税務ニュース2003年04月21日 銀行税条例事件の最高裁での争点はこれだ! 高裁判決で残された争点「税負担の均衡」を考える
ニュース特集
銀行税条例事件の最高裁での争点はこれだ!
高裁判決で残された争点「税負担の均衡」を考える
東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件(銀行税条例事件)は、最高裁に舞台を移して、最後の論戦が行われる。銀行税条例は、第1審及び控訴審で「違法」「無効」と判断されており、東京都は厳しい立場に立たされているが、控訴審の判決内容から、東京都は「税負担の均衡」に的を絞って、逆転を期している。東京都側の主張に沿った論文を公表されている立命館大学の三木義一教授に「高裁判決の論理・矛盾」を整理していただいた。東京都は、平成15年4月3日、上告理由書及び上告受理申立理由書を提出したので、公表された上告理由書及び上告受理申し立て理由書の趣旨を併せて掲載する。
それでは、これまでの訴訟の経緯・争点を確認しておこう。

主な争点
裁判では、「事業税の性格」、「事業の情況」の解釈等、「資金量5兆円以上への限定」、「業務粗利益を課税標準としたこと」、「税負担の均衡」を主な争点として争われてきた。地裁判決(第一審)では、上記争点について、原告銀行側の主張がほぼ全面的に認められ、国家賠償請求についても認められた。被告東京都の全面敗北の感があった。
高裁判決(控訴審)では、「税負担の均衡」について、十分に証明がされていないとして、銀行税条例を「違法・無効」とはしたものの、他の争点について、東京都側の主張を認めた判断を下しており、国家賠償請求は棄却されている。
東京都は、最後の壁(争点)となった「税負担の均衡(均衡要件)」について、最高裁で主張を展開していくことになる。

最後の論戦の舞台となる最高裁判所
銀行税控訴審判決について
三木義一(立命館大学法学部教授)
はじめに
さる1月30日東京高裁は東京都のいわゆる銀行税条例に対して、またしても「違法」との判断を示した。しかし、地裁判決とは異なり、事業税の法的性格等の基本的問題については東京都側の主張をほぼ全面的に採用し、銀行業には特例を適用するだけの「事業の状況」が認められるとした。にもかかわらず違法としたのは、地方税法72条の22第9項の「著しく均衡を失することのない」という要件に反していないことを東京都側が立証できなかった、という理由からである。
高裁判決は、一審判決に比して、現行事業税制度の法的しくみを前提とした解釈論に入ったという意味で評価できるが、この「均衡要件」の問題については大きな誤解と論理矛盾を犯してしまっているように思われる。
一 高裁判決の論理
高裁判決は、均衡要件の判断については、おおむね次のような理由から東京都は立証ができていないとした。
①税負担の均衡を問題にする以上、同じ年度について外形標準課税を適用した場合と「所得」基準による場合とを比較することが基本となると考えるのが事柄の性格に適合していると考えられるが、しかし、「所得」を課税標準とする事業税の税負担と事業の規模・活動量とが相当程度対応していない状況が「常態」化していることが、地方税法72条の19の適用の前提であることからすると、過去や将来の一定期間(将来については見込みのもの)における税負担を比較吟味した結果も勘案要素となると解される。
②本件条例案を検討する過程における一審被告東京都の10倍を超えるという比較値や、本件条例による外形標準課税を適用した初年度及び第2年度における約7.7倍及び約3652倍という比較値、第2年度における一審原告八十二銀行の約4.9倍という比較値を見る限りは、約7.7倍及び約3652倍という比較値について「所得」を課税標準とした場合の推計事業税額がゼロの銀行がほとんどであるとの事情を割り引いて考慮してみても、本件条例による外形標準課税を適用した結果としての事業税の税負担は、「所得」を課税標準とした場合の税負担と比較して、「著しく」均衡を失している可能性が大きいといわざるを得ない。
③また、平成2年度から平成11年度の間に、事業活動価値基準、物的人的基準、給与基準等といった他の外形基準によって推計した資金量5兆円以上の銀行の事業税額が、一審被告東京都の全事業税額に占める割合の平均値はおおむね2%以下であるとの推計があり、・・・一審被告東京都が主張する9.6%ないし9.8%という割合と相当かい離があることも合わせ考えると、・・・本件条例により一審原告らが受ける税負担が「所得」を課税標準とした場合の税負担と比べて著しく均衡を失していない税負担となっているものと認めてよいか疑問が残るところである。
以上のような理由から均衡要件に反していないことを東京都が立証できていないので、本件条例は違法、無効となる、というのである。
二 高裁判決の矛盾
しかし、高裁のこの判断方法には大きな矛盾がある。まず、均衡要件を判断する場合に一番大事なことは、特例による負担と何を比較して「著しく均衡を失する」ことのないようにしなければならないのか、ということである。高裁は、本件条例による負担と比較すべきなのは、通常の税率に「当該年度の実際の所得」を乗じた場合の負担額としてしまった。しかし、この解釈だと実に奇妙なことになる。というのは、本件条例のような特例が認められる場合は「事業活動が相当規模であるのに、その規模に比して税負担が『著しく低いこと』、そして、そのことが『常態化していること』」であり、そうすると、この不合理な負担状態を是正するために必要な措置は、「著しく低く」なっている負担状態を通常の状態に戻すことであるからである。しかし、そうすると、その新しい負担額は現実の負担額と「著しく均衡を失する」ものになってしまい違法となるのである。違法にならないようにするのであれば「著しく低い」現実の税負担を少し引き上げて微調整することしかできないことになり、これでは自治体がわざわざこのような特例を導入することは無意味になってしまうのである。
体系的に解釈するのであれば、この「均衡」は当該事業の現実の所得ではなく、「平常年度に通常生ずべき所得」を乗じた負担でなければならないはずであり、この点からみて、東京都の判断は穏当なものであったと思われる。
また、裁判所はこのような判断に傾いた背景には、原告側の作成したデータに目を奪われ、その前提を巧みにずらされていることに気がつかなかったようにも思われる。前述の9%と2%の対比は、東京都の9%が法人事業税収でのシェア、つまり黒字法人内でのシェアにすぎないのに対し、原告側が作成した資料は全法人内でのシェアであるので、約7割を占める赤字法人の数値も含まれるから、当然低くなるのである。このことを気づかずに、同じレベルで比較し、特例負担は重いと錯覚しているのである。同じような誤解はほかにもある。
一審判決の相当強引で不合理な解釈を覆すために、東京都の労力が費やされ、そのため均衡要件の立証が手薄になったところを利用されてしまったという印象を受ける。最高裁で、地方自治重視の観点からの適切な判断が示されることを期待したい。
三木義一 (みきよしかず)
1973年中央大学法学部卒、75年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。日本大学、静岡大学を経て、現在、立命館大学法学部教授、博士(法学、一橋大学)。98年4月~10月ミュンスター財政裁判所客員裁判官。
上告理由書及び上告受理申立理由書の趣旨(東京都HPより)
1 上告理由書
● 原判決は、地方公共団体の課税権・条例制定権を保障する憲法92条、94条さらには84条の解釈を誤っている。
● 均衡要件を内務大臣の許可に代替する法的機能と捉えるのは、地方自治を認めなかった明治憲法下の発想であり、地方自治を保障する現憲法の下では 誤った解釈である。
● 72条の22第9項の均衡要件の解釈は、72条の19と一体的に解釈すべきであり、地方公共団体の幅広い裁量が認められるべきである。
2 上告受理申立理由書
● 税負担が著しく低いことが常態化していることを認めて外形標準課税の導入を是認しながら、その一方で、外形標準課税導入後の税負担と導入前の著しく低額化した数値とを比較して、「著しく均衡を失する」としたのは論理矛盾である。
● 導入後の2、3年度の税負担比較を基本とするのは、要件設定そのものを誤っている。
● 13事業年度分では17行中16行の税負担がゼロであり、ゼロに近い数値と比較して著しく不均衡であるとするのは無意味である。
● 銀行業等の税収がバブル期を挟んで極めて不安定な形で推移していることを考慮して、都がバブル前、バブル期、バブル後を含んだ過去15年間の税収実績の平均値を用いたことには合理性がある。
● 租税条例定立における立法裁量は、憲法に保障された課税権に由来し、最大限尊重されるべきであるとする最高裁判例等に違反する。
銀行税条例事件の最高裁での争点はこれだ!
高裁判決で残された争点「税負担の均衡」を考える
東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件(銀行税条例事件)は、最高裁に舞台を移して、最後の論戦が行われる。銀行税条例は、第1審及び控訴審で「違法」「無効」と判断されており、東京都は厳しい立場に立たされているが、控訴審の判決内容から、東京都は「税負担の均衡」に的を絞って、逆転を期している。東京都側の主張に沿った論文を公表されている立命館大学の三木義一教授に「高裁判決の論理・矛盾」を整理していただいた。東京都は、平成15年4月3日、上告理由書及び上告受理申立理由書を提出したので、公表された上告理由書及び上告受理申し立て理由書の趣旨を併せて掲載する。
それでは、これまでの訴訟の経緯・争点を確認しておこう。

主な争点
裁判では、「事業税の性格」、「事業の情況」の解釈等、「資金量5兆円以上への限定」、「業務粗利益を課税標準としたこと」、「税負担の均衡」を主な争点として争われてきた。地裁判決(第一審)では、上記争点について、原告銀行側の主張がほぼ全面的に認められ、国家賠償請求についても認められた。被告東京都の全面敗北の感があった。
高裁判決(控訴審)では、「税負担の均衡」について、十分に証明がされていないとして、銀行税条例を「違法・無効」とはしたものの、他の争点について、東京都側の主張を認めた判断を下しており、国家賠償請求は棄却されている。
東京都は、最後の壁(争点)となった「税負担の均衡(均衡要件)」について、最高裁で主張を展開していくことになる。

最後の論戦の舞台となる最高裁判所
銀行税控訴審判決について
三木義一(立命館大学法学部教授)
はじめに
さる1月30日東京高裁は東京都のいわゆる銀行税条例に対して、またしても「違法」との判断を示した。しかし、地裁判決とは異なり、事業税の法的性格等の基本的問題については東京都側の主張をほぼ全面的に採用し、銀行業には特例を適用するだけの「事業の状況」が認められるとした。にもかかわらず違法としたのは、地方税法72条の22第9項の「著しく均衡を失することのない」という要件に反していないことを東京都側が立証できなかった、という理由からである。
高裁判決は、一審判決に比して、現行事業税制度の法的しくみを前提とした解釈論に入ったという意味で評価できるが、この「均衡要件」の問題については大きな誤解と論理矛盾を犯してしまっているように思われる。
一 高裁判決の論理
高裁判決は、均衡要件の判断については、おおむね次のような理由から東京都は立証ができていないとした。
①税負担の均衡を問題にする以上、同じ年度について外形標準課税を適用した場合と「所得」基準による場合とを比較することが基本となると考えるのが事柄の性格に適合していると考えられるが、しかし、「所得」を課税標準とする事業税の税負担と事業の規模・活動量とが相当程度対応していない状況が「常態」化していることが、地方税法72条の19の適用の前提であることからすると、過去や将来の一定期間(将来については見込みのもの)における税負担を比較吟味した結果も勘案要素となると解される。
②本件条例案を検討する過程における一審被告東京都の10倍を超えるという比較値や、本件条例による外形標準課税を適用した初年度及び第2年度における約7.7倍及び約3652倍という比較値、第2年度における一審原告八十二銀行の約4.9倍という比較値を見る限りは、約7.7倍及び約3652倍という比較値について「所得」を課税標準とした場合の推計事業税額がゼロの銀行がほとんどであるとの事情を割り引いて考慮してみても、本件条例による外形標準課税を適用した結果としての事業税の税負担は、「所得」を課税標準とした場合の税負担と比較して、「著しく」均衡を失している可能性が大きいといわざるを得ない。
③また、平成2年度から平成11年度の間に、事業活動価値基準、物的人的基準、給与基準等といった他の外形基準によって推計した資金量5兆円以上の銀行の事業税額が、一審被告東京都の全事業税額に占める割合の平均値はおおむね2%以下であるとの推計があり、・・・一審被告東京都が主張する9.6%ないし9.8%という割合と相当かい離があることも合わせ考えると、・・・本件条例により一審原告らが受ける税負担が「所得」を課税標準とした場合の税負担と比べて著しく均衡を失していない税負担となっているものと認めてよいか疑問が残るところである。
以上のような理由から均衡要件に反していないことを東京都が立証できていないので、本件条例は違法、無効となる、というのである。
二 高裁判決の矛盾
しかし、高裁のこの判断方法には大きな矛盾がある。まず、均衡要件を判断する場合に一番大事なことは、特例による負担と何を比較して「著しく均衡を失する」ことのないようにしなければならないのか、ということである。高裁は、本件条例による負担と比較すべきなのは、通常の税率に「当該年度の実際の所得」を乗じた場合の負担額としてしまった。しかし、この解釈だと実に奇妙なことになる。というのは、本件条例のような特例が認められる場合は「事業活動が相当規模であるのに、その規模に比して税負担が『著しく低いこと』、そして、そのことが『常態化していること』」であり、そうすると、この不合理な負担状態を是正するために必要な措置は、「著しく低く」なっている負担状態を通常の状態に戻すことであるからである。しかし、そうすると、その新しい負担額は現実の負担額と「著しく均衡を失する」ものになってしまい違法となるのである。違法にならないようにするのであれば「著しく低い」現実の税負担を少し引き上げて微調整することしかできないことになり、これでは自治体がわざわざこのような特例を導入することは無意味になってしまうのである。
体系的に解釈するのであれば、この「均衡」は当該事業の現実の所得ではなく、「平常年度に通常生ずべき所得」を乗じた負担でなければならないはずであり、この点からみて、東京都の判断は穏当なものであったと思われる。
また、裁判所はこのような判断に傾いた背景には、原告側の作成したデータに目を奪われ、その前提を巧みにずらされていることに気がつかなかったようにも思われる。前述の9%と2%の対比は、東京都の9%が法人事業税収でのシェア、つまり黒字法人内でのシェアにすぎないのに対し、原告側が作成した資料は全法人内でのシェアであるので、約7割を占める赤字法人の数値も含まれるから、当然低くなるのである。このことを気づかずに、同じレベルで比較し、特例負担は重いと錯覚しているのである。同じような誤解はほかにもある。
一審判決の相当強引で不合理な解釈を覆すために、東京都の労力が費やされ、そのため均衡要件の立証が手薄になったところを利用されてしまったという印象を受ける。最高裁で、地方自治重視の観点からの適切な判断が示されることを期待したい。
三木義一 (みきよしかず)
1973年中央大学法学部卒、75年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。日本大学、静岡大学を経て、現在、立命館大学法学部教授、博士(法学、一橋大学)。98年4月~10月ミュンスター財政裁判所客員裁判官。
上告理由書及び上告受理申立理由書の趣旨(東京都HPより)
1 上告理由書
● 原判決は、地方公共団体の課税権・条例制定権を保障する憲法92条、94条さらには84条の解釈を誤っている。
● 均衡要件を内務大臣の許可に代替する法的機能と捉えるのは、地方自治を認めなかった明治憲法下の発想であり、地方自治を保障する現憲法の下では 誤った解釈である。
● 72条の22第9項の均衡要件の解釈は、72条の19と一体的に解釈すべきであり、地方公共団体の幅広い裁量が認められるべきである。
2 上告受理申立理由書
● 税負担が著しく低いことが常態化していることを認めて外形標準課税の導入を是認しながら、その一方で、外形標準課税導入後の税負担と導入前の著しく低額化した数値とを比較して、「著しく均衡を失する」としたのは論理矛盾である。
● 導入後の2、3年度の税負担比較を基本とするのは、要件設定そのものを誤っている。
● 13事業年度分では17行中16行の税負担がゼロであり、ゼロに近い数値と比較して著しく不均衡であるとするのは無意味である。
● 銀行業等の税収がバブル期を挟んで極めて不安定な形で推移していることを考慮して、都がバブル前、バブル期、バブル後を含んだ過去15年間の税収実績の平均値を用いたことには合理性がある。
● 租税条例定立における立法裁量は、憲法に保障された課税権に由来し、最大限尊重されるべきであるとする最高裁判例等に違反する。
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