解説記事2018年10月15日 【税制改正解説】 特定の一般社団法人等に対する課税制度の創設と具体的な計算方法(2018年10月15日号・№759)

税制改正解説
特定の一般社団法人等に対する課税制度の創設と具体的な計算方法
 税理士 竹内陽一
 税理士 西山 卓

1 はじめに
 平成30年度税制改正において、特定の一般社団法人等に対する相続税の課税制度が創設された。これに伴い、平成30年7月には関連通達が公表され、申告書付表の新様式も公表された。本稿は、7月に公表されたこれらの情報を踏まえ、特定の一般社団法人等に対する相続税課税の制度を概説する。
 なお、創設された本制度は、持ち分のない法人が既に所有する財産を被相続人から遺贈によって取得したとみなして課税する制度(ストックへの課税)であるが、被相続人から実際に遺贈を受けた財産に課税する制度(脚注1)(フローへの課税)(相法66④)が既に存在する。本稿ではこの関係についても触れながら説明する。なお、文中における意見は筆者の私見であることをお断りする。

2 改正の背景  平成18年の公益法人制度改革によって、営利(剰余金の分配)を目的としない社団と財団について、登記のみによって簡便に法人格を取得できる制度として一般社団法人及び一般財団法人の制度が創設された。
 これらの法人には出資持分が無いため、個人が実質的に法人の財産を支配しておきながら、その個人の相続税課税を回避できる仕組みとなっていた。
 財務省の「税制改正の解説」では、「相続税が課税されないことを喧伝する雑誌・書籍・インターネット記事も多々見受けられるようになりました。」と問題意識(脚注2)が述べられている。

3 改正の内容
(1)創設された制度の概要
① 一定の一般社団法人等の理事等の死亡を要件とし、相続発生時の法人の純資産額をベースに計算した「みなし遺贈財産(ストック)(脚注3)」の価額を課税価格とし、その一般社団法人等に対して相続税を課する。
② その法人に過去に課された相続税等や、「本来遺贈財産(フロー)」について課される相続税等があるときは、①により納付すべき相続税額から控除する。
(2)課税対象となる特定一般社団法人等の判定  課税対象となる特定一般社団法人等の判定は、図1による。

 ① 一般社団法人等の定義《図1(注A)》  「一般社団法人等」とは、一般社団法人又は一般財団法人で、相続開始時において次に該当しない法人をいう(相法66の2②一・相令34④)。
(イ)公益社団法人又は公益財団法人
(ロ)非営利型法人(法法2九の二)
(ハ)証券化スキ-ムに用いられる一定の法人
 ② 特定一般社団法人等の定義《図1(注B)》  「特定一般社団法人等」とは、次の(イ)、(ロ)に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいう(相法66の2②三)。
(イ)相続開始の直前における被相続人に係る同族理事の数(脚注4)の理事の総数のうちに占める割合が2分の1を超えること。
(ロ)相続の開始前5年以内において、被相続人に係る同族理事の数の理事の総数のうちに占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
 ③ 同族理事の定義《図1(注C)》  「同族理事」とは、一般社団法人等の理事のうち、次に該当する理事をいう(相法66の2②二、相令34③)。
(イ)被相続人
(ロ)被相続人の配偶者又は3親等内の親族(《図2①》)

(ハ)被相続人と事実上婚姻関係と同様の事情にある者(事実婚の配偶者)(《図2②》)
(ニ)被相続人の使用人(個人事業者の従業員など)、被相続人から受ける金銭等により生計を維持している者(《図2③》)
(ホ)(ハ)又は(ニ)の者と生計を一にする配偶者又は3親等内の親族(《図2④》)
(ヘ)次の法人の役員又は使用人(従業員)(《図2⑤》)
 a 被相続人が会社役員となっている他の法人
 b (イ)から(ホ)の者並びにこれらの者と特殊関係にある法人を判定の基礎とした場合に法人税法に規定する同族会社(脚注5)に該当する他の法人(法法2十)
 ④ 親族外理事が同族理事に該当する場合  株式会社(以下「当社」という)の代表者(脚注6)が、一族の資産管理会社として一般社団法人を利用し、当社の役員又は使用人で、代表者の親族でない者をその理事(以下「親族外理事」という)に就任させる事例がある。
 代表者に相続が発生した場合、当社の役員又は使用人である親族外理事は、代表者に係る同族理事に該当する(《図2⑤》)。
 一方、親族外理事に相続が発生した場合、その親族外理事が当社の役員であれば、他の役員と使用人で理事である者はその死亡した親族外理事に係る同族理事に該当する(《図2⑤》)。
 ⑤ 親族外理事が同族理事に該当しない場合  従業員持株会に準じて一般社団法人等が自社株を保有するような場合、親族外理事に会社役員等(③(ヘ))が就任しなければ、その親族外理事は代表者に係る同族理事に該当しない(特定一般社団法人等に該当しない)。
(3)課税価格の計算
 ① 概要
 一般社団法人等が「特定一般社団法人等」に該当し相続税が課税される場合には、次の算式で等分した金額が相続税の課税価格となる(相法66の2①)。

(注)分子の純資産額は、財産の価額の合計額から債務の価額の合計額を控除して計算する。
 なお、特定一般社団法人等が、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産がある場合でも、その財産の価額を改めて課税価格に加算することはない(相法66の2⑤)。
 ② 財産の価額  財産の価額は、相続開始時の財産の時価(評価基本通達により算定(脚注7))による(相令34②)。なお「信託の受託者として有するもの」及び「被相続人から遺贈により取得したもの」は財産の価額の計算から除かれる(相令34①一、相基通66の2-1(1))(⑦(イ)b参照)。
 ③ 債務の価額  債務の価額は、表1の金額を合計して計算する。

 ④ 赤字の場合  財産の価額の合計額から債務の価額の合計額を控除した金額が赤字(マイナス)の場合は純資産額は零とする(相基通66の2-1(3))。特定一般社団法人等が債務超過であっても、被相続人に係る相続税を減じる効果はない。
 ⑤ 『同族理事+1』による等分  財産の価額の合計額から債務の価額の合計額を控除した残額(純資産額)を相続開始時における同族理事の数に1を加えた数で等分する。
 「相続開始時」とは被相続人が死亡した後の状況を指すと解される(脚注8)ため、これに1を足すことにより被相続人も加えた数により純資産額を除すことになる。同時死亡が推定される場合には、その死亡した人数を同族理事の数に加える(相法66の2①、相基通66の2-2(注))。
 なお、特定一般社団法人等に該当するかどうかを判定する際に用いられる同族理事の数((2)②参照)は、「相続開始時」といった時間的な要素は含まない。したがって、同族理事の数が過半か否かを判定する各時の状況で判定する(相基通66の2-3(2))。

 ⑥ 申告書の記載方法  (3)②~⑤の申告書への具体的な記載例(脚注9)は、上記[記載例1]のとおりである。純資産額の計算の明細(申告書第1表の付表5(別表1))は、本稿の最末尾に掲載する。

 ⑦ 留意点 (イ)「みなし遺贈財産(ストック)」と「本来遺贈財産(フロー)」
  「みなし遺贈財産(ストック)」に対する相続税課税である特定一般社団法人等に対する課税の規定(相法66の2)の適用がある場合において、被相続人から実際に遺贈により取得した財産がある場合には、それぞれ次のとおり取扱う。ストックへの課税とフローへの課税が棲み分けられている。
 a 遺贈により取得したものとみなされた部分(純資産額)は、「本来遺贈財産(フロー)」への相続税課税(相法66④)の規定は適用しない(相令34⑨)。
 b 被相続人からの実際の遺贈によって増加した純資産額は、「みなし遺贈財産(ストック)」の計算から除く(相令34①一カッコ)。
 c 「みなし遺贈財産(ストック)」に対する課税(相法66の2)と「本来遺贈財産(フロー)」に対する課税(脚注10)(相法66④)が同時におこるときは、相続税の課税価格はそれぞれの課税価格を合計した金額となる(相基通66の2-7(2)イ)。(申告書第11表(一部抜粋)記載例2参照)

(ロ)取引相場のない株式の評価(純資産価額)との主な相違点
  特定一般社団法人等の純資産額の計算は、取引相場のない株式の評価における純資産価額の計算とは異なる。特定一般社団法人等の純資産額の計算は、取引相場のない株式の評価との平仄ではなく、個人が直接所有する財産の評価と平仄があわされたと考える。
  なお、取引相場のない株式の評価(純資産価額)における次のaからcの取扱いは、特定一般社団法人等の純資産額の計算においては示されていない。
 a 課税時期前3年以内に取得等した土地等又は家屋等を通常の取引価額により評価する取扱い(評通185)
 b 相続税評価額と帳簿価額との差額(含み益)についての法人税額等相当額を控除する取扱い(評通186-2)(いわゆる37%控除)
 c 評価会社が仮決算を行わなかった場合に直前期末における各資産又は各負債をもとに評価する取扱い(脚注11)(「取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等 第5表 2(4)」
(4)申告納税額の計算
 ① 2割加算
 特定一般社団法人等に係る相続税額は、相続税額の2割加算が適用される(相法18①)。
 ② 「本来遺贈財産(フロー)」に課された法人税等相当額の控除  「本来遺贈財産(フロー)」に対して課せられる相続税又は贈与税(相法66④)からは、同じく「本来遺贈財産(フロー)」に対して課される法人税等相当額を控除することとされている(相法66⑤)。被相続人の死亡に際して、「みなし遺贈財産(ストック)」に対する相続税課税と「本来遺贈財産(フロー)」に対する相続税課税が同時に起こる場合には、相続税額から控除する法人税等相当額は、次の金額が限度となる(相令34⑩後段・相基通66の2-7(2)ロ)。


 ③ 過去に課せられた相続税額・贈与税額の控除  過去に、「本来遺贈財産(フロー)」に対して課された相続税額または贈与税額(相法66④)(以下「過去課税分の税額」という)がある場合には、「過去課税分の税額」を、(3)によって計算した相続税額(ストックへの課税)から控除する(相法66の2③)。
 「過去課税分の税額」は今回の被相続人からの贈与に対して課されたものとは限らない。また、フローに対して課されたものをストックに対する課税から控除するという側面がある。しかし、どちらも租税回避防止の「みなし課税」であることから、重複感への配慮として控除することとされていると考える。
 ④ 控除の順序  ②による法人税等相当額の控除と、③による「過去課税分の税額」の控除は、まず②の法人税等相当額の控除を先に行う(相令34⑩前段)。
 「過去課税分の税額」で控除しきれなかった部分がある場合には、次回以降の「みなし遺贈財産(ストック)」に対する課税で控除が可能であるため、次回以降に控除の機会がない法人税等相当額の控除を優先するためである。
 ⑤ 申告書の記載方法  (4)②~④の申告書への具体的な記載例は、下記のとおりである。
(前提)
1)「本来遺贈財産(フロー)」の金額 4,000,000円(全額が法人税法上益金算入されるものとする)
2)1)に対して課された法人税等相当額 854,200円
3)法人税等相当額控除前の相続税額 21,600,000円
4)相続税の課税価格 54,000,000円((3)⑥申告書第1表の付表5・(3)⑦第11表参照)
5)「過去課税分の税額」 390,000円


4 適用時期
(1)原則(平成30年4月1日以後に設立された法人)
 平成30年4月1日から適用される。
(2)経過措置(平成30年3月31日以前に設立された法人)(図4)
① 平成33年4月1日以後の理事である者(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)の死亡に係る相続税について適用される(改正法附則43⑤)。
② 平成30年3月31日以前の期間は、特定一般社団法人等の判定(同族理事が過半であった期間が3年以上か否かの判定(相法66の2②三ロ)の期間に含めない(改正法附則43⑥)。

5 実務上の対応と検討事項
(1)特定一般社団法人等が所有する取引相場のない株式の評価(検討)
 特定一般社団法人等が取引相場のない株式(以下「株式」という。)を直接所有する場合、その株式を配当還元方式で評価すべきか否かという問題が生じる。
 この点に関し、被相続人が相当数の議決権を保有しており、原則的評価方式で評価することとなる場合には、特定一般社団法人等が直接所有する株式についても原則的評価方式で評価すべきとの見方はあるだろう。一方、明らかに配当還元方式で評価できる少数株主である場合には、特定一般社団法人等が直接所有する株式について配当還元方式を適用することに合理性があるものと考える。
(2)実務上の対応  一般社団法人又は一般財団法人に持ち分がないことを利用して安易に相続税課税の回避をはかることは、従来にもまして慎重になるだろう。一方、予定外の課税リスクも避けるべきであり、制度改正にあわせた対応も必要である。対応としては次が考えられる。
① 5年以内に相続発生が考えうる高齢者は理事に就任しない。
② 理事の構成を変え、同族理事の割合が過半にならないようにする。同族理事の範囲は、広範に及ぶため注意が必要である(3.(2)③④参照)。
③ 特定一般社団法人の純資産額の計算(評価)は、(イ)類似業種比準価額との折衷、(ロ)含み益に対する法人税額等相当額の控除がない。取引相場のない株式の評価額と比して高額となる可能性があることを認識する(3.(3)⑦(ロ)参照)。


脚注
1 贈与又は遺贈した者の親族等の贈与税又は相続税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合に課税される。平成30年度税制改正では、この「不当に減少する結果と認められる場合」の明確化も行われている(相令33④)。
2 内閣府税制調査会(H29.11.1)において、特別委員として出席した日本税理士会連合会会長より興味深い発言がされている。詳しくは、本誌No.715.P12等
3 本稿では、新設された相続税法第66条の2の対象となる財産を「みなし遺贈財産(ストック)」とし、既存制度である相続税法第66条第4項の対象となる財産を「本来遺贈財産(フロー)」と呼ぶこととする。
4 私的支配の有無の判定は、「社員」ではなく「理事」の数によることとされている。その理由は、①業務は理事が執行するため運営上の支配権は理事が有する、②理事に就任できるのは自然人のみ、③理事は登記事項とされているため執行が簡明である──等とされている。なお、③に関連し、申告の際には、相続開始日以後に作成された特定一般社団法人等の登記事項証明書を添付しなければならない(相法27④、相規16③三)。
5 同族会社とは、株主等の上位3グループ以下が発行済株式等の50%超を有する会社をいう(法法2十)。
6 特定一般社団法人等の理事又は理事でなくなった日から5年を経過していない者を前提とする。
7 地上権、永小作権、定期金給付契約に関する権利の評価は、相法23から25及び相基通23-1から25-1に準じて評価する(相令34②、相基通66の2-1(1)(注))。
8 相続開始「直後」の数によることが基本通達においても留意的に定められている(相基通66の2-2)。
9 本稿の「記載例」の各数値は、所与のものとする。
10 いわゆる「不当減少要件」(相令33④)に該当しない場合には相続税法第66条第4項による相続税課税は行われない。この場合、遺贈により取得した財産の価額を相続税の課税価格に算入しないことが明示されている(相令34⑪)。
11 特定一般社団法人等の純資産額の計算では、法人の事業年度を基準とする要素(例えば、類似業種比準方式や純資産評価における直前期末基準)が存在せず、相続開始時の現況や時価を基準とすることのみが明示されている(相令34①②等)。

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