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解説記事2019年02月11日 【特別解説】 無形資産として資産化される開発費~IFRS任意適用日本企業と欧州企業の計上の状況~(2019年2月11日号・№774)

特別解説
無形資産として資産化される開発費
~IFRS任意適用日本企業と欧州企業の計上の状況~

はじめに

 これまでのれんや耐用年数を確定できない無形資産に関する調査分析を行ってきたが、今回はIFRS特有の無形資産である開発費の計上について取り上げる。我が国の会計基準や米国会計基準では、研究開発費はすべて費用処理され、資産として計上することは認められないが、IAS第38号「無形資産」では、第57項が定める一定の要件をすべて満たした開発費は無形資産として計上しなければならないとされている。
 このIAS第38号第57項の6つの要件が非常に抽象的であるためにその解釈に幅が生じ、業種や企業によって開発費の資産計上の要否や金額に大きなばらつきが出ている。
 本稿では、IFRS任意適用日本企業とIFRSを適用する主要な欧州企業を題材に、開発費計上額の水準や研究開発費に占める資産化の比率、開発費計上に関する会計方針等を調査分析することとしたい。

調査対象とした企業
 一定の要件を満たした開発費を無形資産として計上することを要求しているのは、IAS第38号「無形資産」であり、日本の会計基準や米国会計基準は費用処理を要求していることから、本稿では、2018年3月期までにIFRSを任意適用して連結財務諸表(有価証券報告書)を作成している日本企業(IFRS任意適用日本企業)158社と、STOXX指数の構成銘柄である主要な欧州企業100社を対象として調査を行った。
 調査対象の欧州企業の開発費残高等の数値は、外貨建の残高に決算期末日時点の為替レートを乗じて算出している。

関連するIFRSの規定
 IAS第38号第57項は、次のように定めている。
 開発(又は内部プロジェクトの開発局面)から生じた無形資産は、企業が次のすべてを立証できる場合に限り、認識しなければならない。
(a)使用又は売却できるように無形資産を完成させることの、技術上の実行可能性。
(b)無形資産を完成させ、さらにそれを使用又は売却するという企業の意図。
(c)無形資産を使用又は売却できる能力。
(d)無形資産が蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法、とりわけ、企業は、無形資産による産出物又は無形資産それ自体の市場の存在、あるいは、無形資産を内部で使用する予定である場合には、無形資産が企業の事業に役立つことを立証しなければならない。
(e)無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用又は売却するために必要となる、適切な技術上、財務上及びその他の資源の利用可能性。
(f)開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力。
 これらの6つの要件のうち、特に(d)の蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法の見極め、解釈、実務への適用がポイントとなると考えられる。

IFRS任意適用日本企業による、開発費の資産計上の状況
 今回調査対象としたIFRS任意適用日本企業158社のうち、無形資産として開発費(開発資産)を計上していたのは2割弱の30社であった。
 残高の大きい上位10社とその計上額は、表1のとおりである。なお、研究開発費として支出された金額のうち、どれくらいの比率が無形資産として資産化されたかを示す、資産化率を合わせて示している。
 本田技研工業1社で、全30社の計上額合計の過半を占めている。なお、住友化学は、2017年3月期に行われた企業結合によって、115,393百万円の開発費を新たに認識している。
 開発費資産計上額の絶対額は表1の各社ほど大きくないが、30社のうちの8社(エフ・シー・シー、ケーヒン、ショーワ、テイ・エス・テック、日信工業、日本精機、八千代工業、ユタカ技研)はホンダグループの自動車部品を製造する企業である。

 研究開発費のうち、無形資産として資産化している比率(資産化率)が高いIFRS任意適用日本企業は、表2のとおりである。

 開発費の資産化率の分布を示すと、表3のとおりである。

 30社のうち、半分近くの13社の資産化率が10%未満であり、コナミ1社を除けば、資産化率は最大でも30%台後半にとどまっている。

主要な欧州企業による、開発費の資産計上の状況
 今回調査対象としたSTOXX指数構成銘柄である欧州の主要な企業100社のうち、無形資産として開発費(開発資産)を計上していたのは3割弱の29社であった。
 残高の大きい上位10社とその計上額、並びに資産化率は、表4のとおりである。

 開発費の資産計上額が上位の欧州企業は、ほぼすべてを完成車メーカーと自動車部品のメーカーが占めており、このうち上位5社の計上額が1兆円を超えている(我が国の本田技研工業は6,000億円弱である)。開発費の資産化率が高い主要な欧州企業を列挙すると表5のとおりである。

 フィアットの60%を筆頭に、欧州の主要な完成車メーカーは、研究開発支出のおおむね40%前後を無形資産として計上していることが分かる。これに対して、我が国の本田技研工業の資産化率は18.2%であり、ルノー、フォルクスワーゲンといった欧州のライバル企業と比べると半分に満たない水準である。
 また、主要な欧州企業の開発費の資産化率の分布を示すと、表6のとおりである。

 IFRS任意適用日本企業と比較すると、全体的に、主要な欧州企業のほうが資産化率が高めではあるが、開発費を無形資産として計上する会社の数や業種はいずれも限られており、傾向に大きな差は見られないと考えられる。

開発費の計上を開始するタイミングや資産化された開発費の内容等
 IAS第38号の開発費に関する記述は抽象的であり、企業による判断の余地が大きい。各社が無形資産として計上している開発費は、具体的にどのような項目から構成され、どのようなタイミングで計上が行われて(あるいは、計上が終了して)いるのであろうか。本稿の後半部分では、欧州企業の重要な会計方針等を題材として、それらの点を探ってみたい。なお各社の注記は、2017年度のアニュアルレポート(又はRegistration Document)で開示されたものを和訳したものである。
 まず、ドイツのダイムラー社は、開発費資産計上額の内訳として、次のような注記を行っていた。
 開発費の資産計上額は、主に、新型車の開発、既存車のリニューアルのための支出、燃費の良い、環境にやさしい駆動システムの開発、安全のための技術、自動運転、製品のデジタル接続などに関連している。
 開発費の資産化率が調査対象の欧州企業の中で最も高かったフィアット・クライスラー・オートモティブ(FCA)社の開示は、次のとおりであった。
 資産化開発費の当期増加金額には、既存車両、新型車、パワートレイン・プログラムの内容強化に重点を置いたエンジニアリング、設計、開発に関連する材料費および人件費が含まれている。
 一定の要件を満たした開発費が無形資産として計上開始、及び終了されるタイミングについて、ルノーは以下のように開示していた。
 開発業務を開始し、新たな乗用車又は部品用の装置の製造を行うという決定が承認された時点から、その後の大量生産のための設計の承認時点までに発生した開発費は無形資産として資産化される。それらは製造承認日から乗用車又は部品のマーケットでの予想販売期間(最大で7年間)にわたって定額法で償却される。資産化された開発費は主に、プロトタイプの原価、外部の企業により請求された研究のコスト、開発活動に専ら投入された間接費の持分負担分からなる。(中略)製品開発の公式承認より前の時点で発生した費用は、研究費と同様に期間費用として処理される。量産開始後に発生した原価は、製造原価として処理される。
 次に、IAS38号の6つの要件を充足するような開発費が極めて少ないことを説明している注記例を2社紹介したい。
 ドイツの自動車部品(タイヤ等)のメーカーであるコンチネンタル社は、2017年12月末日現在で約300億円の開発費(無形資産)残高を有し、資産化率は約3%と低いが、その理由として次のような詳細な開示を行った。長い注記であるが、興味深い内容のため、以下に紹介する。
 内部創設無形資産を資産化するIAS第38号の規準を満たす部分は資産化され、開発された製品が市場で販売可能になった日から3年間から7年間にわたって償却される。しかし、顧客仕様のアプリケーションや製造前のプロトタイプ、又は既に販売されている製品のテスト(アプリケーション・エンジニアリング)にかかる費用は、無形資産として計上される可能性がある開発費として適格ではない。さらに新たな操業の開始、又は新製品の市場への投入あるいは新プロセスの開始に関して直接生じたコストは損益に認識される。独自の技能ビジネスにおける新たな開発は、ある特定の乗り物のプラットフォーム、又は特定のモデルのサプライヤーとして当社が完成車メーカーから指名され、さらに、製造開始前のステージを無事にクリアするまでは「市場で売れる(marketable)」とすることはできない。さらに、とりわけ信頼と安全に関する技術が強く求められる中にあって、これらのリリース・ステージは、当該製品の技術上の実現可能性を示すために必須のものとなっている。したがって、サプライヤーとして指名され、かつ製造開始前の特定のリリース・ステージを履行した時点においてのみ、開発費は資産として認識される。開発は、一連の生産活動に関する最終的な認可が得られたと考えられる時点で、完了したとみなされる。このような無形資産としての厳格な認識規準を満たすような開発プロジェクトはごくわずかである。
 さらに、開発費を無形資産として全く資産計上していないフランスのタイヤメーカー、ミシュラン社は、開発費を資産化できない理由について以下のような開示を行った。
 無形資産として認識する規準が満たされなかったため、2016年と2017に資産計上された開発費はなかった。資産として認識されるためには、新製品、又は重要な製品のリニューアルプロジェクトに関連して発生した開発費は、6つの認識規準を満たさなければならない。それらの規準のうちの1つは企業に対し、無形資産からの成果物にかかる市場の存在を示すことを求めている。市場の存在は、当社グループが製造業者の承認を獲得し、かつ、製造者によって提案されたビジネスプランから生成される利益水準が、当社グループの目的と合致した時にのみ示される。実際には、対応する開発費は、製造業者による承認がなされるよりも前の段階で発生する。
 主要な欧州企業の場合、完成車メーカーはほぼ全社、開発費を無形資産として計上しているが(資産化率はおおむね40%前後)、自動車部品メーカーの場合には、資産化率にばらつきが出ており、前記のミシュラン社のように、全く資産計上していない会社もある。

我が国の企業による実務上の対応事例(日本経団連の事例集より)
 我が国のIFRS任意適用日本企業による開発費(無形資産)の開示からは、開発費の期末残高や期中の増減等は読み取れるものの、資産化の対象となった開発費の詳しい内容や計上(あるいは計上中止)のタイミング等についてまで、定性的に詳細に開示されている例は少ない。中には、期末残高と期中の増減のほかは、重要な会計方針においてIAS第38号第57項の6つの要件をそのまま引用して済ませているような例もあり、開示の内容は欧州の主要企業と比べ、質量ともに若干不足気味の感が否めない。
 そのような中で、IFRS任意適用日本企業による試行錯誤の様子が読み取れる貴重な資料が、「IFRS任意適用に関する実務対応参考事例 2013年6月10日版 日本経済団体連合会 IFRS実務対応検討会」である。これを読むと、有価証券報告書における開示が一見「そっけない」ように見える企業も、IFRSの適用に当たり、開発費の資産計上の要否やその方法について、真摯かつ詳細に検討を行っていたことが読み取れる。
 事例集では、具体例として、計11社が行った開発費の計上要否の判断や、計上するとした場合の計上すべき項目の範囲、計上を開始及び終了するタイミング等についての検討過程が記載されているが、ある会社の「判断における留意点等」が興味深いため、以下に引用したい。
・IFRSでは開発費が資産計上される「はず」ではない。
・IFRSのもとで、資産計上すべき開発費がない場合(判断)もある。
・IFRSが開発費の資産計上にあたり資産計上6要件の「立証」を求めているのは、安易に資産計上してはならない(慎重なスタンスをとるべき)と理解すべきである。
・IFRSは開発費を資産計上しない結果についての立証は求めていない。
・IFRSは企業に開発費を資産計上するための新たな手続は求めていない。
・他社の状況は参考程度、自社の判断に影響を及ぼすことはない。
・判断のベースが研究開発管理プロセスであれば、それは企業固有のものであるため結果は違ってくる。業種別、業界別または製品別の開発費資産計上状況を調査しても一定の傾向は表れない。

終わりに
 本稿では、IFRS任意適用日本企業と欧州の主要な企業を対象に、開発費(無形資産)の計上の状況や資産化率等を調査分析するとともに、欧州の主要な企業を中心に、資産計上している開発費の範囲や計上開始、終了のタイミング、IAS第38号第57項の6要件をすべて充足することの難しさ等を説明した注記を紹介した。結論としては、IFRS任意適用日本企業と欧州の主要な企業(製造業)との間には、資産化率の水準や開示の詳細さ等において若干の相違はあったものの、開発費を計上している企業数は調査対象とした母集団のおよそ2割程度であることや、計上している企業は完成車や部品といった自動車関連の業界の企業がほとんどであること、といった点で共通点が見られた。

参考文献
IFRS任意適用に関する実務対応参考事例
2013年6月10日版 日本経済団体連合会
IFRS実務対応検討会

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