カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2018年03月26日 【法令解説】 フェア・ディスクロージャー・ルールに係る政令・内閣府令等の解説(2018年3月26日号・№732)

法令解説
フェア・ディスクロージャー・ルールに係る政令・内閣府令等の解説
 金融庁総務企画局企業開示課開示企画調整官 大谷 潤
 金融庁総務企画局企業開示課課長補佐 渡部孝彦
 金融庁総務企画局企業開示課専門官 小中 諒
 金融庁総務企画局企業開示課係長 木崎真人

Ⅰ はじめに

 平成29年12月27日、平成29年金融商品取引法改正に係る政令・内閣府令が公布された。当該政令・内閣府令では、上場会社による公平な情報開示(いわゆるフェア・ディスクロージャー・ルール)(以下「FDルール」という。)に関する規定が盛り込まれている。また、平成30年2月6日には、「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」(以下「ガイドライン」という。)が公表され、FDルールについて、企業の実情に応じた情報管理の方法を明らかにするとともに、投資家との対話の場面における同ルールの適用関係等についての考え方が示されている。
 本稿では、これらのFDルールの導入の背景等や政令・内閣府令及びガイドラインの概要を説明する。なお、本稿において意見にわたる部分は、筆者らの個人的見解であり、筆者らが所属している組織の見解ではないことをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ FDルール導入の背景等
 FDルールは、企業が、未公表の決算情報などの重要な情報を証券アナリストなどに提供した場合、速やかに他の投資家にも公平に情報提供することを求めるものである。公平な情報開示に係るルールの整備については、従来より議論があったが、近年、上場会社の内部情報を顧客に提供して勧誘を行った証券会社に対する行政処分の事案において、当該上場会社が当該証券会社のアナリストのみに未公表の業績に関する情報を提供していたなどの問題が発生したことや、国内外の投資家よりFDルールを導入する必要があるのではないかとの指摘があったことなどから、既に欧米やアジアの主要市場で導入されているFDルールを我が国でも導入することとしたものである。
 FDルールの導入により、上場会社等の情報開示ルールが整備・明確化されることで、上場会社等による早期の情報開示、ひいては投資家との対話が促進されるといった積極的意義があるとされている(ガイドライン問1)。FDルールの導入の検討過程では、ルールの必要性については肯定的な意見がほとんどであったが、上場会社等がこれまでアナリストに提供していた情報の中には、例えば月次の売上情報のように、広く投資家に情報提供することに企業がためらいを感じるようなものもありうることから、こうした情報が提供されなくなるおそれもあるのではないかとの懸念も示された。しかしながら、FDルールの趣旨を踏まえると、特定の投資家に提供可能である情報については、広くその他の投資家にも公平に提供されることが望ましく、上場会社等がこうした情報をどのように提供していくことが望ましいかについての検討も含めて、積極的な情報開示の取組みが期待される。

Ⅲ 改正等の内容

1 金融商品取引法におけるFDルールの概要
 平成29年の金融商品取引法(以下「金商法」という。)の改正により、同法に第2章の6(重要情報の公表)の規定が新設された。新設された規定は、
① 発行者が未公表の決算情報などの重要な情報を、取引関係者(FDルールの対象となる情報受領者)に伝達する場合、
 ・意図的な伝達の場合には同時に、
 ・意図的でない伝達の場合は速やかに、
当該情報を公表することを求める
② 取引関係者が守秘義務及び投資判断に利用しない義務を負う場合には、当該情報の公表は不要とする
こと等を内容とするものである。

2 FDルールの対象となる発行者(上場会社等)の範囲  金商法第27条の36第1項は、上場会社等が意図的な情報伝達を行った場合に、当該伝達と同時に重要情報を公表しなければならない旨を規定している。上場会社等には、①社債券、②優先出資法上の優先出資証券、③株券・新株予約権証券、④投資証券・新投資口予約権証券・投資法人債券・外国投資証券といった有価証券であって金融商品取引所に上場されているもの又は店頭売買有価証券に該当するもの、また、これらと同様の性質を有する、外国の者の発行する証券又は証書(指定外国金融商品取引所に上場されているものを除く)の発行者が該当する(金融商品取引法施行令(以下「政令」という。)第14条の15、第14条の16)。
 なお、これらの有価証券の範囲から、REIT・インフラファンド以外の投資証券等は除かれている(金融商品取引法第二章の六の規定による重要情報の公表に関する内閣府令(以下「重要情報公表府令」という。)第2条)。

3 FDルールの対象となる情報(重要情報)  金商法第27条の36第1項は、FDルールの対象となる「重要情報」について、「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であつて、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」と規定している。
(1)情報管理  金融審議会市場ワーキング・グループ フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォースの報告(平成28年12月7日公表。以下「FDルール・タスクフォース報告」という。)においては、FDルールの実施にあたって、
・発行者がFDルールを踏まえて適切に情報管理することが可能となるようにするとともに、
・情報の受領者である投資家においても、発行
者から提供される情報がFDルールの対象となるかどうかの判断が可能となるようにし、同ルールの対象となると思料する場合には発行者に対して注意喚起できるようにする
ことで、何が投資判断に影響を及ぼす重要な情報であるかについて、上場会社等と投資家の対話の中でプラクティスを積み上げることができるようにすることが望ましいとされている。
 こうした考え方を踏まえ、ガイドラインでは、FDルールの対象となる情報の管理について、上場会社等は、それぞれの事業規模や情報管理の状況に応じ、次のいずれかの方法により重要情報を管理することが考えられるとされている(ガイドライン問2)。
① 諸外国のルールも念頭に、何が有価証券の価額に重要な影響を及ぼし得る情報か独自の基準を設けてIR実務を行っているグローバル企業は、その基準を用いて管理する
② 現在のインサイダー取引規制等に沿ってIR実務を行っている企業については、当面、
 ・インサイダー取引規制の対象となる情報、及び
 ・決算情報(年度又は四半期の決算に係る確定的な財務情報)であって、有価証券の価額に重要な影響を与える情報
 を管理する
③ 仮に決算情報のうち何が有価証券の価額に重要な影響を与えるのか判断が難しい企業については、インサイダー取引規制の対象となる情報と、公表前の確定的な決算情報を全てFDルールの対象として管理する
(2)企業の将来情報に関する議論等の取扱い  中長期的な企業戦略・計画等に関する経営者と投資家との議論の中で交わされる情報等の取扱いについて、以下のような情報等は、一般的にはそれ自体では重要情報に該当しないと考えられるとされている(ガイドライン問4)。
① 中長期的な企業戦略・計画等に関する経営者との議論の中で交わされる情報、
② 既に公表した情報の詳細な内訳や補足説明、公表済の業績予想の前提となった経済の動向の見込み、
③ 他の情報と組み合わさることによって投資判断に影響を及ぼし得るものの、その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報
 このほか、「月次」の売上等の数値や、事故や災害などの事象による業績への影響などについても、これらの情報が公表されても、上場会社等の有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性がない場合には、一般的にはそれ自体ではFDルールの対象とはならないものと考えられるとされている。
(3)取引関係者に伝達した情報について重要情報に該当するのではないかとの指摘を受けた場合の対応  上場会社等がその業務に関して情報を取引関係者に伝達した場合に、当該取引関係者から、当該情報が重要情報に該当するのではないかとの指摘を受けた場合については、その対応として、両者の対話を通じて、以下のような対応を取ることが考えられるとされている(ガイドライン問3)。
① 当該情報が重要情報に該当するとの指摘に上場会社等が同意する場合は、当該情報を速やかに公表する
② 両者の対話の結果、当該情報が重要情報に該当しないとの結論に至った場合は、当該情報の公表を行わない
③ 重要情報には該当するものの、公表が適切でないと考える場合は、当該情報が公表できるようになるまでの間に限って、当該取引関係者に守秘義務および当該上場会社等の有価証券に係る売買等を行わない義務を負ってもらい、公表を行わない
 なお、重要情報の該当性について、上場会社等と取引関係者の見解が相違し、合意がみられない場合には、上場会社等が有価証券報告書等を提出している財務局等に連絡することが考えられる。財務局等も含めて検討した結果、当該情報が重要情報に該当し、公表すべきものであると判断される場合の対応について、FDルール・タスクフォース報告では、上場会社等に情報の速やかな公表を促すべきであるとされている。

4 FDルールの対象となる情報受領者(取引関係者)  金商法第27条の36第1項は、FDルールの対象となる情報受領者を「取引関係者」と定義し、有価証券の売買に関与する蓋然性が高いと想定される以下の者を規定している。
① 金融商品取引業者、登録金融機関、信用格付業者若しくは投資法人その他の内閣府令で定める者又はこれらの役員等
② 当該上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受け、当該重要情報に基づく投資判断に基づいて当該上場会社等の上場有価証券等に係る売買等を行う蓋然性の高い者として内閣府令で定める者
(1)金融商品取引業者等  前記①に該当する者の具体的な範囲について、例示されている者のほか、内閣府令においては、金融商品取引業者等から独立した立場でアナリスト業務を行う者等を規定している(重要情報公表府令第4条第5号)。
 前記①に該当する者の中には、金融商品取引業者や登録金融機関としての登録を受けながら金融商品取引業等以外の業務を行っている法人もいるところ、当該法人において、「重要情報の適切な管理のために必要な措置」が講じられていれば、当該法人の役員等であって「金融商品取引業に係る業務に従事していない者」が重要情報の提供を受けたとしても、市場の信頼が害されるおそれは少ないと考えられることから、このような役員等を前記①の取引関係者から除くこととしている。
 内閣府令においては、「重要情報の適切な管理のために必要な措置」の内容を「金融商品取引業等……以外の業務を遂行する過程において、……伝達を受けた重要情報を、当該重要情報が公表される前に金融商品取引業等において利用しないための的確な措置」(重要情報公表府令第5条)と、「金融商品取引業に係る業務に従事していない者」の内容を「金融商品取引業等以外の業務に従事する者が金融商品取引業等以外の業務を遂行する過程において重要情報の伝達を受けた場合における当該者」(重要情報公表府令第6条)と、それぞれ規定している。
 ここでいう「金融商品取引業等以外の業務に従事している者」に該当し得る者としては、例えば、銀行の融資担当者などが想定され、融資業務に関連して行われる融資担当者への定期的な決算情報等の報告はFDルールの対象とはならないものと考えられる。なお、「金融商品取引業等以外の業務に従事している者」には、金融商品取引業者としての登録を受け、金融商品取引業等以外の業務も行っている法人において、金融商品取引業等以外の業務にしか従事していない者のほか、金融商品取引業等と金融商品取引業等以外の業務の両方に従事する者が含まれる。
(2)広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受ける株主等  前記②に該当する者の具体的な範囲について、当該上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受ける、次の者を規定している(後記(ⅰ)から(ⅲ)に該当する者については、当該者が法人その他の団体である場合には、その役員等のうち、上場有価証券等に投資をするのに必要な権限を有する者及び当該者に対して有価証券に関連する情報の提供又は助言を行う者(ファンドマネージャーやアナリスト)等を含む。)(重要情報公表府令第7条)。
(ⅰ)当該上場会社等が発行する上場有価証券等の保有者(株主等)
(ⅱ)適格機関投資家
(ⅲ)有価証券に対する投資を行うことを主たる目的とする法人その他の団体
(ⅳ)上場会社等の運営、業務または財産に関する情報についての特定の投資者等のみを対象とした説明会への参加者
 「投資者に対する広報に係る業務」とは、株主や投資家に対して投資判断に必要な情報を提供する業務(いわゆるIR業務)を指すため、前記②の投資者に関しては、一般的には、IRや広報部門等の役員や担当者が重要情報を伝達した場合がFDルールの対象となると考えられる(決算説明会において財務担当者等が、投資者に対する広報に係る業務として決算内容の説明をする場合についても、FDルールの対象になると考えられる。)。
 このため、上場会社等から、親会社や自らの株主である他の会社に対して、当該上場会社等の属する企業グループの経営管理のために行われる重要情報の伝達については、通常、「投資者に対する広報に係る業務に関して」行われるものではなく、FDルールの対象とはならないと考えられるとされている(ガイドライン問6)。
(3)その他  FDルールは、上場会社等が、「その業務に関して、」取引関係者に重要情報を伝達する場合を対象とするものであり、例えば、業務に関係なく家庭内の会話等で情報を伝達した場合は、FDルールの対象とはならないものと考えられる。
 なお、これらの場合においても、伝達を受けた情報がインサイダー取引規制における重要事実に該当する場合、当該重要事実の公表前に取引を行った者は、インサイダー取引規制の対象となることも考えられることに留意する必要がある。

5 公表を要しない場合  FDルールでは、上場会社等から重要情報の伝達を受けた取引関係者が、法令又は契約により、当該重要情報が公表される前に、当該重要情報に関する秘密を他に漏らしてはならない義務、及び上場有価証券等に係る売買等をしてはならない義務(以下「守秘義務等」という。)を負う場合には、当該重要情報の公表は求められない。
 このうち、売買等をしてはならない義務の対象となる「上場有価証券等」の範囲について、政令では、①当該上場会社等の発行する社債券、株券、新株予約権証券、投資証券等、②これらの有価証券に係るオプションを表示する有価証券のほか、③上場会社等の発行する社債券、株券等を表象する有価証券信託受益証券等を規定している(政令第14条の15、第14条の17)。
 また、「売買等」に該当する行為類型として、金商法では、上場有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継又はデリバティブ取引を規定しているが、このうち「上場有価証券等に係るオプションを取得している者が当該オプションを行使することにより上場有価証券等を取得すること」や「投資者を保護するための法令上の手続に従い行う行為(いわゆる防戦買い等)」など、公平な情報開示に対する市場の信頼を害するおそれがない一定の行為については、禁止義務の対象となる「売買等」の範囲から除くこととしている(重要情報公表府令第3条)。
 このほか、証券会社の投資銀行業務を行う部門や信用格付業者への情報伝達について、重要情報の伝達を受ける証券会社等において、金商法令上求められる情報の管理体制が適切に整備されている場合には、伝達された重要情報の公表が行われなかったとしても、市場の信頼が害されるおそれは少ないと考えられるとされている(ガイドライン問7)。

6 意図的でない伝達  金商法第27条の36第2項は、上場会社等が意図的でない情報伝達を行った場合に、速やかに重要情報を公表しなければならない旨を規定しており、意図的でない伝達に該当する場合として、①取引関係者に重要情報の伝達を行った時において伝達した情報が重要情報に該当することを知らなかった場合、②重要情報の伝達と同時にこれを公表することが困難な場合として内閣府令で定める場合を規定している。
 ②に該当する場合として、内閣府令においては、(ⅰ)取引関係者に意図せず重要情報を伝達した場合、(ⅱ)伝達の相手方が取引関係者であることを知らなかった場合を規定している(重要情報公表府令第8条)。(ⅰ)の具体例として、上場会社等としては伝達する予定のなかった重要情報を、その役員等がたまたま話の流れで伝達してしまったような場合が考えられるとされている(ガイドライン問8)。

7 やむを得ない理由により公表することができない場合  取引関係者が前記5の守秘義務等を負った上で上場会社等から重要情報の伝達を受けたにもかかわらず、当該守秘義務等に違反して、他の取引関係者に情報を伝達することがあり得る。
 金商法第27条の36第3項本文は、仮に取引関係者が守秘義務等に違反して、他の取引関係者に重要情報を伝達したことを上場会社等が知ったときは、速やかに当該重要情報を公表しなければならない旨を規定している。ただし、進行中のM&A等に関する情報が取引関係者から漏れた場合など、案件の進捗度合いによっては、上場会社等が当該情報を公表することが困難な場合もあり得る。このため、同項ただし書は、「やむを得ない理由により当該重要情報を公表することができない場合その他の内閣府令で定める場合」には、当該重要情報を公表する必要はない旨を規定している。
 「やむを得ない理由により当該重要情報を公表することができない場合その他の内閣府令で定める場合」の具体的な内容については、取引関係者が守秘義務等を負った上で伝達を受けた情報が、合併や事業譲渡、株式発行による資金調達等に関する情報である場合(上場会社等の親会社及び子会社等が行う場合を含む。)であって、当該情報を公表することにより、その行為の遂行に重大な支障を生ずるおそれがあるときを規定している(重要情報公表府令第9条)。

8 重要情報の公表の方法  金商法第27条の36第4項は、FDルールにおける重要情報の公表の方法を内閣府令に委任する旨を規定している。
 内閣府令においては、重要情報の公表方法として、①法定開示(EDINET)、②適時開示(TDnet)、③インサイダー取引規制におけるその他の公表の方法(2以上の報道機関への公開から12時間の経過)のほか、④上場会社等による自社ホームページ(当該ホームページに重要情報が集約されており、掲載時から少なくとも1年以上投資者が無償でかつ容易に重要情報を閲覧することができるようにされているときに限る。)への掲載のいずれかの方法による旨を規定している(重要情報公表府令第10条)。

Ⅳ 適用日
 これらのFDルールに関する規定については、平成30年4月1日から適用されることとなっている。

Ⅴ おわりに
 諸外国においては、FDルールの下、上場会社等が積極的に情報開示や投資家との対話を行っているとされている。我が国においても、FDルールの導入を契機として、上場会社等による早期の公平な情報開示が促進され、積極的な情報開示や投資家との対話に取り組んでいくことにより、資本市場の活性化が実現していくことが期待される。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索