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解説記事2018年04月02日 【ニュース特集】 収益認識会計基準の全容(2018年4月2日号・№733)

ニュース特集
中小企業への影響は?
収益認識会計基準の全容

 企業会計基準委員会(ASBJ)は3月26日、「収益認識に関する会計基準」等を決定した。昨年7月20日に公表した公開草案からの大きな内容面での変更はないものの、有償支給取引について個別財務諸表上は代替的な取扱いを容認するなどの見直しも行われている。強制適用時期はシステム改修の準備期間等を考慮し、平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとされている(早期適用も可)。
 今回の収益認識会計基準の導入は、国際的な会計基準と整合性を図るものとなっている上、連結財務諸表だけでなく個別財務諸表にも適用される。このため一部の業種・業態の企業には大きな影響を与える可能性がある。ただし、一部の取引については、これまでの日本企業の実務に配慮し代替的な取扱いを認めることにより、企業への影響を一定程度に軽減する仕組みも設けられている。本特集では、代替的な取扱いを中心に収益認識会計基準の概要をお伝えする。

収益認識会計基準は国際的な会計基準と同様に
 IASB(国際会計基準審議会)及びFASB(米国財務会計基準審議会)は共同して収益認識に関する包括的な会計基準である「顧客との契約から生じる収益」(IFRS第15号及びTopic606)を開発しており、IFRS第15号は平成30年1月1日以後開始する事業年度から、Topic606は平成29年12月15日より後に開始する事業年度から適用される。
 これを踏まえ日本でも包括的な収益認識に関する会計基準の検討を行ってきた。決定した収益認識会計基準は、財務諸表間の比較可能性の観点からIFRS第15号の基本的な原則を取り入れてまとめられている。
 具体的には、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益の認識を行うこととしており、基本となる原則に従って収益を認識するためには、①顧客との契約を識別する、②契約における履行義務を識別する、③取引価格を算定する、④契約における履行義務に取引価格を配分する、⑤履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する-という5つのステップを適用することになる。

返品調整引当金や割賦基準は税務上も廃止に
 収益認識会計基準の導入により、今後は現行の日本基準における実務の取扱いが認められない会計処理がある。例えば、「顧客に付与するポイントについての引当金処理」「返品調整引当金の計上」「割賦販売における割賦基準に基づく収益計上」などだ。
 「顧客に付与するポイントについての引当金処理」については、現行基準では一般的な定めはないが、将来にポイントとの交換に要すると見込まれる費用を引当金として計上する実務が多く行われている。収益認識会計基準では、ポイント制度において、当該ポイントが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合には引当金の計上はなされず、当該ポイント部分について履行義務として識別し、収益の計上が繰り延べられることになる。
 「返品調整引当金の計上」も認められなくなる。予想される返品部分に関しては、変動対価(今号42頁参照)に関する定めに従って、販売時に収益を認識しないこととされる。また、「割賦販売における割賦基準に基づく収益計上」も認められない。割賦販売については、割賦金の回収期限の到来の日又は入金の日に収益を認識することも認められているが、今後は適用できなくなる。これらの2つの会計処理に関しては、税務上の取扱いも廃止されることになり、中小企業も含め大きな影響を及ぼす会計処理となっている。
 返品調整引当金制度については、平成32年度末までに開始する事業年度をもって廃止される。ただし、企業への影響を配慮し、経過措置が設けられている。具体的には、平成33年度より現行法による損金算入限度額に対して1年ごとに10分の1ずつ縮小した額の引当てが認められる(図表1参照)。また、割賦基準の廃止に伴い平成34年度末までに開始する事業年度をもって長期割賦販売等における延払基準の選択制度が廃止される。制度廃止に伴い、経過措置として延払基準の適用をやめた場合、適用をやめた時点における繰延割賦利益額を10年均等で収益計上する措置が講じられている(図表2参照)。

出荷基準などは従来の実務を容認
 以上のように、これまでの日本の実務が認められなくなる取引がある一方、財務諸表間の比較可能性を損なわせない範囲で、代替的な取扱いも認められている。その1つが出荷基準だ。収益認識会計基準では、「履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより、当該履行義務が充足される時に、収益を認識する。」とされているため、出荷基準は認められなくなる。
 しかし、代替的な取扱いにより、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができることとしている。現行の取引で出荷基準を採用している場合には、収益認識会計基準の適用後もそのまま出荷基準を採用できることになる。
 そのほか、「期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア」や「船舶による運送サービス」などについて代替的な取扱いが認められているが、公開草案からは新たに有償支給取引について代替的な取扱いとして認められている(本誌730号参照)。
有償支給取引にも代替的な取扱い  具体的に有償支給取引に関しては、支給先によって加工された製品の全量を買い戻すことを支給品の支給時に約束している場合には、企業は当該支給品を買い戻す義務を負っていると考えられるが、その他の場合には、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かの判断を取引の実態に応じて行う必要があるとした。その上で、仮に企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合には、企業は支給品の消滅を認識することになるが、支給品の譲渡と最終製品の販売により収益が重ねて計上されることを避けるため、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しないことになる。
 一方、有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていると判断された場合には、支給先が当該支給品を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されているため、支給先は当該支給品に対する支配を獲得していないこととなる。このため、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しないことになる。しかし、譲渡された支給品は物理的には支給先において在庫管理が行われているため、個別財務諸表においては支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができるとの代替的な取扱いが容認された。なお、その場合であっても、前述と同様、支給品の譲渡と最終製品の販売により収益が重ねて計上されることを避けるため、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しないこととしている。
消費税等の税抜方式への変更には経過措置  また、公開草案に対しては代替的な取扱いを追加すべきとの意見も寄せられていた。このうち、消費税等の税込処理に関しては、代替的な取扱いを設けないものの、過去の会計処理に関する経過措置が設けられている(本誌731号参照)。
 過去の期間において税込方式で処理していたものを税抜方式に変更する際には、税込方式の結果、過去に固定資産等の取得原価に算入していた消費税等を取得原価から除外する必要があるが、過去のデータを保持していない可能性がある等の状況が想定されるため、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱った上で、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができることを容認している。
実務上著しく困難な状況があれば  そのほか、「電気事業及びガス事業における検針日基準」「売上高又は使用量に基づくロイヤルティ」「割賦基準」「自社ポイントの会計処理」「商品券等の会計処理」については代替的な取扱い等は設けられないこととなった。
 ただし、「電気事業及びガス事業における検針日基準」など、収益認識会計基準を実務に適用することを検討する過程で、同基準に従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況があり、その旨が企業会計基準委員会に提起された場合には、別途の対応を図ることの要否を判断するとしている。

税務上も代替的な取扱いを容認
 収益認識会計基準が導入されることに伴い、法人税における収益認識等についても法令上の明確化が行われている。具体的には、資産の販売等に係る収益の額は、原則として目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入することが明記された(改正法人税法22条の2①)。
 また、代替的な取扱いなど、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日等に規定する日に近接する日の属する事業年度の収益の額として経理した場合には、当該資産の販売等に係る収益の額は、原則として当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入することが認められている(同②)。
 なお、益金の額については、原則として、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡し時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とされる(同④)。この場合、貸倒れ又は買戻しの可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合の価額となる(同⑤)。
 値引き割戻しについては、客観的に見積もられた金額を収益の額から控除することができる。また、資産の販売等に係る収益の額を実質的な取引の単位に区分して計上することも可能となる模様。なお、これらの点については法人税基本通達に明記される方向だ。

平成33年4月1日からの強制適用時までにシステム変更を
 強制適用時期については、公開草案からの変更はない。システム改修や経営管理の変更などを考慮し、平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされている。また、早期適用として、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができることとし、追加的に平成30年12月31日に終了する連結会計年度及び事業年度から平成31年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることとした。なお、連結財務諸表のみ個別財務諸表に先行して早期適用することはできないので留意したい。
 また、企業の実務負担を減らすよう経過措置も設けられた。例えば、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用できることとしている。この場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計基準を遡及適用しないことができる。企業においては、適用までの3年間に収益認識会計基準が自社に与える影響を見極めつつ、システム対応などを進めていく必要があるといえよう。
「売上高」は強制適用時まで使用可能  表示に関しては、企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示することとしているが、早期適用時の経過措置として、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記するものとしている。
 なお、表示科目として一般的に用いている「売上高」は、他の関連する法令等においても広く用いられているものであり、仮にその名称を変更する場合には影響が広範囲に及ぶことから、収益認識会計基準が強制適用される時までに検討することとしている。
個別の注記として開示  また、注記に関しては、収益認識会計基準を早期適用する段階では必要最低限とし、強制適用時まで注記事項は定めないとしている。具体的には、「顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)」を注記することにとどめている。 なお、この注記を重要な会計方針の注記として開示すべきか否かについては、強制適用時までに検討することとするが、実務の混乱を避けるため、早期適用時においては重要な会計方針の注記には含めず、個別の注記として開示することとしている。

>中小企業は適用対象外も税務上の取扱いには影響
 収益認識会計基準の適用対象は上場会社に加え、会社法上の大会社など1万数千社となる見込み。連結財務諸表だけでなく個別財務諸表にも適用されるため、非連結財務諸表作成会社にも適用されることになる。一方、中小企業については、企業会計基準委員会、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所が策定する「中小企業の会計に関する指針」が適用されることになるため、収益認識会計基準の適用対象外となっている。ただし、収益認識会計基準の導入に伴い、税務上も返品調整引当金制度や長期割賦販売における延払基準が一定の経過措置の適用後に廃止されることになるため、これらを適用している中小企業には影響を及ぼすことになる。

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