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解説記事2020年10月26日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に行った差異の調整表における開示(表示と認識・測定)②(2020年10月26日号・№855)

特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に行った差異の調整表における開示(表示と認識・測定)②

はじめに

 前回の後段に引き続き、本稿では、IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容について説明することとしたい。
 IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容のうち、件数が50件以上(調査対象とした企業は202社)のものを一覧にして再度示すと、表1のとおりである。

 未払有給休暇の計上とのれんの非償却については前回取り上げたため、本稿では、③在外営業活動体に係る累積換算差額の振替以降の項目について説明することとしたい。

認識・測定にかかる主要な差異の内容と開示例

 ③ 在外営業活動体に係る累積換算差額の振替
 IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することができる。そのうちの1つとして、初度適用企業は、IFRS移行日現在で存在していた換算差額累計額については、下記の免除措置を使用することができる。
(a)すべての在外営業活動体に係る換算差額累計額を、IFRS移行日現在でゼロとみなす。
(b)在外営業活動体のその後の処分による利得又は損失は、IFRS移行日前に生じた換算差額を除外し、その後の換算差額を含めなければならない。
 この初度適用にあたっての免除規定(IFRS第1号D13項)は、我が国のIFRS初度適用企業の間で最も幅広く利用されている規定であると思われる。この免除規定を利用する企業は、IFRS移行日時点における在外営業活動体の為替換算差額累計額を、損益計算書を通すことなくすべて利益剰余金に振り替える。

【開示例】 SUBARU 2020年3月期

 初度適用に際して、IFRS 第1号に規定されている免除規定を選択し、移行日における累積換算差額を、すべて利益剰余金に振り替えております。

 ④ 数理計算上の差異の処理方法 
 わが国の「退職給付に関する会計基準」では、数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用となる。)については、その他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うとされているのに対し(第15項)、IFRSでは、数理計算上の差異についてはその他の包括利益に認識し、その後の期間において純損益に振り替えてはならない(その他の包括利益に認識した金額を資本の中で振り替えることはできる)とされている(IAS第19号「従業員給付」第120項、第122項)。

【開示例】 ヤマハ 2020年3月期

 日本基準とIFRSでは、割引率等の数理計算上の仮定の相違が存在しております。数理計算上の差異及び過去勤務費用について、日本基準では発生時にその他の包括利益を通じて計上し、発生時における従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数で費用処理しておりますが、IFRSでは、数理計算上の差異は、発生時にその他の包括利益として認識し、直ちに利益剰余金へ振替を行い、過去勤務費用は発生時の純損益として認識しております。

 ⑤ 非上場株式の公正価値評価
 日本基準では、いわゆる非上場株式については公正価値による評価を行わず、取得原価で評価するが、IFRS(IFRS第9号「金融商品」)では、非上場株式を含む資本性金融商品は、公正価値評価の対象とされる。

【開示例】Nissha 2019年12月期

 日本基準では、時価を把握することが困難な株式等は原則として取得原価により計上し、実質価額が著しく下落した場合に減損損失を計上していますが、IFRS では公正価値で評価し、公正価値の変動額は原則として純損益に認識し、売買目的でない資本性金融商品に該当する場合には、公正価値の変動額をその他の包括利益に計上することを選択できます。

 ⑥ 収益認識基準の変更 
 わが国では、これまでは、企業会計原則・損益計算書原則三Bの、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という、いわゆる「実現主義」の記述をよりどころに、この解釈によって実務が行われてきたものと思われる。これに対してIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、企業が収益の認識を、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように行わなければならないとされており、企業は、約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識しなければならない。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時(又は獲得するにつれて)であるとされている(第31項)。これにより、日本基準とIFRSとの間で収益認識のタイミングに差異が生じることになる。
【開示例】
 収益の認識基準の変更の内容は、各社各様である。ここでは、2019年12月期と2020年3月期に日本基準からIFRSに移行した各社の収益認識基準の変更に関する開示を紹介したい。

(Nissha 2019年12月期)

 日本基準では主として出荷基準で売上高を認識していましたが、IFRS においては、顧客による検収時等の履行義務の充足時点または履行義務が充足するにつれて、売上収益を認識しています。

(ジェイテクト 2020年3月期)

 日本基準では一部の物品販売取引について、出荷基準により収益を認識しておりましたが、IFRSでは履行義務が満たされた時点で収益を認識しております。製品は顧客に認識された時点で収益に計上し、サービスの提供は顧客との契約に基づく履行義務が満たされた時点で収益を認識しております。

(塩野義製薬 2020年3月期)

 IFRSでは、「3. 重要な会計方針(3)収益」に記載の5ステップ・アプローチに基づき収益を計上することとし、取引内容に応じて収益計上時点を見直しております。
 そのうち、売上高ベース又は使用量ベースのロイヤリティーに係る収益については、その後の売上又は使用が発生するか、売上高ベース又は使用量ベースのロイヤリティーの一部または全部が配分されている履行義務が充足(又は部分的に充足)されているか、いずれかのうち遅い方が発生する時点で又は発生するにつれて認識しております。

 また、有償支給取引の会計処理の変更について記載している会社が3社あった。

(THK 2019年12月期)

 日本基準では一部の有償支給取引について、有償支給元への売り戻し時に「売上高」と「売上原価」を計上しておりましたが、IFRSでは加工代相当額を純額で「売上収益」として認識しております。

(Nissha 2019年12月期)

 日本基準では売上原価に含めていた有償支給品に係る顧客への支払額を、IFRS では顧客に支払われる対価として売上収益と相殺しています。

(日本特殊陶業 2020年3月期)

 仕入先へ部品等を有償で支給し、仕入先が加工を行ったうえで加工費等を販売価格に上乗せして当該仕入先から購入する取引(以下、「有償支給取引」という。)を行っています。日本基準では有償支給取引に関し、仕入先へ部品等を支給した時点で支給品の消滅を認識し債権を計上していますが、IFRSでは、金融取引として支給品の消滅を認識せず、有償支給先に残存する支給品の期末棚卸高について金融負債を認識しています。また有償支給取引に係る金融資産及び金融負債について、日本基準では純額で決済が行われる予定のものを総額で表示していますが、IFRSでは残高を相殺する法的に強制可能な権利を現在有しており、純額で決済するか又は資産の実現と負債の決済を同時に実行する意図を有する場合、連結財政状態計算書上で相殺し、純額で表示しています。

 ⑦ 減価償却方法の変更
 日本の会計基準を適用する日本企業の場合、有形固定資産の減価償却方法については建物の一部等を除いて定率法を適用していることが多く、耐用年数や残存価額は法人税法の定める耐用年数表等に基づいて決定している場合が大半であると思われる。これに対してIFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならないとされており(IAS第16号「有形固定資産」第60項)、欧州企業等での実務上は、定額法を適用している事例が圧倒的に多い。IFRS任意適用日本企業の場合には、IFRSを適用後も、連結財務諸表では定額法を採用するものの、個別財務諸表上は会計方針の変更は行わずに定率法のまま、という事例も多い。また、IFRS上耐用年数は、資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間をいうとされており(IAS第16号第6項)、有形固定資産の耐用年数や残存価額は、事業年度末ごとに再検討することが求められている(IAS第16号第51項)。このため、IFRSを任意適用するにあたり、日本企業が減価償却方法や耐用年数、残存価額の見直しを行う例が少なくない。

【開示例】 日新製糖 2020年3月期

 日本基準において、当社及び一部の連結子会社は、有形固定資産の減価償却方法について、2018年3月31日以前は定率法(ただし、1998年4月1日以降に取得した建物(建物付属設備を除く)及び2016年4月1日以降に取得した建物付属設備及び構築物については、定額法)を採用し、2018年4月1日以降は、すべての有形固定資産の減価償却方法に定額法を採用していますが、IFRSにおいては、有形固定資産の取得日から定額法を採用しています。

 ⑧ 繰延税金資産の回収可能性の再検討 
 わが国においては、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に規定される会社分類に基づき繰延税金資産を認識しているが、IFRSでは、繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で、すべての将来減算一時差異について認識しなければならないとされているため(IAS第12号「法人所得税」第24項)、日本の会計基準からIFRSに移行するにあたって差異が生じることになる。

【開示例】 2020年3月期 栗田工業

 繰延税金資産の回収可能性について、IFRSに基づき検討しております。

 ⑨ 未実現損益の消去に係る税効果会計の適用方法を、繰延法から資産負債法に変更 
 わが国の会計基準において、連結手続上、消去された未実現利益に関する税効果は、未実現利益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案して、売却元で発生した税金額を繰延税金資産として計上し、当該未実現利益の実現に対応させて取り崩すこととされている。この売却元で発生した税金は確定した金額であるため、繰延税金資産の計上額は、売却元において未実現利益の金額に対して売却年度の課税所得に適用された法定実効税率を使用して計算した税金の額である。なお、売却元に適用される税率がその後改正されても、未実現利益に関連して認識し測定した繰延税金資産は、その税率変更の影響を受けることがないため、税率の変更による見直しは行わないことになる(会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第13項)。これに対して、IFRSでは繰延税金資産及び負債は、報告期間の末日までに制定され、又は実質的に制定されている税率(及び税法)に基づいて、資産が実現する期又は負債が決済される期に適用されると予想される税率で算定しなければならない(IAS第12号「法人所得税」第47項)とされているため、日本基準とIFRSの間には差異が存在する。

【開示例】 2020年3月期 塩野義製薬

 当社グループ内における棚卸資産等の取引における未実現損益に係る繰延税金資産について、日本基準では、売却元の実効税率を用いて計算しておりますが、IFRSでは、売却先の実効税率を用いて計算しております。

 ⑩ リース関係(使用権資産及びリース負債の計上他) 
 この項目は、2019年12月期以降の会計期間に日本基準からIFRSに移行した日本企業が、差異の調整表に行う開示項目の目玉であった。2019年12月期から適用が開始されたIFRS第16号「リース」においては、これまで、IAS第17号「リース」及び我が国の「リースに関する会計基準」の双方のもとでオフバランス処理されていた、オペレーティング・リースにより賃借している資産について、使用権資産とリース債務の計上を要求している(短期リースと少額リースを除く)。

【開示例】 2020年3月期 日本特殊陶業

 日本基準では、借手のリースについて、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、オペレーティング・リースについては通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行っていました。IFRSでは、借手のリースについて、ファイナンス・リース又はオペレーティング・リースに分類せず、リース取引について使用権資産(リース資産)及びリース負債(リース債務)を両建計上しています。上記の結果、移行日において、「その他の流動資産」が507百万円、「使用権資産」が7,190百万円、「その他の非流動資産」が1,140百万円、流動負債の「その他の金融負債」が2,053百万円、非流動負債の「その他の金融負債」が6,785百万円増加しています。

認識・測定にかかるその他の主な差異の内容

 このほかに、認識・測定に係る差異の調整表に数多く記載されていた主な項目(件数が40件以上50件未満のもの)を一覧にして示すと、表2のとおりであった。

終わりに

 IFRS第17号「保険契約」の適用がまだ残されてはいるものの、2019年12月期からIFRS第16号「リース」の適用が開始されたことにより、IFRSの新基準の開発や新規適用は一区切りしたものと考えられる。
 我が国の実務慣行等に配慮した一部の例外規定を除き、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の規定を基本的に受け入れる方向で開発された企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び同適用指針が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用される結果、2022年3月期以降に日本基準からIFRSに移行する日本企業が、認識・測定に関する相違点として、収益の認識基準に関する記載を行うケースは減少することが予想される。また、2020年6月3日に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した「現在開発中の会計基準の開発に関する今後の計画」によると、IFRS第16号を念頭に置いたうえで、我が国においても、すべてのリースについて資産及び負債を認識するリースに関する会計基準の開発に着手することが2019年3月に決定されている。また、2019年の10月には、IFRS第9号「金融商品」を念頭に置いた予想信用損失モデルに基づく金融資産の減損に関する会計基準の開発に着手することも決定されている(ただし、我が国におけるリース及び金融商品の会計基準については、開発の目標時期は特に定めていないとされている。)。これからの数年間は、IFRSの基準書を念頭に置いたうえでの我が国の会計基準の開発、適用が中心となる時代になると言えよう。
 これまでずっと、企業会計原則における「実現主義」以外には包括的な会計基準が存在しなかった我が国の収益認識の領域において、IFRSの考え方を全面的に取り入れた「収益認識に関する会計基準」が新たに適用される意義は極めて大きい。収益認識に関する会計基準及び同適用指針が適用されることにより、2022年3月期以降の我が国企業の連結・個別財務諸表における収益の認識、測定、表示及び開示がどのように変化するのか、注目したい。

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