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解説記事2018年05月28日 【巻頭特集】 消費税「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(2)(2018年5月28日号・№740)

巻頭特集
緊急対談 朝長英樹税理士×森・濱田松本法律事務所大石篤史弁護士
既に仕入税額控除の否認が全国で数十件発生、訴訟に発展のケースも
消費税「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(2)

 前回は、消費税導入当時、税務当局から「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは「その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である」との解釈が示されていたことが確認されたが、今回は、消費税が定着した平成7年や9年においても、譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除という一連の否認事例と全く同じ内容の事例について、税務当局が「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない」との回答を行っていたという新事実が明らかとなる。
 消費税導入時から20年以上にわたりコンセンサスとなってきた上記の解釈を法改正もないままに変更することが果たして妥当と言えるものなのか――今回は、その変更の一因となり、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈を初めて示したさいたま地裁判決でもその一部が引用されている平成24年の東京地裁判決についても検証する。

本対談の構成
1.適用条文の確認と本件課税の概要等(本誌739号掲載)
2.消費税法30条2項1号の創設時の解釈(本誌739号掲載)
3.本件課税前の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(今号掲載)
4.平成24年1月19日の国税不服審判所の裁決の解釈(今号掲載)
5.平成24年9月7日の東京地裁判決の検証(今号掲載)
6.平成25年6月26日のさいたま地裁判決の解釈
7.「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の正しい解釈と当てはめの仕方の確認

3 本件課税前の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈

将来的な目的が分譲であることを理由に「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すると国税庁が回答
朝長
 今まで話してきたことは、主に消費税法が創設された頃のことですが、消費税法が創設されて暫くすると、マンションの取得に伴って支払った消費税の仕入税額控除をどのように取り扱うのかという、本件の課税問題に直結する具体的なケースの取扱いも問題となってくるようになります。
――それは興味深い話ですね。どのような解釈が示されたのでしょうか。
朝長 国税庁は、平成7年に、譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除をどのように行えばよいのかという質問に対して、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない、という回答を行っています。このケースは、質問者が分譲用マンションを取得する時点でその分譲までの数年間にその分譲用マンションを賃貸することが予定されていたというものですが、国税庁は、その取得の目的が将来的には分譲するということであれば、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして差し支えない、としたのです。
 当時、私は東京国税局の調査審理課に在籍していたのですが、このケースに関しては、国税庁が全国の国税局の消費税課長等を集めた会議において、解釈と取扱いの方向性を示し、各局におけるそれまでの指導事績等との関係で支障が生じないかということを聴いています。東京国税局の調査審理課でも、そのような解釈と取扱いでよいかということを検討しましたが、それで良いという結論となりました。
 こうした経緯を経て、平成7年に国税庁から先ほどの解釈と取扱いが示されたわけです。消費税の取扱いに関しては、非常に多くの質問等が出されていた中で、このケースの解釈と取扱いについては、かなり慎重に検討を行った上で結論が出された、ということです。
――そのような経緯があったのですか。これは本件課税の是非を考える上でも極めて重要な事実ですね。
大石 平成7年から現在に至るまで、今回問題となっている消費税法の規定は変わっていませんので、当時、国税庁がそのような解釈を示していたということは、極めて大きな事実であるように思われます。分譲用マンションを取得する時点でその分譲までの数年間にその分譲用マンションを賃貸することが予定されていたという事案ということなので、今回の件とほぼ同じ事案であると言えそうです。
 ここでは、国税庁が、取得の目的が将来的に分譲するもの、というように、仕入れ時の納税者の販売目的に着眼している点が、特に重要であるように思います。先ほど申し上げた、棚卸資産と固定資産とで区分する考え方は、まさに納税者に販売目的があるか否かで区分する考え方ですので、この国税庁の解釈とも整合的であると考えています。


朝長 そうですね。これらのケースは、秘密にする理由がなく、公開するべきものです。「公開」とは言っても、新聞等に会社名等まで出さなければならないなどということではなく、その解釈や取扱い、その解釈や取扱いの理由などをできるだけ詳しく誰もが分かるようにするべきである、ということです。
 改めて言うまでもないわけですが、このケースは、質問者に対し、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして差し支えない、という回答を行うとともに、その情報を国税庁が全国の国税局に対して流したものである、ということに留意する必要があります。
  
平成9年にも、転売目的で取得したことを理由に「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当すると判断
朝長
 平成9年にも、国税当局は、本件と同様のケースに対して、転売目的で取得したことを理由に、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するという判断を下しています。
 このケースは、不動産販売・賃貸を業とする法人が、賃借人が居住しているマンションを購入して販売したものであり、更正の請求を行ってそれが認められたものです。
 このケースでは、更正の請求という形を採ってはいますが、税務調査の過程で問題が浮かび上がってきたものであり、事実確認や解釈と当てはめについても詳しく検討されていますので、本件の課税の適否を判断する上で無くてはならないものであると考えています。
 先ほどの平成7年のケースで基本的な方向が示され、平成9年のケースでその基本的な方向が具体的に検証された、と言ってよいと考えています。
 当時、私はこのケースの担当部署には居なかったのですが、このケースに関連して、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」はどのように解釈すればよいのかということについて意見を求められましたので、「目的によって判定するしかないと思う」と答えました。また、主税局の消費税の担当課から話を聞きたいので紹介して欲しいとのことでしたので、担当課に繋ぎました。主税局の担当課がどのような回答をしたのかということまでは確認しませんでしたが、私が答えたことが違っていたと思わせるような事情は全く何もありませんでしたから、担当課も、同様の回答をしたものと思われます。


――個別事案における法解釈に関しても、国税当局が財務省の主税局に解釈を尋ねることがあるわけですね。
朝長 先ほど、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である」という解釈は、消費税法の企画立案を行った当時の大蔵省主税局の消費税担当から国税庁の消費税担当に示された解釈であった可能性が高いと考えているという話をしましたが、このように、法令を創ったり改正したりする時や通達改正を行う時だけでなく、個別事案において法解釈に疑問が生じた時なども、主税局に質問が来ることがあります。
――個別事案における法解釈においても、立法趣旨を正しく踏まえて解釈すべきことは、当然ですからね。
朝長 先ほどの平成7年や平成9年のケースは、いずれも経緯や概要の記憶だけは間違いなく在ったのですが、かなり古い話でもあり、詳しい事情がよく分かりませんでしたので、今回、本件の課税問題が生じたことを機に、当時の方々から話を聞いて詳しく確認をしてみたところ、やはりこれらのケースは本件の課税問題を考えるに当たって非常に有益である、ということがよく分かりましたので、ご紹介させて頂いている次第です。
 この平成9年のケースに関しても、納税者に対し、転売目的で取得したことを理由に「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するという判断をしたことを通知書で伝えて実際に減額更正をしているということに留意しておく必要があります。この平成9年のケースも、単に当局の職員が内部で頭の体操をしただけというようなものではないわけです。
大石 個別の更正請求事案においても、平成7年の国税庁の解釈が尊重されていたということなので、これもまた極めて重要な情報であるように思います。実際に、多くの事業者が、消費税法施行時から一貫してそのような解釈の下で申告を行い、税務調査においてもそれが尊重されてきたという事実がありますので、今回の課税庁側の対応は、納税者側から見て不信感を抱かざるを得ないものだと感じています。昭和63年の消費税導入時から、20年以上にわたり、販売目的の有無によって課税関係を決するという解釈がとられてきたにもかかわらず、法令改正がないまま、それが突然変更されてしまった理由がよくわからないところです。
――もしそのようなケースがあったということが誰にでも分かるようになっていたとしたら、本件の課税問題は起こらなかったでしょうね。
朝長 そうですね。
 現職の国税職員や国税職員のOBの方々が、個人の立場からではあったとしても、国税当局が取り扱った事例をできるだけ多く書籍や記事などにして、誰もが見ることができるようにして頂ければ、本件のような課税問題は起こらなくなります。
 近年は、特に現職の国税職員があまり本を書かなくなってきているため、国税当局の法令の解釈や取扱いなどの情報が表に出てこないことが大きな問題になってきていると感じます。
大石 平成7年に示された解釈のように、国税局レベルを超えて、国税庁レベルで、全国的に統一された解釈が示された場合は、是非、一般国民が容易にアクセスできるようにして頂きたいところですね。当時、そのような情報公開が広く行われていれば、今回のような混沌とした状況にはならなかったように思います。

4 平成24年1月19日の国税不服審判所の裁決の解釈
――税務調査では、調査官は、本件の課税を行うに当たり、その根拠として、不動産販売業を営む法人が税務調査により居住用建物の課税仕入れに係る仕入税額控除を否認された事案における国税不服審判所の平成24年1月19日付けの裁決を納税者に示していることが本誌の取材でも確認されています。

>国税不服審判所・平成24年1月19日付裁決
【事案の概要】
 本件は、不動産販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が取得した各建物について、原処分庁が、当該各建物はその取得時において住宅の貸付けの用に供されていたから、これらが販売を目的として取得されたものであるとしても、その取得は、課税仕入れに係る消費税の控除額の計算において、「課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に該当するとして、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をした(1(1))
【国税不服審判所の判断】
本件4建物は、いずれも販売することを目的として取得されたものであるとしても、本件4建物を取得した時点では、同時に住宅の貸付け等の用にも供されていたのであるから、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、本件4建物は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべきものと解される。(3(3)イ)

 国税不服審判所は国税当局の解釈を採用する判断を示しているわけですが、この裁決についてはどのように見ておられますか。
朝長 この裁決は、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かという判定について、建物が住宅の貸付け等の用にも供されていたという建物の用途をも勘案して行う必要がある、という解釈を採っていますが、これまでの話でも分かるように、事業者の目的が判定の正しい基準となります。仮に、建物の用途をも勘案して「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かという判定を行う必要があると解釈されるのであれば、事業者の目的を考慮する必要はないわけです。先ほどの国税不服審判所の判断の引用文中の「いずれも販売することを目的として取得されたものであるとしても、……同時に住宅の貸付け等の用にも供されていたのであるから、……課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべき」という部分は、そのことをよく示すものです。
大石 国税不服審判所は、この裁決のなかで、「請求人は、本件4物件について、……取得時においては、それぞれ土地仕入高勘定及び建物仕入高勘定に計上し、……本件課税期間の末日において、いずれも棚卸土地勘定及び棚卸建物勘定に振り替えているが、……本件課税期間において本件4物件の販売活動をしていたこと……に照らせば、……本件4物件は、いずれも販売することを目的として取得したものと認められる。そうであるところ、……請求人が本件4建物を取得し課税仕入れを行った日には、本件4建物はいずれも住宅の貸付けの用に供されていたことが認められ、併せて、M建物は駐車場の貸付けの用、N建物は店舗の貸付けの用にも供されていたことが認められる。そうであるとすれば、本件4建物は、いずれも販売することを目的として取得されたものであるとしても、本件4建物を取得した時点では、同時に住宅の貸付け等の用にも供されていたのであるから、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、本件4建物は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべきものと解される。」として、対象建物が仕入れ時から棚卸資産であるという事実を認定しながら、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当しないという結論を導いています。
 この裁決は、先ほどのムゲンエステート社の更正理由と同じく、販売目的と賃貸目的が並存しているから、販売のみを目的として取得したものではなく、よって、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に当たらない、という結論を導いたという見方もあると思っています。
 この裁決は、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」に当たるか否かによって判定するという、先ほどからご紹介している基本的な判断枠組みを単純に失念し、誤った結論を導いてしまったのではないかと考えています。実際に、この裁決を読んでみても、費用と収益の対応関係に関する言及はどこにもありません。
 先ほど申し上げたとおり、私は、あらゆる居住用建物は、販売目的の有無によって、必ず棚卸資産か固定資産のいずれか一方に振り分けられる以上、ここで、販売目的と賃貸目的が並存するという居住用建物というものを観念すべきではないと考えています。つまり、たとえ賃貸目的が並存していたとしても、それが販売を目的とした資産であると認められるのであれば、税法上は棚卸資産として処理され、減価償却は行われませんので、常に、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」に該当するのであって、賃貸目的があったことは、販売目的の有無の認定に影響を与える可能性のある間接事実に過ぎない、ということだと思っています。
 この裁決が、賃貸目的があるので、販売目的がある資産であったとはいえない、つまり、実際には、棚卸資産として取得した資産ではなく、固定資産として取得した資産に過ぎない、という事実認定をしていたのであれば、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当しないという結論を導くことに違和感はなかったのですが、販売目的がある資産であるという事実を正面から認定しつつ、そのような結論を導いてしまっているので、おかしなことになってしまったのかなと思います。残念ながら、この裁決によって、先ほど朝長先生からご紹介があった、それまでの国税当局の結論が突然変更されてしまったように見えます。
――この裁決の解釈は誤っている、ということですね。
大石 そう言わざるを得ないだろう、と思っています。
朝長 この裁決は、分かり易い内容とはなっていますが、条文の読込みが全く出来ておらず、その解釈は素人のような解釈になってしまっています。国税当局は、『消費税一問一答集』や先ほどご紹介した平成7年と9年のケースの情報などを持っているわけですから、裁決の解釈が単純なミスでそのような解釈になってしまったと考えてよいのかということについては疑問なしとしないと感ずるところですが、いずれにしても、今後は、調査官がこの裁決の解釈を持ち出して課税と主張するというようなことはないのではないかと思っています。
 しかし、これまでに課税を受けたケースにおいては、国税当局がこの裁決を示して課税になるという説明をしたために修正申告をしたというものが殆どのようですから、これまでに課税を受けた事業者には、これからどのように対応するのかという大きな問題が出てくることとなります。つまり、「正しくやるとしたら、どうなるのか?」という確認が必須となっている、ということです。
――これまでに課税を受けた事業者の顧問税理士や税務担当者にとって、それは、非常に大事な話になりますね。
大石 ご指摘のとおりですね。これまで否認を受けた事業者だけでなく、この裁決を受けて自発的に修正申告を行ったり、課税売上割合に応じた額のみを申告したような事業者も、課税関係について再検討せざるを得ない状況になっているといえそうです。

5 平成24年9月7日の東京地裁判決の検証
「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈が争点となっていない
――平成24年9月7日に東京地裁で課税仕入れに係る消費税額が「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」と「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」のいずれとなるのかということが争われて納税者が敗訴した事件も、本件に関係があるわけですね。
朝長 そうです。本件の課税問題に関しては、この事件から見て行く必要があります。
 この事件は、課税売上げと非課税売上げとが発生する施設の維持・管理・運営等を行う法人の設立費用や融資スキームの構築費用などの課税仕入れに係る消費税額の仕入税額控除において、その課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」と「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」のいずれとなるのかということが争われたものです。
 この争いの内容自体は、本件とは異なるものとなっていますが、この事件の判決では、課税仕入れの区分をどのように行うのかということに関して、「客観的」に判断しなければならないと判示されており、その後、さいたま地裁の事件においても、その判示がそのまま用いられています。
 このように、この事件は、課税仕入れの区分について「客観的」に判断しなければならないとした最初のものとなっているため、この事件を取りあげて「客観的」という用語を用いることの是非を精査しておくことが必要となります。
 この事件においては、次のような判示がなされています。
その課税仕入れの区分の判断については、同号の文言等に即して、当該課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちのどのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である
 この判示は、被告(国)が平成23年7月8日に提出した準備書面(1)において主張した次の部分をそのまま書いたものとなっています。
そもそも個別対応方式において、①課税資産の譲渡等にのみ要する仕入れ、②その他の資産の譲渡等にのみ要する仕入れ又は③課税資産の譲渡等及びその他の資産の譲渡等に共通して要する仕入れの区分は、当該課税仕入れ等がいかなる取引に対応するものであるのかを客観的に判断するものである
 何故、被告(国)がこのような主張したのかというと、この部分の後に書かれている次の主張をするためであると考えられます。
その判断に際して契約書等の内容を資料とすることはあっても、事業者が契約内容によって上記区分を自由に決定しうるものではない
 つまり、「客観的」に判断をするものであるという部分は、「事業者が契約内容によって上記区分を自由に決定しうるものではない」という主張をするために書かれていると解されるわけです。
 先ほどから申し上げてきたように、課税仕入れが3つの区分の内のいずれに該当するのかということは事業者の「目的」に基づいて判断するというのが正しい解釈であるわけであり、これは、言い換えると、事業者の「目的」という「主観」に基づいて3つの区分の内のいずれに該当するのかということを判断するということであるわけですが、上記の被告(国)の「事業者が……決定しうるものではない」という主張は、事業者の「目的」という「主観」に基づいて判断するということを実質的に打ち消そうとするものです。
――それは、おかしいですよね。
朝長 どうして、そのようなおかしな主張がそのまま判決に採用されることとなってしまったのかというと、この裁判では、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」をどのように解釈するべきかということが争点となっていないためであると考えられます。この「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かは、事業者の「最終的」な「目的」がどのようなものであったのかということによって判断をするべきであるということになるわけですが、判決文の中の原告及び被告の主張並びに裁判所の判断のいずれにも、「最終的」という用語は全く使われていませんし、「目的」という用語も解釈とは関係のない3か所で使われているだけです。
 要するに、事業者の「最終的」な「目的」で判断するという解釈を素通りして、その解釈の当てはめをどのように行うべきかということにだけ目を向けているため、被告(国)が事業者の「目的」という「主観」を排するがごとき内容の主張を行っても、原告(納税者)は、それがおかしいということに気付かなかった、ということだと考えています。
大石 東京地裁の事案は、事業者が徳島県から公共施設の整備等の受注を受けたところ、その代金の支払い方法が割賦になっており、金利が発生するというものでした。徳島県との契約において、割賦元本と割賦金利が対価であると定められていたところ、後者の利息部分が非課税取引であるため、整備のための仕入が、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当するという結論を導いています。
 この事案において問題となっている事業者の課税仕入れは、融資スキーム構築に関する銀行への手数料や、弁護士報酬の支払いなどでした。一方、徳島県との契約では、徳島県から受け取る施設整備に対する対価が10億5098万6000円(消費税込み)とされ、その内訳は、①融資組成手数料その他整備に関する初期費用を含む、合計9億4950万円の費用と、②それらの合計額に対する金利1億0148万6000円、というかたちで定められていました。
 裁判所は、徳島県との契約において、施設整備の対価が、割賦元本と割賦金利から成るとされ、それぞれの金額が明示されていることから、後者は、「資産の譲渡等の対価の額を2月以上の期間にわたり、かつ、3回以上に分割して受領する場合におけるその受領する賦払金のうち利子の額に相当する額で当該賦払に係る契約において明示されている部分」(消費税法施行令10条3項10号)に当たるから、非課税取引となり、その結果、問題となった課税仕入れが、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当するとしています。
 原告である事業者は、徳島県との契約において、①融資組成手数料その他整備に関する初期費用を含む、合計9億4950万円の費用、すなわち割賦元本と、②それらの合計額に対する金利1億0148万6000円とが区分されているところ、問題となっている課税仕入れは、①割賦元本に当たるものであるから、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に区分されると主張しましたが、裁判所は、「課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるかを客観的に判断すべきものであるから、本契約書において本件施設の整備に関する対価の具体的な内容について……記載があるからといって、そのことのみによって、直ちに……当裁判所の判断が左右されるものではない」と判示しています。


 このように、裁判所は、割賦金利が施設整備の対価であるか否かという文脈では、契約に依拠する一方で、個別の課税仕入れが割賦金利と対応しているか否かという文脈では、契約の記載によって左右されない、という結論を導いています。
 割賦金利が施設整備の対価であるか否かという点は、基本的に事業者・徳島県の二者間で決定できる問題ということで、契約の内容に依拠する一方で、個別の課税仕入れが割賦金利と対応しているか否かという点は、必ずしも事業者・徳島県の二者間で自由に決定できる問題ではなく、「客観的」に判断すべき事柄なので、契約の記載によって直ちに裁判所の判断が左右されることはない、と整理しているように見受けられます。この点については、必ずしもロジックが首尾一貫しておらず、いいとこどりの議論ではないか、といった見方もあるかもしれません。ただ、費用・収益の対応関係については、法人税の世界もそうですが、契約だけで自由に変更できるものではない、ということは言えるかと思います。
 判決の読み方次第と言うことかもしれませんが、どのような「目的」のために課税仕入れを行ったか―言い換えると、どのような目的のために仕入先との契約を締結していたか――という事業者の「主観」は、売上サイドの契約、すなわち販売先との契約のみによって決せられることはなく、間接事実や証拠から「客観的」に認定すべきである、ということを判示したようにも見えます。そのように判決を読めば、売上サイドの契約も、それのみによって課税仕入れ時の「主観」が決せられることはないものの、課税仕入れ時の「主観」を認定するための証拠の一つにはなりうるのだろうと思います。
 このように、この判決は、仕入れ時における事業者の「目的」という「主観」を、必ずしも否定するものではないと考えているところですが、もし、それを否定する意味まで込められているのであれば、それは問題ですね。

被告(国)は、「合理的」という用語を「客観的」という用語に差し替えている ――判断や判定を「客観的」に行わなければならないと言われると、普通は、それは当り前だろう、と思ってしまいますよね。
朝長 一般論として言えば、判断や判定は「客観的」に行わなければならないというのは、当たり前のことです。
 しかし、この被告(国)の準備書面(1)における主張は、何故、その当たり前のことをわざわざここで言うのか、ということをよく考えなければならないものとなっています。
 当たり前のことを言っているだけだということでそのまま読み進めてよい「客観的」もあれば、何故ここでわざわざ当たり前のことを言うのだろうかと立ち止まって一考すべき「客観的」もある、ということです。原告(納税者)の準備書面を見ると、この被告(国)の準備書面(1)における「客観的」に判断しなければならないという主張に同調して、原告(納税者)が自ら「客観的」な判断が必要であるという主張をしているところさえ見受けられますが、この「客観的」という部分には、多分に問題があります。
 後に、さいたま地裁判決のところで詳しく述べますが、この「客観的」というところは、「合理的」となっていたものを削除し、「客観的」という用語に差し替えたものです。
――法律判断を「客観的」に行わなければならないというのは、当たり前のことであるため、本来は、わざわざ言う必要もないわけですが、それにもかかわらず、「客観的」という用語を使い、しかも、「合理的」となっていたものを削除し、差し替えて使っているわけですね!
朝長 そうです。そういうことは、普通はやらないことですから、何故、そういうことをやっているのかということをよく考えなければならないわけです。
――「合理的」となっていたものを「客観的」に差し替えたということも明確なわけですね?
朝長 そうです。
 本件で問題となっている課税仕入れの区分をどのように行う必要があるのかということに関しては、消費税法基本通達11-2-18(個別対応方式の適用方法)が定められ、その解説において「合理的に区分を行うべきことを念のために明らかにしたものである」という説明がなされており、また、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当する課税仕入れを更に区分することを認めた同11-2-19(共通用の課税仕入れ等を合理的な基準により区分した場合)の本文においては、「合理的な基準により区分している場合には、当該区分したところにより個別対応方式を適用することとして差し支えない」と定められており、他方、これらの通達の本文と解説のいずれにおいても、「客観的」という用語は、全く用いられていません。このため、これらの通達と解説を一読しただけでも、被告(国)が準備書面(1)において記述した「客観的」というところは、「合理的」となっていたものを差し替えたものである、ということが容易に推測できるわけです。
 特に、消費税法基本通達11-2-18は、その題名からも分かるとおり、「個別対応方式の適用方法」について定めているわけですから、この通達に全く触れることもなく、個別対応方式の適用方法について独自に「客観的」という用語を用いて主張を述べているということ自体が既に不自然であるわけです。
 詳細は、さいたま地裁判決のところで述べさせて頂きます。
――なるほど。課税仕入れが3つの区分の内のいずれに該当するのかということを「客観的」に判断しなければならないという被告(国)の主張は、単に当たり前のことを確認的に述べたというものではなく、「合理的」となっていたものを削って「客観的」に差し替えたものである、ということですね。
 ここは非常に大事なところだと思いますので、さいたま地裁判決のところで改めて詳しく教えて下さい。
朝長 分かりました。何故、「合理的」という用語を削ったのか、また、何故、差し替えた用語が「客観的」という用語でなければならなかったのか、ということが重要ですので、そのような問題意識に応えるようにお話をしましょう。

被告(国)は、「客観的」という用語の意味についても都合よく替えている
朝長
 この「客観的」という用語に関しては、その意味が被告(国)に都合よく替えられているということにも、十分、留意しておく必要があります。
 先ほどの被告(国)の準備書面(1)からの2つの引用をもう一度よく読んでみて下さい。この2つの引用をよく読んでみると、「客観的」という用語がおかしな意味で使われていることに気付くはずです。
 被告(国)は、準備書面(1)で、「客観的」という用語を「外形的」という意味合いで用いています。
――事業者の「主観」とは関係なく判断をするという意味で使っているように思われますね。
朝長 そうです。事業者の「主観」にかかわらず「外形的」に判断されることになるという意味で「客観的」という用語を使っています。
 「合理的」という用語のままであれば、それは、むしろ「外形的」に判断してはならないという意味であるとさえ言ってもよいわけですが、「客観的」という用語にすると、その反対に、事業者の「主観」にかかわらず「外形的」に判断しなければならないという意味で使うことが可能となります。
 しかし、そのような使い方は、「客観的」という用語の正しい使い方ではありません。
 辞書を引くと直ぐに分かりますが、「客観的」という用語は、「主観又は主体を離れて独立に存在するさま」や「特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま」とされています。つまり、「客観的に判断する」という用い方をする場合の「客観的」という用語は、判断をする者の「主観」を排除しなければならないという意を含むものであって、相手の「主観」を排除しなければならないという意を含むものではありません。
 このため、「客観的に相手の目的を判断する」という用い方をした場合には、判断をする者が自らの主観を排除して相手の目的を判断するという意味になるわけであって、相手の主観を排除して相手の目的を判断するという意味になるわけではありません。
――なるほど。被告(国)の準備書面(1)においては、「合理的」を「客観的」に差し替えた上で、さらに「客観的」という用語の意味も替えている、ということですね。
朝長 そうです。
 被告(国)は、何故、そのようなことを行っているのかというと、先ほどの2つ目の引用の中にあった「契約内容」が事業の本質を表しているという、至極、当然の原告(納税者)の主張を排斥するためには、実際に当事者が契約をした内容にかかわらず―言い換えると、当事者の「主観」にかかわらず――、判断をしなければならない、と主張する以外に対応策がなかったためである、と考えられます。
 この裁判において被告(国)が提出した書面を見てみると、「客観的」に判断をしなければならないとした部分を除けば、当事者の「契約内容」が事業の本質を表しているという原告(納税者)の主張を崩すに足る内容の主張が行われている部分が見当たりません。
――「契約内容」云々というところに関しては、被告(国)は、「客観的」という用語を使って原告(納税者)の主張に対抗するしか方法がなかった、ということですね。
朝長 そのように解されます。
 このように、この事件においては、被告(国)が「客観的」という用語を使ったのは、非常に個別性の高い場面の特殊な事情によるものと解されるわけですが、その後、さいたま地裁の事件においても、「客観的」という用語が意味を替えたまま課税仕入れの区分の判断における一般論であるかのごとく用いられることとなっており、このままでは、これが今後の案件にも大きな影響を与えるおそれがあります。
 このため、課税仕入れの区分の判断の場面でこの事件の被告(国)が用いているような用い方で「客観的」という用語を用いることの是非等については、さいたま地裁判決のところで、改めて詳しく述べることとします。
大石 「客観的」という言葉が、課税実務の現場で一人歩きしてしまい、どのような「目的」のために仕入先との契約を締結していたか、という事業者の「主観」が無視されるのだとすれば、それは問題だと思います。
 もっとも、どのような「目的」のために課税仕入れを行ったか―つまり、どのような目的のために仕入先との契約を締結していたか――という事業者の「主観」は、仕入先や販売先との契約の文言だけで決せられることはないとは思います。それらも含めた様々な間接事実や証拠から、「目的」を認定していくことになろうかなと考えています。
 ここから先は、民事裁判における事実認定と同じ話になりますが、そのような「主観」は、たとえば不法行為における「故意」などと同じように、客観的な間接事実や証拠から認定する必要はあり、当然ながら、「主観」の問題であるからといって、取引の実態から離れて、事業者が恣意的に決定できるものではないと思います。これは、客観的な間接事実や証拠から、不法行為の「故意」があると認定せざるを得ない被告当事者が、当事者尋問の中で、「そんなことをするつもりはなかった」といくら言ってみたところで、それが認められないのと同じです。
 同じように、客観的な間接事実や証拠を踏まえれば、誰が見ても固定資産として取得したと考えざるを得ない居住用建物について、裁判の中で、「棚卸資産として申告を行っていたのであるから、固定資産として取得したとは言えない」という主張をしてみても、やはり認められないと思います。また、事業者が居住用建物を購入したときの契約書において、「買主は分譲(販売)を目的として購入する」ことが明記されていたとしても、それは「販売目的」という「主観」を認定するときの証拠の一つにはなりえますが、それだけで「販売目的」の有無が決せられることはないだろうと思います。結局、事業計画などの証拠や、周辺の間接事実―たとえば、販売活動をいつ頃から開始したか――などから、「販売目的」という「主観」を認定していくのだろうと考えています。
 なお、少し別の観点になってしまいますが、この東京地裁判決では、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」という文言の解釈について、さきほどの国税不服審判所の裁決と同じく、「直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」を指す、という最も重要な解釈がそもそも示されていないという点が気になっています。
 もっとも、この事案において問題となっている課税仕入れは、融資スキーム構築に関する銀行への手数料や、弁護士報酬の支払いなどであり、また、売上げは、割賦元本部分と利息部分(非課税売上げ)によって構成される施設整備の対価だったので、今回問題となっている居住用建物の仕入れと比較すると、費用と収益の対応関係がわかりやすい事案であり、敢えてそのような解釈を示す必要がなかったということかもしれません。

原告(納税者)は、非課税売上げは「本質的」なものではないため判断の基準とはならないと主張 ――東京地裁の事件においては、原告(納税者)は「最終的」な「目的」で判定するべきであるという主張をしていないということですが、一応、原告(納税者)がどのような主張をしていたのかということを確認しておきたいと思います。原告は、どのような主張をしていたのでしょうか。
朝長 この事件では、割賦金利という非課税売上げが発生するために、課税仕入れが「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当するという判断で課税が行われているわけですが、それに対する原告(納税者)の主張を判決文から引用すると、次のとおりです。
原告の本質的な事業は、本件施設の整備に関する対価と維持管理に関する対価を得るためのものであり、本件割賦金利を得るためのものではない。
本件事業に係る取引にとって本質部分ではない本件割賦金利の存在をもって、結果的に、原材料費に過ぎない本件課税仕入れに係る消費税額の控除を認めないとすることは、消費税の本質に反した二重課税との批判を免れないものである。
――原告(納税者)は、「本質的」や「本質部分」という基準で課税仕入れが3つの区分の内のいずれに該当するのかという判断をするという解釈を前提にして主張を行っていたわけですね。
朝長 原告(納税者)の主張には、「目的」という用語を用いてはいないものの、その主張内容からすると、「目的」を判断の基準と考えていると解することができるというところもあれば、「目的」ではなく「本質的」であるのか否かということを判断の基準と考えていると解することができるというところもあります。


 「目的」で判断するというのも、「本質的」か否かで判断するというのも、どちらも同じではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。
 「目的」で判断するということは、「結果」で判断しないということを意味しますが、「本質的」か否かで判断するということは、「目的」にも「結果」にも「本質的」か否かという判断があり得ますので、「結果」で判断しないということを意味するわけではありません。
 要するに、原告(納税者)の主張は、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈を争点とするということを経ていないため、「目的」で判断するという土俵がない状態の主張になっているということです。
 また、そもそも「本質的」か否かという基準で判断するという解釈に疑問がある、という根本的な問題もあります。
大石 先ほど申し上げたとおり、東京地裁は、割賦金利が施設整備の対価であるか否かという文脈では、契約に依拠する一方で、個別の課税仕入れが割賦金利と対応しているか否かという文脈では、契約の記載によって左右されない、という結論を導いています。
 割賦金利が「本質的」かどうかという点は、最初のポイント、つまり、割賦金利が施設整備の対価であるといえるかという文脈で問題となっており、2つ目の費用・収益の対応関係とは少し違うところで議論されているようにも思います。原告(納税者)は、割賦金利は施設整備の対価(収益)であるとはいえないから、そもそも、課税仕入れとの対応関係を検討する必要がない、ということが言いたかったのではないかと考えています。
 もし、納税者として、割賦金利に対価性がないという整理にしたかったのであれば、もともと、徳島県との契約において、施設整備に対する対価を、10億5098万6000円ではなく、9億4950万円と合意した上で、それとは別途、9億4950万円の代金債権を原債権とする準消費貸借契約を締結し、その中で、金利の定めを置けばよかったのかもしれません。また、この事案でどこまで説得力があるかはわかりませんが、徳島県との契約はそのような2つの契約からなるものだった、という裁判上の主張もあり得たのかもしれません。
 いずれにせよ、2つ目のポイント、つまり、個別の課税仕入れが割賦金利と対応しているか否かという点については、朝長先生ご指摘のとおり、事業者の「目的」がメルクマールになってくると考えています。
 なお、判決では、割賦金利が施設整備の対価であるか否かというポイントと、個別の課税仕入れが割賦金利と対応しているかというポイントが区別されていますが、費用・収益の対応関係を考える上で、そもそも両者を区別するというアプローチが本当に正しいかという点は、ちょっとよくわからないところだと思っています。

判決は、先に被告(国)の主張のとおりの結論があって書かれたもの ――原告(納税者)の主張は今一つ的確性を欠くことから採用し難いということが分かりましたが、被告(国)の「客観的」に判断するべきという主張は、大きな問題があると考えられるにもかかわらず、何故採用されたのでしょうか。
朝長 判決文においては、「合理的」という用語を「客観的」という用語に差し替えているにもかかわらず、そのような差替えを行う理由等が全く述べられておらず、「客観的」という用語が当然の如く用いられています。 
 この一点だけからしても、この判決文は初めから被告(国)の主張のとおりとするという結論があって書かれたものではないのか、という疑問が湧いてきます。
――初めから被告(国)の主張のとおりとするという結論があったため、ということですか。
朝長 そのような疑問があるということです。
 原告(納税者)と被告(国)の訴状・答弁書・準備書面・証拠資料を読んだ上で判決文を読んでみると、判決文にはかなりの物足りなさを感じます。
 その原因が何かということを考えてみると、それは、判決文が被告(国)の主張を言い方を変えただけでそのまま用いているように見受けられることに原因があると考えられます。
 この事件に関しては、判決文だけからは分かりにくいところがありましたので、原告(納税者)にお会いして、資料を頂いたり、遣り取りをさせて頂いたりしましたが、原告(納税者)も、この判決に対しては、「国の言うとおりに書いているだけだ!」ということで、非常に強い不満を持っておられました。
――判決文が被告(国)の主張の言い方を変えただけのものとなっていたりすると、原告(納税者)には、どういうことが行われたのかということが直ぐに分かってしまうでしょうね。
朝長 そうですね。
 確かに、この事件において争われた諸費用に関しては、設立費用などのように、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」にはなり難いと思われるものが含まれていることは間違いないわけですが、しかし、「客観的」という用語の件のように、被告(国)が主張していることが全て正しいということでもないと考えられます。
 税務訴訟の判決においては、被告(国)の主張をそのまま書いただけというものが少なからずあるように思われますが、そのようなことは、もうそろそろ終わりにしてもらいたいな、というのが偽らざる実感です。
大石 そうですね。税務訴訟においては、裁判所が国側の主張を追認する傾向にあることは、残念ながら、否めないところかと思っています。
 その理由はいろいろあると思いますが、一般的な裁判官からすると、税法が技術的で難易度の高い法分野であるにもかかわらず、そのトレーニングを体系的に受けたことがなく、単純に、とっつきにくい分野なのだろうと思います。もっとも、これは、多くの弁護士にとっても同じことではありますが……。また、定着した課税実務を否定した場合に想定される波及効果があまりにも大きいことから、どうしても現状維持の判断になりやすい面があるのかなと思っています。
 そのような流れを変えるためには、日本においても、他の先進国と同じように、税法のトレーニングを積んだ裁判官が活躍する、租税裁判所がどうしても必要になってくるのだろう、と感じています。
朝長 私も、全く同感です。
 我が国にも、アメリカやドイツのような税務訴訟を専門に扱う裁判所が早くできると良いですね。
 (第3回に続く)

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