会社法ニュース2003年05月19日 法定準備金の取崩に際しての法務・会計・税務処理の注意点(発行会社側編―上)(2003年5月19日号・№019) ニュース特集 商法改正でぐーんと使いやすくなった
商法改正でぐーんと使いやすくなった
法定準備金の取崩に際しての法務・会計・税務処理の注意点
発行会社側編―上
最近の商法改正により、法定準備金の柔軟な活用が可能となりました。今号及び次号の特集では、法定準備金の取崩に際しての法務・会計・税務処理の注意点について特集してみました。今号では、法定準備金の取崩手段の概要と法定準備金の取崩手段・目的の違いに基づく計算書類の表示の違いについて、また、次号では、法定準備金の取崩による配当・払戻・自己株式取得についてそれぞれの法務・会計・税務処理について簡単に図解してみました。5月5日号(18号)の「改正商法早分かり講座」並びに今号の35頁以下を併せて読むと理解倍増です。なお、今後、株主側編の特集も予定しています。
法定準備金の取崩の概要
法定準備金の取崩に関する条文の目的、手続及び取崩限度額をまとめてみました。要件は①→②→③の順で厳しくなります。資本金の取崩(減資)は特別決議が必要であることと比較すると、容易に法定準備金を取り崩すことができるといえます。
以下、最近の商法改正で大きく変わった③289条2項を中心にみていきます。
債権者保護手続とは?
289条2項による法定準備金の取崩を行う場合、株主総会の承認に加えて、債権者保護手続を実施する必要があります(同条4項)。すなわち、法定準備金減少の承認決議の日から2週間内に、一定の期間(1ヶ月以上)内に異議があれば申し出るよう公告し、かつ、知れたる債権者に催告をする必要があります(376条1項)。
289条2項の目的・取崩限度額
289条2項は取崩の目的を限定していません(1号・2号は単に直接払い戻しをしたり、資本の欠損の填補をした場合に必要な決議事項を定めてあるだけです)。そこで、次のような目的が考えられます。
なお、内部留保した場合、翌期以降の「配当」に回すこともできますし、自己株式取得の財源にまわすことも可能です。「払戻」と「配当」の違いについては、次項の「289条2項を用いた取崩による「配当」と「払戻」の違い」を参照してください。
また、取崩に際しては最低でも資本金の四分の一に相当する額を残す必要があります。例えば、資本金4億円、資本準備金2億円、利益準備金1億円の会社の場合、資本金の四分の一である1億円につき法定準備金を残さなくてはいけません。逆に言えば、資本準備金と利益準備金をあわせて2億円まで取り崩すことが可能です。
289条2項を用いた取崩による「配当」と「払戻」の違い
上述の通り、289条2項による取崩は、その目的が特に限定されてないため、取崩により配当可能利益を増やすことで株主に「配当」することもできますし、取崩額を株主に「払戻」すこともできます。もっとも、「配当」と「払戻」ではタイミングが異なることに注意が必要です。例えば、×1期の定時株主総会で法定準備金の取崩議案を承認したとします。それがB/Sに反映されるのは×1期ではなく、×2期です。配当可能利益はB/Sの数字を用いて算定されますので、×1期の定時株主総会で承認された法定準備金の取崩分を用いて「配当」できるのは、早くても×2期の定時株主総会時、すなわち×3期中になってしまいます。
<配当の場合:×3期以降でないと配当できない>

なお、×1期中の臨時総会で配当可能利益を増やすために法定準備金を取崩し、×1期中に債権者保護手続が終了すれば、×2期中に配当することも可能です。
<払戻の場合:×2期中に払戻可能>
一方、「払戻」の場合、×1期の定時株主総会で法定準備金の取崩を承認後、債権者保護手続(最短で1ヶ月)が終了すれば、「払戻」ができますから、×2期中に払い戻すことができます。

法定準備金の取崩手段・目的の違いに基づく表示の違い
法定準備金の取崩手段や目的が違えば、表示も異なるので注意が必要です。仮に、×1期の定時株主総会で、A:損失処理案として289条1項による資本の欠損の填補のための法定準備金取崩があったケース、B:法定準備金の取崩議案として289条2項による資本の欠損の填補のための法定準備金取崩があったケース、C:289条2項による法定準備金取崩(資本の欠損の填補や株主への払戻に充てない場合)があったケース―の3つのケースにつき、それぞれ株主総会の承認があったとすると計算書類における表示は次のようになります(それぞれのケースは独立していると仮定)。
法定準備金の取崩に際しての法務・会計・税務処理の注意点
発行会社側編―上
最近の商法改正により、法定準備金の柔軟な活用が可能となりました。今号及び次号の特集では、法定準備金の取崩に際しての法務・会計・税務処理の注意点について特集してみました。今号では、法定準備金の取崩手段の概要と法定準備金の取崩手段・目的の違いに基づく計算書類の表示の違いについて、また、次号では、法定準備金の取崩による配当・払戻・自己株式取得についてそれぞれの法務・会計・税務処理について簡単に図解してみました。5月5日号(18号)の「改正商法早分かり講座」並びに今号の35頁以下を併せて読むと理解倍増です。なお、今後、株主側編の特集も予定しています。
法定準備金の取崩の概要
法定準備金の取崩に関する条文の目的、手続及び取崩限度額をまとめてみました。要件は①→②→③の順で厳しくなります。資本金の取崩(減資)は特別決議が必要であることと比較すると、容易に法定準備金を取り崩すことができるといえます。
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①293条の3 | 資本組入 | 取締役会の決議だけでできる | なし |
②289条1項 | 資本の欠損の填補 | 損失処理案として株主総会(定時総会)の承認(普通決議) | 直前の決算期の欠損金額が限度 |
③289条2項 | 特に限定されていない | 法定準備金の取崩議案として株主総会(臨時総会でも良い)の承認(普通決議) 債権者保護手続が必要 | 資本金の四分の一に相当する額を残さないといけない |
以下、最近の商法改正で大きく変わった③289条2項を中心にみていきます。
289条2項(要旨) 株主総会の決議により、資本準備金及び利益準備金の合計額よりその資本の1/4に相当する額を控除した額を限度として、資本準備金又は利益準備金を減少させることができる。この場合、減少する資本準備金又は利益準備金の額及び次の2つの場合のそれぞれの金額につき決議する必要がある。 1号 株主に払戻す場合 払戻に必要な額 2号 資本の欠損の填補に充てる場合 填補に充てる額 |
債権者保護手続とは?
289条2項による法定準備金の取崩を行う場合、株主総会の承認に加えて、債権者保護手続を実施する必要があります(同条4項)。すなわち、法定準備金減少の承認決議の日から2週間内に、一定の期間(1ヶ月以上)内に異議があれば申し出るよう公告し、かつ、知れたる債権者に催告をする必要があります(376条1項)。
289条2項の目的・取崩限度額
289条2項は取崩の目的を限定していません(1号・2号は単に直接払い戻しをしたり、資本の欠損の填補をした場合に必要な決議事項を定めてあるだけです)。そこで、次のような目的が考えられます。
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なお、内部留保した場合、翌期以降の「配当」に回すこともできますし、自己株式取得の財源にまわすことも可能です。「払戻」と「配当」の違いについては、次項の「289条2項を用いた取崩による「配当」と「払戻」の違い」を参照してください。
また、取崩に際しては最低でも資本金の四分の一に相当する額を残す必要があります。例えば、資本金4億円、資本準備金2億円、利益準備金1億円の会社の場合、資本金の四分の一である1億円につき法定準備金を残さなくてはいけません。逆に言えば、資本準備金と利益準備金をあわせて2億円まで取り崩すことが可能です。
289条2項を用いた取崩による「配当」と「払戻」の違い
上述の通り、289条2項による取崩は、その目的が特に限定されてないため、取崩により配当可能利益を増やすことで株主に「配当」することもできますし、取崩額を株主に「払戻」すこともできます。もっとも、「配当」と「払戻」ではタイミングが異なることに注意が必要です。例えば、×1期の定時株主総会で法定準備金の取崩議案を承認したとします。それがB/Sに反映されるのは×1期ではなく、×2期です。配当可能利益はB/Sの数字を用いて算定されますので、×1期の定時株主総会で承認された法定準備金の取崩分を用いて「配当」できるのは、早くても×2期の定時株主総会時、すなわち×3期中になってしまいます。
<配当の場合:×3期以降でないと配当できない>

なお、×1期中の臨時総会で配当可能利益を増やすために法定準備金を取崩し、×1期中に債権者保護手続が終了すれば、×2期中に配当することも可能です。
<払戻の場合:×2期中に払戻可能>
一方、「払戻」の場合、×1期の定時株主総会で法定準備金の取崩を承認後、債権者保護手続(最短で1ヶ月)が終了すれば、「払戻」ができますから、×2期中に払い戻すことができます。

法定準備金の取崩手段・目的の違いに基づく表示の違い
法定準備金の取崩手段や目的が違えば、表示も異なるので注意が必要です。仮に、×1期の定時株主総会で、A:損失処理案として289条1項による資本の欠損の填補のための法定準備金取崩があったケース、B:法定準備金の取崩議案として289条2項による資本の欠損の填補のための法定準備金取崩があったケース、C:289条2項による法定準備金取崩(資本の欠損の填補や株主への払戻に充てない場合)があったケース―の3つのケースにつき、それぞれ株主総会の承認があったとすると計算書類における表示は次のようになります(それぞれのケースは独立していると仮定)。
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