する比率等は、表1のとおりである(なお、ベイカレント・コンサルティングは連結財務諸表を作成していないため、個別財務諸表上の数値となっている)。

 また、まったくの仮定の話になるが、IFRSを適用して上場した時点において、各社が計上していたのれんが非償却ではなく、(我が国の会計基準に基づいて)償却対象であった場合、各社の業績にどの程度のインパクトがあったのかを試算してみたい(表2を参照)。

 単純化のために、のれんの償却期間は一律20年としており、のれんは上場対象の決算期に初めて発生したものとみなしている(すなわち、表2の「のれん償却額」は、のれん残高を単純に20で除した金額としている。)。
 表1の中にも記載したとおり、のれんのほかに、ソレイジア・ファーマは製品関連無形資産を1,987百万円、スシローグローバルホールディングスはブランドを53,596百万円、プレミアグループは顧客関連資産を4,580百万円有している(いずれも非償却の無形資産)。

 きわめて単純な計算ではあるが、すかいらーくの場合、上場直前の決算期末においては、のれん残高の20分の1(日本基準に基づけば償却されたはずの最少額)が、当時の連結純利益を上回っていた。その他の各社についても、日本基準に基づいてのれんの償却を行った場合には、連結当期純利益がほぼ半減、あるいはそれ以下になった企業が少なくない。
 なお、直近の決算期における各社の状況は表3のとおりである。すかいらーくをはじめ、各社ともにのれん等の残高はほとんど変動していないが、収益力の強さが発揮されて、上場時点よりも連結純資産は厚みを増しており、連結純資産に対する非償却の無形資産残高の比率もかなり下がってきていることが分かる。


のれん等の減損テストの開示
 IFRSを適用して新規上場した企業に限ったことではないが、のれん等、多額の非償却無形資産を有する企業にとって、毎期の減損テストによる収益性の検討が必要不可欠であり、重要性も大きい。今回調査対象とした各社はどのようにして減損テストを行っているのであろうか。直近の有価証券報告書での開示を紹介したい。
 IFRSを適用して新規上場した企業の第1号であるすかいらーくは、主要なブランド(ガスト、ジョナサン、バーミヤン、夢庵、その他)を各資金生成単位としており、それぞれのブランドにのれんを配分している。そして、回収可能価額は使用価値に基づいて算定している。
(すかいらーく)  当社グループは、のれんについて、毎期又は減損の兆候がある場合にはその都度、減損テストを実施しております。減損テストの回収可能価額は、使用価値に基づき算定しております。当社は、経営者が承認した翌連結会計年度の事業計画を基礎としたキャッシュ・フローの見積額を、現在価値に割り引いて算定しております。事業計画は、業界の将来の趨勢に関する経営者の評価と過去のデータを反映し作成したものであり、外部情報及び内部情報に基づき作成しております。キャッシュ・フローの見積りに使用する事業計画の期間は原則5年を限度としております。また、税引前割引率は、同業他社の加重平均資本コストを基礎に算定しており、のれんを配分している各資金生成単位グループ(主要なブランド)において同一のものを使用しております(前連結会計年度税引前割引率:7.15%、当連結会計年度税引前割引率:6.97%)。当社グループの経営者は、レストランにおける収益から生じる予想キャッシュ・インフロー及び現在の状態での資産から生じると見込まれる経済的便益の水準を維持するために必要な投資額の予想キャッシュ・アウトフロー並びに税引前割引率の計算の基礎である同業他社の加重平均資本コストは、のれんを配分している資金生成単位グループ(主要なブランド)の回収可能価額の算定の基礎となる重要な仮定と考えております。前連結会計年度及び当連結会計年度においては、全ての資金生成単位グループ(主要なブランド)ののれんについて、上記の減損判定に用いた主要な仮定が合理的に考えうる範囲で変化したとしても、重要な減損損失が発生する可能性は低いと判断しております。

 コメダホールディングスは、処分コスト控除後の公正価値に基づいて回収可能価額を算定している。
(コメダホールディングス)  当社は、のれんの減損テストにあたり、のれんを唯一の事業セグメントである喫茶店のFC事業の資金生成単位グループに配分しており、その資金生成単位グループの決定についての重要な判断は経営者が行っております。当該資金生成単位の回収可能価額は、次に記載のとおり、処分コスト控除後の公正価値に基づいて算定しており、当該公正価値のヒエラルキーは、用いた評価技法への重大なインプットに基づき、レベル3に区分しております。
 処分コスト控除後の公正価値は、取締役会で承認された3年以内の事業計画を基礎として計算した将来キャッシュ・フローの期待現在価値に事業の継続価値を加味して算定しております。この事業計画は、新規店舗、閉店店舗及び卸売出荷数量等を前年度と同程度の水準と見積り、外部環境とも整合性を取ったうえで策定しております。当連結会計年度の減損テストにおいて使用した税引前割引率は、株式上場に伴う株主期待利回りの変更及び負債コスト等の見直しを行った結果、加重平均資本コストを基礎に6.63%(前連結会計年度11.84%)と算定しております。
 当連結会計年度末における見積回収可能価額は、のれんの帳簿価額を十分に上回っており、減損テストに使用した主要な仮定が合理的に予測可能な範囲で変化したとしても、重要な減損損失が発生する可能性は極めて低いと判断しております。

 続いて、のれんと耐用年数を確定できない無形資産の両方を有する企業(スシローグローバルホールディングス、プレミアグループ)の減損テストの開示を取り上げる。
(スシローグローバルホールディングス)  当社グループで認識されているのれん及び耐用年数を確定できないブランドは、CEILジャパン株式会社が前株式会社あきんどスシローに対して行った企業結合により認識されたものであり、当該のれん及び耐用年数を確定できないブランドは、CEILジャパン株式会社と株式会社あきんどスシローの合併により、合併後会社に引き継がれております。当社グループには事業セグメントが1つしかなく、取得により生じるシナジー効果およびブランドの効果は当該セグメントとしての資金生成単位グループ全体から生じるため、当該のれん及び耐用年数を確定できないブランドは、減損テストの実施にあたり、当該資金生成単位グループ全体に配分されております。
 当該資金生成単位の回収可能価額は、使用価値に基づいて算定しております。使用価値は、過去のデータを反映し経営者が承認した翌連結会計年度の事業計画を基礎とし、その後の長期成長率を0%と仮定して計算した将来キャッシュ・フローの見積額を現在価値に割り引いて算定しております。割引計算に際しては、加重平均資本コストに基づく税引前の割引率を使用しており、前連結会計年度及び当連結会計年度において、7.0%としております。(中略)
 当連結会計年度末において回収可能価額は、のれん及び耐用年数を確定できないブランドが含まれる資金生成単位グループの帳簿価額を91,798百万円上回っていますが、税引前割引率が6.5%上昇した場合、又は、各期の将来見積キャッシュ・フローが51.1%減少した場合、回収可能価額と帳簿価額が等しくなります。

 プレミアグループはのれんのほか、顧客関連資産を、耐用年数を確定できない無形資産としている。顧客関連資産は、被取得企業がクレジット事業及びワランティ事業における事業運営のノウハウやバリューチェーン、運営組織等を包括したものとされている。
(プレミアグループ)  当社は、のれん及び耐用年数が確定できない無形資産について、少なくとも年1回減損テストを行っており、さらに減損の兆候がある場合には、その都度、減損テストを行っております。のれん及び耐用年数が確定できない無形資産の減損テストの回収可能価額は、処分コスト控除後公正価値に基づき算定しております。この公正価値の測定に用いた評価技法は主にマルチプル法によるもので、公正価値ヒエラルキーのレベルはレベル3に含まれております。企業結合で生じたのれんは、取得日に、企業結合から利益がもたらされる資金生成単位グループに配分しております。減損テストのため、のれん及び耐用年数が確定できない無形資産の各期における減損損失考慮前の帳簿価額を、プレミアフィナンシャルサービスの資金生成単位に配分しております。
 処分コスト控除後公正価値は、マルチプル法に基づく手法として、翌期の事業計画に基づくEBITDA、及びEV/EBITDA倍率を用いて算定しております。資金生成単位に関するEV/EBITDA倍率は、当該資金生成単位と類似した特性を示す日本国内の事業に関する公表データによるものであります。
 当資金生成単位グループにおいて、現状の減損損失発生の可能性のEV/EBITDA倍率は5倍程度でありますが、前連結会計年度末では28.84倍、当連結会計年度末では33.30倍であるため、処分コスト控除後公正価値は資金生成単位グループの帳簿価額を十分に上回っており、当社グループにおいて減損計上までの余裕度を十分に有していると考えております。
 処分コスト控除後公正価値の見積りは、適切な評価アプローチ及びインプットの決定にあたり、重要な判断を伴うとともに、EV/EBITDA倍率の変化に最も影響を受けます。

 最後に、創薬ベンチャー企業であるソレイジア・ファーマ社の開示を紹介する。ソレイジア社は、製品関連無形資産(主に、ライセンス導入契約に係る一時金等の支出。非償却。)を計上しているが、実施しているはずの減損テストが具体的にどのようなものであったのかは、残念ながら開示されていない。
(ソレイジア・ファーマ)  連結財政状態計算書に計上されている主な無形資産は、SP-01に関連する資産であり、前連結会計年度及び当連結会計年度の帳簿価額はそれぞれ、1,309,423千円及び1,620,412千円です。
 当社グループは、無形資産について個別の資産ごとに減損の要否を検討しています。未だ使用可能でない製品関連無形資産は償却を行わず、毎年及び減損の兆候が存在する場合にはその都度、減損テストを実施しています。
 減損テストの結果、前連結会計年度及び当連結会計年度において、減損損失を認識していません。

終わりに
 堅調な株価の推移もあって、2018年も新規株式公開企業数は高水準が続くことが予想され、その中にはIFRSを適用して新規上場する企業も含まれる可能性が高いと考えられる。今回取り上げた回収可能価額の算定や感応度分析等に関する各社の開示を読む限りにおいては、各社ともに収益がおおむね順調に上がっており、減損損失計上のボーダーラインまでにはまだ相当の余裕があるように思われるが、不確実性の時代と言われて久しい現代においては、ブランドやのれんの毀損に直結する恐れがあるようなリスク要因は枚挙にいとまがない。IFRSを適用して新規上場する企業は、収益性が高く、魅力的なビジネスモデルを持つ企業が多い一方で、特に上場の初期は、まだ自己資本が脆弱であるケースも少なくない。各社のビジネスの根幹をなしているのれんや耐用年数を確定できない無形資産を十分に回収し続けられるだけの収益を、上場後も上げ続けていくことが欠かせないであろう。

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