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解説記事2019年06月17日 【特別解説】 監査上の主要な検討事項(KAM) 欧州企業による開示事例の調査②(2019年6月17日号・№791)

特別解説
監査上の主要な検討事項(KAM)
欧州企業による開示事例の調査②

新しい会計基準の適用

 本稿では前回(本誌789号)に引き続き、英国企業や欧州大陸の企業の監査報告書において、会計監査人が記載した監査上の主要な検討事項(KAM)を調査分析することとしたい。
 ほとんどがIFRS(国際財務報告基準)を適用している欧州の大企業にとって、2018年度はIFRS第9号「金融商品」及びIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が強制適用されるという大きな節目の年であった。2018年は業種を問わず、各社とその担当監査法人において、IFRS第9号及び第15号を新規に適用するための膨大な作業が行われたことは間違いなく、その結果として、「IFRS第9号による予想信用損失の計算」「IFRS第15号の新規適用」といった項目がKAMとして監査報告書に記載される事例がよく見られた。本稿では、IFRS第9号及び第15号に加えて、2018年度からIFRS第16号「リース」を1年前倒しで早期適用した会社の監査報告書に記載されたKAMを取り上げて、会社の業績に重要な影響を与えるこれらの新しい基準書を、会社がどのように適用し、それに対して担当の会計監査人がどのような対応をしたのかを探ってみることとする。

IFRS第9号「金融商品」の適用
 IFRS第9号「金融商品」のうち、減損(貸付金等に対する貸倒引当金の計上)に関する規定の概要は、次のとおりである。
・従来のIAS第39号「金融商品:認識及び測定」では、発生損失モデルが採用されており、当初認識後、評価日までに実際に「発生した」事象(「損失事象」)についてのみ減損損失が認識されていたが、IFRS第9号では、予想信用損失モデルが採用された。
・予想信用損失モデル(発生損失モデルよりも、よりフォワードルッキングなモデルである)においては、金融資産の信用の質の変化に応じて、異なる測定方法に基づいて予想信用損失にかかる引当金が測定される。
・金融資産の信用が毀損している証拠の有無により、利息収益の算定方法が異なる。
・売掛債権、契約資産及びリース債権については、信用の質の変化を考慮せず、残存期間にわたる予想信用損失を認識することが認められる。
 英国の大手保険会社であるオールド・ミューチュアル(Old Mutual)社の会計監査人であるKPMGとデロイト(共同監査人)は、「IFRS第9号の適用と貸付金と前渡金に対する予想信用損失の評価」という表題で、以下のようなKAMを記載した。

(監査上の主要な検討事項)  貸付金と前渡金に関する予想信用損失の評価には、無担保貸出金のデフォルト確率(PD)、デフォルト損失(LGD)及びデフォルト時のエクスポージャー(EAD)に関して重要な判断と主観的な仮定が要求される。予想信用損失の計算に使用される主要なパラメーターを決定するために使用される、信用リスクを管理するシステムには、経営者が重要な判断を適用することが必要であるが、今年度がIFRS第9号適用の初年度であるため、十分なデータの深度と、信用リスクを管理するシステムの洗練度が欠如している。さらに、データの入手可能性が異なることや、信用リスク管理の成熟度がグループ間で異なるため、予想信用損失の計算に当たって、使用する主要なパラメーターを決定するために、異なるアプローチが用いられている。これまでの会計記録の作成において利用されたことがない、多くのシステムからデータが供給されている。予測を生成し、予想損失の計算モデルを走らせるために利用されるデータの網羅性と正確性に関するリスクは増加している。また、貸出先であるアフリカ経済の現状における不安定さは増している。これらにより、見積りの不確実性が高まっている。取締役による重要な判断が適用されているために見積りの不確実性が高く、監査上の作業が要求されることから、IFRS第9号の適用と予想信用損失の評価は、監査上の主要な検討事項として評価された。

(監査人の対応)  取締役が文書化したIFRS第9号の予想信用損失減損の手法を、IFRS第9号が定める原則と要求事項に照らして検討し、比較することによって、IFRS第9号の予想信用損失のギャップ分析を実施する。モデルにインプットされたデータの網羅性と正確性に関する内部統制の整備及び業務への適用状況を検証するために手続を実施する。
 次のことを実施することにより、モデルの合理性と取締役が利用した主要な仮定の合理性を評価する。
・監査人自身の独立したモデルを利用して、予想信用損失の計算を再実施するとともに、予想信用損失のパラメーターと見積りを、経営者が実施した計算と比較する。
・我々の減損手法の検討や、予想信用損失計算の再実施、及び市場内で観察された業界の懸念をもとに、主要な感度評価と予想信用損失の影響の評価を実施する。
・予想信用損失に関連して行われた開示がIFRSと整合しているかどうかを評価する。

 上記の手続に基づき、我々が入手した証拠は、貸付金と前渡金に対する信用減損額の総額が、予想信用損失モデルに照らして、許容可能な範囲に収まっていることを裏付けた。

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用
 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の概要は、次のとおりである。
・IFRS第15号は、財務諸表利用者の理解に資するために、契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性について、定性的及び定量的な情報の開示を求めている。
・IFRS第15号は、収益をいつ、いくらで認識するのかを決定するため、5つのステップによる収益認識モデルを定めている。このモデルにおいては、収益を認識するタイミングについて、以下の2つのアプローチがとられている。
① 一定の期間にわたり、収益を認識
  企業の履行を描写する方法で認識する(現行基準のサービスや工事進行基準に基づく会計処理に類似)。
② 一時点で収益を認識
  財又はサービスの支配が顧客に移転した時点で認識する。
・IFRS第15号には、製品保証やライセンスといったトピックに関する14の適用指針が含まれている。
・また、IFRS第15号は、棚卸資産など他の基準で扱われるものを除き、契約に関連して発生するコスト、すなわち、契約を獲得又は履行するために発生したコストをどのような場合に資産化するかに関するガイダンスも提供している。
 英国のエンジンや完成車のメーカーであるロールスロイス(Rolls-royce)社の会計監査人であるPwCは、「IFRS第15号の適用」という表題で、以下のようにKAMを記載した。

(監査上の主要な検討事項)  通常は長期かつ多額の契約に基づいて運営される航空・防衛事業について、IFRS第15号は、収益と原価の認識時期について、非常に大きな影響を与えた。アフターマーケット契約にかかる収益は、現在は工事進行基準に基づいて認識されている。この際の進捗度は、履行義務を充足するための見積りコストに対する実際発生原価の割合を用いて評価される。
 エンジンの飛行時間、航空機材の稼働パターン及び将来のメンテナンス活動の内容と時期のような、収益と原価に影響を与える多くの領域において判断が介入し、それによって虚偽表示リスクが高まることになる。
 IFRS第15号による影響をすべて反映するためには、これまでに報告された数値に対して重要な修正が必要になることを前提とすると、その他の修正がIFRS第15号の影響として不適切に報告されるリスクがある。

(監査人の対応)  我々が実施した手続は次のとおりである。
・2017年度の財務諸表で開示された影響度評価に関する前任監査人(注)の監査調書を査閲する。
・契約条件と、適切な収益認識を判断するために、経営者がIFRS第15号の影響度を評価する際に5ステップのプロセスを評価した方法を理解するために、多くの契約をサンプリングした。
・社内の専門家の支援を受けて、我々は、経営者が作成した多くのポジションペーパーを批判的に評価した。なお、経営者は、影響度調査の主要な局面については、外部の専門家の支援を受けて、収益認識の方針を変更することを提案した。
・我々は、新基準の下においてグループの様々な活動を反映する(例えば、当初の設備及び長期のアフターマーケットサービス契約を含む)際の適切性と網羅性の両方を含む、IFRS第15号に基づくグループの収益認識の会計方針の改訂を評価した。
・我々は、IFRS第15号の当初適用の影響の見積りを決定するために利用した方法の適切性を評価した。
・我々は、監査の範囲内で、かつ、収益の流れが重要な構成単位の監査チームに対して、以下のことを実施するように指示した。
―現地の契約についてIFRS第15号適用の正確性と網羅性をテストするために、サンプルベースで監査手続を実施する。
―IFRS第15号に基づく収益認識が複雑である場合の重要な新規契約、又は契約の修正を評価する。
―連結財務諸表で開示された新規の追加的な量的な情報を裏付けるために、実証手続を実施する。
(注)2017年度は、KPMGが会計監査人であった。

 我々は、IFRS第15号で要求される変更は、ビジネスに適切に織り込まれていると考えた。また、グループの重要な契約に影響を与える主要な変更を検討した。我々はまた、注記1,2及び27で開示されている、IFRS第15号を適用することによる影響の、グループによる開示の適切性を検討した。これらの手続を実施した結果、重要な未修正の虚偽表示や、開示に関する例外的事象が生じることはなかった。

IFRS第16号「リース」の適用(早期適用)
 IFRS第16号「リース」の概要は、次のとおりである。なお、IFRS第16号の強制適用は、IFRS第9号やIFRS第15号よりも1年遅い、2019年1月1日以後開始する事業年度である。したがって、本稿で取り上げるシェル社は、IFRS第16号を1年早期適用している。
・リースの定義について、支配の概念に基づく考え方が導入された。IFRS第16号の対象となるリース取引とは、原資産の使用についての支配が貸手から借手に移転する取引である。
・契約が賃貸借契約の法的形態をとるか否かは、リース会計の適用要否の判断に影響しない。
・1つの契約にリースの要素とリース以外の要素が含まれる場合には、原則、両者を分離して把握・会計処理する必要がある。ただし、借手については両者を区別せず全体を単独のリース要素とみなして処理する簡便法も認められている。
・借手にとってのリース取引は、資金調達を伴う使用権資産の取得として会計処理される。原則としてすべてのリースは、賃借した資産を使用する権利(使用権資産)とその対価を支払う義務(リース負債)としてリース開始日に認識される。以後、使用権資産の減価償却費とリース負債にかかる支払利息が計上され、一般に、リース負債残高が大きいリース期間の前半に、より多くの費用が計上される。
・ただし、短期のリースや少額資産のリースについては免除規定があり、従来のオペレーティング・リースに準じた会計処理(使用権資産及びリース負債の計上を行わず、リース期間にわたって原則として定額のリース費用を計上)も認められる。
・借手は、①契約変更があった場合に加え、②延長オプションもしくは解約オプションの行使可能性に関する想定が見直されリース期間が変更された場合、及び③購入オプションの行使可能性に関する想定が見直された場合、のいずれかに該当する場合に、リース負債を再測定し、使用権資産計上額を調整する。また、一定の要件を満たす変動リース料、及び残価保証による支払予想額については、その変動をリース負債及び使用権資産に反映する。
・開示については拡充が図られた。
 英国とオランダの石油会社であるロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell)社の会計監査人であるアーンストアンドヤング(EY)は、「リースの認識、測定、表示及び開示(IFRS第16号)」という表題で、以下のように監査報告書にKAMを記載した。

(監査上の主要な検討事項)  IFRS第16号は、2005年にIFRSを適用して以来、シェル社のような企業が適用しなければならない新たな基準書の中で、もっとも複雑なものであることは疑いがない。シェル社は、IFRS第16号が適用される多数のリース契約を保有している。主要な複雑性には、次のものが含まれる。
・共同支配の取り決め、特にオペレーターが共同支配事業のためにリース契約を締結する場合に、IFRS第16号をどのように適用するか。
・シェル社のオペレーティング・リースを資産化するために利用する、適切な割引率の決定
・複雑なリース構造に対する会計処理を評価すること。
・シェル社のような会社が要求される、不可避的な規模と複雑さに対応できるような、適切なシステム基盤を適用すること。

(監査人の対応)  我々の監査手続は、以下のことに着目した。
・シェル社のオペレーティング・リースの母集団の網羅性を評価し、すべてのリースがシェル社のリース会計ITアプリケーションに、適切にアップロードされていることを評価する。
・シェル社の複雑なオイルリグのリース構造を分析する。
・シェル社のリースを資産化する際に利用される、適切な追加借入利率を評価する。
・シェル社が採用しているITアプリケーションや、IFRS第16号に関する内部統制の枠組みをテストする。
・財務諸表上で提供されている、IFRS第16号適用の影響に関する開示を監査する。
 このリスクに対応するための監査手続は、主としてグループ監査チームが実施した。

 さらに、会計監査人は、シェル社の監査委員会に対して、以下の事項についてコミュニケーションを実施したと記載されている。
・IFRS第16号適用を巡る主要な複雑性は、シェル社のリース負債を計算する際の適切な割引率の決定と、リースの大きな母集団に対する会計処理を支えるITシステムの業務への適用であること。
・会計監査人が、シェル社が採用した割引率を監査する際に支援を受けるために、石油とガスの評価の専門家を関与させたこと。
・監査人の手続に基づくと、2019年1月1日時点の追加的なリース負債及び使用権資産は、全体的に見て許容可能な範囲内であること。
・したがって、注記3のIFRS第16号の採用に関する開示は、基準書に準拠して適切に作成されたこと。
・個別のリースを記録する、ITシステムを取り巻く内部統制の整備と業務への適用の状況について、監査人は満足していること。

我が国におけるKAMの適用
 最後に、わが国におけるKAM導入の現状を概観することとしたい。
 我が国においても、近年の不正会計事案等を契機として、監査の信頼性を確保する必要性が高まり、そのための取組みの一つとして、財務諸表利用者に対して監査に対する情報提供を充実させる必要性が指摘されてきた。これを背景として、2018年7月5日付で監査基準が改訂され、監査報告書には、監査上の主要な検討事項(KAM:Key Audit Matters)として、監査対象会社固有の事項が記載されることとなった。さらに、2019年2月27日付で日本公認会計士協会から監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」が公表され、監査人に要求される事項等も明らかにされた。
 我が国におけるKAMは、金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業の年度の財務諸表の監査報告書に記載が求められる。連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表の監査報告書にもKAMの記載が求められるが、連結財務諸表の監査報告書に同一の記載がある場合は、個別財務諸表の監査報告書上の記載を省略することができる。
 適用時期は2021年3月期の監査からとなるが、2020年3月期から早期適用することも可能とされており、監査に関する情報提供の早期の充実や実務の積み上げによる円滑な導入を図る観点から、特に東証1部上場企業については、2020年3月期決算の監査から早期適用することが強く期待されている。個別の基準書においてこのような言及がなされることは極めて異例と言えるが、2019年3月末日現在、東京証券取引所に上場する企業3,663社の過半を占める(2,140社)東証1部上場企業とその会計監査人において、どのような対応がなされるか注目してみたい。

参考文献
・KPMGInsight IFRS第9号「金融商品」における減損規定 あずさ監査法人
・図と設例による解説IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(2016年改訂版)  あずさ監査法人
・IFRS第16号「リース」~適用に向けて~ あずさ監査法人

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