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解説記事2018年10月22日 【特別解説】 日本企業がIFRS移行時に認識した会計基準の差異(認識・測定に関するもの)の分析①(2018年10月22日号・№760)

特別解説
日本企業がIFRS移行時に認識した会計基準の差異(認識・測定に関するもの)の分析①
~有形固定資産のみなし原価としての公正価値の利用と減損損失の追加計上~

はじめに

 これまで日本基準を適用していた日本企業がIFRSに移行する場合、IFRS第1号「国際財務報告基準(IFRS)の初度適用」第23項に基づいて、企業は、従前の会計原則からIFRSへの移行が、報告された財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローにどのように影響したのかを説明しなければならない。これは、従前の会計原則に従って報告されていた資本から、IFRSに準拠した資本への調整表(以下、「調整表」という。)と呼ばれ、ここでは、利用者が財政状態計算書及び包括利益計算書に対する重要な修正を理解できるようにするのに十分な詳細を示さなければならないとされている(IFRS第1号第25項)。本稿では、「IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)各社が、IFRSを初めて適用した期に作成した調整表を題材に、どのような項目が会計基準間の差異として説明されているかを調査した。また、本稿では、全体的な調査分析結果を示した後に、「一部の有形固定資産のみなし原価として公正価値を使用」及び「減損損失の追加計上」という2つの修正項目(日本基準とIFRSとの差異)に注目して、IFRSを新規に適用する際に、資産残高の圧縮等を狙った企業の対応の調査分析を試みた。また、次回には、本年度が収益認識に関するIFRSの基準書(IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」)の強制適用初年度であることから、表1の7位にランクされている、「収益認識基準の変更」に着目して、より具体的な調査分析をしてみたいと考える。


調査の対象とした企業
 今回の調査の対象とした企業は、日本基準からIFRSへ任意で移行し、2019年3月期第1四半期報告書までに調整表を作成して開示した企業の163社である(IFRSを適用して新規に上場した企業を含む)。なお、日立製作所やパナソニック、本田技研工業など、米国基準からIFRSに移行した企業は、今回の調査の対象とはしていない。

調整表における開示項目(修正項目)の処理方法
 IFRS第1号の第11項に、次のような規定が置かれている。
 企業がIFRS開始財政状態計算書において使用する会計方針が、同じ日付について従前の会計原則で使用したものと異なっている場合がある。その結果としての修正が、IFRS移行日前の事象及び取引から生じる。したがって、企業は、それらの修正をIFRS移行日現在の利益剰余金(又は、適切な場合には、資本における他の区分)に直接認識しなければならない。
 すなわち、IFRSにおいて使用する会計方針が、日本基準等の従前の会計原則で使用していたものと異なっていた結果としての修正は、損益計算書(包括利益計算書)を通さずに、IFRS移行日現在の利益剰余金に直接認識されることになる(この点が、通常の会計方針の変更とは異なる)。

調整表で、基準間の差異(認識・測定に関する項目)として説明していた企業が多かったもの
 IFRS任意適用日本企業が、IFRSを初度適用する際に、日本基準とIFRSとの差異として調整表で説明していた項目(認識・測定に関するもの。上位20項目)を、企業数が多い順に列挙すると表1のとおりである。
 有給休暇引当金の計上やのれんの非償却、為替換算調整勘定のゼロリセット(IFRS初度適用企業が、すべての在外活動体に係る累積換算差額を、IFRS移行日現在でゼロとみなす措置。IFRS第1号D13を参照。)など、おなじみの項目が上位に並んでいるが、ここ1、2年に公表された調整表で記載されることが増えている項目が、14位の「賦課金の計上のタイミング」である。「賦課金」とは、経済的便益を含んだ資源の流出であって、政府が法令(すなわち、法律あるいは規則)に従って企業に課すものであり、法人所得税や罰金、反則金等を除いたものである(わが国では、固定資産税等の租税公課が主に該当する。)が、わが国ではこれらを納付する対象の期間にわたって分割計上する場合が多い一方、IFRSではIFRIC解釈指針第21号「賦課金」により、賦課金支払負債を生じさせる債務発生事象が生じた時点で認識することが定められている(第8項)。わが国の企業におけるIFRSの任意適用が2010年3月期から開始されているのに対して、IFRIC解釈指針第21号は2013年5月に公表され、2014年1月1日以後に開始する事業年度から適用が開始されているため、2014年以降にIFRSを任意適用し、調整表を作成した日本企業のかなりの部分が賦課金に関する記載を行っていると考えられる。今後、「賦課金の計上のタイミング」という項目の表1での順位は上昇し、遠からず上位10項目に入ってくるものと予想される。

IFRS任意適用日本企業が、IFRSを初度適用する際の対応:保有する資産残高の圧縮
 調整表における差異項目の全体的な分析・集計はここまでとして、これ以降では、IFRS任意適用日本企業がIFRSを初度適用する際に、保有する資産残高の圧縮をするために行った対応を見てみたい。具体的には、前記の表1で10位にランクされている「一部の有形固定資産のみなし原価として公正価値を使用する取扱い」と、17位の「減損損失の追加計上」を取り上げる。
(1)一部の有形固定資産のみなし原価として公正価値を使用する取扱い  IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することが出来る。免除規定の1つとして、企業は、IFRS移行日現在で、ある有形固定資産項目を公正価値で測定し、その公正価値を当該日現在のみなし原価として使用することを選択することができ、初度適用企業は、IFRS移行日現在又はそれ以前における、ある有形固定資産項目の従前の会計原則に従った再評価が、再評価日の時点で次のいずれかとおおむね同等であった場合には、それを再評価日現在のみなし原価として使用することを選択することができる(IFRS第1号D5項、D6項)。
(a)公正価値
(b)IFRSによる原価又は償却後原価を、例えば、一般物価指数又は個別物価指数の変動を反映するように調整したもの。また、企業は、有形固定資産のほか、投資不動産や一定の要件を満たした無形資産に対してもこの免除規定を適用することが出来る。
 一部の有形固定資産のみなし原価として公正価値を使用した42社のうち、具体的な影響額の記載がなかった3社を除く39社について、分類と分析を試みてみたい。
 まず、IFRS任意適用日本企業がIFRSの初度適用にあたり、みなし原価として公正価値を使用して評価した資産は、次の表2のとおりであった。


 みなし原価として公正価値を使用して評価した結果、公正価値が帳簿価額を下回っていたケースが39社中34社と大半を占めたが、逆のケースも5社あった(表3を参照)。


 一部の有形固定資産のみなし原価として公正価値を使用することにより、固定資産の残高が圧縮された(みなし原価として適用した公正価値が、帳簿価額を下回っていた)金額が大きかった企業は、表4のとおりである。


 大手飲料メーカーが1位、2位を占めている。一方、表3に見られるように、同業のサッポロホールディングスの場合は、評価対象資産の公正価値(みなし原価)による評価額が帳簿価額を大きく上回っており、IFRSの新規適用の結果、剰余金の積み増しが生じている。同業とはいえ、各社ごとの戦略の違いを垣間見ることが出来て興味深い。
 また、固定資産の残高が圧縮された金額の分布を示すと、表5のとおりである。


(2)減損損失の追加計上  わが国の「固定資産の減損に係る会計基準」では割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合にのみ減損損失の認識のステップに進み、帳簿価額と回収可能価額(正味売却価額と使用価値のいずれか高い方)を比較して減損損失の測定を行うのに対し(いわゆる2ステップアプローチ)、IAS第36号「資産の減損」では、帳簿価額と回収可能価額(処分コスト控除後の公正価値と使用価値の高い方)とを比較する、いわゆる1ステップアプローチをとる。将来の不確実性が高いために割引率が高い場合や、使用価値を計算する対象年度が長い場合には、特に割引前キャッシュ・フローと割引後キャッシュ・フローとの差額が大きくなる。一般的には、IFRSの方が、わが国の減損会計基準よりも、減損損失が認識されるタイミングが早くなると言われることが多い。
 IFRSに移行する際に減損損失を追加計上した29社のうち、影響額の記載がなかった4社を除く25社について、分類と分析を試みてみたい。
 まず、IFRS任意適用日本企業がIFRSの初度適用にあたり、減損損失を追加計上した資産は、次の表6のとおりであった。


 これまで減損損失計上の主流であった有形固定資産や土地に代わって、最近はのれんや無形資産(販売権等)の減損損失を計上する事例が目立ってきている。
 次に、減損損失の追加計上金額が大きかった企業は、表7のとおりであった。


 何といっても、2019年3月期からIFRSを新たに適用する三菱重工業の減損損失計上額が飛び抜けて多い。この会計処理については、これまでに雑誌の記事等で何度も取り上げられていることもあり、ここでは詳細については触れないが、IFRS適用を一つの契機としてフレッシュスタートすべく、過去の負の遺産を一気に清算した感がある。また、330億円の減損損失を追加で計上したリクルートホールディングスは、減損損失を認識したのれんの使用価値の見積りには、税引前の加重平均資本コストを基礎として算出した割引率(13.83%~31.55%)を使用している旨を開示している。このところずっと低金利で、一般的にリスクも低いわが国の状況を考えると、割引率もそれほど高くはならないとつい考えがちであるが、リスクが高く、先行きを見通しにくい事業を行っている場合や、金利やカントリーリスクが高い国で事業を行っているような場合には、割引率が10%、あるいは20%を超えるようなケースが決して珍しくない。割引率が10%を超えるような状況になると、使用価値の見積り期間が短くても、割引前将来キャッシュ・フローと割引後のそれとでは大きな差が生じるため、日本基準からIFRSに移行したとたんに多額の減損損失を認識する必要が生じる、ということも十分に考えられるであろう。
 次に、減損損失の追加計上金額の分布を示すと、表8のとおりである。


 なお、日立物流は、IFRSを初度適用する際、土地に関する減損損失1,518百万円を計上すると同時に、収益見込みの回復等を理由に、土地と建物に関する減損損失619百万円を戻し入れている。

おわりに
 今回の調査分析からは、三菱重工業、キリンホールディングス、アサヒホールディングスといった企業が、日本基準からIFRSに移行するときに限って認められる特例措置を活用して、保有する資産残高の圧縮・スリム化を図ったことが伺えた。
 わが国企業へのIFRS任意適用が開始されてから9年が経ち、当初は伸び悩んだIFRS任意適用日本企業の数も、ここ数年は順調に増加し、間もなく200社に達しようとしている。(株)東京証券取引所(以下、「東証」という。)が2018年7月31日付で公表した「『会計基準の選択に関する基本的な考え方』の開示内容の分析」によると、東証に上場している3,600社弱のうち、IFRS適用済・適用決定会社(193社)に加え、IFRS適用予定会社が11社、IFRS適用に関する検討を実施している会社が202社あるとされている。このほか、米国会計基準から鞍替えする会社やIFRSを適用して新規上場する企業等も含めると、今後も、IFRS任意適用日本企業の数は、緩やかながらも安定的に増加していくものと見込まれる。
 2018年度は、企業の業績のトップラインを規定するIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」や、金融商品全般を規定するIFRS第9号「金融商品」の強制適用が開始される年度であり、開示の充実等も合わせて、日本企業に限らず、IFRSを適用する各社の決算書の内容はかなり様変わりするものと思われる。このような大きな変革期においては、国内外を問わず、IFRSを先行適用してきた企業の開示例を調査分析し、各社が試行錯誤しながら作り出してきた成果物から多くを学び取ることが欠かせない。次回は、IFRS任意適用日本企業がIFRS初度適用時に行った調整表での開示項目の中から、「収益認識に関する会計基準間の差異」に着目して、現状の日本基準とIFRS(IFRS第15号及びIAS第18号)との間の差異について調査分析を試みたいと考える。

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