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解説記事2018年11月19日 【特集インタビュー】 デジタルエコノミー、市場国への課税権移管という“パンドラの箱”は開けず(2018年11月19日号・№764)

特集インタビュー
BEPSプロジェクトのキーパーソンOECD パスカル・サンタマン局長に聞く
デジタルエコノミー、市場国への課税権移管という“パンドラの箱”は開けず

 日本が議長国をつとめる来年のG20に向け、平成31年度税制改正では利子控除制限や所得相応性基準といったBEPS勧告を踏まえた改正が行われることが確実となっているが、BEPSプロジェクトの新たな目玉として現在OECDで議論されているのが電子経済(デジタルエコノミー)への課税だ。
 これまでデジタルエコノミーへの課税議論を拒否してきたアメリカが税制改革後に本議論に参加、課税対象の範囲などを巡り日本やヨーロッパ諸国とは異なる立場を示しており、現時点で両者の溝は埋まっていない。こうした中、経団連との国際課税に関する会合に参加するため先月下旬に来日したBEPSプロジェクトのキーパーソン、OECD(経済協力開発機構)租税政策税務行政センター(CTPA)のパスカル・サンタマン局長は、来年6月のG20までの各国合意に自信を見せる。売上税は取引に対する混乱があり好ましくないという意見と利益への課税が難しいという現実の狭間で関係国のフラストレーションも溜まりつつある中、デジタルエコノミーへの課税に対するサンタマン局長の率直な意見を聞いた。
 また、最初の交換が始まった国別報告事項(CbCR)の現状、多国間協定(MLI)に関する統合テキスト(Synthesized text)の作成や主要目的テスト(PPT)プロジェクトの立ち上げなど、先行して実施されているBEPSプロジェクトの最新情報についてもうかがった。

>国別報告事項(CbCR)
CbCRのルールを潜脱するMFやLFを通じた情報収集を注視

――まずは日本企業にとって直近の関心事からお話をうかがいたいと思います。国別報告事項(Country-by-Country Reporting 以下「CbCR」)の最初の交換が始まりましたが、各国の税務当局は、適用初年度においてどのような経験を得たのでしょうか?
サンタマン:日本及び日本企業を含む多くの国・企業が参加し、既に何千というCbCRが二国間で交換されています。その意味では、このプロジェクトは成功を収めていると言えます。
 もっとも、税務当局はまだ最初のファイルを受け取ったばかりという状態ですので、交換されたファイルの質や、それがどのように活用されているかといったフィードバックが各国の税務当局から上がってくるのはこれからになります。CbCRについてもピアレビュー(編註:各国が相互に実施状況を審査すること)を実施しますし、今後は各国の税務当局のフィードバックの内容を分析することが可能になります。また、2020年に向けてのレビューも行います。
――日本の多国籍企業は、MF(マスターファイル)とLF(ローカルファイル)についても各国間の整合性を確保する観点からレビューの対象とすべきだと主張していますが、この点についてはどのようにお考えですか?
サンタマン:日本企業や他国の企業から、「CbCRを通じて得ることができなかった情報を、MFやLFを通じて入手しようとしている国がある」という声は聞いています。先ほども申し上げたとおり、CbCRはピアレビューされることになりますので、もしいくつかの国によりLFやMFを活用してCbCRの下で可能であるとされるルールを逸脱するような行為があった場合には、それを指摘し、非難することになります。

>条約
近々に二国間の条約に関する統合テキストを公表

――日本企業はMLI(Multilateral Convention to Implement Tax Treaty=多国間協定)が個別の条約に対しどのように作用するのか、理解するのが難しいと感じています。OECDは「統合テキスト」(MLI適用後の個別条約の条文)を公表する、あるいは各国に公表するよう働きかける予定はありますか?
サンタマン:確かに多国間の条約や文書は非常に複雑なものであり、解読することは簡単なことではありません。そこで既にOECDは、条約とMLIの間に存在するギャップがより簡単に理解できるような文書を提供しています。ただ、我々はもう一歩先に行かなければならないということは分かっておりますので、日本政府と同じように、近いうちに、二国間の条約に関する統合テキストを公表します。
 MLIは日本を含む多くの国が遵守しており、既に約1,400の条約をカバーしています。確かにメカニズムそのものは複雑ではありますが、その結果として出てくる成果物は非常に単純なものであり、条約を読みやすくすることができるはずです。

MLI(多国間協定)  本来、二国間で改訂すべき租税条約の内容を一気に多国間で実施するための取組み。ハイブリッド・ミスマッチ取決めの無効化(行動2)、租税条約の濫用防止(行動6)、PE認定の人為的回避の防止(行動7)、紛争解決メカニズムの効率化(行動14)に係るBEPS勧告の内容を、MLI締約国の既存の租税条約に導入する。既存の条約の規定が修正されるのは、条約の双方当事者の間でマッチングが成立した場合であり、その他の諸条項は従来通り適用される。

――税の安定性向上に向け、OECDはPPT(Principle Purposes Test=主要目的テスト)に関するプロジェクトを立ち上げたようですが、詳細についてご教示ください。
サンタマン:PPTは企業にリスクや不確実性をもたらすということは確かですが、ある意味で、それは意図的にやっていることです。というのも、企業にはこのテストに合格するかどうかということをもう一度振り返って考えて欲しいからです。もし100%の確実性というものがあったとすれば、それはまた別の意味で租税回避につながる道を作ることになりかねません。そのような事態を避けるために、ある一定の不確実性を意図的にもたらしているわけです。
 とはいえ、基本的には不確実性というものは削減しなければなりません。そこで、最低限の基準でのピアレビューを行うことによって、PPTがきちんと解釈されているか、例えばあまりにも幅広い解釈になっていないか、あるいは通常の税務当局の合理的な行動の範囲の中に納まっているかどうかということなどを確認していきます。

PPT(主要目的テスト)  例えば投資所得に対する源泉地国課税の減免など、租税条約上の特典を受ける資格の有無を判定するテストのこと。その特典を受けることが取引や取り決めの主たる目的の一つであると判定された場合には、特典は与えられない。ただし、そのような場合でも、特典を与えることがその条約の目的に合致すると認められる場合には特典が与えられる。

>デジタルエコノミー(電子経済)
デジタルエコノミー課税、来年6月のG20までに合意へ

――前回のインタビューでは、デジタルエコノミーの問題については「グローバルなソリューション」が必要であり、特にアメリカに向けて「グローバルな合意に向けたロードマップに賛同できないのであれば、ALES(Alternative Levy on Electronic Sales=代替的電子売上税)のような場当たり的な対応が採用されてしまうこともあり得る」というお話もありましたが(本誌712号6頁参照)、現在ではアメリカはむしろ積極的に議論に参加しており、いくつかのアイディア(例えばマーケティング無形資産への一層の利得配分、活発なユーザ参加への一層の利得帰属、アウトバウンドのミニマム・タックスなど)も浮上していると聞きました。議論の進捗状況はいかがでしょうか?
サンタマン:はい、議論はまさに現在進行中であり、その中では様々なアプローチが模索されています。それは従来の国際課税の手法を再考しようということでもあります。
 そして、おっしゃる通り、すべての議論がアメリカの税制改革によって活性化されています。税制改革が行われる前、アメリカはこの問題に関与することを拒否していましたが、税制改革を受けて米国も議論に参加するようになりました。税制改革によって、デジタルエコノミーに対するアメリカの立場が大きく変化したということです。
 もっとも、現時点で各国とアメリカの考えが完全に一致しているわけではありません。アメリカの立場は、デジタルエコノミーだけに限定した解決策では不十分であり、より“幅広い解決策”にしなければならないというものです。アメリカは、「なぜヨーロッパ諸国がデジタル企業に対して課税をしたいのかと言えば、それはヨーロッパが市場だからである。したがって、もしヨーロッパ諸国が課税権を市場国に移管をするというのであれば、その対象はデジタルエコノミーだけに限定せず、より幅広いものにする必要がある」と言っています。一方、ヨーロッパ諸国が何をやりたいのかというと、課税権を完全に市場国に移管をするといったことではなく、「“新しく出てきたこと”に対してだけ課税を行いたい」ということです。つまり、ユーザーの参加・貢献により生み出された新しい価値にのみ限定して、対処したいと思っているわけです。
 こうした議論の中、フランスやドイツは、「デジタルエコノミーへの課税はBEPSプロジェクトの一部であり、特に税金がかからない法域(ゼロ・タックス・ジュリスディクション)についてはBEPSプロジェクトはまだ完了したわけではない」と言っています。そこで、米国税制改革で導入されたGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income=グローバル無形資産低課税所得 下記コラム参照)のようなもの、すなわちグローバルなミニマム・タックスを導入し、課税対象をデジタルエコノミーに限らずもっと広げることによって、BEPSプロジェクトを完了することができるというのが彼らの主張です。
 この議論には進展があると思います。現在行われている議論は建設的なものであり、立場の異なる各国がそれぞれの間にある溝を何とか埋めようと努力しています。その結果、おそらく近いうちに各国共通の原則について合意することができるのではないかと思います。そして、その合意をベースとして、技術的な解決を図ることができるでしょう。来年(2019年)6月に予定されている福岡でのG20財務大臣会合までには合意に到達することができるのではないかと思っています。

米国の税制改革  トランプ政権が打ち出した法人税率の引下げ(35%→21%)、海外配当益金不算入制度、海外留保所得にかかる強制みなし配当課税、グローバル無形資産低課税所得(GILTI)、税源浸食防止規定(BEAT=Base Erosion and Anti Abuse Tax)の導入、支払利子の損金算入制限などを柱とする税制改革。このうちGILTIの内容はグローバルなミニマム・タックスとも言え、OECDのデジタルエコノミー課税議論にも一石を投じることとなった。

――アメリカ案だと対象が広がりすぎ、紛争の増加に繋がりかねないため、対象を絞るべきではないかという意見もあります。また、紛争解決のための仲裁メカニズムが必要との意見もありますが、こうした意見についてはどのようにお考えでしょうか?
サンタマン:いずれも理にかなった意見だと思います。
 デジタルエコノミーへの課税に関する議論には二つの“譲れない線”(レッドライン)があります。先ほど申し上げたとおり、一つはアメリカが主張するデジタルエコノミー以外にも課税対象を広げたいといういわば“囲い込み(リングフェンス)課税”反対論です。もう一つは、日本やイギリス、フランス、ドイツといった資本を輸出している国が主張する、課税権を一定程度市場国に対して移管することには合意はできないというものです。この議論の最終的なゴールは、これらの二つの譲れない線の間のどこに合意点を見出すかということです。そして、この異なるアプローチに何とか折り合いを付けるための解決策を見出す余地はあると考えています。
 それはどういうことかというと、まずはデジタルエコノミーだけでなくもっと課税対象を広げるということです。これは必要なことだと思います。しかし、それをする一方で、完全に課税権を市場国に対して移管してしまうというような“パンドラの箱”を開けてしまうようなことはしない、ということです。
 おっしゃられたような紛争解決方法の改善、あるいは仲裁を使いやすくするといったことは、この議論に関する合意の中に入ってくるものだと思います。
――売上税は取引に対する混乱があり好ましくないという意見がある一方、利益への課税が難しいという現実もあり、ここ数年議論が平行線を辿る中、関係国のフラストレーションも溜まりつつあると思います。アウトバウンドシナリオにおける安易な源泉地国課税の拡大にはご懸念をお持ちでしょうか?
サンタマン:答えは「イエス」です。なぜ懸念を持っているかというと、もしOECDの場において長期的な解決策を見出すことができなければ、そのようにフラストレーションを感じている国々が、短期的な対策を導入してしまうからです。短期的な対策として唯一実行可能なものが、売上に対する課税ということになります。しかし、売上税というのは酷い税金です。グローバルなアプローチがとられるという見通しを示すことのみが、フラストレーションが溜まった各国が一方的に短期的な対策を取ることを防ぐ道であり、そのような防止策を講じることが私たちの仕事だと思っています。

OECD租税センター(CTPA)のパスカル・サンタマン局長

――来年のG20を控え、年内にはデジタルエコノミー・タスクフォースでとりあえず何らかの方向性を出すことになるのではないかと思います。移転価格税制が関係するのであればWP6(OECD租税委員会の第6作業部会)との連携もあるのではないでしょうか。来年の日本のG20では、2020年の最終報告に向けた進捗報告のようなものが公表されるとみられますが、残された時間を考えると、ある程度限定的な内容のものとならざるを得ないのではないでしょうか。
サンタマン:我々がやろうと思っていることはもっと野心的なことです。共通のアプローチについて多くの国々をまとめていきたいと思っています。私たちの目標は、様々なアプローチの間にある溝を来年6月までに埋めることです。そして、6月以降には今後の方向性について政治的な合意がとれている状況にしたいと考えています。その合意ができれば、後は移転価格、租税条約、アグレッシブ・タックスプランニングなどそれぞれのワーキンググループが実務的な作業を始めることができるでしょう。
――包摂的枠組みは2020年までに合意に達することができると思いますか? また、2019年にG20の議長国となる日本は、どのような役割を果たすべきでしょうか?
サンタマン:包摂的枠組みについては、2020年を待たず、2019年には政治的な合意に達することができると思います。
 そして、政治的な合意に至った後は、今度はそれを技術的にきちんと実行に移すということが必要になります。日本のサポートもたくさんもらいながら作業を進めて行きたいと考えています。日本がG20の議長国となる2019年は、日本にとって非常に重要な年になると思っています。

包摂的枠組み(Inclusive framework)  BEPSプロジェクトの議論に参加しなかった国も含め、関心のあるすべての国・地域はOECD租税委員会に参加し、OECD/G20諸国と平等の立場でBEPS関連のモニタリングに関与することが可能となる一方、BEPS最終報告書における4つのミニマム・スタンダード(国別報告事項、紛争解決メカニズムの効率化、条約の濫用防止、有害税制への対抗)をはじめとして、BEPSパッケージの実施にコミットする仕組みのこと。既に途上国・新興国などを含む123か国・地域がこの包摂的枠組みに署名・参加している。

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