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解説記事2019年05月20日 【特別解説】 米国会計基準からIFRSに移行した日本企業が作成した調整表の項目②(2019年5月20日号・№787)

特別解説
米国会計基準からIFRSに移行した日本企業が作成した調整表の項目②

 本稿は前回に引き続き、米国会計基準からIFRSに移行した日本企業が作成した調整表の項目について説明したい。
 前回は、「認識・測定項目における重要な差異」として調整表に記載された回数が最も多かった上位5項目(下記の表1を参照)を紹介し、それぞれについて、事例を交えつつ簡単に説明を行った。


 本稿では、収益計上の方法以降ではどのような項目が挙げられていたかをまず紹介し、前回と同様に、それぞれについて、事例を交えつつ、特徴的な点を中心に説明してゆくこととしたい。
 まず、認識・測定項目における重要な差異(収益計上の方法以降)を示すと、表2のとおりである。

 以下、それぞれの項目について、開示例を適宜交えつつ簡単に説明してゆくこととしたい。

非金融資産の減損及びのれんの配分単位(報告単位)の取扱い  まず、資産の減損とのれんの配分単位に関する差異を取り上げる。非金融資産の減損の要否の判定や測定プロセス(いわゆる2ステップアプローチと3ステップアプローチ)についての基準間の相違は、我が国でも比較的よく知られている(我が国は、米国会計基準と同様に、3ステップアプローチをとっている)。
 米国会計基準では、有形固定資産及び耐用年数を確定できる無形資産について、当該資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合に、当該資産の帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローを比較した結果、帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを上回った場合に限り、公正価値を上回る金額を当該資産に係る減損として認識するのに対して、IFRSでは、当該資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合に、当該資産の帳簿価額が回収可能価額(使用価値又は売却費用控除後の公正価値のいずれか高い金額)を上回る金額を固定資産の減損として認識する(IAS第36号「資産の減損」第59項)。
 また、米国会計基準では、のれんの減損テストについて、レポーティング・ユニット(事業セグメントもしくは事業セグメントより1段階下の構成単位)の公正価値とのれんを含む簿価を比較して、レポーティング・ユニットの公正価値がレポーティング・ユニットの簿価を下回った場合には、当該差額をのれんの減損損失として認識するのに対し、IFRSでは、のれんを含む資金生成単位の簿価がその回収可能価額を超過した場合に、その超過額を減損損失として認識する。のれんを含む資金生成単位で発生した減損損失については、まずのれんを減損し、残額がある場合には、資金生成単位内のその他の資産に対して減損損失を認識することになる。
 日本電信電話(NTT)の開示例は次のとおりである。
 米国会計基準とIFRSではのれんの減損テストの実施方法が異なるため、減損損失として認識する金額に差異が生じております。主な差異は、減損テストの実施単位です。米国会計基準ではレポーティング・ユニットごとにのれんの減損テストを実施するよう定められているのに対し、IFRSでは資金生成単位もしくは資金生成単位グループごとに減損テストを実施するよう定められております。NTTグループは、IFRSへの移行に際し、レポーティング・ユニットの一部を複数の資金生成単位に分割しております。
 また、米国会計基準と日本基準は減損損失の戻入を一切認めないのに対して、IFRSはのれん以外の資産については、一定の要件を満たした場合には、減損損失の戻入を要求している(IAS第36号第109項)。三菱商事は、減損損失の戻入を、会計基準間の差異として調整表で記載している。

繰延税金資産・負債の計上に関連する事項  繰延税金資産・負債の計上に関連する米国会計基準とIFRSの基準差については、住友商事が以下のような開示を行っている。なお、IFRSの関連する規定は、IAS第12号「法人所得税」の第39項や第44項、及び第61A項等である。
① 米国会計基準では、関連会社に対する投資に係る将来減算一時差異については、回収可能性が高い範囲内まで繰延税金資産を計上しておりました。IFRSでは、関連会社に対する投資に係る将来減算一時差異については、予測可能な将来に当該一時差異が解消し、回収可能性が高い範囲内で繰延税金資産を計上しております。また、米国会計基準では、関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異については、売却等の現在利用可能な解消手段に基づく税率で繰延税金負債を計上しておりました。IFRSでは、関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異については、配当等のマネジメントが予測する解消手段に基づく税率を用いて繰延税金負債を計上しております。
② 米国会計基準では、過去にその他の包括利益で認識した繰延税金資産・負債に関して税率が変更された場合、当該影響による繰延税金については当期利益で認識しておりましたが、IFRSでは、これらの繰延税金についてはその他の包括利益で認識しております。

その他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産の会計処理及び非上場株式の公正価値評価、開発費の資産化、賦課金の会計処理  これらは、日本基準からIFRSに移行する企業が作成する調整表においてもしばしば登場する、おなじみの項目である。資本性金融商品の分類はIFRS第9号「金融商品」の第4.1.1項及び第4.1.4項、開発費の資産化はIAS第38号「無形資産」の第57項、賦課金はIFRIC第21号「賦課金」に規定が存在する。

その他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産の会計処理及び非上場株式の公正価値評価(三菱電機)
 米国会計基準では、市場性のない資本性金融商品について、取得原価で計上します。一時的でないと判断される公正価値の下落が生じている金融商品については、取得価額が公正価値を上回る部分を減損損失として認識します。また、当該金融商品に係る売却損益については、純損益として認識します。一方、IFRSでは、資本性金融商品について、活発な市場の有無にかかわらず公正価値で計上します。また、公正価値の変動をその他の包括利益において認識することが認められているため、当社及び連結子会社は、資本性金融商品の公正価値の変動をその他の包括利益で認識することを選択しており、米国会計基準において純損益に計上していた減損損失及び売却損益についてもその他の包括利益として認識します。

開発費の資産化(日本電信電話)
 米国会計基準で費用処理をしていた研究開発に係る支出のうち一部の開発費については、IFRSでは資産計上の要件を満たすため、財政状態計算書に資産として認識し、見積耐用年数にわたり定額法で償却しております。

賦課金の会計処理(京セラ)
 米国会計基準では、賦課金に該当する固定資産税について、納付時点で認識しています。IFRSでは、当該賦課金について、債務発生事象が生じた時点で認識しています。

連結に関連する論点(連結の範囲と決算日の統一)  IFRSと比較すると、米国会計基準の連結の範囲は持株基準的な要素が濃い。その結果、米国会計基準から支配力基準を適用するIFRSに移行すると、連結対象及び持分法を適用する企業が増加することになる。また、子会社若しくは持分法適用会社の決算日が親会社と異なる場合、米国会計基準では、異なる決算日の間に発生した重要な事象又は取引を調整することは求められていないのに対し、IFRSでは実務上不可能な場合を除いて決算日は統一しなければならない(決算日を統一しない場合にも、仮決算を実施するか重要な事象又は取引を調整することが求められる。)。なお、IFRSの関連する規定は、IFRS第10号「連結財務諸表」の第5項、B92項及びB93項である。

(パナソニック)
 米国会計基準では、過半数の議決権を保有し支配権を有する子会社、又は変動持分により支配権を有する事業体を連結し、財務及び営業方針の決定に対し重要な影響力を与えることができる関連会社(一般的に20%から50%までの議決権を保有する会社やジョイントベンチャー等)に対する投資は、持分法を適用しています。IFRSでは、支配を有している会社は子会社として連結し、支配までには至らないが財務及び営業方針の決定に関与することができる重要な影響力を有している会社は持分法を適用しています。そのため、当社は、従前の持分法適用会社の一部について、子会社として連結範囲に含めています。

(三菱商事)
 米国会計基準では、子会社若しくは持分法適用会社の決算日が親会社の決算日と異なる場合、異なる期間内に発生した重要な事象又は取引を調整することを求められていません。IFRSでは、子会社若しくは持分法適用会社の決算日が親会社の決算日と異なる場合、実務上不可能な場合を除き、決算日を統一しなければなりません。また、IFRSでは、決算日の統一が実務上不可能な場合、異なる期間内に発生した重要な事象又は取引を調整しなければなりません(以下略)。

その他の項目  これまでに紹介した項目以外で、特徴的な項目に関する開示をいくつか選んで紹介する。

(剥土費用の取扱い 三菱商事)
 米国会計基準では、生産期に発生した剥土費用を発生した期間における変動生産費として、当該鉱業資産の棚卸資産原価として処理することが求められていました。IFRSでは、IFRIC第20号「露天掘り鉱山の生産フェーズにおける剥土コスト」により、生産期に発生した剥土費用を関連する鉱体の生産に紐付けて処理することが求められます。

(他者への賃貸用に保有していた有形固定資産を売却した場合の会計処理 本田技研工業)
 米国会計基準では、他者への賃貸用に保有していた有形固定資産を売却する場合、他の固定資産項目と同様に固定資産の売却として処理しています。一方、IFRSでは、それらの資産を日常的に売却している場合、賃貸が中止されて売却目的で保有するようになった時点で帳簿価額を有形固定資産から棚卸資産に振り替えています。また、その後の売却により棚卸資産を売上原価に振替えるとともに、対応する対価を売上収益として認識しています。

(不利な契約に関する会計処理 パナソニック)
 米国会計基準では不利な契約に係る引当金に関する特別な会計基準がなく、引当金に関する一般的な規定及び棚卸資産の会計基準が適用されますが、IFRSでは不利な契約を有している場合には、当該契約による現在の債務を引当金として認識しなければならないとされています。
 なお、IFRSの不利な契約に関する規定(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」)については、契約が損失を生じるかどうかを企業が評価する際に、どのコストを含めるべきかを明確化することが提案されており、2018年の12月にIASBから公開草案が公表された。コメントの募集を経て、明確化のための審議が今後IASBで行われるものと思われる。
 窪田製薬ホールディングスは、調整表では3項目のみ開示しているが、いずれも他社では見られない固有なものであった。

(窪田製薬ホールディングスが調整表で行った開示)
金融商品  IFRS第9号「金融商品」の早期適用により、社債、米国政府機関債、コマーシャル・ペーパー及び譲渡性預金から構成される流動及び非流動のその他の金融資産は、米国会計基準での公正価値からIFRSでの償却原価に測定方法が変わったため、金額が増加しました。前連結会計年度末時点において、流動のその他の金融資産は8百万円増加し、非流動のその他の金融資産は8百万円増加しております。この結果、連結財政状態計算書のその他の資本の構成要素及び連結包括利益計算書のFVTOCI負債性金融資産の公正価値の純変動が増加しております。
株式報酬  IFRS第2号「株式に基づく報酬」の適用により、株式報酬の費用認識方法が、権利確定期間にわたる定額法から、段階的確定法に変更されました。段階的確定法では、権利確定時期が段階的になされるストック・オプションは、それぞれが別個の契約として取り扱われます。定額法と比較した場合、より早い時期に株式報酬の費用化がなされることになります。前連結会計年度において、当社グループは追加的な株式報酬123百万円計上しました。この調整により、研究開発費及び一般管理費の共通費の配賦も調整されるとともに、連結財政状態計算書における資本剰余金も増加しております。
ウェブサイト開発費  前連結会計年度において、米国会計基準では資産計上していた12百万円のウェブサイト開発費を、一般管理費として費用計上しております。
 なお、ウェブサイト開発費は、SIC第32号「ウェブサイトのコスト」において、認識と当初測定に関するIAS第38号第21項に記載される一般的要求(無形資産の認識要件)に準拠することに加えて、企業がIAS第38号第57項の要求(開発費を資産計上するための6つの要件)を満たすことができる場合に、かつその場合にのみ、無形資産として認識しなければならない(=そうでなければ費用処理)と定められている。
 日本ハムは、大手食肉メーカーらしく、米国会計基準からIFRSに移行したことによって、これまでは棚卸資産として区分していた牛や豚を生物資産として区分掲記するとともに、公正価値により測定している(IAS第41号「農業」第12項)。

生物資産に関する注記(日本ハム)
 IFRSにおいては、生物資産について、公正価値が信頼性をもって測定できる場合には、売却コスト控除後の公正価値で測定されます。当社グループの生物資産である牛及び豚については、同種の資産の売買価格をインプットとしたマーケット・アプローチを基にした評価モデルにより、生物資産の公正価値を測定しており、観察不能なインプットを含むためレベル3に分類しております。前連結会計年度末において、当該規定を適用した棚卸資産に含まれる米国会計基準の帳簿価額は23,828百万円であり、公正価値は24,830百万円であります。
 さらに、負債と資本の区分に関連する会計処理の相違点を記述した開示例を2例紹介する。

転換社債型新株予約権付社債のワラント部分の取扱い(日本ハム)
 当社グループは、転換社債型新株予約権付社債のワラント部分について、米国会計基準においては、転換社債との区分を行わず資本部分に計上しております。それに対し、IFRSではワラント部分について、IAS第32号の規定に基づき、本体契約から切り離して処理しております。そのため、当社の発行した転換社債の新株予約権及び同取得条項については、IFRSにおいてのみデリバティブ債務として負債計上し、公正価値測定を行っております。また、行使時点では、デリバティブ債務を資本項目へと振り替えております。

非支配持分の所有者に対して付与した子会社株式の売建プット・オプションの取扱い(日本電信電話)
 米国会計基準では、一部の非支配持分の所有者に対して付与した子会社株式の売建プット・オプションについて、当該権利の行使に伴う非支配持分の償還には、NTTグループの支配力が及ばないため、連結貸借対照表の負債と資本の中間に、見積償還額で「償還可能非支配持分」として計上し、見積償還額の変動は利益剰余金への計上を通じて調整しておりました。一方、IFRSでは、当該オプションについて、原則としてその償還金額の現在価値をその他の金融負債として当初認識するとともに、その事後的な変動額を資本剰余金として認識しております。

終わりに  大雑把な言い方になるが、2005年7月にCESR(欧州証券規制当局委員会)が行った日本基準のIFRSとの同等性評価を契機として、わが国の会計基準をIFRSに近づけるコンバージェンス(収斂)の動きが始まるまでは、我が国では、会計基準の先進国である米国の会計基準をお手本、下敷きとして、主に財務諸表作成者側の使い勝手等に配慮しつつ、会計基準の作成が行われてきたと言える。それから15年弱の間に、我が国においては米国会計基準を適用して連結財務諸表を作成する企業数が、IFRSへの移行によって大幅に減り、「国際的な会計基準」と言えば、これまでの米国会計基準ではなく、現在はIFRSを指すことがほとんどである。
 しかしながら今回、米国会計基準からIFRSに移行した日本企業が作成した調整表の記載内容を読むと、のれんの非償却と有給休暇引当金の計上を除くと、我が国の会計基準と米国の会計基準とは、共通点が極めて多いことに気付く。改めて米国会計基準が我が国に与えた影響の大きさを痛感するが、今後のIFRSの開発にあたり、多くの共通の悩み・課題を持つ我が国と米国とが協調して意見発信を強化することで、より有益な貢献ができ、我が国の利害関係者がより受け入れやすい、会計基準の開発が可能になるのではないかと考えられる。

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