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解説記事2018年06月04日 【新会計基準解説】 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表について(2018年6月4日号・№741)

新会計基準解説
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表について
 企業会計基準委員会 専門研究員 島田謡子
 企業会計基準委員会 専門研究員 岩堀光昇

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「本適用指針」という。)を平成30年3月30日に公表した。本稿では、本会計基準及び本適用指針(以下合わせて「本会計基準等」という。)の概要を紹介する(脚注1)。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

Ⅱ 公表の経緯
 我が国においては、企業会計原則に、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの、収益認識に関する包括的な会計基準は開発されていなかった。一方、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic 606(脚注2))を平成26年5月に公表している。
 これらの状況を踏まえ、ASBJは、平成27年3月に開催された第308回企業会計基準委員会において、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し検討を開始した。その後、適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(以下「意見募集文書」という。)を平成28年2月に公表した。
 ASBJは、意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ、課題の抽出を行い、それらを検討したうえで、企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」を平成29年7月に公表して広く意見を求めた。本会計基準等は、公開草案に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正したうえで公表するに至ったものである。

Ⅲ 本会計基準等の開発の意義
 収益認識に関する包括的な会計基準の開発には、次の意義があると考えられる。
 (1)我が国の会計基準の体系の整備
 (2)企業間の財務諸表の比較可能性の向上
 (3)企業により開示される情報の充実
 なお、ASBJは、中期運営方針を平成28年8月に公表しており、当該中期運営方針においては、我が国の上場企業等で用いられる会計基準の質の向上を図るために、日本基準を高品質で国際的に整合性のとれたものとして維持・向上を図ることを方針として掲げている。本会計基準等の内容は、当該中期運営方針に沿ったものであり、国内外の企業間の財務諸表の比較可能性を高め、日本基準を高品質で国際的に整合性のあるものとすることに資するものと考えられる。

Ⅳ 本会計基準等の開発にあたっての基本的な方針
 ASBJでは、収益認識に関する会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、IFRS第15号と整合性を図る便益の1つである財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、会計基準を定めることとした。また、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加することとした。
 これらの基本的な方針の下、連結財務諸表については、IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れることとした。その理由は、次のとおりである。
 (1)収益認識に関する会計基準の開発の意義の1つとして、国際的な比較可能性の確保が重要なものと考えられること
 (2)IFRS第15号は、5つのステップに基づき、履行義務の識別、取引価格の配分、支配の移転による収益認識等を定めており、部分的に採用することが困難であると考えられること
 さらに、個別財務諸表については、次を理由に、基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定めることを開発の方針とした。
 (1)ASBJがこれまでに開発してきた会計基準では、基本的に連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定めてきたこと
 (2)連結財務諸表と個別財務諸表で同一の内容としない場合、連結財務諸表作成時の連結調整に係るコストが生じる。一方、連結財務諸表と個別財務諸表で同一の内容とする場合、中小規模の上場企業や連結子会社等における負担が懸念されるが、重要性等に関する代替的な取扱いの定めを置くこと等により一定程度実務における対応が可能となること
 なお、他の会計基準と同様に、重要性が乏しい取引には、本会計基準等を適用しないことができる。また、重要性等に関する代替的な取扱いを適用するにあたっては、個々の項目の要件に照らして適用の可否を判定することとなるが、企業による過度の負担を回避するため、金額的な影響を集計して重要性の有無を判定する要件は設けていない。

Ⅴ 適用範囲
 本会計基準等は、金融商品に係る取引やリース取引等を除き、顧客(脚注3)との契約(脚注4)から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用され、当該収益に関する会計処理については、「企業会計原則」に優先する(本会計基準第1項及び第3項)。
 また、本会計基準等においては、棚卸資産や固定資産等、コストの資産化等の定めが国際財務報告基準(IFRS)の体系とは異なるため、IFRS第15号における契約コストの定めを範囲に含めていないが、IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業等においては、IFRS第15号又はTopic 606における契約コストの定めに従った処理をすることも妨げられないとしている(本会計基準第109項)。

Ⅵ 会計処理

1 基本となる原則
 本会計基準等の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することであり、本会計基準等では、当該原則に従って収益を認識するために、次の5つのステップを示している(本会計基準第16項及び第17項)。
ステップ1:顧客との契約を識別する。
ステップ2:契約における履行義務を識別する。
ステップ3:取引価格を算定する。
ステップ4:契約における履行義務に取引価格を配分する。
ステップ5:履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。
 上記の5つのステップの適用について、簡単な取引例を用いて説明すると図表1のとおりである。

【図表1】取引例への5つのステップの適用(商品の販売と保守サービスの提供)
 当期首に、企業は顧客と、標準的な商品Xの販売と2年間の保守サービスを提供する1つの契約を締結し、当期首に商品Xを顧客に引き渡し、当期首から翌期末まで保守サービスを行う。契約書に記載された対価の額は12,000千円である。
ステップ1 顧客との契約を識別する。
ステップ2 商品Xの販売と保守サービスの提供を履行義務として識別し、それぞれを収益認識の単位とする。
ステップ3 商品Xの販売及び保守サービスの提供に対する取引価格を12,000千円と算定する。
ステップ4 商品X及び保守サービスの独立販売価格に基づき、取引価格12,000千円を各履行義務に配分し、商品Xの取引価格は10,000千円、保守サービスの取引価格は2,000千円とする。
ステップ5 履行義務の性質に基づき、商品Xの販売は一時点で履行義務を充足すると判断し、商品Xの引渡時に収益を認識する。また、保守サービスの提供は一定の期間にわたり履行義務を充足すると判断し、当期及び翌期の2年間にわたり収益を認識する。
 上記の結果、企業が当該契約について当期(1年間)に認識する収益の額は次のとおりである。

 また、図表2は、当該取引例に5つのステップを適用した場合のフローを示すものである。

 以下において、5つのステップ(収益の認識基準についは、ステップ1、2及び5、収益の額の算定については、ステップ3及び4)における主な項目等について、本会計基準等の概要を説明する。

2 契約の識別(ステップ1)  本会計基準等を適用するにあたっては、次の要件のすべてを満たす顧客との契約を識別する(本会計基準第19項)。
 (1)当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
 (2)移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
 (3)移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
 (4)契約に経済的実質があること
 (5)顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと

3 契約の結合(ステップ1)  本会計基準等では、同一の顧客等と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、次のいずれかに該当する場合には、当該複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理する(本会計基準第27項)。
 (1)当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
 (2)1つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受けること
 (3)当該複数の契約において約束した財又はサービスが、単一の履行義務と判断されること
 ただし、契約書に客観的な合理性を認め、企業による過度の負担を回避するために、契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分を認めるべきであるとの意見を踏まえ、契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分に対する代替的な取扱いとして、次の(1)及び(2)のいずれも満たす場合には、複数の契約を結合せず、個々の契約において定められている顧客に移転する財又はサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約において定められている当該財又はサービスの金額に従って収益を認識することができる(本適用指針第101項)。
 (1)顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められること
 (2)顧客との個々の契約における財又はサービスの金額が合理的に定められていることにより、当該金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められること
 また、工事契約及び受注制作のソフトウェアに対する代替的な取扱いとして、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約(異なる顧客と締結した複数の契約や異なる時点に締結した複数の契約を含む。)を結合した際の収益認識の時期及び金額と当該複数の契約について契約の結合及び履行義務の識別の定めに基づく収益認識の時期及び金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には、当該複数の契約を結合し、単一の履行義務として識別することができる(本適用指針第102項及び第103項)。

4 契約変更(ステップ1)  本会計基準等では、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格の変更である契約変更については、別個の財又はサービスの追加により契約の範囲が拡大される等、一定の要件を満たす場合には、独立した契約として処理する(本会計基準第30項)。独立した契約として処理されない場合に、未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものであるときには、契約変更を既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理し、別個のものでないときには、契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理する(本会計基準第31項)。
 ただし、代替的な取扱いとして、契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合には、契約変更の処理としていずれの方法も適用することができる(本適用指針第92項)。

5 履行義務の識別(ステップ2)  本会計基準等では、契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する(本会計基準第32項)。
 (1)別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)
 (2)一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)
 顧客に約束した財又はサービスが別個のものとされるのは、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があり、かつ、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなる場合である(本会計基準第34項)。
 ただし、代替的な取扱いとして、約束した財又はサービスが、顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合には、当該約束が履行義務であるのかについて評価しないことができる(本適用指針第93項)。また、顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、商品又は製品を移転する約束を履行するための活動として処理し、履行義務として識別しないことができる(本適用指針第94項)。これらの代替的な取扱いは、米国会計基準の定めを参考としたものである。

6 履行義務の充足による収益の認識(ステップ5)  本会計基準等では、約束した財又はサービス(本会計基準等において「資産」と記載されることがある。)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである(本会計基準第35項)。
 また、資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)をいう(本会計基準第37項)。

(一定の期間にわたり充足される履行義務)  次の要件のいずれかを満たす場合、一定の期間にわたり充足される履行義務として、一定の期間にわたって収益を認識する(本会計基準第38項)。
 (1)企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
 (2)企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
 (3)次の要件のいずれも満たすこと
  ① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
  ② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
 ただし、特定の財又はサービスに対する代替的な取扱いを定めており、まず、工事契約及び受注制作のソフトウェアについては、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができる(本適用指針第95項及び第96項)。また、船舶による運送サービスについては、一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が海運における通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船廻航期間を含み、運送サービスの履行を目的としない船舶の移動又は待機期間を除く。)である場合には、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務としたうえで、当該期間にわたり収益を認識することができる(本適用指針第97項)。

(一時点で充足される履行義務)  一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たさない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識する(本会計基準第39項)。当該時点を決定するにあたっては、例えば、次の指標を考慮する(本会計基準第40項)。
 (1)企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること
 (2)顧客が資産に対する法的所有権を有していること
 (3)企業が資産の物理的占有を移転したこと
 (4)顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
 (5)顧客が資産を検収したこと
 ただし、代替的な取扱いとして、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができる。なお、ここでいう通常の期間である場合とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいい、国内における配送においては、数日間程度の取引が多いものと考えられる(本適用指針第98項)。

(履行義務の充足に係る進捗度)  一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識する(本会計基準第41項)。履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、当該進捗度を合理的に見積ることができる時まで、原価回収基準(脚注5)により処理する(本会計基準第45項)。
 ただし、代替的な取扱いとして、契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には、当該契約の初期段階に収益を認識せず、当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができる(本適用指針第99項)。

7 取引価格の算定(ステップ3)  本会計基準等では、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、取引価格(脚注6)のうち、当該履行義務に配分した額について収益を認識する(本会計基準第46項)。取引価格の算定においては、変動対価、契約における重要な金融要素、顧客に支払われる対価等の影響を考慮する(本会計基準第48項)。

(変動対価)  顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を「変動対価」(脚注7)という。顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積る(本会計基準第50項)。その見積りにあたっては、最頻値(発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額)による方法又は期待値(発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額)による方法のいずれかのうち、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いる(本会計基準第51項)。
 変動対価の額については、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含め、各決算日に見直す(本会計基準第54項及び第55項)。
 なお、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない「可能性が高い」とは、計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が発生する可能性よりも高いという状況に比べ、発生しない可能性が著しく高い状況を示し、IFRSにおける“highly probable”と同程度の可能性を示している。この点、公開草案では、「可能性が非常に高い」との表現を用いていたが、「可能性が非常に高い」との表現が示す可能性の程度を明確にすべきであるとの意見が寄せられた。当該意見を踏まえ、IFRSにおける可能性の程度及び我が国における他の会計基準等で用いられている表現に鑑み、「可能性が高い」との表現に変更しているが、この変更は、公開草案から可能性の程度を下げることを意図したものではない。

(契約における重要な金融要素)  財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には、顧客との契約に重要な金融要素が含まれるものとされ、取引価格の算定にあたって、約束した対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する(本会計基準第56項及び第57項)。
 ただし、財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には、重要な金融要素の影響について約束した対価の額を調整しないことができる(本会計基準第58項)。

(顧客に支払われる対価)  顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、次のいずれか遅い方が発生した時点で、収益から減額する(本会計基準第63項及び第64項)。
 (1)関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時
 (2)企業が対価を支払うか又は支払を約束する時

8 履行義務への取引価格の配分(ステップ4)  本会計基準等では、履行義務の基礎となる別個の財又はサービスの契約における取引開始日の独立販売価格(脚注8)の比率に基づき、それぞれの履行義務に取引価格を配分する(本会計基準第66項及び第68項)。
 財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合には、合理的に入手できるすべての情報を考慮し、独立販売価格を見積る(本会計基準第69項)。その見積方法には、例えば、調整した市場評価アプローチ、予想コストに利益相当額を加算するアプローチ、残余アプローチがある。残余アプローチは、取引価格の総額から他の財又はサービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積る方法であり、販売価格が大きく変動する場合又は販売価格が確定していない場合にのみ使用できる(本適用指針第31項)。
 ただし、代替的な取扱いとして、上記の限定的な残余アプローチの使用要件にかかわらず、履行義務の基礎となる財又はサービスが、契約における他の財又はサービスに付随的なものであり、重要性が乏しいと認められるときには、当該財又はサービスの独立販売価格の見積方法として、残余アプローチを使用することができる(本適用指針第100項)。

9 契約資産、契約負債及び債権  顧客から対価を受け取る前又は対価を受け取る期限が到来する前に、財又はサービスを顧客に移転した場合は、収益を認識し、契約資産(脚注9)又は債権(脚注10)を貸借対照表に計上する(本会計基準第77項)。また、財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債(脚注11)を貸借対照表に計上する(本会計基準第78項)。なお、早期適用の段階における貸借対照表の表示については、Ⅶ1「表示」に記載している。

10 特定の状況又は取引における取扱い  本会計基準等では、特定の状況又は取引について適用される指針を定めており、以下では、本人と代理人の区分(総額表示又は純額表示)、追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ポイント制度等)、ライセンスの供与及び買戻契約について説明する。

(本人と代理人の区分(総額表示又は純額表示))  顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合において、顧客との約束が当該財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であると判断され、企業が本人に該当するときには、対価の総額で収益を認識する。顧客との約束が当該財又はサービスを当該他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であると判断され、企業が代理人に該当するときには、手数料の金額又は純額で収益を認識する(本適用指針第39項及び第40項)。図表3に、本人と代理人の区分のイメージを示している。


(追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ポイント制度等))  顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合に、当該オプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときには、当該オプションについて履行義務として識別し、当該履行義務に配分された取引価格について収益の認識を繰り延べる(本適用指針第48項)。図表4に、企業が商品の販売時に顧客に対してポイントを付与する場合の会計処理のイメージを示している。また、本適用指針には、我が国に特有な取引等についての設例として、他社が運営するポイントプログラムに参加している企業における他社ポイントの付与に係る設例を設けている。


(ライセンスの供与)  ライセンス(脚注12)を顧客に供与する約束が独立した履行義務である場合に、その約束の性質が、ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利を提供するものであるときには、一定の期間にわたり充足される履行義務として処理する。ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利を提供するものであるときには、一時点で充足される履行義務として処理する(本適用指針第62項)。図表5に、ライセンスの供与に係る会計処理のイメージを示している。

 また、ライセンス供与に対して受け取る売上高又は使用量に基づくロイヤルティが知的財産のライセンスのみに関連している等の場合には、次のいずれか遅い方で、当該売上高又は使用量に基づくロイヤルティについて収益を認識する(本適用指針第67項)。
 (1)知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時
 (2)売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時

(買戻契約)  買戻契約とは、企業が商品又は製品を販売するとともに、同一の契約又は別の契約のいずれかにより、当該商品又は製品を買い戻すことを約束するあるいは買い戻すオプションを有する契約であり、契約条件に応じて、リース取引、金融取引又は返品権付きの販売として処理する(本適用指針第69項から第74項)。
 なお、我が国においては、企業が、対価と交換に原材料等(以下「支給品」という。)を外部(以下「支給先」という。)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む。以下同じ。)を購入する場合があり、これら一連の取引は、一般的に有償支給取引と呼ばれている。
 公開草案に対して、有償支給取引の取扱いに関する懸念等が寄せられたことを踏まえ、有償支給取引に係る処理については、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する必要があることを示したうえで、図表6のとおりとしている(本適用指針第104項)。

【図表6】有償支給取引の会計処理
買戻義務の有無 支給品の会計処理 支給品の譲渡に係る収益
買戻義務あり  支給品の認識を継続する。
 ただし、代替的な取扱いとして、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる。
 収益を認識しない。
(支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益の二重計上を避けるため)
買戻義務なし  支給品の消滅を認識する。 同 上

 また、特定の状況又は取引における取扱いに関するその他の主な項目の概要は、図表7に記載している。

【図表7】その他の主な特定の状況又は取引における取扱いの概要
主な項目 概  要
財又はサービスに対する保証  財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証のみである場合、企業会計原則注解(注18)に定める引当金として処理する。顧客にサービスを提供する保証である場合、履行義務として識別する(本適用指針第34項及び第35項)。
顧客により行使されない権利(商品券等)  顧客が使用しないと見込む部分について、将来において企業が権利を得ると見込む場合には、顧客の権利行使と比例的に収益を認識する。将来においても企業が権利を得ると見込まない場合には、顧客が使用する可能性
返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払  契約における取引開始日又はその前後に、顧客から返金が不要な支払(例えば、スポーツクラブ会員契約の入会手数料)を受領し、それが約束した財又はサービスの移転を生じさせるものでない場合には、将来の財又はサービスの前払いとして、当該将来の財又はサービスを提供する時に収益を認識する(本適用指針第58項)。
返品権付きの販売  変動対価に関する定めに従って予想される返品部分を見積り、当該部分については販売時に収益を認識せず、返金負債を認識する(本適用指針第85項)。

11 工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い  工事契約及び受注制作のソフトウェアについては、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」を踏襲した工事損失引当金の定めを設けている。なお、工事損失引当金の認識の単位は、工事契約の収益認識の単位と同一である(本適用指針第90項及び第91項)。

Ⅶ 開 示

1 表 示
 契約資産、契約負債又は債権は、適切な科目をもって貸借対照表に表示する。契約資産と債権を貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記する(本会計基準第79項)。ただし、早期適用の段階では、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができる(本会計基準第88項)。
 本会計基準等に従って認識される収益の表示科目については、現在、表示科目として一般的に用いられている売上高が他の関連する法令等においても広く用いられているものであり、仮にその名称を変更する場合には影響が広範に及ぶこと等から、注記事項と合わせて強制適用時までに検討することとしている。なお、早期適用の段階では、現在用いられている表示科目を継続して用いることができる。
 また、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響の区分表示の要否についても、同じく強制適用時までに検討することとしている。

2 注記事項  早期適用の段階では、IFRS第15号に対する各国の早期適用の事例等が限定的であり、IFRS第15号の注記事項の有用性とコストの評価を十分に行うことができないため、必要最低限の定めを除き、注記事項を定めないこととし、強制適用時までに、注記事項の定めを検討することとしている。
 本会計基準等では、早期適用の段階では、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記する。当該注記を重要な会計方針の注記として開示すべきか否かについては、強制適用時までに他の注記事項の検討と合わせて整理するが、実務の混乱を避けるため、早期適用の段階では個別の注記として開示する(本会計基準第80項)。

Ⅷ 適用時期等

1 適用時期
 本会計基準等では、適用時期を次のとおり定めている。
(1)強制適用時期(本会計基準第81項)  収益認識に関する会計処理は日常的な取引に対して行われるものであり、本会計基準等の適用により、企業が経営管理及びシステム対応を含む業務プロセスを変更しなければならない可能性が生じるため、それに対応するための十分な準備期間を勘案し、平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。
(2)早期適用時期(本会計基準第82項及び第83項)  IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業のニーズを勘案し、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。
 また、平成30年12月31日に終了する連結会計年度及び事業年度から平成31年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することもできる。この場合、早期適用した連結会計年度及び事業年度の翌年度に係る四半期(又は中間)連結財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表においては、早期適用した連結会計年度及び事業年度の四半期(又は中間)連結財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表について、本会計基準等を当該年度の期首に遡って適用する。

2 経過措置  本会計基準等では、次の経過措置を定めている。
(1)適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する(本会計基準第84項)。
(2)ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができる(本会計基準第84項ただし書き)。
 なお、上記(1)と(2)の方法に対して、IFRS第15号及びTopic 606を参考とした実務上の負担を軽減する取扱いを定めている。
(3)IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に適用する場合には、適用初年度において、IFRS第15号又はTopic 606のいずれかの経過措置の定めを適用することができる(本会計基準第87項)。
(4)IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に適用する場合には、適用初年度において、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」における収益に関する経過措置の定めを適用することができる(本会計基準第87項)。
 また、本会計基準等における取引価格の定義に従って、適用初年度において、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うが、この場合、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができる(本会計基準第89項)。

Ⅸ おわりに
 収益認識は、基本的にすべての企業に関係する事項であり、本会計基準等の適用によって企業の財務報告や経営管理等に重要な影響が生じる可能性がある。そのため、本会計基準等の強制適用までに約3年の準備期間があるものの、早い段階で本会計基準等の適用に向けた検討に着手していただくよう、関係者の皆様のご理解とご協力をお願いしたい。

脚注
1 本会計基準等の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2018/2018-0330.html)を参照のこと。
2 FASB Accounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 606「顧客との契約から生じる収益」
3 「顧客」とは、対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者をいう(本会計基準第6項)。
4 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう(本会計基準第5項)。
5 「原価回収基準」とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいう(本会計基準第15項)。
6 「取引価格」とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいう(本会計基準第8項)。
7 変動対価が含まれる取引の例としては、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等がある。
8 「独立販売価格」とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいう(本会計基準第9項)。
9 「契約資産」とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、債権を除く。)をいう(本会計基準第10項)。
10 「債権」とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)をいう(本会計基準第12項)。
11 「契約負債」とは、財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているものをいう(本会計基準第11項)。
12 ライセンスは、企業の知的財産に対する顧客の権利を定めるものであり(本適用指針第61項)、知的財産のライセンスには、例えば、次のものに関するライセンスがある。
(1)ソフトウェア及び技術
(2)動画、音楽及び他の形態のメディア・エンターテインメント
(3)フランチャイズ
(4)特許権、商標権及び著作権

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