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解説記事2018年05月28日 【SCOPE】 遺産分割成立による更正請求、相続財産の評価で納税者が勝訴(2018年5月28日号・№740)

取消判決による評価額等は課税当局を拘束
遺産分割成立による更正請求、相続財産の評価で納税者が勝訴

 遺産未分割のため法定相続分により行った相続税の申告に対し課税当局が行った更正処分が判決により取り消された後に、遺産分割協議の成立により更正の請求を行う際の相続財産の評価方法などが問題となった事案で東京地裁は平成30年1月24日、納税者に対する増額更正(相続税約19億円)を取り消す判決を下した。本件の発端は、実務家の強い関心が寄せられた株式保有特定会社の25%ルールの合理性をめぐる注目事件である。同事件で裁判所は、株式保有割合25%以上であれば一律に純資産価額方式等により評価すべき旨を規定した評価通達は不合理である旨を判示したうえで、大会社であるX社の株式を類似業種比準方式により1株4,653円と認定した。本件で問題となったのは、遺産分割協議の成立によりX社株式を1株4,653円(前件取消判決の認定額)と評価して更正の請求を行った納税者に対して、課税当局がX社株式を1株11,185円(納税者の当初申告額)と評価するなどした本件更正処分等の適法性である。東京地裁は、後の更正の特則(相法32一、35③)に係る事件にも取消判決の拘束力が及ぶとしたうえで、X社株式を1株4,653円により相続税法32条1号及び35条3項の計算をするのが相当であると判断した。

株式保有特定会社の25%ルールの合理性をめぐる注目事件が本件の発端に
 事実関係をみていくと、納税者は、他の相続人との間で遺産分割協議が成立しなかったことから、相続税法55条(未分割遺産に対する課税)の規定により相続分の割合(7分の1)に従って財産を取得したものとして、X社株式を1株11,185円とする相続税の期限内申告書を提出した。
 これに対し課税当局は、相続財産であるX社(大会社であり、株式保有割合25.9%)の株式が評価通達が規定する株式保有特定会社(株式保有割合25%以上)に該当するとして、純資産価額方式等により1株19,002円とする更正処分を行った。これを不服とした納税者の訴えに対し裁判所は、株式保有割合25%以上であれば一律に純資産価額方式等により評価すべき旨を規定した評価通達は不合理である旨を判示したうえで、X社は株式保有特定会社に該当せず類似業種比準方式により評価すべきと結論付けていた(東京地裁平成24年3月2日判決及び東京高裁平成25年2月28日判決・本誌442号9頁、490号8頁参照)。なお、裁判所は、類似業種比準方式によりX社株式の評価額を1株4,653円と認定している。
 国税庁長官は、この高裁判決を受けて評価通達における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準を25%以上から50%以上に改正し、これを平成25年5月に公表した(本誌502号8頁参照)。だが、納税者は、更正処分の法定の制限期間が経過していたことから、評価通達の改正に伴う更正の請求をすることはできなかった。
 その後、納税者は、遺産分割調停の成立により、X社株式の7分の6を取得することになった。納税者以外の他の相続人が遺産分割調停の成立により更正の請求の特則(相法32一)による更正の請求を行う一方で、納税者はX社株式を1株当たり4,653円と評価するなどした更正の請求を行った。
 これに対し課税当局は、他の相続人に対して減額更正を行う一方で、納税者に対しては更正又は決定の特則(相法35③)に基づきX社株式を1株11,185円(納税者の当初申告額)と評価するなどした本件更正処分等(増額更正)を行った。
 この本件更正処分等の取り消しを求めて提訴した納税者側(原告)に対して国側(被告)は、相続税法35条3項に基づく更正では納税者の当初申告におけるX社株式の評価の誤りに係る過誤の是正をすることは許されないなどと指摘し、納税者による当初申告額であるX社株式を1株11,185円とした本件更正処分等は適法であると主張した。

国側が全面敗訴、約19億円の課税取り消しも国側は控訴を提起
 東京地裁はまず、相続税法32条1号に基づく更正の請求の場合は申告等における個々の財産の価額の評価の誤りがあったことなどを主張することができないものと解されるとしたうえで、同号に基づく更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額はまずは申告における価額になるというべきであるとした。また、相続税法35条3項による更正又は決定の場合も、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額はまずは申告における価額になるというべきであるとした。
 一方で地裁は、本件のように相続税の申告後に個々の財産の価額を変更する更正処分がされたうえ、その更正処分の取消しの訴えがその申告をした相続人によって提起され、この財産の評価方法ないし価額が争点となり、判決がこの点について認定・判断をし、課税価格等につき更正処分における金額と異なる金額を認定して更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、課税当局が取消判決の説示に従って改めて個々の財産の価額を変更する更正処分をしておくことが考えられるが、判決確定時点において更正処分の法定の制限期間が経過しているときはそのような処理をすることができないと指摘。
 そしてこのような場合について地裁は、個々の財産の評価方法や価額に係る認定・判断に判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断として行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生じているということができるから、後の更正の請求(相法32一)又は更正処分(相法35③)に係る事件についても「その事件」(行訴法33①)として取消判決の拘束力が及ぶものと解するのが相当であって、課税当局は判決で変更された個々の財産の評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならないとした。
 以上を踏まえ地裁は、前件取消判決で東京地裁及び東京高裁が認定したX社株式の1株当たりの価額4,653円により相続税法32条1号及び35条3項の計算をするのが相当であるとしたうえで、1株11,185円とした本件更正処分等は違法であると結論付けた。

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