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解説記事2018年05月14日 【特別解説】 我が国企業の不正の類型~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~(2018年5月14日号・№738)

特別解説
我が国企業の不正の類型
~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~

はじめに

 昨今、東芝や富士フイルムホールディングスのような、我が国を代表する優良企業において不適切な会計処理が行われていたことが相次いで発覚し、株式市場や関係者からは大きな驚きをもって受け止められている。こうした不適切な会計処理等の不正が起こると、当事者の企業は、実施した調査や原因究明に客観性を持たせるため、企業から完全に独立した弁護士や公認会計士等をメンバーとする第三者委員会を立ち上げて、徹底的な調査を委託することが多い。そして第三者委員会が調査報告書を依頼者の企業に提出した後、匿名化等の処理等を施したうえで、当該報告書がウェブサイト上で公表される例が多くみられる。
 大変残念なことであるが、企業規模の大小や社歴の長さ等を問わず、不適切な会計処理が発覚する事例は後を絶たない。不適切な会計処理が行われた事例の中でも、第三者委員会報告書が公表される事例は、金額的な規模や量的・質的な重要性が高い場合が多く、報告書も50ページを超える大部のものがほとんどである。本稿では、近年公表された第三者による調査報告書(一部、社内調査報告書も含む)を題材として、不適切な会計処理事件(不正)の当事者となった企業の類型や不正の手口、不正発覚の契機などを調査分類するとともに、傾向等を分析することを試みた。

調査の対象とした企業
 今回調査対象としたのは、2014年4月1日から2018年3月31日までに、不適切な会計処理や不適切な行為等について第三者委員会調査報告書(第三者を含んだ社内調査報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)99社である(表1を参照)。

 報告書公表企業の99社を、上場している市場等の区分ごとに分類すると、表2のとおりであった。

 絶対数で見ると東証1部上場企業が最も多いが、各市場の上場企業数で除して比率を算出すると、マザーズが約4%、ジャスダックが3%弱、東証1、2部が2%強となり、新興市場に上場している企業のほうが相対的に見て不正が起こりやすいという結果となった。

不正行為の分類と分析
 不正を起こした当事者を分類すると、表3のとおりであった。なお、表3の「元役員、従業員」の区分には、組織的ではない、個人的な不正行為(横領、着服等)を分類している。

 新聞報道等でもよく取り上げられるが、親会社に比べて監視の目が届きにくい連結子会社で不正が発生する事例が多かった。なお、46件のうち海外の子会社で発生したものは14件であった。次に、不正の形態別に分類すると、表4のようになった。

 会社の業績をよく見せかけることを狙ったいわゆる粉飾決算が半分以上を占めていたが、一方で、個人的な動機による昔ながらの横領、着服等も少なからず存在していた。また、海外で新規取引先の開拓等を進める過程で、不透明な取引や循環取引等に巻き込まれて不良債権が発生したり、仕入先と共謀して水増し発注を行い、一部をキックバック等として還流させたうえで、裏金としてプールしたりしていたような事例もあった。また、「会社の私物化」は、オーナー経営者や創業者が、取締役会の決議等を経ぬままに私情がからんだ投資を行ったり、公私混同を行ったりしていたような事例である。
 次に、不正の手口を分類すると、表5のとおりであった。

 一つの不正事案の中に、表5の内容が複数含まれることはよくあり、むしろそのような事例のほうが多いが、ここでは便宜的に、それぞれの事案をどれか一つに分類した。粉飾決算の手口は、よく言われるように、売上の過大計上(架空計上)と在庫の水増しが最もよくみられた方法であった。ゼネコンや、インフラの工事を手掛ける企業等においては、損失の発生を防ぐための工事原価の付け替えや、工事進行基準の進捗度を不正に操作することによる工事収益の前倒し計上等も見られた。また、協力企業に架空発注(又は過大発注)を行うことにより、還流されたキックバックを原資にした簿外の裏金作りが行われていた事案も複数あった。
 次に、不正が発覚した契機を分類すると、表6のとおりとなった。

 調査報告書上は必ずしも明記されていないが、「社内調査」には、自発的な社内調査のほかに、内部・外部からの情報提供を受けた上での社内調査も相当数、含まれていると思われる。不正の発見には、外部の第三者によるチェックよりも内部通報のほうが有効であると言われることがあるが、今回の調査では、会計監査人による指摘により不正が発覚する事例が内部通報を上回っていた。不正の発生を未然に防いだ事例等も含めると、相当な数の事案が、会計監査をきっかけとして発覚していることが伺える。会計監査人(監査法人)は、東芝の事案をはじめ、不正の摘発という投資家の期待に十分に応えていないという批判の矢面に立たされることが多いが、今回の調査結果を見る限り、税務当局等が持つ反面調査権や強制調査権等を持たない中で、会計監査人はそれなりに健闘しており、一定の役割を果たしていると言えるのではないだろうか。

不正が起こった背景と再発防止策についての考察
 調査報告書に記載されている不正が起こった背景は各社各様であるが、大別すると、おおむね次のような類型に分類することができる。
①  売上高や利益、事業計画等の達成を絶対視する企業風土の存在
② トップをはじめ、役職員のコンプライアンス意識の欠如
③ 組織内、組織間のコミュニケーション不足
④ 取締役会、監査役会、内部監査室等の機能不全
⑤ 内部通報や外部向け窓口制度の機能不全
⑥ 関係会社(特に海外)管理のためのリソースの不足
⑦ コンプライアンスに関する役職員への教育・研修の不足
⑧ 業務の拡大に人員や会計の知識水準が追い付かない
⑨ 新規事業や新規の取引先に対する調査、与信管理が不十分
⑩ 経営トップによる公私混同や、社会的公器である企業のトップであるという自覚の欠如
 以下で、これらのそれぞれについて簡単に考察を加えることとする。
① 売上高や利益、事業計画等の達成を絶対視する企業風土の存在  企業が存続し、成長していくためには、売上高や利益を伸ばし、事業計画を達成することが不可欠である。売上高や利益の前期比や予算比、同業他社との比較等を意識しない経営トップはいないであろうし、売上高や利益達成のために各部門に発破をかけることは当然の行動であり、程度の差はあれ、どの会社においても行われていると思われる。しかし、「重視」の領域を超えて「絶対視」になってしまうと様々な方面に無理やゆがみが生じ、不正の温床になりかねない。ある調査報告書に、再発防止策として、「悪い知らせを隠さずに、上司が聞く耳を持つ」「目標達成のプレッシャーを特定の個人だけではなく、多くの人が共有する雰囲気作り」という示唆に富む記載があった。
② トップをはじめ、役職員のコンプライアンス意識の欠如  コーポレート・ガバナンス・コードをはじめとして、今は「コンプライアンス」全盛の世の中である。調査報告書の再発防止策の中にも、「上司の命令よりも法令遵守」「会社の常識は世間の非常識」といった記載がみられた。不正に対応する場合にはやはり、「上司の中の上司」である経営者の姿勢が最も重要であろう。経営者が「理由が何であれ、たとえ業績が悪化しようとも不正は断じて許さない」と表明し、率先垂範することが肝要と考える。部下や従業員は、経営トップの言動を必ず見ているからである。
③ 組織内、組織間のコミュニケーション不足  人事異動がほとんどない熟練のベテラン従業員が、横領、着服といった不正に手を染めるケースのほか、会社内の特定の一部門が暴走し、損失等を隠ぺいするために不正を行うケースが散見された。また、調査報告書でも、「報告・連絡・相談(ほうれんそう)の欠如が原因」といった記述がよく見られた。近年は多くの企業において業務の複雑化や専門分化が進んでおり、多能工化が難しい。さらに管理部門は人員が減らされ、ジョブローテーション等も簡単にはできない状況にあるであろう。PC、スマホ、電子メール等によるやりとりが中心の時代にあって、同僚とのフェイストゥフェイスのコミュニケーションも以前に比べると減ってきているはずである。しかしこのような状況においても、可能な限り周囲の同僚の業務や行状等にお互いに関心を持ち、適宜声掛け等を行うことによって、特定の個人や部署が不正を行わざるを得なくなるまで追い詰められることをある程度は防げるのではないだろうか。
④ 取締役会、監査役会、内部監査室等の機能不全  調査報告書の原因分析に必ず出てくる項目である。社内の取締役や監査役が経営トップに物申すのには限界があるため、社外役員を起用すべき、とする提言も多い。むろん、社外役員の存在は貴重だが、そのような人材は数が限られるうえ、社外役員に就任したとしても、入手できる情報や取締役会等での審議の準備のために割ける時間が、社内の役員に比べて圧倒的に少ないため、社外役員に過度の期待をするのは適切ではないと考える。不正防止のためには、「お友達」ではなく、自らにとって都合の悪いことを直言できるような社外役員を迎え入れる経営トップの姿勢とともに、自らの地位を賭してでも経営トップの暴走を止めるという、社内役員の覚悟が肝要であろう。
⑤ 内部通報や外部向け窓口制度の機能不全  いくら内部統制を整備したとしても、不正行為を会社が自ら事前に検出することは困難であり、内部通報や外部の第三者からの連絡・指摘によって、はじめて不正行為が表面化することが多い。内部通報制度やホットラインを整備している企業は多いが、有効に機能しているかというと、まだまだ疑問符を付けざるを得ない。報復人事の禁止や秘密の保持など、内部通報者を保護する環境や風土を醸成するための努力を怠ってはならない。
⑥ 関係会社(特に海外)管理のためのリソースの不足  グループの一員とはいえ、別法人の管理は骨が折れることであり、言語や文化等が異なる海外子会社となると、困難度はさらに高くなる。とかく本社から派遣した社員や現地スタッフに任せきりとなり、そこに付け込んだ不正が生じるのであるが、本社から派遣した社員や現地の主要なスタッフに過度に依存したり、孤立させたりせずに、適度なコミュニケーションをとりながら組織全体としてバックアップしていくことが必要であろう。物理的な距離が離れているからこそ、人的な交流等を通じてお互いの理解、信頼関係を深め、心理的な壁を取り除くことが必要と考える。
⑦ コンプライアンスに関する役職員への教育・研修の不足  コンプライアンスに関する役職員への教育・研修は、ほぼすべての上場企業で行われているものと思われる。あとは、いかにして組織内の個人に、「他人事」ではなく当事者意識を持たせられるかがカギとなろう。そのためにも、関係法令や会社の規定等を説明するだけではなく、自社や同業他社等で生じたより身近な不正事例等を題材として取り上げて、それらから学ぶ姿勢を持ち続けることが有効と考える。
⑧ 業務の拡大に人員や会計の知識水準が追い付かない  特に急成長している新興企業によく見られる類型である。収益拡大の機会を犠牲にしてまでコストセンターである管理部門を拡充するのは本末転倒という見方もあろうが、時には勇気をもっていったん立ち止まり、組織の中身が身の丈に合っているかどうかを確かめることも大切であろう。
⑨ 新規事業や新規の取引先に対する調査、与信管理が不十分  思い切って新規事業にチャレンジすることは、事業継続、拡大のためには必須である。しかしそのためには、入念かつ周到な準備作業が欠かせない。既存の事業がじり貧状態にあったりすると、どうしても焦りが生じ、闇雲に新規の取引、多角化や海外進出に手を伸ばす、ということになりがちであるが、思わぬ落とし穴にはまらないためにも、「うまい話には裏がある」ということを念頭に置きつつ、懐疑心を持ち続けることが必要であろう。
⑩ 経営トップによる公私混同や、社会的公器である企業のトップであるという自覚の欠如  創業経営者にとって、株式を公開するということは、これまでは「俺の会社」であったものが、見ず知らずの投資家も含めた「みんなの会社」になることとも言える。創業経営者の会社や事業への強すぎる愛着が高じて、公私混同によるコンプライアンス違反が起きてしまうと、ステークホルダーに大きな影響を与えるとともに、会社の信用にも重大な影響を及ぼすということについての理解と自覚を経営者に促すことが必要であり、いざというときには経営者にとって耳の痛いことを直言できるような人材を、社内外に持っていることが大切であろう。

おわりに
 第三者委員会等による不正調査報告書は、第三者委員会設立の経緯や調査の内容から始まり、不正な会計処理の概要や不正が行われた動機・背景、あるべき会計処理、不正の発生を許した原因分析等を経て、改善措置の勧告という流れで進む場合が多い。分量も100ページを超えるような大部のものが珍しくなく、不正の当事者間でやり取りされたメールが報告書上で再現されていたり、不正を行った当事者への聞き取り調査の詳細が記述されたりしている場合もある。
 これらに目を通すと、最初はちょっとしたきっかけや出来心であったものが次第に深みにはまり、後戻りが出来なくなって取り返しのつかない事態に至る、生々しい経緯を知ることができる。不正行為を起こした人々も、「特殊な、変わった人」というのはごく一部に過ぎず、大半は「どこにでもいそうな普通の人」である。不正を起こした経緯や動機も、一つ間違えば誰にでも起こりうること、と考えざるを得ない。ある調査報告書に、不正の再発防止策として、「間違っても引き返せる環境(小さなミスを隠さなくてもよい環境)の醸成」という記述があり、大変示唆に富む指摘であると感じた。とかく我が国の企業は減点主義で再チャレンジが難しく、諸制度はそれなりに整っていても、周囲の意向を忖度して制度を利用しにくい風土であると言われる。仕事である以上、当然一定の厳しさと緊張感は必要であろうが、不正を犯す当事者が、もはや後戻りできないところまで追いつめられるよりも前の段階で、何かできることはないだろうか。不正を検出するための内部統制や内部通報制度、監査手続等を整備運用することは当然必要であろうが、それよりも前の段階で、不正の芽を摘むことができればそれに越したことはない。そのためのカギとなるのは、人と人とのコミュニケーションであると考える。ロボットやAIが導入されると経理業務のかなりの部分が置き換えられるとよく言われるが、フェイストゥフェイスのコミュニケーションは、ロボットやAIでは置き換えられない。規定や規則に魂を入れて運用するのは、あくまでも現場の人である。
 幸いにも最近は株価も上昇基調であり、全体的に見れば我が国企業の業績は順調に推移していると考えられる。しかし、業績の良しあしや業種、企業規模の大小等にかかわらず、どの企業にも必達目標、売上、予算等が存在し、企業の役職員は、職階を問わず、高いハードルを課されて、日々厳しい競争環境の下で働いている。我が国の国民的な課題となりつつある「働き方改革」の旗印の下で、労働生産性の向上も待ったなしである。そして工事進行基準の進捗度等に見られるように、見積りや将来予測に伴う不確実性もますます高まっている。残念ながら、不正行為を誘発する可能性がある要因は、今後増えることはあっても減ることはないと考えざるを得ない。
 不正行為を防ぐためには個人の努力や意識の向上、組織的な内部統制の整備、風通しの良い組織づくりなどを車の両輪として、対応を進めていかなければならないであろう。その時には、これらの調査報告書にも目を通し、人間の弱さや組織のもろさ等に思いを致しつつ、過去の失敗の歴史から学ぶことは大切かつ有用であると考える。

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