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解説記事2018年05月21日 【巻頭特集】 消費税「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(1)(2018年5月21日号・№739)

巻頭特集
緊急対談 朝長英樹税理士×森・濱田松本法律事務所 大石篤史弁護士
既に仕入税額控除の否認が全国で数十件発生、訴訟に発展のケースも
消費税「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(1)

 本誌既報のとおり、ここ最近、マンション(居住用建物)を取得して譲渡した事業者に対し、その取得に係る消費税の仕入税額控除の大部分を否認する更正処分が相次いで発生しており、その件数は全国で既に数十件に上っているとみられる。これまで更正処分を受けた事業者はマンションを“一棟ごと”販売した法人に限られているようだが、今後は区分所有の賃貸用のマンションを“一室ずつ”販売した個人事業者を含む事業者にまで対象が広がることが予想される。
 この更正処分は東証一部上場企業など大手企業にも及んでいるが、このうちムゲンエステート社は既に東京地裁に提訴したことが確認されている。同社の訴状の内容は現時点で明かになっているわけではないが、専門家からは本訴訟が向かう方向性として「適用する課税売上割合の妥当性ではなく、あくまで消費税法30条2項1号に規定する『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』の解釈で争うべき」との声が上がっている。
 同社以外にも国と争う姿勢を示す事業者が既にいくつか出てきているが、この一連の更正処分案件では同社の裁判が最初に判決が出る可能性が高く、その場合、その判決が他の案件にも影響を及ぼす可能性がある。
 そこで本誌では、財務省・国税局出身の朝長英樹税理士と、森・濱田松本法律事務所のパートナーで税務を得意分野とすることで知られる大石篤史弁護士という2人の税法解釈のスペシャリストによる緊急対談をお届けする。
 法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の適用に関し初の司法判断が示されたヤフー事件では「国側」と「企業側」という異なる立場に立った2人がどのような解釈論を展開するのか――非常に興味深い対談となった。

本対談の構成
1.適用条文の確認と本件課税の概要等(今号)
2.消費税法30条2項1号の創設時の解釈(今号)
3.本件課税前の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈
4.平成24年1月19日の国税不服審判所の裁決の解釈
5.平成24年9月7日の東京地裁判決の検証
6.平成25年6月26日のさいたま地裁判決の解釈
7.「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の正しい解釈と当てはめの仕方の確認


1 適用条文の確認と本件課税の概要等

否認の根拠となった消費税法30条2項1号
――現在、マンション(居住用建物)を取得して譲渡した場合のその取得に係る消費税の仕入税額控除の税務調査による否認が全国的に相次いでいるわけですが、本日は、その否認の根拠とされている消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈を中心に、お二人に存分に語って頂きたいと思います。

>消費税法30条2項1号(仕入れに係る消費税額の控除)
第30条 〔省略〕
2 前項の場合において、同項に規定する課税期間における課税売上高が5億円を超えるとき、又は当該課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないときは、同項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額、特定課税仕入れに係る消費税額及び同項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額(以下この章において「課税仕入れ等の税額」という。)の合計額は、同項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする。
 一 当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れ及び特定課税仕入れ並びに当該課税期間における前項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下この号において「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合 イに掲げる金額にロに掲げる金額を加算する方法
  イ 課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ、特定課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額
  ロ 課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ、特定課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額
 〔以下、省略〕

 まず、本件の概要を確認させてください。
 事業者が納付する消費税額は、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除して計算するわけですが、この控除の場面において、一括比例配分方式ではなく個別対応方式を採るときは、課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」のいずれに該当するのかにより、控除額が変わることとなっています。そして、課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すればその課税仕入れに係る消費税額の全額の控除が可能となり、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当すればその事業者の全体の課税売上割合に応じた部分の金額だけしか控除ができず、「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すれば全く控除ができない、ということになっています。
 本件の課税は、マンションの取得に際して課された消費税を「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に係る消費税であるとしてその全額の控除を行っていたものに対し、税務調査で、その消費税は「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に係る消費税であるとして、全体の課税売上割合に応じた部分の金額だけしか控除を認めず、残りの消費税額の控除を否認したもの、という理解でよろしいでしょうか。
朝長 そういうことになります。
 事業者が自ら賃貸するために取得したマンションに関しては、それが居住用であれば、非課税売上げである家賃収入が生ずることとなるため、課税仕入れが「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」となり、仕入税額控除を行うことができませんので、この課税問題は生じませんが、売却するために取得したマンションに関しては、それが居住用の賃貸マンションであれば、多くの場合、売却前の期間に非課税売上げである家賃収入が生ずるとともに、売却に伴って課税売上げである建物の売却収入が生ずることとなるため、課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」と「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」のいずれとなるのかという問題が出てくることとなって、この課税問題が生ずる、ということです。

――最終的には建物の売却収入という課税売上げが発生しますが、その前の中途の段階では家賃収入という非課税売上げが発生するため、そのような対応関係の判定の問題が生ずる、ということですね。
朝長 そうです。「最終的」な目的のみによって対応関係を判定するのか、あるいは、「最終的」な目的に「中途」の目的まで加えて対応関係を判定するのか、ということが問題となっているということです。
 このような問題は、居住用の賃貸マンションを1棟ごと売却するケースだけでなく、居住用の賃貸マンションを1室ずつ売却するケースなどにおいても発生することとなりますし、不動産取引を事業として行う場合だけでなく、例えば、個人事業者が1回だけ居住用の賃貸マンションを取得して売却したというような場合においても、同じように発生することとなります。
 つまり、非常に多くの納税者が同様の課税を受ける可能性があるわけです。税理士や弁護士も、自分のクライアントが課税を受ける可能性があるという場合には、この課税問題に無関心ではいられません。
大石 仮に、マンション(居住用建物)が「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に当たるということになってしまうと、その事業者の全体の課税売上割合に応じた部分の金額の控除しか認められないというルールになっていますが、居住用建物の所有権を取得して譲渡しようとする事業者の場合、法律上、その敷地(土地)の所有権や借地権も、併せて取得・譲渡の対象とする必要があるという点が問題となります。
 日本では一般的に土地の価格が高いところ、土地の所有権等の譲渡は非課税取引であるため、マンションを取得して譲渡することを主に営む事業者の場合、全体の課税売上割合は、通常、かなり低いものになります。そのため、当該事業者にとっては、居住用建物が「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」と「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」のいずれに該当するかは、死活問題となります。実際に、私も、いくつかの事業者から、会社事業の存続に関わる深刻な問題として、相談を受けているところです。

朝長 本件の課税の結果に妥当性があると言えるのか、というご指摘ですね。
大石 そうです。
 本件の課税に関しては、経済実態に全く即しておらず、結果が妥当でないことが明らかである、と考えています。この課税だけが原因で、事業の存続が困難になってしまっているところもあると聞いており、その社会的な影響も大きいと思います。
 税務訴訟に限ったことではないですが、裁判所も、社会通念に照らして結論が妥当なものとなっているか、という点は当然見ます。裁判所が報道に振り回されるということは勿論ないでしょうが、そうはいっても、自分たちが書いた判決が社会にどのような反応をもって受け入れられているか、という点に無関心ではいられないはずです。
 そのような観点からすると、本件の課税があまりにも不合理なものであることが社会全体に共有され、多くの納税者が声を上げることは、望ましいことだと思っています。本件のように、一つの税務上の論点が、多くの納税者に共通しているケースは、特にそうですね。
朝長 そのとおりだと思いますね。
 実は、本件の課税に関しては、私は、国税当局が「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈の誤りに気付いて既に課税を行ったものについて課税の適否を見直すのではないかと期待していたのですが、残念ながら、そうはならず、更なる課税も行っていくということのようですから、これからは、このような課税を始めるのはおかしいという根拠を具体的に示して踏み込んだ指摘をしていくしかない、と考えているところです。
大石 今回と同じ問題を抱えている納税者の数は、とても多いと聞いています。多くの納税者がタッグチームを組んで、いかにおかしな課税処分が行われているか、という不満の声を、社会全体に広げていけば、その影響力も出てくるのではないかと思います。そこでいう納税者には、課税庁から更正処分を受けてしまった納税者だけでなく、課税庁に言われるがままに納税を行ってしまった納税者、つまり、支払い済みの税金を取り戻そうとする納税者も当然に含まれます。後者の納税者については、一旦課税庁の言い分に応じて修正申告を行ってしまった場合であっても、少なくとも、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求を行って還付を請求することが可能です。そして、納税者がそのようなムーブメントを起こすに当たっては、今回のような対談の記事もそうですが、メディアが果たしていく役割は、とても大きいのではないかと思っています。
 少し大げさになってしまいますが、今回の事件が、日本における税務訴訟のあり方、もっと広く言えば、納税者と課税庁の関係のあり方を変える、一つの契機になればよいなと思っています。今回のような事件を契機として、今後、税務の世界においても、クラスアクション(集団訴訟)に似たような動きも出てくるかもしれないですね。
朝長 決して「大げさ」などということはないと思います。
 我が国の税務訴訟には、法令解釈のレベルがあまりにも低すぎてそれが納税者に不利に働くという構造的な問題があると、常々、感じていたところですが、ご指摘のような集団訴訟という形で税務訴訟を行うことができれば、納税者と課税庁の関係を変えることができるだけでなく、法令解釈のレベルも引き上げることができるようになるものと思われます。
 我が国の税務訴訟には大きな課題があるという問題意識を明確に持って取り組めば、本件を我が国の税務訴訟におけるエポックメイキングな事件とすることができるように思います。

税を取り過ぎることは許されないという環境下で立法された消費税法 ――なるほど。この事件は、そのような意味でも大きな意義のある事件となる可能性がある、というわけですね。
 ところで、この事件は、単なる法律の条文の読み方の問題として話を進めるだけでよいものではないような気がするのですが、その辺りは如何でしょうか。
朝長 そのとおりですね。
 我が国の消費税においては、「仕入税額控除」は制度の根幹を成すものであり、また、その基本的な仕組みは昭和63年12月の消費税法の創設時から現在まで変わらずに続いていますから、消費税法の創設時に、「仕入税額控除」がどのようなものとして創られたのか、というところから正確に理解しておく必要があります。 
 消費税には、大平内閣の時の「一般消費税」も中曽根内閣の時の「売上税」も実現することなく潰えるという流れの中で、竹下内閣の時に、法人税・所得税・相続税の大型減税と引換えにして、やっとのことで実現に漕ぎ着けた、という経緯があります。
 このように、消費税法は国民の大きな抵抗がある中で創設されたため、消費税を負担する消費者や消費税を納税する事業者に有利となる様々な仕組みが設けられることとなりました。
 つまり、消費税法は、例えて言えば「税を取り足りないことは許されるが、税を取り過ぎることは許されない」という環境の下で立法が行われた、ということです。
――法の条文は、それが創られた時の状況を正確に理解した上で、解釈をする必要がある、ということですね。
朝長 そういうことです。常々、「法解釈は立法者との対話だ」と感じているところですが、消費税法30条に関しても、立法の背景を良く知っている人と知らない人とでは、条文の文言の理解の仕方が違ってくることがあるように感じられます。
 消費税法の創設の前後の時期には、「消費税は消費者が負担するものであって、事業者が消費税を負担することはない」「消費税においては、法人税や所得税とは違って、仕入れた時点で控除ができる」などという説明が何度もなされていました。
大石 仮に居住用建物の課税仕入れが「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に当たるということになってしまうと、明らかに実態とは乖離した課税が行われることになり、まさに「事業者が消費税を負担する」という現象が生じるため、立法時の経緯に照らしてもおかしな結論になるように思います。
 本件のような事案では、①売却時に実際に生じるであろう居住用建物の売却収入(課税売上げ)は、②売却前の期間に実際に生じるであろう家賃収入(非課税売上げ)と比較して、通常、圧倒的に大きな金額となるため、経済実態に即した課税を行おうとすれば、あくまでも立法技術的に可能であればという前提の話にはなりますが、立法論としては、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に当たる場合、①/①+②が正しい課税売上割合であるという整理をすることも考えられるところです。しかし、①②とも、将来の数字であり、仕入れ時においては正確に予測することができないという問題があるため、何らかのみなし規定を置くなどしないと、立法技術的にワークしにくい面があるのかもしれません。そのこともあってか、現在の法律は、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に当たる場合、事業者の全体の課税売上割合を用いる、という整理をしてしまっているわけですが、居住用建物の売買を主たる業とする事業者の場合、非課税資産である土地の売上が通常大きなボリュームを占めることから、事業者の全体の課税売上割合はかなり低くなります。そのため、事業者の全体の課税売上割合を用いて居住用建物について仕入税額控除の計算をしてしまうと、実態からは全く乖離した計算が行われることになり、結果的に、「事業者が消費税を負担する」のと全く同じ現象が起こってしまいます。
朝長 そういうことになりますね。そのような「事業者が消費税を負担する」という状態は、消費税法が予定する本来のあり方にも明らかに反していますし、立法時の説明とも明らかに反するものです。
 立法の背景等を知るということは、時が経てば経つほど難しくなるわけですが、法解釈に当たって非常に重要となることがあることは、間違いありません。
 消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に関しても、そのような消費税法が創設された時の状況を良く知った上で、正しく解釈をする、ということを心掛ける必要があります。
大石 私は、本件は「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当する事案であると考えているところですが、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当する場合について、消費税法基本通達11-2-19は、「例えば、原材料、包装材料、倉庫料、電力料等のように生産実績その他の合理的な基準により課税資産の譲渡等にのみ要するものとその他の資産の譲渡等にのみ要するものとに区分することが可能なものについて当該合理的な基準により区分している場合には、当該区分したところにより個別対応方式を適用することとして差し支えない」と規定し、さらに国税庁は、平成24年3月に公表した資料の中で、当該通達の意味を敷衍して、「この場合の区分することが可能なものとは、原材料、包装材料、倉庫料、電力料のように製品の製造に直接用いられる課税仕入れ等をその適用事例の典型として示していることからも明らかなように、課税資産の譲渡等又は非課税資産の譲渡等と明確かつ直接的な対応関係があることにより、生産実績のように既に実現している事象の数値のみによって算定される割合で、その合理性が検証可能な基準により機械的に区分することが可能な課税仕入れ等をいいます」としています。
 このように、仮に、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」であったとしても、なお、事業者全体の課税売上割合ではなく、納税者が合理的に区分したところに従った割合により、仕入税額控除を行うことができる場合があるとされていますので、本件のようなケースでも、当該通達により納税者が救われる可能性はあると思っています。具体的には、先ほど申し上げた立法論と同じように、①売却時に実際に生じるであろう居住用建物の売却収入(課税売上げ)が、②売却前の期間に実際に生じるであろう家賃収入(非課税売上げ)を何らかの方法により合理的に算定し、①/①+②を課税売上割合として用いて仕入税額控除の計算を行う、というアプローチが考えられます。
 これは、当該通達によって納税者を救済する際の議論であるため、純粋な消費税法の解釈として、どうすればこのような議論を導くことができるか、という問題は残っているように思います。ただ、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当した場合について、立法趣旨に立ち返るのであれば、これが本来のあるべき姿ではないかと思います。


仕入税額控除の仕組み上、仕入れは将来の売上げから切り離されている ――消費税法30条の「仕入税額控除」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。
朝長 消費税は消費者が負担するものであって事業者が負担するものではないという、消費税の基本的な考え方を体現したものが仕入税額控除である、と捉えることができます。仕入税額控除を行わないと、事業者も消費税を負担することになってしまいます。
 消費税法30条の規定を解釈する場合には、仕入税額控除が事業者に消費税の負担をさせないようにする趣旨・目的で設けられているものである、ということをしっかりと理解しておく必要があります。
――法人税や所得税とは違って、消費税の仕入税額控除は仕入れの時点で控除が行われるわけですね。
朝長 そうです。その点が消費税法30条2項を解釈する上で、非常に重要となります。先ほども触れましたが、消費税法の創設の前後の国税当局の説明では、「消費税においては、法人税や所得税とは違って、仕入れた時点で控除ができる」ということが繰り返し強調されていました。
 仕入れた時点でその仕入れに係る消費税額を控除することができる仕組みとするということになると、売り上げる時点になってから売上げとともに仕入れを原価として計上する法人税や所得税とは違って、その仕入れに係る消費税の控除を将来の売上げとは切り離して処理をすることが必要となってきます。
 この処理が消費税における大きな特徴ということになります。
――その特徴は消費税の立法の際にどのように考慮されたのでしょうか。
朝長 立法の場面において、仕入れと将来の売上げとを切り離して制度を創るというような場合には、仕入れと売上げが切り離されたケースの中で最も極端なケース、すなわち、期末日に仕入れを行ってその翌日に売り上げるというケースや期中に仕入れたが将来売るか否かがはっきりしないというケースなどを想定し、そのようなケースであっても、おかしな取扱いとならないように制度の企画立案を行うこととなります。
 消費税も、制度上、課税期間の末日が過ぎたらその翌日にでも申告を行うことができることとなっていますので、仕入れの時点で控除を認めるということになると、仕入れと将来の売上げとの「切り離し」ということが非常に重要となります。
大石 朝長先生がおっしゃるとおり、消費税法は、売り上げた時点ではなく、仕入れた時点で控除を行うという仕組みになっているという点は、重要なポイントだと考えています。
 そのような消費税法の構造からすると、仕入れ時で判定できる何らかの明確なメルクマールが必要となってくるということだと思います。この点、今回の論点に関する裁判例である、さいたま地裁平成25年6月26日判決は、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」は、「直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」を指すと判示しています。この判示は、もともと国税庁の解説等から導かれたものであるため、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」という税法上の文言の解釈として、国税庁・裁判所とも尊重している考え方であると言えるように思います。
 このように、裁判所は、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」であるか否かに着眼しているため、一見すると、「仕入れ時」ではなく、将来の事実(売却時の事実)をメルクマールとしているようにも見えます。
 しかし、これは、あくまでも「仕入れ時」において事業者が持っていた目的に従って判定を行うという意味であって、あくまでも、「仕入れ時」の事実をメルクマールとしたものだと考えています。つまり、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という判示は、仕入れが販売の「コスト」(これは「取得原価」と言い換えることもできると思います。)を構成するか否かという点に着眼していますが、それは、結局のところ、事業者が、仕入れ時において「販売の目的」を持っていたか否か―これは仕入れた居住用建物が仕入れ時において棚卸資産であったか否か、というのと同義だと思っていますが――によって変わってくるだろうと考えているところです。
 どういうことかと言いますと、税法上、固定資産の場合は、取得原価は、減価償却によって一部は賃料収入の売上原価となり、残部は売却時の収益から控除されるという構造になっているのに対して、棚卸資産の場合は、そもそも減価償却が行われないため、取得原価は全額が売却時の収益から控除されるという違いがあります。すなわち、販売を目的とする仕入れ、すなわち棚卸資産の仕入れ―裁判例上も、不動産業者が販売の目的で取得した不動産は、棚卸資産に該当するということになっています――については、その取得原価が、最終的な課税資産の譲渡と完全に対応しており、賃料収入には全く対応していないということになりますので、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という判示にピタリと当てはまることになります。
 この辺りについては、また後でもう少し詳しく説明したいと思いますが、いずれにせよ、仕入れ時の事実関係に着眼するこのメルクマール自体に違和感はありません。

仕入れが将来のどのような売上げと対応するのかは、「割切り」によって判定 朝長 現実に導入された仕入税額控除の仕組みは、仕入れと将来の売上げとを完全に切り離してはおらず、仕入れがどのような売上げに対応するのかということによって控除税額が変わる、というものとなっています。つまり、仕入税額控除に関しては、仕入れについて、売上げからの「切り離し」を行いながらも、売上げとの「対応」を問うという、相反する側面を持つ構造となっているわけです。
――売上げからの「切り離し」の理由は分かりましたが、売上げとの「対応」を問うのは何故なのでしょうか。
朝長 消費税の本来のあり方からすると、事業者は消費税を負担する者ではありませんので、消費者から預かった消費税と支払った消費税の差額を納付したり還付を受けたりするだけでよいわけです。
 そのような本来のあるべき仕組みにしていたとすれば、仕入れと売上げは、完全に切り離してよいわけで、対応を問う必要はありません。
 しかし、我が国において導入された消費税はそのような本来の仕組みとはなっておらず、仕入れについて売上げとの「対応」を問うことにより、支払った消費税の控除と還付を制限するものとなっています。
 その制限の理由として語られているのは、「税の累積の排除」です。つまり、税の累積がないところでは「税の累積の排除」を行う必要がないという、「税の累積の排除」の裏返しの理屈で、支払った消費税の控除と還付を制限しているわけです。
 本来は、消費者から預かった消費税と支払った消費税の差額を納付したり還付を受けたりすればよいだけのことであって、わざわざ「税の累積の排除」などという話を持ち出して中途半端で複雑な制度を創る必要など全くありません。「税の累積の排除」という理屈は、「税の累積」が起こる場面においてのみ語り得る理屈であって、本来は、「税の累積」が起こらない場面に持ち出すことができる理屈ではありません。我が国の消費税に関しては、「税の累積」が起こらない場面に「税の累積の排除」という理屈を持ち出して仕入税額控除を制限するということを行っているため、仕入税額控除制度に理屈に合わない様々な問題が生ずるという構造的な問題があります。いわゆる自動販売機スキームの問題も、課税売上げの問題ではなく、仕入税額控除制度の問題です。
大石 ①売却時に実際に生じるであろう居住用建物の売却収入(課税売上げ)が、②売却前の期間に実際に生じるであろう家賃収入(非課税売上げ)よりも圧倒的に大きい本件のような場合、経済実態に即した課税を行おうとすれば、立法論としては、①/①+②が正しい課税売上割合であるという整理をすることが考えられるところですが、先ほど申し上げたとおり、①②とも、将来の数字であるため、仕入れ時においては正確に予測することができません。
 そのため、事業者の全体の課税売上割合―これは、通常、かなり低い割合になるため、居住用建物の課税売上割合として用いてしまうと、経済実態からは大きく乖離することも先ほど申し上げたとおりです――が用いられるというルールになっているわけですが、その場合、経済実態的には「税の累積」が生じていないにもかかわらず、仕入税額控除が制限される、という現象が起こってしまっているのですね。
朝長 今日は、制度論を議論する場ではありませんので、これ以上、制度の是非に立ち入ることはしないこととしますが、消費税法30条の仕入税額控除は、仕入れについて、売上げからの「切り離し」を行いながら、売上げとの「対応」により、税が累積すると考えるところにおいてのみその累積を排除するという仕組みとされている、ということを知っておく必要があります。
 仕入れについて、法人税や所得税のように売上げと紐付きで捉えるのではなく、売上げからの「切り離し」を行った上で、売上げとの「対応」を判定する、ということになると、この判定は紐を付けて行うことができないわけですから、必然的に「割切り」によって行うということにせざるを得なくなります。
大石 そうですね。先ほど申し上げたとおり、裁判例も、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」というメルクマールを採用することにより、仕入れ時の「割切り」で、仕入れ税額控除の判定を行うこととしています。ここでは、仕入れ時における事業者の「目的」―これは、結局のところ、「販売の目的」がある資産であるかという点に帰着してくるだろうという点は、先ほど申し上げたとおりですが――が問題となるわけですが、結局のところ、その判定は、将来的な見込みに関する事業者の主観(内心)を、証拠や間接事実から認定していくという作業に他ならないのではないかと考えています。これは、「割切り」から必然的に生じる側面だと思いますが、将来の見込みに関する納税者の主観によって課税関係を決するというアプローチ自体は、組織再編成税制においても採られている考え方であって、おかしな解釈ではないと考えています。
 もっとも、納税者の予測可能性が害されないようにするためには、将来の「目的」を一義的に判断できるような解釈が採られる必要があろうかと思います。その点、「販売の目的」という事業者の「目的」の有無を判定するという先ほど申し上げた考え方は、税法上の「棚卸資産」に当たるかという一義的な判断のみで足りますので、納税者の予測可能性を担保するという観点からも、望ましいと考えています。もちろん、実際の事実認定の場面では、税法上「棚卸資産」に当たるか否かを判定することが必ずしも容易ではなく、様々な間接事実や証拠を踏まえた微妙な判断が求められる場合もありえます。しかし、棚卸資産に該当するか否かという事実認定の場面については、裁判例も存在するところであり、納税者の予測可能性が害されるということはないだろうと考えています。まずは、事実認定に用いられる規範・ルールが明確であることが重要だと思います。

「結果」で売上への対応関係を判定しない理由 ――仕入れが将来のどのような売上げに対応するのかという判定は、期中に仕入れと売上げの双方があるものについても、期末までに売上げが発生していないものと同様に行うこととなっていますが、期中に仕入れと売上げとがあるものについては、仕入れがどのような売上げに対応したのかという結果が分かっているわけですから、「割切り」によって判定するのではなく、その「結果」に基づいて対応関係を捉える方が適切なのではないでしょうか。
朝長 確かに、一見すると、その方が合理的に見えるかもしれません。しかし、現実には、そうなっていないわけで、仕入税額控除において、期中に仕入れと売上げとがあるものについて、何故その「結果」に基づいて仕入れと売上げとの「対応」を判定することになっていないのかということを考えてみると、仕入税額控除をより一層深く理解できるようになります。
 仮に売上からの「切り離し」だけがあって売上との「対応」を問題としない仕組みになっていたとしたらどうなるのかということを考えてみると、期中に仕入れと売上げとがあるものと期中に仕入れしかないものとを分ける必要がありません。
 これに対し、売上との「対応」だけを問題とし売上からの「切り離し」がない仕組みになっていたとしたらどうなるのかということを考えてみると、少なくとも、期中に仕入れと売上げとがあるものについては、その「結果」が分かっているわけですから、その「結果」に基づいて売上げとの「対応」を判定するということになったはずです。
 つまり、今のご質問は、言い換えると、仕入税額控除において売上げからの「切り離し」と売上げとの「対応」のどちらを優先するものとされているのかという質問であり、その答は、「切り離し」を「対応」よりも優先するものとされている、ということになるわけです。
 先ほど、売上げとの「対応」は「割切り」によって判定すると申し上げましたが、期中に仕入れと売上げとがあるものの「対応」の判定が期中に仕入れのみしかないものの「対応」の判定と同じ基準で行うこととされていることからも、仕入税額控除においては、売上げとの「対応」は「結果」に基づいて判定するのではなく「割切り」によって判定するものとされている、ということが分かります。

大石 期中に仕入れと売上げとがある場合、すなわち、期末までに売上げが計上された場合については、「結果」がわかっているので、仕入れ時における事業者の「目的」により判定するという方法を捨て、「結果」のみに基づく判定を行うという考え方も、立法論としてはありうるかもしれません。しかし、消費税法は、期末までに売上げが立つか否かで区分するという条文構造になっていないので、その文言から、そのような結論を導くことは難しいだろうと思っています。
朝長 そうですね。
――純粋な消費税法の解釈の問題ということで考えてみると、この課税問題においては、「最終的」な目的のみによって売上げとの「対応」を判定するのか、あるいは、「最終的」な目的に「中途」の目的まで加えて売上げとの「対応」を判定するのか、ということが問題となるが、その「対応」は、「割切り」によって行うものである、ということを正しく理解しておく必要があるということですね。
朝長 そういうことです。
 現在、東京地裁で争われているムゲンエステート社の事件においては、更正の理由が「貴社には、同日以後、当該各建物に係る住宅の貸付けによる収入が生じていることから、販売のみを目的として取得したとはいえず、当該各建物に係る消費税額は、消費税法第30条第2項第1号の課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要するものに該当します。」と記載されています。
 この更正の理由からも分かるとおり、この課税問題においては、「中途」の目的まで加えて売上げとの「対応」を判定するのか否かということで結論が分かれることになるわけですが、その判断は、この更正の理由に書かれていることとは異なり、期中であっても期末後であっても、「中途」で非課税売上げとなる家賃収入が発生したのか否かという、「中途」の「結果」にとらわれて行ってはならないということです。
 「結果的に非課税売上げとなる家賃収入が発生した」ということを判断の根拠としたとすれば、その判断は誤りとなるということをしっかりと理解しておく必要があります。
大石 そうですね。
 この更正の理由を見る限り、課税庁も、「仕入れ時」における事業者の「目的」を見るというところまでは、我々の議論に沿った処理をしているようです。論点になってくるのは、仕入れ時の「目的」の内容として、「最終的」な売却だけでなく、「中途」の賃貸も含めて考えるべきか否か、という点になりますね。この点、更正の理由では、仕入れ後に貸付けによる賃料収入があったという事実を踏まえて、「目的」に、販売目的以外の目的、すなわち賃貸目的も含まれる、という結論を導いています。
 一見すると、事業者に2つの目的が並存しているということで、そのような解釈でもよいようにも見えてしまいますが、そこでは、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」が、「直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」を指すとする国税庁・裁判所が共通して採用している解釈が無視されているという問題があります。
 その解釈に従えば、仕入れが販売の「コスト」(取得原価)を構成しているか否かという点が問題となってくるわけですが、先ほど少し申し上げたとおり、結局、事業者が、仕入れ時において「販売の目的」を持っていたか否か(仕入れた居住用建物が仕入れ時において棚卸資産であったか否か)によって変わってくるだろうと考えています。すなわち、税法は、あらゆる居住用建物を、販売目的のある資産(=棚卸資産)と、それ以外の資産(=固定資産)の二つに分類した上で、棚卸資産については、その取得に要したコストを最終的な譲渡の収入のみに対応させている一方で、固定資産については、減価償却制度を通じて、その取得に要したコストを中途の賃貸の収入と最終的な譲渡の収入の双方に対応させることとしています(この辺りについては、また後でもう少し詳しく説明したいと思いますが)。よって、コストと収益の対応関係により仕入税額控除の適用関係を決するという、国税庁・裁判所が共通して採用する解釈に従う場合、更正の理由に書かれていることは、居住用建物が固定資産である場合には妥当しうるものの、少なくとも棚卸資産である場合には妥当しないということになります。
 税法上、全ての居住用建物は、販売目的の有無によって、棚卸資産と固定資産のいずれか一方のみに必ず振り分けられた上で、コストと収益の対応関係が決せられますので、国税庁・裁判所が共通して採用する解釈に従う限り、その対応関係から逃れることはできないと思います。
 ここでのポイントは、あらゆる居住用建物は、販売目的の有無によって、必ず棚卸資産か固定資産のいずれか一方に振り分けられ、双方に該当する資産というものは存在しないという点です。つまり、税法は、販売目的と賃貸目的が並存するという居住用建物というカテゴリーをそもそも観念しておらず、販売を目的とした資産とそれ以外の資産の二者択一しか認めておりません。もう少し正確に言うと、たとえ賃貸目的が並存していたとしても、それが販売を目的とした資産であると認められるのであれば、税法上は棚卸資産として処理されることになります。その場合、減価償却は認められませんので、取得に要したコストは、最終的な譲渡収入にのみに対応し、中途の賃料収入には全く対応しないということになります。したがって、国税庁・裁判所が共通して採用する解釈に従う限り、税法上の棚卸資産に該当する居住用建物は、必ず、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当することになると思います。
 よって、本件において否認が認められるとすれば、納税者が仕入れ時において棚卸資産として処理していた居住用建物について、実は販売目的があるとはいえず、税法上、固定資産として処理されるべきだった、という場合に限定されると考えています。これは、棚卸資産と固定資産のいずれに該当するか、という事実認定の問題であり、最終的には、仕入れ時における販売目的の有無によって決せられることになりますが、賃貸目的が並存しているか否かは直接的には関係ない、ということになると思います。賃貸目的が関係してくる場面があるとすれば、当分賃貸に出すことが想定されるため、そもそも販売目的があるとはいえないという場合(すなわち、固定資産に該当する場合)だけだと思います。
 これを法律的な表現で言い直すと、まず、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」が、要件事実(主要事実)を構成することになりますが、今ご説明したような解釈に従うと、実際には、「当該居住用建物が仕入れ時において販売を目的とした資産であること」が、要件事実を構成するといえると思っています。そして、仕入れ時において当該居住用建物に賃貸目的があったことは、当該要件事実の存否の認定に影響を与える可能性のある間接的な事実(間接事実)に過ぎない、ということだと考えています。
――実は、今日のお話を聞く前は、課税売上げだけでなく非課税売上げも発生する以上、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」となるのではないのかなと漠然と考えていたのですが、どのように立法が行われるのかということやどのように法解釈を行う必要があるのかということまで深めて見ていくと、そういう単純なものではないことが分かる、ということですね。

2 消費税法30条2項1号の創設時の解釈
仕入れた資産の性質・・・・・ではなく、事業者の目的・・・・・・によって判定すると解釈 朝長 『昭和63年度版 改正税法のすべて』(大蔵省主税局企画官渡邊博史ほか、大蔵財務協会、平成元年3月10日)においては、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に関して、同号の仕入税額控除制度の仕組みを説明した上で、次のように説明しています。
 なお、イの「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは、例えば、そのまま他に販売される課税資産、課税資産の製造用にのみ消費、使用される原材料、容器、包装紙、機械装置、工具、器具、備品等、課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払加工賃等が該当します。また、試供品、試作品等が[原文のママ]課税資産の譲渡等に係る販売促進等のために得意先等に配布しているときは、その試作[原文のママ]品、試作品等に係る課税仕入れ等の税額は、課税資産の譲渡等にのみ要するものとされます。
 (277頁)
 この部分は、ほとんどそのままの内容で次頁の消費税法取扱通達11-1-21となっています。 
>(課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義)
11-1-21 法第30条第2項第1号《個別対応方式による課税仕入れ等の税額の控除》に規定する「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば次に掲げるものの課税仕入れ等がこれに該当する。
(1)そのまま他に譲渡される課税対象資産
(2)課税対象資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包紙、機械及び装置、工具、器具、備品等
(3)課税対象資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払手数料又は支払加工賃等

 この消費税法取扱通達11-1-21(現消費税法基本通達11-2-12)の解釈から、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否の判定は、事業者がどのような目的で課税仕入れを行ったのかによって行う、ということがよく分かります。事業者の目的で判定するということでなければ、「課税資産の譲渡等を行うために」という文言は用いられません。
大石 私は、「直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」を指すとする国税庁・裁判所が共通して採用する解釈による限り、必然的に、仕入れ時に販売目的があったか否かが問題となってくると考えています。こちらの通達は、「課税資産の譲渡等を行うために」という表現は、朝長先生がおっしゃるとおり、事業者すなわち納税者の目的に着眼するものであるといえ、そのような考え方と非常に整合的であるといえるように思います。
――賃貸用のマンションは非課税売上げとなる家賃収入も発生させることになるからといって、その課税仕入れを「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」と考えてはいけないということですね。
朝長 そうです。この通達は、事業者が仕入れた資産がどのような売上げを生じさせるのかという資産の性質によって判定をするのではなく、事業者がどのような目的で仕入れたのかという事業者の目的によって判定をする、と解釈しなければならないものとなっています。
大石 仕入れ時における「事業者の目的」が何であるかという点は、結局、事業者すなわち納税者の主観(内心)の問題に過ぎないとも言えるわけですが、「事業者の目的」が主観の問題に過ぎないからといって、納税者が恣意的にそれを変更したり、逆に、課税庁が根拠もなくそれを認定することは、当然許されないだろうと思います。
 先ほど申し上げたとおり、私は、最終的には、仕入れ時における販売目的の有無が問題となると考えていますが、たとえそれが主観の問題であったとしても、証拠や間接事実に基づいて淡々と事実認定をすることは可能だと思いますし、逆にそれ以上のことをすべきではないとも思っています。民事法の世界では、たとえば不法行為における「故意」のように、主観的な要件事実を、証拠や間接事実に基づき認定するという作業はしばしば行われていますが、それと全く同じことです。特に、販売目的の有無という要件事実の認定は、棚卸資産の認定と同じことなので、納税者にとっても一義的でわかりやすく、予測可能性の担保という点からも望ましいと思います。

「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」=「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」 朝長 平成元年には、国税庁が『消費税一問一答集』という冊子を作っていますが、そこでは、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」について、先ほどの『昭和63年度版 改正税法のすべて』の説明よりも更に具体的に、次のように説明しています。
すなわち、直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期の前後を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である
 (448頁)
 これが先ほどから「国税庁・裁判所が共通に採用する解釈」と言われているものであるわけですが、これと同じ説明は、平成元年に国税庁の消費税課長が編者となって出版された『消費税500問500答』(大蔵財務協会)や平成23年に国税庁のOBの税理士が著した『消費税「仕入税額控除制度」の改正とその実務』(税務研究会出版局)などの書籍にも存在します。
 この「その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という文章に用いられている「ような」という文言は「ようだ」という助動詞の連体形ですが、このような文章においては、同類の物事を挙げるときに用いられることになります。つまり、この文章にある「課税仕入れ等」には、「その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入る課税仕入れ」が含まれるのは勿論のこと、それと同類のものも含まれるということです。
 このように、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは、「その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入る課税仕入れ」及びそれと同類のものをいう、と解釈されるものであることをしっかりと頭に入れておく必要があります。
――「最終的」な事業者の目的で「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かを判定することとしており、具体的に言えば「課税資産の譲渡等のコストに入る課税仕入れ」及びそれと同類のものが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当する、という解釈を国税庁が示していると。
朝長 「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かの判定に関して、国税庁が「最終的」という用語を用いて事業者の目的を説明していることが明確に確認できるという点で、上記の引用部分は、非常に重要です。
大石 そうですね。
 先ほど申し上げたとおり、さいたま地裁平成25年6月26日判決は、「『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいう。すなわち、直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等だけをいうと解される」と判示していますが、その判示は、国税庁の説明にそのまま依拠しています。このように、仕入れ時においてコストと収益の紐付き関係を観察するというアプローチを、国税庁・裁判所が共通して採用しているということは、本件における最大のポイントだろうと考えているところです。そして、当該紐付き関係は、結局、仕入れ時における事業者の内心(さらに言えば販売目的の有無)によって決まってくるだろうという点は、先ほどから申し上げているとおりです。
朝長 消費税法における仕入税額控除の仕組みは、資産を取得した課税期間内に譲渡が行われないものについての仕入税額控除をどのような仕組みとするべきかということを熟考しながら企画立案が行われたものであることは、間違いありません。
 この資産を取得した課税期間内に譲渡が行われないものについて、仕入税額控除をどのような仕組みとするのかということを考える場合に、最も大きな問題となるのは、譲渡がいつの時点で行われることになるのかということが分からない、ということです。事業者に資産を最終的に譲渡するという目的があったとしても、その資産を譲り受けたいという者が現れない限り、譲渡することができないことから、その取得の時点では、それがいつの時点で譲渡できるのかということは、明確には分からないわけです。このように、いつの時点で譲渡できるのかということが明確には分からないということは、資産の取得の時点で、仮に、事業者が譲渡までの間に非課税売上げとなるものを得ようという目的があったとしても、課税期間の終了後の譲渡までの間に実際に非課税売上げとなるものを得ることができるとは限らないということです。
 つまり、資産を取得した課税期間内に譲渡が行われないものについての仕入税額控除に関しては、その資産の取得の時点から譲渡の時点までの間に非課税売上げとなるものを得るという目的があったのか否かということを判定の要素とすることは難しく、最終的にどうするのかということを考えずに資産を取得するということはないはずであるという常識的な判断の下に、事業者がその資産を最終的に譲渡するという目的で取得したのか否かということのみを判定の要素とする、というように割り切ったものとせざるを得ない、ということです。
 このように、仕入税額控除の制度は、「中途」の目的の有無等にかかわらず、「最終的」な目的がどのようなものであったのかということによって判定する仕組みとして創らざるを得なかった、と考えられるわけです。
 上記の「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である」という解釈は、消費税法の企画立案を行った当時の大蔵省主税局の消費税担当から国税庁の消費税担当に示された解釈であった可能性が高い、と考えています。
――立法に携わって来られた経験に照らして考えてみられても、そういうことになるわけですね。そうすると、当然、解釈においても、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かということは、事業者が課税資産を取得した時点で、事業者の「最終的」な目的が課税資産の譲渡等を行うことであったのか否か、ということによって判定する、と解釈すべきこととなるわけですね。
朝長 そうですね。
大石 私も、仕入れ時における販売目的の有無がポイントになると思っておりますので、そのような整理に全く異存ありません。

「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」も、「最終的」な事業者の使用目的・・・・によって判定 朝長 仕入税額控除の3つの区分は、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」と「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」が両サイドにあって、それらの間に「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」があるという関係になっており、一方のサイドの「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かという問題と他方のサイドの「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かという問題は、判定の仕方を異にする理由がありません。したがって、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かということをどのように判定するべきかということは、「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かということをどのように判定することとされているのかということを確認することによっても知ることができます。
 国税庁が作成した『消費税一問一答』という冊子の平成6年版の中で、個別対応方式における土地造成費等の取扱いとして、その譲渡収入が非課税売上げとなる土地を資材置場として利用している場合の造成費が「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」と「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」のいずれになるのかという問に対する答において、販売の目的で取得し、一時的に自社の資材置場として使用しているときは、最終的な使用目的が販売用であるので非課税用となる、と説明しています。
――「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かの判定に関しても、「最終的な使用目的」で判定するとしているわけですね。
朝長 「最終的な使用目的」は、「「最終的」な事業者の目的」と言い換えても、全く意味は変わりませんので、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かという判定と「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かという判定とが一致するということになります。
 立法の観点に立って消費税法30条2項1号をどのように創ることになるのかということを考えてみても、最終的な事業者の目的がどのようなものとなっているのかということによって判定すると割り切るしかないものと思われます。私自身が消費税法30条2項1号の立法を行ったと仮定して、同号の解釈に関して質問を受けた場合にどのように答えることになるのかと考えてみても、「最終的な事業者の目的で判定すると解釈する必要がある」と答えることにしかならない、と感ずるところです。
 「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かということと「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かということのいずれについても、「中途」の事業者の目的で判定するのではなく、「最終的」な事業者の目的で判定すると解釈されていた、ということをしっかりと確認しておく必要があります。
 「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈がどうなるのかということは、「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈がどうなるのかという問題でもあるわけです。
大石 事業者の目的として、「最終的」な目的(本件では売却目的)だけでなく、「中途」の目的(本件では賃貸目的)も考慮されるか否かは、先ほどの「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」であるか、というメルクマールに従って判定されることになると思います。この点は、先ほどから触れてきた点ですが、改めてもう少し詳しく説明させてください。
 これは、仕入れ時において、「仕入れに要した額が最終的に課税売上のコストに入る」ことが見込まれているか否かによって判定する枠組みであるといえます。すなわち、ある仕入れが課税対応であるか否かは、仕入れ時において、「コスト」と「売上」の対応関係が見込まれるか否かによって判断することになります。
 そして、「コスト」は「費用」を構成するものであり、また、「売上」は「収益」を構成するものですので、結局のところ、「コスト」と「売上」の対応関係は、「費用」と「収益」の対応関係から判定するのが合理的であろうと思います。もっとも、消費税法は、所得税法や法人税法のように、費用・収益対応の考え方を採っていません。よって、ここでは、事業者すなわち納税者が個人である場合は所得税法の考え方に従い、また、法人である場合は法人税法の考え方に従い、それぞれ、「費用」と「収益」の対応関係を判定することになると考えています。すなわち、この文脈に限っては、消費税法上の世界であったとしても、所得税法・法人税法上の「費用」と「収益」の対応関係によって、判定が行われることになると思います。
 この点、居住用建物は、所得税法及び法人税法上、「固定資産」と「棚卸資産」のいずれかに分類され、それぞれの費用と収益の対応関係は以下のとおりとなります。
固定資産:取得原価は、①減価償却によって一部は賃料収入の売上原価となり、②残部は売却時の収益から控除される。
棚卸資産:減価償却されないため、取得原価は全額が売却時の収益から控除される。
 以上を踏まえると、仕入れ時において「固定資産」として計上された居住用建物については、原則として減価償却が行われることになるため、その取得に要した「費用」のうち、減価償却の対象となった部分については、賃料収入という「収益」との対応関係があると言わざるを得ません。
 それに対して、仕入れ時において「棚卸資産」として計上された居住用建物については、そもそも減価償却が行われませんので、その取得に要した「費用」は、全てその販売対価という「収益」にのみ対応していることになると思います。
 すなわち、「固定資産」として取得した居住用建物については、賃料収入という売上げとの対応関係が認められますので、「仕入れに要した額が最終的に課税売上のコストに入っている」とはいえない部分があると言わざるを得ないのに対して、「棚卸資産」として取得した居住用建物については、減価償却が行われませんので、全ての「仕入れに要した額が最終的に課税売上のコストに入っている」といえ、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すると考えられます。
 したがって、「棚卸資産」として取得された居住用建物については、賃貸に供されていたとしても、課税対応と取り扱うべきということになります。言い換えると、朝長先生が指摘されるとおり、事業者の目的としては、「最終的」な目的(本件では売却目的)のみが考慮され、「中途」の目的(本件では賃貸目的)は考慮されない、という結論になると思います。
 この点に関連して、あらゆる居住用建物は、販売目的の有無によって、必ず棚卸資産か固定資産のいずれか一方に振り分けられ、双方に該当する資産というものは存在しないこと、および、販売目的があることは要件事実(主要事実)となるのに対し、賃貸目的があることは当該要件事実の存否の認定に影響を与える可能性のある間接的な事実(間接事実)に過ぎない―更に言えば、販売目的と賃貸目的が同じレベルで並存する状態というのは、税法上観念されていない――という点は、先ほど申し上げたとおりです。
 (第2回に続く)


朝長英樹 ともなが ひでき
 財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の抜本改正(平成12年)・組織再編成税制の創設(平成13年)・連結納税制度の創設(平成14年)などを主導。
 税務大学校研究部において、事業体税制等を研究。平成18年7月に税務大学校教授を最後に退官。
 現在、日本税制研究所 代表理事、朝長英樹税理士事務所 所長
 主な著作として『現代税制の現状と課題-組織再編成税制編-』(新日本法規出版、2018年)など。

大石篤史 おおいしあつし
 森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士・税理士
 税務関連業務の他、M&Aやウェルスマネジメント業務を主に取り扱う。
 主な著作・論文として『企業訴訟実務問題シリーズ税務訴訟』(中央経済社、2017年、共著)、「平成29年度税制改正がM&Aの実務に与える影響」(租税研究第814号、2017年)、『税務・法務を統合したM&A戦略<第2版>』(中央経済社、2015年、共著)など。

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