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解説記事2019年02月18日 【新会計基準解説】 改正「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」について(2019年2月18日号・№775)

新会計基準解説
改正「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」について
 企業会計基準委員会 専門研究員 眞下 啓

Ⅰ はじめに
 企業会計基準委員会(ASBJ)は、2018年12月26日に開催した第399回企業会計基準委員会において、改正「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下「当改正修正国際基準」という。)の公表を承認し、同年12月27日に公表した。
 本稿では、当改正修正国際基準の公表の経緯、概要等を紹介する。なお、本稿における意見に関わる部分については、私見であることをあらかじめお断りする。

Ⅱ 公表の経緯
 ASBJは、企業会計審議会が公表した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」に基づき、国際会計基準審議会(IASB)により公表された会計基準及び解釈指針(以下、会計基準及び解釈指針を合わせて「会計基準等」という。)に関するエンドースメント手続を実施し、2015年に「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下「修正国際基準」という。)を公表した。その後もエンドースメント手続を継続し、修正国際基準の改正を重ねている。
 今回の改正に係るエンドースメント手続は、次の会計基準等を対象として実施した。
(1)IFRS第16号「リース」(以下「IFRS第16号」という。)
(2)2017年7月1日から同年12月31日までの間にIASBにより公表された会計基準等(以下「その他の会計基準等」という。)すなわち、
①「負の補償を伴う期限前償還要素」(IFRS第9号の修正)
②「関連会社及び共同支配企業に対する長期持分」(IAS第28号の修正)
③「IFRS基準の年次改善2015- 2017年サイクル」)
 これに関して、公開草案を2018年6月に公表し、同年9月7日までに寄せられたコメントに基づいてIFRSのエンドースメントに関する作業部会及び企業会計基準委員会にて再審議を行い、当改正修正国際基準を公表している。

Ⅲ エンドースメント手続の概要
 エンドースメント手続はIASBにより公表された会計基準等について、我が国で受入れ可能か否かを判断したうえで、必要に応じて、一部の会計基準等について「削除又は修正」し、金融庁において指定する仕組みである。また、修正国際基準は、実務的に適用可能な1組の会計基準としてIFRSに対する我が国の考えを発信する役割も担っており、これまで「削除又は修正」を行った項目については、ASBJより積極的に意見発信を行っている。こうしたエンドースメント手続の概要及び役割については、これまでと同様であり、以前の解説記事(注1)を参照されたい。

Ⅳ エンドースメント手続における検討 - IFRS第16号に係る検討
(検討の概要)  ASBJはIFRS第16号の内容及び関連する議論の確認並びに我が国の市場関係者からの意見発信のフォローアップを実施し、これらを踏まえて、次を論点として識別し、「削除又は修正」の要否の検討を行っている。
(1)すべてのリースに係る資産及び負債の認識
(2)単一の費用認識モデル
(3)貸手の会計処理
(4)セール・アンド・リースバック取引
(5)開示(注記事項)
 なお、公開草案ではこれらの論点について個別に評価を行わず総合的にIFRS第16号に対する評価を示すのみであったが、エンドースメント手続の結論に至る根拠が明瞭でないとの意見が寄せられたことに対応して見直しを行い、中心的論点である(1)及び(2)について一定の評価を個別に行ったうえで、他の論点の検討も踏まえて総合的な評価を示している。
 以下では、(1)及び(2)について検討の内容を説明し、その他の論点については概要のみ紹介する。
(すべてのリースに係る資産及び負債の認識)  IFRS第16号は、借手の会計処理に関して、IAS第17号「リース」(以下「IAS第17号」という。)のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分を廃止し、借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と、当該移転に伴う借入金等に類似する負債(リース負債)を認識するモデル(使用権モデル)に基づき、基本的にすべてのリースに係る資産及び負債を認識することとしている。
 この取扱いに関して、我が国を含む各国の財務諸表利用者は財務情報の有用性と分析の利便性の向上に資すると評価する一方で、我が国を含む各国の財務諸表作成者から、リース取引の多様な経済的実態が反映されない、適用に伴う実務上の負担が便益に見合わない等の懸念が寄せられていた。
 このため、ASBJは、すべてのリースに係る資産及び負債を認識すべきか否かを論点として識別し、IFRS第16号の根幹をなすモデルの有用性の観点(注2)、及び、実務上の困難さの観点で検討を行った。
IFRS第16号の根幹をなすモデルの有用性の観点  IFRS第16号の開発過程では、まず、財務情報の有用性に関して、我が国の市場関係者のうち主に財務諸表作成者から次の懸念が聞かれた。
(1)リースには、様々な経済的実態のものが含まれるため、それらに係る資産及び負債を一律に認識することは取引の経済的実態と整合しない。特に、いわゆるレンタルのようにリース期間が原資産の耐用年数に比してごく短期のものの認識について、有用性に疑問がある。
(2)既にオペレーティング・リースに係る注記により類似の情報が提供され、財務諸表利用者により分析されている現状で、リースに係る資産及び負債の認識による追加的情報の有用性は乏しい。
 これについては、IFRS第16号は当該懸念を理解しつつも、次の対応の必要性及び会計上の考え方を基礎として、すべてのリースに係る資産及び負債を認識するとの提案を基本的に維持している。
(1)対応の必要性
①オペレーティング・リースに関する情報の透明性が欠けている。
②経済的に類似する取引の間の比較可能性が損なわれているおそれがある。
(2)資産及び負債の認識の論拠となる会計上の考え方
①IASBの2015年公表の公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」における資産及び負債の定義案(注3)に照らした場合、リースに係る権利及び義務はそれぞれの定義を満たす。
②IASBが協議した財務諸表利用者の大半は、リースを資産と借入金等に類似する負債を生じさせるものと捉えており、こうした財務諸表利用者のリースの見方に沿うものである。
 また、資産及び負債を認識するリースと認識しないサービスとの関係に関して、両者の区分が不明確であり、サービスの性質を有している契約もリースと判定されてしまうことが懸念として指摘された。
 この懸念についてIFRS第16号は、リースの定義に該当する契約を、貸手が原資産を借手に利用可能とする時点で、リース期間にわたって原資産を使用する権利の支配が借手に移転し、それとともにリース期間全体についての支払義務が借手に課されるものと捉えて、資産及び負債を認識しないサービスとは異なる権利及び義務が借手に生じるものとしている。
実務上の困難さの観点  IFRS第16号の開発過程において、我が国を含む各国の財務諸表作成者から、実務上の困難さの観点から、次の懸念が聞かれた。
(1)業種、業態により財務数値が大きく変わる可能性のある企業があり、経営管理に影響を与える可能性がある。
(2)オペレーティング・リースに関して追加の情報収集等のため内部管理の整備等が必要であり、便益に見合わない過大な実務上の負担が生じる可能性がある。
(3)法的にリース契約でない契約を広範に会計上のリースとして取り扱うことは過大な実務上の負担が生じる可能性がある。
 (1)については、財務諸表利用者の財務分析において未認識のオペレーティング・リースの影響は既に考慮されている等の調査結果を踏まえてIASBでは特段の対応をしていない。
 また、(2)については、IFRS第16号は、実務上の負担の増加を必ずしも否定していないが、財務諸表全体の重要性とは別に、短期リースと少額資産のリースについて資産及び負債の認識免除の例外を設けている。
 加えて、(3)の懸念は、2015年に公表した修正国際基準に係る初度エンドースメント手続でIFRIC解釈指針第4号「契約にリースが含まれているか否かの判断」に対して提起された懸念から継続するものであるが、IFRS第16号は、適用の一貫性や利便性の向上の観点で見直しを行い、一定の対応を行ったとしている。
本論点に関する評価  まず、IFRS第16号の根幹をなすモデルの有用性の観点に関して、我が国の市場関係者から提起された懸念とIFRS第16号における対応の論拠の相違は、オペレーティング・リースにおける契約の履行について、リース期間中、原資産を継続して借手に利用可能な状態にすることを重視するか、借手に使用権を移転するための引渡しを重視するかの違いにより生じていると考え、会計上の考え方としてはいずれかが一義的に否定されるものではないとしている。
 この点、我が国の企業評価の実務においても、オペレーティング・リースを資金調達手段の1つと捉える見方に基づき、最低支払リース料の注記等の情報を用いて財政状態計算書の情報を調整している場合があり、これにより企業が利用可能な経済的資源や支払義務に関する情報を企業評価に反映している。このため、より正確な情報を提供し、それを通じて企業間での比較可能性の向上を図る観点からは、資産及び負債を認識することに相応の有用性が認められると考え、原則としてすべてのリースに係る資産及び負債を認識することにも一定の論拠があるとしている。
 また、実務上の困難さの観点に関して、IFRS第16号の開発過程で聞かれた懸念は国内外で概ね共通しており、EUのエンドースメント手続を確認する中で、我が国の市場関係者の懸念との大きな相違を示唆する状況はなく、さらに、IFRS第16号の早期適用が行われ、強制適用の準備が進められる中で、IASB及び米国財務会計基準審議会(FASB)において特段見直しの動きはないことから、実務上の困難さの観点から、なお、受け入れ難いとするほどの我が国特有の事情は新たに見出されていないとしている。

(単一の費用認識モデル)  IFRS第16号は、すべてのリースを借手に対する資金提供を含む取引と捉えて、使用権資産の減価償却費と借入金等に類似する負債に係る金利費用を別個に認識する単一モデルを採用している。このモデルは、各期の当期純利益に影響するものであることから、ASBJは会計基準に係る基本的な考え方の観点から検討を行っている。
会計基準に係る基本的な考え方の観点  IFRS第16号の開発過程では、我が国の市場関係者から単一の費用認識モデルに懸念が示され、リースには原資産の購入に近いものからサービスに近いものまで様々なものが含まれる中で、すべてのリースに対して同一の費用認識パターンを適用することは、リースの経済的実態の多様性を反映しないことが指摘されている。
 このような懸念に対して、IASBの2013年公表の公開草案では、原資産が提供する経済的便益全体に対する費消の程度に応じて、リースをタイプA(費消の割合が大きい。)とタイプB(費消の割合が小さい。)に区分するアプローチが提案され、我が国では一定の支持があった。しかし、この提案に対するフィードバックでは、費消の程度の判断が困難との意見や、タイプBについて減価償却費が逓増することに違和感があるとの意見が寄せられたため、最終的に単一の費用認識モデルが有する次の情報の特性を強調して、当該モデルを採用することとした。
(1)原資産の性質や残存耐用年数に関係なく、リースは借手に対する資金提供を含む取引であるとの財務諸表利用者の大半の見方が反映される。
(2)使用権資産とリース負債に減価償却費と金利費用がそれぞれ対応しており、資産及び負債と費用の対応関係が明瞭である。
 なお、FASBはIASBと同様のアプローチを提案したが、経済的実態の多様性を反映する等の観点から、最終的には従前同様の方法でファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区分する費用認識モデルを採用した。
本論点に関する評価  このIASBとFASBの論拠の相違は、オペレーティング・リースの性格を使用権の取得に伴う賦払いと捉えるか、通常は均等なリース料と引換えに原資産に毎期均等にアクセスする経済的便益をもたらす契約と捉えるかの違いにより生じているものと考えられ、会計上の考え方として、いずれかが一義的に否定されるものではないとしている。
 この点、我が国の企業評価の実務において、オペレーティング・リースを企業が借入金等で資金調達して設備投資することと経済的な実態に違いはないと捉えて財務情報の調整している例が見られるため、オペレーティング・リースを資金提供を含む取引として捉えて費用認識することに相応の有用性が認められるとしている。
 これらを考慮してIFRS第16号が採用する単一の費用認識モデルに一定の論拠があるとしている。

(その他の論点)  上記以外の論点については、以下で記載した論点の内容に対するIASBの対応等を整理して検討を行い、総合的な評価に考慮した。
貸手の会計処理  IFRS第16号の貸手の会計処理は、IAS第17号の取扱いを実質的に維持し、原資産の割賦販売に類似するか否かでリースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区分するモデルに基づいている。当該取扱いについて、借手と貸手の会計処理が対称的でなく、一貫性に欠けた状態でIASBの検討が終了していることへの懸念が聞かれ、これはIFRS第16号の根幹をなす考え方に関わるものと考えたため、ASBJはこれを論点として識別して検討を行っている。
セール・アンド・リースバック取引  IFRS第16号は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に照らして、原資産の譲渡が売却にあたるか否かを判定するものとしており、損益認識される金額は、基本的に買手(貸手)に移転された権利に係る金額とされている。この取扱いは当期純利益に影響することから、ASBJは会計基準に係る基本的な考え方の観点から検討を行っている。
開示(注記事項)  IFRS第16号の開発過程において、開示の要求事項の見直しと拡充に関して、財務諸表作成者から、実務上の負担と便益のバランスの観点から懸念が聞かれていたため、ASBJは実務上の困難さの観点から検討を行っている。

(総合的な評価)  すべてのリースに係る資産及び負債の認識に関する考え方及び単一の費用認識モデルへの懸念については、IFRS第16号の開発過程において各国の市場関係者から同様に聞かれていたが、これはリース取引の捉え方の相違に起因しており、会計上の考え方としていずれかが一義的に否定されるものではないと考え、こうした中でIFRS第16号は、オペレーティング・リースについて指摘されていた情報の透明性欠如への対応の必要性から、使用権モデルを採用して最終化されたものであり、この改善は我が国の企業評価の実務においても一定の役割を果たすものとしている。
 また、すべてのリースに係る資産及び負債の認識や開示に関する実務上の困難さについては、IASBは一定の対応を図ったうえでIFRS第16号を最終化しているものの、我が国の市場関係者の間において適用上の困難さへの懸念が継続していることをエンドースメント手続を通じて認識したが、当該懸念を踏まえても、なお、実務上の困難さの観点から受け入れ難いとするほどの我が国特有の事情は新たに見出されていないとしている。
 貸手の会計処理やセール・アンド・リースバック取引における懸念への対応を含め、各論点に関して、IFRS第16号の最終化以後、IFRSが適用される各国又は地域からは重要な指摘はなされておらず、現在、IASBにおいてIFRS第16号の特段の見直しの動きはない状況にあるとしている。
 これらを踏まえ、各論点はいずれも、これまで「削除又は修正」を行った項目ほどの重要性はないものと考えられ、「削除又は修正」を行わずに受入れ可能と判断したとしている。

Ⅴ エンドースメント手続における検討 - その他の会計基準等に係る検討
 その他の会計基準等のうち、特に、「関連会社及び共同支配企業に対する長期持分」(IAS第28号の修正)において、IFRS第9号「金融商品」の適用による減損と持分法投資が計算上マイナスとなる場合の長期持分への損失負担が重なる可能性がある点を問題として検討を行ったが、この問題については、「削除又は修正」は行う水準の懸念ではないと結論付けている。

Ⅵ 修正国際基準の改正及び適用時期
 当改正修正国際基準では、今回のエンドースメント手続の検討結果を反映するように「修正国際基準の適用」の「別紙1 当委員会が採択したIASBにより公表された会計基準等」を改正している。
 適用時期に関しては、これまでと同様に、企業が修正国際基準に準拠した連結財務諸表を作成する場合、改正後の「修正国際基準の適用」を公表日以後開始する連結会計年度から適用することとしている。

(注1)「改正『修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)』について」橋本浩史、週刊T&Amaster 2018年6月4日号 No.741, P.30-P.34
(注2)本論点は、財政状態計算書に係る論点であるため、企業の総合的な業績指標としての当期純利益の有用性を保つことなどを主な内容とする会計基準に係る基本的な考え方の観点に関わるものでなく、IFRS第16号の根幹をなすモデルの有用性の観点に関わるものとしている。
(注3)当該定義案は微修正が行われたうえで2018年3月に最終化されている。

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