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解説記事2018年09月10日 【ニュース特集】 非上場株式の低額譲渡課税で納税者勝訴の逆転判決(2018年9月10日号・№754)

ニュース特集
個人が関係法人へ譲渡した株式の「時価」が問題に
非上場株式の低額譲渡課税で納税者勝訴の逆転判決

 個人から法人への非上場株式の譲渡をめぐり、配当還元方式により評価した譲渡価額が低額譲渡に該当するか否かが争われた税務訴訟で東京高裁は平成30年7月19日、低額譲渡課税を支持した一審判決を変更し、課税処分を取り消す判決を下した(納税者逆転勝訴)。高裁は、評価通達188の(3)の株主区分の判定は株式譲渡者の譲渡直前の議決権割合によるべき(本件は類似業種比準方式で評価すべき)とした国側の主張(一審判決は国側の主張を支持)を斥けたうえで、株主区分の判定は株式取得者の取得後の議決権割合によるべき(本件は配当還元方式で評価すべき)とした納税者側の主張を認める判断を示した。なお逆転敗訴した国側は上告受理申立てをしている。国側が主張した通達の解釈を否定した控訴審判決が確定すれば、他の類似事案に影響を及ぼす可能性があるだけに、最高裁の判断に注目が集まりそうだ。

配当還元方式の適用をめぐり所基通及び評価通達の解釈で争い
 本件の発端は、非上場会社であるA社(大会社)の代表取締役である被相続人が平成19年8月にA社株式を関係会社であるB社に対して、配当還元方式による評価により1株当たり75円(合計約5,400万円)で譲渡したことに始まる。被相続人が平成19年12月に死亡しことにより、被相続人の平成19年分の所得税の納税義務を承継した相続人である納税者は、A社株式を配当還元方式により1株当たり75円と評価したうえで所得税の準確定申告書を提出した。これに対し税務署は、A社株式は類似業種比準方式により評価すると1株2,505円になることから低額譲渡(所法59①二)に該当するとして、納税者に対し被相続人の所得税に係る更正処分等を行った。
 裁判のなかで主な争点となったのは、被相続人がB社に譲渡したA社株式が配当還元方式により評価される「同族株主以外の株主等が取得した株式」(評価通達188の(3))に該当するか否かという点である(株式譲渡前後のA社の株主構成は図表1、関係通達は図表2及び図表3参照)。


【図表2】みなし譲渡(低額譲渡)所得課税における時価の算定
所基通59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
 ……原則として、次によることを条件に、財産評価基本通達の178から189−7まで(取引相場のない株式の評価)の例により算定した価額とする。
(1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
(2)~(4) 省略

【図表3】配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等が取得した株式」の類型
評価通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)
(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式(以下略)
(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(略)の取得した株式(以下略)
(3) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
(4) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(略)の取得した株式
(注) 「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(略)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(略)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう(評価通達188の(1))。

 国側は、所基通59-6の(1)に基づき譲渡人(被相続人)の譲渡直前の議決権割合により株主区分を判定すべきであると指摘。株式譲渡直前における被相続人及びその親族(同族関係者)のA社の議決権割合は15%以上(22.79%)であることから「同族株主以外の株主等が取得した株式」(評価通達188の(3))に該当せず、大会社の原則的評価方法である類似業種比準方式により評価すべきと主張した。一方で納税者側は、評価通達188の(3)に該当するか否かの株主区分の判定はその文言どおり株式の取得者(B社)の取得後の議決権割合により行うべきであると指摘。B社の株式取得後の議決権割合は7.88%であり、B社には同族関係者がおらず、その議決権割合はA社の議決権総数の15%未満にとどまるため、配当還元方式により評価すべきと主張した。これに対し一審判決は、納税者側の主張を斥けたうえで、所基通59-6の(1)の条件下における評価通達188の(1)から(4)の議決権割合の判定方法について、株式譲渡者の譲渡直前の議決権割合によるべきであるとした国側の主張を支持する判決を下していた(東京地裁平成29年8月30日判決)。

株主区分は譲受人の議決権割合で判定、本件は配当還元方式で評価
 一審判決を不服とした納税者の控訴に対し東京高裁はまず、所基通59-6の(1)が評価通達に定められた取引相場のない株式の評価方法を適用する際の条件として、「評価通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること」と定めている点は合理性が認められるとした。
会社区分は譲渡人の議決権割合で判定も  一方で高裁は、国側の主張(評価通達188の(2)から(4)までに係る株主区分の判定も、譲渡人の株式譲渡直前の議決権割合により判定すべき旨)については、評価通達188の(2)及び(4)には「株式取得後」と、同(2)から(4)までには「取得した株式」との文言があり、その文理からすると、株式譲渡後の譲受人の議決権割合を述べていることが明らかであると指摘。そのうえで高裁は、評価通達188の(3)の「同族株主のいない会社」に当たるかどうかの判定(会社区分の判定)はそれが同(1)の「同族株主のいる会社」の対概念として定められていることに照らし、所基通59-6の(1)により株式譲渡直前の議決権数により行われるものと解されるとしても、「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」(評価通達188の(3))に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)は、その文言どおり、株式の取得者の取得後の議決権割合により判定されるものと解するのが相当であるとした。
 そして本件について高裁は、A社には株式譲渡直前に議決権総数の30%以上の議決権を有する株主及びその同族関係者は存在しなかったから、同社は「同族株主のいない会社」に当たるとした。また、譲受人であるB社の株式取得後の議決権割合は7.88%であり、B社には同族関係者がおらず、その議決権割合はA社の議決権総数の15%未満にとどまることから、A社株式は評価通達188の(3)の株式に該当するため、配当還元方式(1株当たり75円)により評価すべきと判断。A社株式を類似業種比準方式(1株当たり2,505円)により評価した低額譲渡課税は違法であると結論付けている。

Column 高裁、国側主張の解釈の読み取りは一般納税者には困難
 高裁は、国側の主張のように理解するためには、評価通達188の(2)及び(4)の「株式取得後」との文言を「株式譲渡前」と、同(2)から(4)までの「取得した株式」との文言を「譲渡した株式」とそれぞれ読み替えることを要し、所基通59-6の(1)はそのような読み替えを定めたものと理解することが必要になる点を指摘。この点に関し高裁は、読み替えられて適用される旨を読み取ることは一般の納税者にとっては困難であり、仮に国側が主張するような解釈をとろうとするのであれば、その旨を通達上明確にしておくべきであって、通達の改正等を経ることなく解釈によりその実質的内容を変更することは、通達を信頼して取引等の判断をした納税者に不測の不利益を与えるものであり、相当でないとした。

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