カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

税務ニュース2008年02月18日 遡及適用は新法が施行前の行為に適用されるかで決せられるべき(2008年2月18日号・№247) 平成15年末には「国民に周知」といえる状況にはなかった

遡及適用は新法が施行前の行為に適用されるかで決せられるべき
平成15年末には「国民に周知」といえる状況にはなかった

岡地裁第2民事部(岸和田羊一裁判長)は1月29日、平成16年度税制改正における土地、建物等の譲渡損失を他の所得から控除することを廃止する改正が、当該改正法の施行時期より前の平成16年3月10日に行われた住宅譲渡に適用することの可否が争点となった事案に対して、「本件改正は、租税法規不遡及の原則(憲法84条)に違反し、違憲無効というべきである。」などと判示し、更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す判決を言い渡した。
 当該改正当時から本件改正における遡及適用には疑問が提起されていたが、本判決は、裁判所が税制改正を立案する財務省に厳しい注文をつけた格好だ。

事案の概要  本件は、原告が、平成16年3月10日に住宅を譲渡したことにより長期譲渡所得の計算上損失が生じたとして、福岡税務署長に対し、平成16年分所得税に係る更正の請求をしたところ、福岡税務署長から、同年4月1日施行の法律の改正により、同年1月1日以後に行われた原告の住宅の譲渡についてはその損失金額を他の所得から控除(損益通算)できなくなったとして、更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という)を受けたことから、原告に不利益を及ぼす租税法規の遡及適用は許されないとして、被告に対し、本件通知処分の取消しを求めた事案である。
 本件では、「損益通算を廃止した本件改正法をその施行時期より前の平成16年3月10日に行われた原告の住宅譲渡について適用することは、憲法(租税法規不遡及の原則)に違反するか」が争点として争われた。

原告の主張  本件改正法は平成16年3月26日に成立し、同月31日に公布され、同年4月1日に施行されたものである。本件改正は、新措置法附則27条等により遡及適用され、同年1月1日から同年3月31日までに行った建物等の譲渡についても、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失を、他の各種所得金額から控除(損益通算)できないことになった。
 原告は、同年3月10日、その当時の租税法規により損益通算が可能であると信じて、本件譲渡資産の売却を行ったのに、本件改正により、これが認められなくなり、約170万円の還付が受けられないという著しい不利益を被った。
 国民は、その時点で存在する法律を遵守し、その法律のもとで社会生活を送ることが原則であり、そのような国民の財産権を侵害する遡及適用は許されるべきではない。また、本件改正では、法律の変更について、大多数の国民が理解するような周知がされていたとはいえないなどと主張した。

被告の主張  被告は、原告に本件改正が適用されたのは租税法規の遡及適用には当たらない(暦年途中の法改正において、その暦年開始時からの譲渡につき損益通算を認めないことにしたとしても、すでに成立した所得税の納税義務の内容を変更することにはならず、改正法を適用することは遡及適用には当たらない)し、仮に遡及適用と捉える余地があるとしても、本件改正には十分な必要性・合理性(不均衡の是正や節税のための損益通算を目的とした安売りによる土地の売却を回避することなど)があり、これを平成16年1月1日以後の譲渡から適用する必要性も存し、かつ、事前に国民に対し十分な周知が行われていたのであるから、本件改正は合憲であり、これを根拠になされた本件通知処分は適法であるなどと主張した。

裁判所の判断  岸和田裁判長はまず、「租税法規不遡及の原則について、憲法上明文の規定はないものの、憲法84条が規定している租税法律主義は、国民に不利益を及ぼす租税法規の遡及適用を禁じていると解すべきである。もっとも、租税法規不遡及の原則は絶対的なものではなく、租税の性質、遡及適用の必要性や合理性、国民に与える不利益の程度やこれに対する救済措置の内容、当該法改正についての国民への周知状況等を総合勘案し、遡及立法をしても国民の経済生活の法的安定性又は予見可能性を害しない場合には、例外的に、租税法規不遡及の原則に違反せず、個々の国民に不利益を及ぼす遡及適用を行うことも、憲法上許容されると解するのが相当である。」と判示した。
 また、本件については、「本件改正は、平成16年3月26日に成立し、同月31日に公布され、同年4月1日から施行されたものであるところ、その施行前である同年1月1日から同年3月31日までの建物等の譲渡について適用するものであるから、遡及適用に該当するというべきである。遡及適用に当たるかどうかは、新たに制定された法規が既に成立した納税義務の内容を変更するものかどうかではなく、新たに制定された法律が施行前の行為に適用されるものであるかどうかで決せられるべきである。」と判示し、「本件改正は遡及適用に該当する」との判断を示した。
 さらに、「本件改正で遡及適用を行う必要性・合理性(とりわけ、損益通算目的の駆け込み的不動産売却を防止する必要性など)は一定程度認められはするものの、本件改正の遡及適用が、国民に対してその経済生活の法的安定性又は予見可能性を害しないものであるということはできない。」と述べて、本件改正が遡及適用が例外的に許される場合に該当しないことを判示し、「そうすると、本件改正は、損益通算の適用を受けられなくなった原告に適用される限りにおいて、租税法規不遡及の原則(憲法84条)に違反し、違憲無効というべきである。」との結論を判示して、本件通知処分を取り消した。
 本件改正については、改正当時から「不利益遡及」ではないかとの疑問が提起されており、同種の事案について、近く東京地裁でも判決言渡しが予定されている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索