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解説記事2018年04月23日 【ニュース特集】 収益認識会計基準と法人税法上の取扱い(2018年4月23日号・№736)

ニュース特集
会計基準と税法で一致する項目と相違する項目も
収益認識会計基準と法人税法上の取扱い

 上場企業や会社法上の大会社など約1万数千社に適用される「収益認識に関する会計基準」(平成30年3月30日公表)は、平成33年4月1日以後開始事業年度より強制適用されるものの、平成30年1月1日以後開始事業年度より早期適用することもできる。収益認識に関する会計基準を受けて平成30年度税制改正では、会計基準に対応する法人税法22条の2が新設されたところ、会計基準に対応する課税当局による法人税法上の取扱いの方向性がみえてきた。会計基準を踏まえ改正される見込みの法人税基本通達(以下「法基通」)には、原則として収益認識に関する会計基準の考え方がとり込まれる方向だ。一方で、課税の公平の観点から会計基準とは異なる取り扱いも定められることになる。なお、中小企業については、中小企業の会計に関する指針等が適用されることから、従前の取扱いによることも可能とされる方向で法基通が整備される見込み。本特集では、収益認識に関する会計基準に対応する課税当局の取扱いの方向性について主だったものをお伝えする。

収益認識の基本となる原則
会計基準の内容
 企業会計基準委員会(ASBJ)が平成30年3月30日に公表した「収益認識に関する会計基準」は、収益の認識に関する包括的な会計基準である(本誌733号4頁以降参照)。収益認識の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転をその財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益を認識するというものである。具体的には、①顧客との契約を識別し、②契約の履行義務(収益認識の単位)を識別する。そして、③取引価格を算定し、④契約における履行義務に取引価格を配分したうえで、⑤履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識することとなる(会計基準第16項~第18項)。
>法人税法上の取扱い  収益認識に関する会計基準を受け平成30年度税制改正では、法人税法における収益認識等の明確化のために法人税法22条の2が新設されている。
 法人税法22条の2では、資産の譲渡等に係る収益の計上時期については、原則として目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入されるとされた(同条①)。また、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って資産の販売等に係る引渡し又は役務提供の日に近接する日の属する事業年度に収益として経理した場合には、原則としてその経理した事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入されるとされた(同条②)。
 そして資産の譲渡等に係る収益の計上金額については、益金の額は原則として引渡し時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額と規定されたほか(同条④)、貸倒れや資産の買戻しの可能性がある場合においてもその可能性がないものとした場合の価額とする旨が規定された(同条⑤)。なお、収益認識に関する会計基準と平成30 年度税制改正における法人税法の対応関係は図表のとおりである。


契約の結合
会計基準の内容
 従来の日本基準では、工事契約やソフトウェアについて一定の定めが存在するものの、一般的な定めはなかった。収益認識に関する会計基準では、同一顧客とほぼ同時に締結した複数の契約について、同一の商業等目的で交渉されたこと等の要件を満たす場合には、複数の契約を結合して単一の契約として処理することとされた(会計基準27項)。この定めにより契約を締結した場合には、結合した契約全体から履行義務を識別し、結合した契約全体の取引価格を識別した履行義務に配分される。
>法基通の取扱いの方向  法基通でも会計基準の取扱いが認められる方向である。具体的には、複数の契約において約束した取引を結合して初めて単一の履行義務となる場合には、その結合した単位を収益計上の単位とすることができることとされる。

履行義務の識別
会計基準の内容
 従来の日本基準では、工事契約やソフトウェアについて一定の定めが存在するものの、一般的な定めはなかった。収益認識に関する会計基準では、契約における取引開始日に顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、「別個の財又はサービス」又は「一連の別個の財又はサービス」のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別するとされた(会計基準32項~34項、適用指針第4項~第7項)。つまりは、顧客との契約において提供する財又はサービスを履行義務と呼ばれる単位に分割して識別されることとなる。
>法基通の取扱いの方向  法基通でも会計基準の取扱いが認められる方向である。具体的には、履行義務の識別の要件により区分した単位を収益計上の単位とすることができることとされる。

一定期間にわたり充足される履行義務
会計基準の内容
 収益認識に関する会計基準では、財(商品、製品等)又はサービスに対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転することとなる要件に該当する場合には、顧客に移転することにより履行義務を充足するにつれて、一定の期間にわたり収益を認識することとされた(会計基準第38項、第41項~第45項、適用指針第9項~第13項、第15項~第22項)。
>法基通の取扱いの方向  法基通でも会計基準の取扱いが認められる方向である。具体的には、提供した役務につき通常得べき対価の額に相当する金額について一定の期間にわたり充足される履行義務であれば、各事業年度の進捗度に応じて益金に算入される。また、請負については、進捗度に応じた経理を行っていない場合には、引き続き引渡し等の日の属する事業年度において一括して益金算入を可能とする。

一時点で充足される履行義務
会計基準の内容
 収益認識に関する会計基準では、一定の期間にわたり収益を認識する要件に該当しない場合には、一時点(顧客に支配が移転した時点)で収益を認識するとされている(会計基準第39項、第40項、適用指針第14項)。ただし、代替的な取扱いとして、国内の販売において出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には、出荷時点等に収益を認識することも認めている(適用指針第98項)。
>法基通の取扱いの方向  法人税法22条の2では、資産の販売等に係る収益の計上時期は原則として引渡し等の日の属する事業年度において益金に算入するが(同条①)、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ってその引渡し等の日に近接する日に収益経理した場合には、原則としてその近接する日の属する事業年度の益金に算入することとされた(同条②)。現行の法基通では、引渡し等の日の属する事業年度において益金算入することを原則としつつ、仕切精算書到達日、検針日、航海完了日等において収益経理している場合には、これらの日の属する事業年度で益金算入することも認められていることを踏まえ、これらの日について引渡し等の日に近接する日として位置付けられる方向である。

ポイント制度の取扱い
会計基準の内容
 ポイント制度について現行の会計基準では一般的な定めがなく、実務上は将来にポイントとの交換に要すると見込まれる費用を引当金として計上する処理が多く見受けられる。収益認識に関する会計基準では、たとえばポイント制度等においてポイントが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合には、そのポイントの付与を履行義務として識別し、収益の計上が繰り延べられる(適用指針第48項~第51項)。この場合に顧客に付与するポイントについての引当金処理は認められない。

>法基通の取扱いの方向  法基通でも会計基準の取扱いが認められる方向である。具体的には、①自己発行ポイント等の付与が当初の資産の販売等の契約を締結しなければ相手方が受け取れない重要な権利を与えるものであること、②その付与した自己発行ポイント等の呈示があった場合に値引き等をする金額が明らかにされており、かつ、たとえ1ポイントの呈示があっても値引き等をすることとしていること、③その付与した自己発行ポイント等が発行年度ごとに区分して管理されていること、④規約その他の契約において法人がその付与した自己発行ポイント等に関する権利につき有効期限を徒過したこと以外の理由により一方的に失わせることができないこととされていることの要件を全て満たす場合には、継続適用を条件として、前受金として計上することができる方向である(他社発行のポイントは対象外)。前受金とされた自己発行ポイント等については、原則としてその使用に応じて益金に算入されることになる。

変動対価(売上リベート等)
会計基準の内容
 現行では、例えば売上リベートは支払いの可能性が高いと判断された時点で収益の減額又は販売費として計上されていることが多く見受けられる。収益認識に関する会計基準では、売上リベートや仮価格による取引など、取引の対価に変動性のある金額が含まれる場合にはその変動部分の額を見積もり、認識した収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り取引価格(収益)を認識することとされた(会計基準第50項~第55項、適用指針第23項~第26項)。
>法基通の取扱いの方向  法基通でも会計基準の取扱いが認められる方向である。具体的には、値引き・割戻し等による対価の変動の可能性がある取引(返品・貸倒の可能性については除く)について、変動対価のうち引渡し等事業年度の確定した決算において収益の額を減額し、又は増額して経理した金額は、引渡し時の価額等の算定に反映する。
 ただし、①値引き等の事実の内容及びその値引き等の事実が生ずることにより契約の対価の額から減額又は増額する可能性のある金銭又はその算定基準がその契約若しくは法人の取引慣行若しくは公表した方針等により相手方に明らかにされていること又はその事業年度終了の日において内部的に決定されていること、②過去における実績を基礎とする等合理的な方法のうち法人が継続して適用している方法により前記①の減額若しくは増額の可能性又は算定基準の基礎数値が見積もられ、その見積もりに基づき変動対価の額が算定されていること、③前記①を明らかにする書類及び前記②の算定の根拠となる書類を保存していることの3つの要件を全て満たすことが必要となる。

顧客に支払われる対価(キャッシュ・バック等)
会計基準の内容
 現行では一般的な定めがないものの、収益から控除する会計処理と販売費及び一般管理費として処理する実務が見受けられる。収益認識に関する会計基準では、顧客に支払われる対価(キャッシュ・バック等)は顧客から受領する別個のサービス又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額することとされた。なお、取引価格からの減額は、「収益を認識する時(資産の販売等をする日)」又は「企業が対価を支払う日又は支払いを約束する時」のいずれか遅い方が発生した時点で減額される(会計基準第63項、64項)。
>法基通の取扱いの方向  法基通でも会計基準の取扱いと同様の取扱いとされる方向である。ただし、抽選券付販売及び金品引換券付販売について、対象からキャッシュ・バック等に該当する取引を除くこととし、キャッシュ・バック等以外のものについては、引き続き販管費等として債務が確定したときの損金とされる方向である。

返金不要な契約における顧客からの支払い
会計基準の内容
 現行では一般的な定めがないものの、実務上では、返金を要しない入会金等は入金時に一括して収益を認識する処理と契約期間で配分する処理が見受けられる。収益認識に関する会計基準では、原則として返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払いは将来の財又はサービスに対する前払いであるため、その財又はサービスが提供されたときに収益が認識される(適用指針第57項~60項)。
>法基通の取扱いの方向  中途解約の有無にかかわらず、返金不要の支払いについては、原則として入金時に収益計上するが、契約等の特定期間における役務の提供ごとにそれと具体的な対応関係をもって発生する対価からなるものとみることができる場合には、その特定期間の経過に応じて益金に算入することも認められる方向である。

返品権付きの販売
会計基準の内容
 現行では返品に重要性がある場合には、売上総利益相当額に基づき返品調整引当金が計上されていた。収益認識に関する会計基準では、予想される返品部分に関しては、変動対価に関する定めに従って、販売時に収益を認識しないこととされた(適用指針第84項~89項)。なお、返品調整引当金の計上は認められないとされている。
>法人税法(法基通)の取扱いの方向  返品の可能性があっても、収益の額を減額しない(法法22の2⑤)。なお、収益認識に関する会計基準を適用した場合についても、現行の返品債権特別勘定(特殊な特約が結ばれることにより、過去の実績により見積もられた返品率により、期末に見込まれる貸倒れを確定債務として損金算入するもの)で認められていたものと同様の取扱いを維持する方向である。

消費税等の会計処理(第三者のために回収する額)
会計基準の内容
 現行では一般的な定めがないものの、税抜方式と税込方式が認められている。収益認識に関する会計基準では、第三者のために回収される額(たとえば消費税等)を除いて取引価格を算定する(会計基準第47項)ため、消費税等の税込方式による会計処理は認められないこととされた。
>法基通の取扱いの方向  法人の選択により、税抜方式と税込方式のいずれも適用可能とする方向である。

本人と代理人の区分(総額表示又は純額表示)
会計基準の内容
 現行ではソフトウェア取引を除き一般的な定めがないものの、収益認識に関する会計基準では、顧客への財(商品、製品等)又はサービスの提供における企業の役割(本人又は代理人)を判断し、収益を総額又は純額で表示する(適用指針第39項~第47項)。財又はサービスを自ら提供する場合には「本人」と判断して総額で表示する一方で、他の当事者による財又はサービスの提供を手配している場合には「代理人」として純額で表示することとされている。
>法基通の取扱いの方向  利益に対して課税する法人税では、総額表示か純額表示かによって課税所得が変わることは基本的にはない。
 また、販売するのが本人であっても代理人であっても履行義務の充足のタイミングは変わらないと考えられることから、法基通における対応はされない方向である。

Column 引渡し時の価額や通常得べき対価の額は「税務上の時価」
 平成30年度税制改正により新設された法人税法22条の2では、資産の譲渡等に係る収益の計上金額について、益金に算入する額は原則として、その販売等をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額と規定された(同条④)。これは、譲渡資産(役務)の時価により税務上の収益を計上するということを示したものである。税務上の時価については、一般的には第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額とされており、引渡し時の価額や通常得べき対価の額に相当する金額についても同様であることが明確化されたものといえる。

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