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解説記事2019年04月29日 【税務マエストロ】 相続開始直前に取得した土地の評価~総則6項の適用(2019年4月29日号・№785)

税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
相続開始直前に取得した土地の評価~総則6項の適用

#229 梶野研二(税理士)

略歴 略歴国税庁 課税部 資産評価企画官付企画専門官、同資産課税課課長補佐、東京地方裁判所 裁判所調査官、国税不服審判所本部 国税審判官、東京国税局 課税第一部資産評価官、玉川税務署長などを経て、平成25年6月 税理士登録。現在、相続税を中心に税理士業務を行っている。○主な著書 「ケース別 相続土地の評価減」、「非公開株式評価実務マニュアル」(新日本法規)、「判例・裁決にみる非公開株式評価の実務」(共著)(新日本法規)、「株式・公社債評価の実務」、「土地評価の実務」(共著)(大蔵財務協会)

今回のテーマ  相続税や贈与税の課税価格の計算における財産の評価は、実務上、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)の定めに従って行われている。しかしながら、同通達の第1章総則の第6項(以下「総則6項」という。)の規定に基づく国税庁長官の指示により、評価通達の定めとは異なった方法で評価がされ、課税処分が行われることがある。
 借入金等により課税時期の直前に不動産を購入した場合において、取得価額と評価通達に基づいて評価した価額に著しい開差があるときには総則6項の適用のリスクが高いといわれていることから、今回は、課税時期の直前に取得した土地の評価について総則6項の適用の適否が争点となった平成29年5月23日裁決(以下「平成29年裁決」という。)(脚注1)を基に、どのような場合に総則6項が適用されることとなるのか、また、実務上、どのような点に留意すべきなのかについて考えることとする。

マエストロの解説
1 相続税における土地評価
 相続税や贈与税の課税価格の計算上、財産の価額は、その財産の取得時の時価によることとされているが(相法22)、財産の時価、すなわち客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもあることから、課税実務上は、相続税法に特別の定めのあるものを除き、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の時価を評価をすることとされている。このようにあらかじめ定められた評価方法により、画一的に財産の評価を行うことは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点からみて合理的であり、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、一般的には、税務負担の実質的な公平をも実現し、租税平等主義にかなうものであるといえる(脚注2)。
 評価通達では、土地については、路線価方式又は倍率方式により評価をすることとしており、これらの評価方式により評価するのに必要な路線価及び固定資産税評価額に乗ずる評価倍率(以下「路線価等」という。)は、毎年、各国税局長が公表しているところである。路線価等は、地価公示価格と同水準の価格の80%程度を目途に定められているが、これは、土地等の価額には相当の値幅があることや、路線価等は相続税及び贈与税の課税に当たって1年間適用されるため、評価時点であるその年の1月1日以後の1年間の地価変動にも耐え得るものであることが必要であること等(脚注3)の評価上の安全性を配慮したものである(脚注4・5)。

2 評価通達総則第6項  評価通達に定められた評価方法を画一的に適用することによって、明らかに評価対象財産の客観的交換価値とは乖離した結果を招くこととなり、そのため、実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨及び本件通達の趣旨に反することとなるなど、評価通達に定める評価方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合には、他の合理的な評価方式によることが許されると解されている(脚注6)。
 納税者が、相続税及び贈与税の申告をするのに当たり、評価通達の定めによって評価したのでは、適正な評価額を算出することができないと考えるときには、同通達の定めによらず、不動産鑑定士による不動産鑑定評価など他の合理的な方法により評価することはできる(脚注7)。
 また、総則6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定め、課税当局が評価通達の定めによらずに評価をする場合には、国税庁長官の指示を受けることとしている。
 総則6項は、評価通達の定めによって評価対象財産を評価したのでは時価を上回ることとなってしまい、結果的に違法な課税が生じるおそれがある場合に適用されるが、これとは逆に、評価通達の定めによって評価対象財産を評価したのでは時価を下回ることとなると認められる場合にも適用されることとなる(脚注8)。

3 平成29年裁決の紹介
(1)事実関係
 イ 本件相続に係る関係人
(イ)本件被相続人は、大正○年○月○日生まれで、平成24年6月○日(以下「本件相続開始日」という。)に○歳で死亡し、本件相続が開始した。
(ロ)本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻であるN、同長女である請求人J、同長男である請求人G、同二男であるP及び同養子である請求人K(二男Pの長男)の5名である。
(ハ)本件被相続人は、平成20年8月○日、請求人Kを養子とする養子縁組をした。
 ロ 不動産の取得状況等 (イ)被相続人は、平成20年5月13日、Q社(昭和40年10月○日に不動産の売買及び賃貸借並びに不動産の管理等を目的として設立され、平成21年6月○日以前の代表取締役は本件被相続人、同日以後は請求人Gである。)の代表者として、R銀行に対し、○○診断を申し込んだ。申込みに当たり被相続人は、R銀行に対し、次期後継者を請求人G(長男)、請求人Gの後継者を請求人Kと考えており、請求人Kの代まで事業を承継させたい旨及び当該事業承継に伴う遺産分割や相続税が心配である旨を伝えた。
(ロ)被相続人は、平成21年1月30日付で、売主である法人との間で、本件甲土地及び本件甲土地上に存する本件甲建物(本件甲土地と併せて「本件甲不動産」という。)を総額XXX,XXX,XXX円で買い入れる旨の不動産売買契約を締結し、本件甲不動産を取得した。
(ハ)被相続人は、平成21年1月30日付で、R銀行との間で金銭消費貸借契約を締結し、XXX,XXX,XXX円を借り受けた。なお、当該金銭消費貸借契約において、Q社、N(妻)、請求人G及びP(二男)が保証人となっている。
(ニ)本件被相続人は、平成21年10月16日、本件甲不動産を含む多くの財産を請求人Kに相続させる旨の公正証書遺言をした。
(ホ)本件被相続人は、平成21年12月18日付で、請求人J(長女)との間で金銭消費貸借契約を締結し、XX,XXX,XXX円を借り受けた。
(ヘ)本件被相続人は、平成21年12月21日付で、N(妻)との間で金銭消費貸借契約を締結し、XX,XXX,XXX円を借り受けた。
(ト)本件被相続人は、平成21年12月25日付で、売主である法人との間で、本件乙不動産(本件甲不動産と併せて「本件各不動産」という。)を総額XXX,XXX,XXX円で買い入れる旨の不動産売買契約を締結し、本件乙不動産を取得した。
(チ)本件被相続人は、平成21年12月25日付で、R銀行との間で金銭消費貸借契約を締結し、XXX,XXX,XXX円を借り受けた。なお、当該金銭消費貸借契約において、Q社、N(妻)、請求人G及びP(二男)が保証人となっている。
(リ)平成24年10月17日、共同相続人の間で、公正証書遺言に係る本件被相続人の財産の一部について、遺産分割協議が成立し、請求人らは、当該公正証書遺言及び当該遺産分割協議に基づき、本件相続に係る相続財産を取得した。なお、請求人Kは、当該公正証書遺言に基づき、本件各不動産を取得するとともに、本件被相続人の債務の全部を承継した。当該承継債務XXX,XXX,XXX円のうち、本件相続開始日における本件各不動産の取得の際に締結した金銭消費貸借契約に基づく借入金債務の額は、R銀行からのXXX,XXX,XXX円及びNからのXX,XXX,XXX円である(以下、これらの借入金債務の合計額XXX,XXX,XXX円を「本件借入金債務合計額」という。)。
(ヌ)請求人Kは、平成25年3月7日付で、買主である個人との間で、本件乙不動産を総額XXX,XXX,XXX円で売り渡す旨の不動産売買契約を締結し、本件乙不動産を譲渡した。
 ハ 本件各不動産の価額等 (イ)請求人らは、本件申告において、評価通達の定めに従い、本件甲土地、本件甲建物及び本件乙不動産の価額を評価して、相続税の申告を行った(評価通達の定めにより評価した本件甲土地、本件甲不動産、本件乙不動産の価額を「本件甲土地通達評価額」、「本件甲不動産通達評価額」、「本件乙不動産通達評価額」といい、本件甲不動産通達評価額と本件乙不動産通達評価額を併せて「本件各通達評価額」という。)。
  なお、本件申告における本件各不動産を除く取得財産の価額は、XXX,XXX,XXX円である。
(ロ)S社が平成27年4月22日付で作成した不動産鑑定評価書(以下「本件甲不動産鑑定評価書」という。)では、本件甲土地の価額はXXX,XXX,XXX円、本件甲建物の価額はXXX,XXX,XXX円、これらを合計した本件甲不動産の価額はXXX,XXX,XXX円(以下「本件甲不動産鑑定評価額」という。)とされている。
(ハ)T社が平成27年4月22日付で作成した不動産鑑定評価書(以下「本件乙不動産鑑定評価書」という。)では、本件乙不動産の価額はXXX,XXX,XXX円(以下「本件乙不動産鑑定評価額」といい、本件甲不動産鑑定評価額と併せて「本件各鑑定評価額」という。)とされている。
(ニ)本件甲不動産通達評価額は、本件甲不動産の取得価額及び本件甲不動産鑑定評価額のそれぞれ約23.9%、約26.5%の価額であり、また、それぞれの価額との差はXXX,XXX,XXX円、XXX,XXX,XXX円である。
  また、本件乙不動産通達評価額は、本件乙不動産の取得価額及び譲渡価額並びに本件乙不動産鑑定評価額のそれぞれ約24.3%、約26.0%、約25.8%の価額であり、また、それぞれの価額との差はXXX,XXX,XXX円、XXX,XXX,XXX円、XXX,XXX,XXX円である。
(ホ)原処分庁は、本件各更正処分において、国税庁長官の指示を受けて、本件各不動産を評価した(以下、原処分庁が評価した小規模宅地等特例を適用する前の本件各不動産の価額を「本件各原処分庁評価額」という。)。なお、本件各原処分庁評価額は、本件各鑑定評価額と同額である。
(2)原処分庁の主張  本件各不動産については、次のとおり、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情がある。したがって、本件各不動産は、総則6項の定めにより、国税庁長官の指示に基づき評価することとなり、当該指示に基づき評価した価額である本件各鑑定評価額は、相続税法第22条に規定する時価を適正に反映している。
イ 総則6項は、評価通達に定める評価方法を画一的に適用した場合には、適正な時価が求められず、その評価額が時価、すなわち、客観的な交換価値からかけ離れて不適切なものとなり、著しく課税の公平を欠く場合も生じることが考えられることから、そのような場合には、客観的な交換価値を個別に評価し、適正な時価評価を行うことができるようにする趣旨で定められたものであり、その射程には、通達評価額が時価を上回る場合だけでなく、下回る場合も含まれる。
ロ 本件において、本件甲不動産通達評価額は、本件甲不動産の取得価額及び本件甲不動産鑑定評価額の30%にも満たない僅少なもので、著しい価額の乖離がある。また、本件乙不動産通達評価額は、本件乙不動産の取得価額及び譲渡価額並びに本件乙不動産鑑定評価額の30%にも満たない僅少なもので、著しい価額の乖離がある。
ハ そして、請求人らの相続税の申告における本件各不動産を除く取得財産の価額は約○億円であるところ、本件被相続人及び請求人らによる本件各不動産の取得から借入れまでの一連の行為により、本件被相続人の本件相続開始日における財産の価額を減少させ、併せて、債務を増加させたものであり、その結果として、相続税額が全く算出されておらず、このことは、ほかに多額の財産を保有せず同様の方法を採った場合にも結果としてほかの相続財産の課税価格の大幅な圧縮による相続税の負担の軽減という効果を享受する余地のない納税者との間での租税負担の公平を著しく害し、また、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の機能に反する著しく不相当な結果をもたらしている。
ニ 本件各鑑定評価額は、いずれも不動産鑑定評価基準に準拠しており、収益還元法における純収益や各種利回りの査定も価格時点における不動産市況を反映した客観的で信頼性の高いものであるため、本件各不動産の本件相続開始日における時価を合理的に算定しているものと認められる。
(3)請求人らの主張  本件各不動産については、次のとおり、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情はない。
イ 総則6項は、路線価の決定において考慮されていなかった地盤沈下や近隣の廃棄物処理施設等の建設予定等、潜在的な価額低下要因が路線価決定後に明らかにされた場合には、路線価が時価と大きく乖離して過大となることから、想定外の時価下落事情が事後的に生じた場合の救済措置として創設されたものである。
  そして、評価通達による評価が「著しく不適当な場合」とは、評価通達に定める評価方法によることが否定されるべき特別の事情がある場合を意味し、この特別の事情は、総則6項の制定趣旨を踏まえて判断されるべきであるから、通達評価額と時価評価額との乖離が著しいというだけでは足りず、客観的な評価減の根拠事実が発生し、時価が激変したことを具体的かつ客観的に立証できる場合を意味する。
ロ 本件各更正処分は、本件各不動産を借入金で取得し、本件各通達評価額を上回る債務をほかの相続財産から控除して、相続税の過度な節税対策又は租税回避をしたものとみなし、総則6項を適用したことがうかがわれるが、総則6項の要件とされる特別の事情には、節税や租税回避の意図といった主観的要素は該当しないから、節税や租税回避を阻止するための根拠として総則6項を適用することは、その制定趣旨に反した運用で、課税庁の恣意的な課税となり、租税法律主義に反する。
ハ なお、本件被相続人が本件各不動産を取得したのは、a市に所有していた賃貸物件が建物の経年により投資運用効率が悪化したため、及び不動産事業の承継予定者である請求人Kが将来在住予定の首都圏に賃貸物件の拠点を移すためであり、取得の経緯には投資の側面と生活設計の側面の双方における合理的な理由があり、本件各不動産の取得に係る一連の行為は、相続税を不当に減少させる行為ではなく、相続税の節税や租税回避を目的としたものではない。
ニ 通達評価額と不動産鑑定士等によるほかの評価方法による評価額との間の乖離が著しいと思われる場合はまれではなく、その場合の全てに総則6項が適用されているものではないこと、さらに、原処分庁は、本件各不動産の近隣不動産の評価においても、総則6項が適用された事例を示して、本件各更正処分の合理性を立証すべきであるが、これについて明らかにしていないことから、本件各不動産の評価に当たり、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額の乖離が認められるとして評価通達に定める評価方法を採用しないことは、租税公平主義に反する。
ホ 鑑定評価に用いられた収益還元法における最終還元利回りは飽くまで見積もられたものであり、評価主体の恣意により大きく変動するため、収益還元法による時価評価は唯一適正な時価とはいえない。
(4)裁決の要旨 イ 租税平等主義という観点からして、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的に全ての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価通達に定める方法以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法第22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、許されないものというべきである。
  しかし、他方、評価通達に定められた評価方法によるべきであるとする趣旨が上記のようなものであることからすれば、評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許されるものと解すべきであり、このことは、評価通達において「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。
  すなわち、相続財産の評価に当たっては、特別の定めのある場合を除き、評価通達に定める評価方法によるのが原則であるが、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情のある場合には、ほかの合理的な時価の評価方法によることが許されるものと解するのが相当である。
ロ 被相続人は、相続開始日において、本件各不動産以外の積極財産として、総額XXX,XXX,XXX円の財産を有しており、ここから本件借入金債務合計額を除いた本件被相続人の債務の額XX,XXX,XXX円及び葬式費用の額X,XXX,XXX円を控除するとXXX,XXX,XXX円となり、通常、相続税が発生する。
  しかし、本件申告では、本件各不動産について、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には著しい乖離があり、小規模宅地等特例を適用した後の価額で比較すると、合計XXX,XXX,XXX円の開差があるところ、XXX,XXX,XXX円を課税価格に算入し、本件借入金債務合計額を控除したので、本件借入金債務合計額は、その全額を当該課税価格に算入した額から控除できず、その差額XXX,XXX,XXX円がほかの積極財産の価額から控除されることとなり、結果として、課税価格に算入すべき金額の大半が圧縮され、請求人らは相続税の負担を免れることになる。
  このように、本件被相続人及び請求人らなどによる本件各不動産の取得から借入れまでの一連の行為は、本件被相続人が本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間に著しい乖離のある本件各不動産を、借入金により取得し、本件申告において評価通達に定める評価方法により評価することにより、本件借入金債務合計額が本件各不動産はもとよりほかの積極財産の価額からも控除され、請求人らが本来負担すべき相続税を免れるという結果をもたらすこととなる。 ハ そして、被相続人は、①○歳となり、Q社の事業承継に伴う遺産分割や相続税の負担を懸念し、R銀行に対し○○診断を申し込んだこと、②R銀行から、借入金により不動産を取得した場合の相続税の試算及び相続財産の圧縮効果についての説明を受けていたこと、③本件各不動産の購入資金の借入れの目的が、相続税の負担の軽減を目的とした不動産購入の資金調達にあると認識していたこと、及び④Q社の事業承継のための方策の一環として請求人Kと養子縁組した時期と近接した時期に、本件各不動産を取得していることを総合すれば、本件被相続人の本件各不動産の取得の主たる目的は相続税の負担を免れることにあり、被相続人は、本件各不動産の取得により本来請求人らが負担すべき相続税を免れることを認識した上で、本件各不動産を取得したとみることが自然である。 ニ また、本件被相続人が不動産を取得することで、請求人らが、相続税の負担を免れるという利益を享受し得るためには、不動産の購入資金の大半を借入金により賄うことで借入金債務を負担するとともに、その借入金債務が、購入する不動産以外の積極財産に係る課税価格を圧縮できる程度に多額のものでなければならない。実際、本件被相続人が、本件各不動産の購入資金の大半をR銀行からの借入金により賄ったところ、その借入金の総額は、本件各通達評価額を上回り、課税価格を圧縮する多額のものであった。そして、被相続人が、R銀行から多額の借入れをすることができたのは、本件被相続人の一族及びQ社が保証人となり、かつ、本件各不動産に加え、Q社が所有する不動産に抵当権を設定することができたためであると認められる
ホ このように、本件各不動産について、本件各通達評価額を課税価格に算入すべきものとすると、請求人らが、本件各不動産を取得しなかったならば負担していたはずの相続税を免れる利益を享受するという結果を招来する。これは、本件被相続人が、相続税の負担の軽減策を採ったことによるものであり、このような事態は、同様の軽減策を採らなかったほかの納税者との間の租税負担の公平はもちろん、被相続人が多額の財産を保有していないため、同様の軽減策によって相続税負担の軽減という効果を享受する余地のないほかの納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害し、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反する著しく不公平なものであるといえる。 ヘ したがって、本件各不動産については、評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであることから、評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情があると認められ、本件各不動産の価額は、ほかの合理的な時価の評価方法である不動産鑑定評価に基づいて評価することが相当である。

4 土地評価に総則6項が適用されるケース  路線価等は、評価の安全性の観点から、地価公示価格と同水準の価格の80%程度を目途に定められていることから、借入金又は自己資金により相続開始の直前に土地等を購入することにより相続税の課税価格の圧縮を図る手法は、相続税等の節税策として広く知られているところである。このような節税策に対して、実際に総則6項が適用され、評価通達によらない評価方法により課税されるケースはそれほど多いとは思えない。それでは、どのようなケースについて、総則6項が適用されるのだろうか。以下、4つのポイントにしぼって考えていくこととする。
(1)乖離率及び乖離金額の大きさ  土地等の取得価額等と評価通達の定めに従って評価した価額との間に著しい開差がある場合には、総則6項が適用される可能性が高い。「著しい開差」が存するかどうかは、評価通達の定めにより評価した額に対して鑑定評価額等が乖離している割合(乖離率)と、両者の価額の差異(乖離金額)とから判断することとなる。平成29年裁決では、本件甲不動産通達評価額は、本件甲不動産の取得価額及び本件甲不動産鑑定評価額のそれぞれ約23.9%、約26.5%の価額であり、本件乙不動産通達評価額は、本件乙不動産の取得価額及び譲渡価額並びに本件乙不動産鑑定評価額のそれぞれ約24.3%、約26.0%、約25.8%の価額である。本件各通達評価額及び本件各鑑定評価額自体は公表されていないが、小規模宅地等特例を適用した後の価額で1億円を超える差額が生じていることが窺われる。
 総則6項適用事案から、総則6項適用の乖離率の基準又は乖離金額の基準を見いだすことは困難であるし、また、課税当局が、一定の基準を設けているとも考えられない。しかしながら、乖離率及び乖離金額のいずれからみても、相当の乖離が生じている場合に、総則6項が適用されることとなると考えられる(脚注9)。
(2)直前の購入、直後の売却  課税時期直前に不動産を取得した場合において、その取得価額は、課税時期における当該不動産の価額を推認させるものとなる(脚注10)。したがって、総則6項適用に係る検討は、最終的には、評価通達によって評価した価額と鑑定価額等との比較により行われることとなるが、総則6項適用の検討の端緒は、評価通達によって評価した価額と取得価額との間に存する著しい開差ではないかと考えられる。それ故に相続等の直前に不動産を取得している場合に、総則6項が適用されるリスクが高いし、取得の時期が相続開始時期に近ければ近いほどそのリスクは高まるといえる。
 一方、課税時期と取得時期が離れていて、取得時期が課税時期における時価を推認させるとはいえないような場合には、総則6項の適用のリスクは低いといえる。
 この点、平成29年裁決では、被相続人の相続開始時期が平成24年6月○日であるのに対し、本件甲不動産の取得は平成21年1月30日、本件乙不動産の取得は平成21年12月25日であり、前者においては相続開始の約3年半前、後者については相続開始の約2年半前である。この程度の期間の開きは、落ち着いた地価事情の下では、取得価額をもって課税時期の時価を推認させるのに十分であったということができるだろう。
 また、相続開始の直前に購入した土地等を相続開始後に売却した場合には、さらにリスクが高まるといえる。評価通達において、棚卸資産である土地等については、路線価等による評価ではなく、販売価額を基にして評価額を算定することとされているが(評基通4?2、133(1))、売却を予定している土地等についても、同様に、路線価等による評価ではなく売却見込み価額をも評価額の算定に織り込むべきであるとの考え方は、けっして不自然なものではないからである。
 なお、被相続人が長期保有していた土地等を相続人が納税資金捻出のために譲渡するケースは多く、譲渡価額が評価通達の定めによる評価額に比して著しく高額であることも珍しくはないが、そのようなケースについては、通達による評価額よりも著しく高い価額で譲渡したことのみをもって総則6項が適用されることはほぼないと考えられる(脚注11)。
(3)租税回避の意図  相続税等における財産評価は、相続税法第22条の規定に基づき、本来、その課税時期における客観的交換価値を求めるものであって、評価対象財産の価額に影響を及ぼす全ての要素を考慮して評価する必要があるが、主観的要素、すなわち評価対象財産が節税目的又は租税回避目的で取得、保有されているかどうかは問われないはずである。しかし、総則6項の適用が問題となった事例をみると、節税目的又は租税回避目的であることが同項適用の引き金になっているように思われる。
 平成29年裁決においても、本件各不動産の取得の主たる目的は相続税の負担を免れることにあり、被相続人は、本件各不動産の取得により本来請求人らが負担すべき相続税を免れることを認識した上で、本件各不動産を取得したとみることが自然であると指摘しており、総則6項の適用を容認する根拠の一つとしている。
 そして、本件各不動産の取得なかりせば、相当の相続税の納税が必要になったところ、本件被相続人及び請求人らなどによる本件各不動産の取得から借入れまでの一連の行為は、本件被相続人が本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間に著しい乖離のある本件各不動産を、借入金により取得し、本件申告において評価通達に定める評価方法により評価することにより、本件借入金債務合計額が本件各不動産はもとよりほかの積極財産の価額からも控除され、請求人らが本来負担すべき相続税を免れるという結果をもたらすこととなるとして、公平な税負担が阻害されている点を重視している。
 さらに、平成29年裁決で注目すべきは、「被相続人が、R銀行から多額の借入れをすることができたのは、本件被相続人の一族及びQ社が保証人となり、かつ、本件各不動産に加え、Q社が所有する不動産に抵当権を設定することができたためであると認められる。」として、相続税の節税策として、平均的な納税者が行うことのできる方法を超越した手法がとられている点である。また、平成29年裁決においては、被相続人が高額の土地等を2回にわたり取得している点にも留意すべきである。
(4)取引を介することによる経済的価値の変動  評価通達は、相続税法第22条の規定に基づき、課税時期における財産の時価を求める方法を定めたものである。財産の種類ごとにその財産を評価するのに最も適切な評価方法を定めているが、評価通達の性質上、簡便的で、かつ、汎用性のあるものとせざるを得ず、そのことから必然的に評価の安全性にも配慮せざるを得ないこととなり、適正な評価の要請を犠牲にせざるを得なくなる。
 しかしながら、例えば、手持資金又は借入金により土地等の財産を取得した場合において、特段の事情がない限り、その取引の前後において、その者の有する経済的価値は変わらないはずである。もちろん取得のために支出する費用があれば、その分の経済的流出はあるし、買進みや売急ぎの要因は考慮しなければならない。また、財産の性質(換金性や流通性など)の違いに着目した評価の安全性にも配慮する必要がある。しかしながらこれらの点を考慮したとしても説明しきれない取引の前後で経済的価値に著しい変化が生じたかのような結果を招来する評価方法は、当該財産を評価する方法としては合理性を欠く方法であるということができる。本裁決においてもこの指摘は妥当する。このような場合には、適正な時価評価の観点から総則6項は適用されることとなろう。
(5)総則6項が適用されるケース(まとめ)  平成29年裁決を基に、総則6項の適用されるケースとはどのようなケースなのか、概観してきた。総則6項は、適正な評価の観点から、評価通達の定める評価方法以外の評価方法により相続税等の課税価格を計算するものであるから、画一的な評価通達の定めによって評価した価額と評価対象財産を不動産鑑定評価等により個別に評価した価額が大きく異なる場合に適用される。その端緒として、課税時期直前に当該財産を取得し、取得価額が明らかになったことにより、評価通達の定めによって評価した価額が適正な時価を表していないのではないかとの疑問を課税当局に抱かせることである。個人の有する財産は、その形を変えることにより、価値が増加したり減少したりすることはありうる。しかしながら、借入金等で土地等を取得した場合、常識的には、取得金額と取得した土地等の額は等しいと考えられ、財産の性質を考慮するにしても両者が大きく異なるとは考えにくい。さらに、このような節税策によって、相続税の課税価格を大きく減らすことができるのは、一部の納税者に限られることからすれば、租税法における基本原則である租税公平主義の観点から看過することができないこととなる。このような要請の下で、適正公平な課税を実現するために総則6項は発動されていると考えることができるのではないだろうか。

5 実務における留意点
(1)直前の不動産等の取得
 課税時期の直前に取得した土地等については、総則6項が適用される可能性は高いといえる。したがって、課税時期をコントロールすることのできる贈与税の場合には注意が必要であるが、相続税においても、被相続人が高齢の場合や病気を発症しているような場合に節税目的以外には考えられないような高額の土地等を取得するときには、総則6項適用のリスクが高いと考えてよい(脚注12)。不動産投資自体は、とりたてて非難されるべき行為ではないが、長期的な事業計画の下に行うべきであろう(脚注13)。
(2)事業計画等説明材料の準備  総則6項の適用を懸念して、個人事業の拡張、自宅や子供達の住宅の取得など真に必要な土地等の購入を断念する必要はない。不動産の取得に節税目的ではない他の合理的な目的が存する場合には、総則6項の適用のリスクは低くなるのではないかと思われる。
 また、このような場合に仮に総則6項が適用されたとしても、時価以上の評価額により課税されるわけではないし(脚注14)、課税時期前に土地等を購入した場合としなかった場合に比べて税負担が増加することになるわけでもない。節税以外の目的で土地等を取得する場合には、その取得目的を客観的な資料に基づいて説明できるよう準備しておくことが必要だろう。
(3)行き過ぎた節税策  80%程度を目途にした評価であり、評価通達自身も、この評価水準を利用した節税策がとられることは想定しているものと思われる。問題とされるのは、「行き過ぎた」節税であり、常識を逸した取引である。平成29年裁決においても、一般の納税者との関係で著しく不公平であることを総則6項の適用を支持する大きな理由としている。挑戦的な節税策は控えるべきであろう。
(4)取得価額は必ずしも時価ではないこと  税務調査において課税当局から総則6項適用の意向が示され、直前の取得価額が課税時期の時価であるとされた場合には、評価通達の定めによる評価、つまり、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる特別の事情のないことを主張するだけではなく、取得価額が客観的交換価値を示しているのかどうかなどの検証が必要である。そのためには、対象土地等について不動産鑑定評価の実施をも考えるべきである。本裁決では、請求人らは、特別の事情がないこと、そして、課税当局側の鑑定評価に用いられた最終還元利回りは飽くまで見積もられたものであり、評価主体の恣意により大きく変動するため、収益還元法による時価評価は唯一適正な時価とはいえないと主張したが、請求人側においても鑑定評価を実施するなどして、予備的に評価通達によらない場合の時価を主張すべきであったともいえる。
(5)納税資金の確保  課税時期後に土地等を売却したとしても、それが直ちに総則6項の適用につながるとはいえない(脚注15)。しかしながら、課税時期直前に取得した土地等を、相続税の捻出のためとはいえ、課税時期直後に売却した場合には、直前の取得の事実と併せて、総則6項の適用リスクが高まるといえる。リスクを低下させるためには、しばらくの間は、売却を見合わせるべきである。そのためには別途納税資金を手当てしておくべきであろう。

6 おわりに  総則6項の適用は、納税者の予測可能性を妨げ、不意打ちの課税がされることとなるとの指摘もあるが、上記で述べたように、総則6項が適用されるリスクの高い事例はある程度予想することができる。なお、上記指摘を踏まえるならば、総則6項が適用されたケース、または適用されなかったケースについては、できる限りの情報の公開が望まれるところである。
 また、平成29年裁決においては、評価通達の定めによって評価した価額と時価のとの間に大きな開差が存在したが、同裁決からは、各不動産が特殊なものであるとも、また、取得の経緯が特殊なものであるとも思えない。つまり、評価通達及び路線価等の評価基準では、本件各不動産及びその周辺に所在する土地等の時価を適正に評価することができなかったのではないかとの疑いも生じる。課税当局には、より精度の高い評価額の算定が可能となるように評価通達及び評価基準の不断の見直しが求められる。

脚注
1 国税不服審判所 裁決事例集No.107。
2 平成17年11月10日東京地裁判決、平成22年9月24日東京地裁判決、平成25年12月13日東京地裁判決、平成27年7月8日東京高裁判決など。
3 個別の土地の評価に当たっては、評価通達に規定する画地補正等が行われるが、同通達に定める画地補正の方法によっては、評価対象土地の価額に影響を及ぼす全ての要素を反映させることができるとは限らないことから、この点に配意した評価の安全性をも織り込んだものと考えられる。
4 北村厚編「平成30年版 財産評価基本通達逐条解説」(大蔵財務協会)52頁。
5 毎年の路線価及び評価倍率の公表時にも、この路線価等が、毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格、売買実例価額、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として算定した価格の80%により評価されていることが明らかにされている(例えば、平成30年7月国税庁報道発表資料「平成30年分の路線価等について」。)。
6 前掲(注)2参照。
7 もっともこのような申告が常に認められるわけではなく、税務調査により更正処分がされることもある。
8 時価を上回る評価額により相続税又は贈与税の課税価格を計算することは相続税法22条の規定に反し、違法な課税となるが、これとは反対に時価を下回る評価額によることも、同条の規定に反して違法であると考えられる。
9 路線価等の評価水準が現在よりも低い時期の事件であるが、平成5年1月26日東京高裁判決では、納税者主張の1億3170万円(評価通達による評価額)に対して課税当局主張の7億5850万円(取得価額)とされ、平成5年3月15日東京高裁判決では納税者主張の1億2102万円(評価通達による評価額)に対して課税当局主張の16億6100万円(取得価額等)とされた。また、タワーマンションに係る平成23年7月1日裁決では、納税者主張の5801万円(評価通達による評価額)に対して課税当局主張の2億9300万円(取得価額等)とされた。
10 取引相場のない株式を純資産価額方式で評価する場合に、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等又は家屋等については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額により評価することとされている(評基通185かっこ書き)ところ、その理由の一つとして、「課税時期の直前に取得(新築)し、「時価」が明らかにわかっている土地等や家屋等についても、わざわざ、路線価等により評価替えを行うことは、「時価」の算定上、適切でないと考えられる」と説明されている(北村厚編「平成30年版 財産評価基本通達逐条解説」(大蔵財務協会)644頁。)。
11 ただし、土地等の売買契約中に売主に相続が開始した場合には、相続税の課税財産は土地ではなく、残代金請求権であるとされる(昭和61年12月5日最高裁第二小法廷判決)。
12 旧租税特別措置法第69条の4(相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例)の規定(平成6年法律第17号により廃止)や財産評価基本通達185項かっこ書きの定め(前記(注)10)などに照らすと、税負担の軽減のみを目的とした不動産の取得は、少なくとも課税時期前3年以内の取得は差し控えることが無難であろう。
13 節税だけの目的のために、たいして収益の上がらない不動産を購入する例もあるというが、本末転倒の行為といえる。
14 旧租税特別措置法第69条の4の規定は、相続開始前3年以内に取得した土地等及び建物等については、時価ではなく取得価額を基に相続税の課税価格を計算するとするものであったため、時価を著しく超える価額で相続税の課税価格が計算されることもあり得た(平成7年10月17日大阪地裁判決)。
15 相続税の納税資金を捻出するために相続財産である土地を売却した場合に、売買金額が、当該土地を路線価等に基づいて評価した金額を大幅に上回る価額となることも珍しくないが、それだけの理由で総則6項が適用される可能性は低い。

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