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解説記事2020年11月09日 特別解説 主要な日本企業の会計監査人の継続監査年数、及び主要な日本企業が会計監査人に対して支払った報酬額の調査分析②(2020年11月9日号・№857)

特別解説
主要な日本企業の会計監査人の継続監査年数、及び主要な日本企業が会計監査人に対して支払った報酬額の調査分析②

はじめに

 本稿では、主要な日本企業、米国企業及び欧州(英国及び欧州大陸)の主要な企業が会計監査人に対して支払った報酬額の調査分析を行っているが、IFRSや米国会計基準、及び日本の会計基準を適用する日本企業の別に調査分析を行った前回に引き続き、第2回目の今回は、米国及び欧州の主要な企業が会計監査人に対して支払った報酬額に焦点を当てて調査分析を実施することとしたい。なお、比較のために、IFRS任意適用日本企業、米国会計基準を適用する日本企業、及び日本の会計基準を適用する主要な日本企業(日経平均株式時価総額上位200社にランクインした日本企業のうち、IFRS任意適用日本企業と米国会計基準適用日本企業を除いた主要な日本企業から抽出した100社)が会計監査人に対して支払った報酬額も適宜引用している。

調査の対象とした企業

 今回の調査の対象とした各国の企業は、表1のとおりである。

 欧米の主要な企業各社の報酬のデータは、各社のウェブサイトに掲載されている英文の連結財務諸表(米国企業の場合には、株主総会招集通知(Proxy statement))に記載されているものであり、欧米企業のデータは2019年12月期のものが大半を占める。また、日本企業の場合には、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」に記載されているものであり、2020年3月期のものが多い。なお、米ドル、欧ユーロ、英ポンドその他の外貨建ての監査報酬額は、各社の決算期月末の為替レートで日本円に換算している。

主要な米国企業が会計監査人に支払った報酬額

 会計監査人に対して多額の報酬(監査報酬と非監査業務報酬の合計)を支払った主要な米国企業(上位10社)を列挙すると、表2のとおりであった。ちなみに、IFRS任意適用日本企業で支払報酬額がトップのソフトバンクグループは7,295百万円、米国会計基準適用日本企業でトップのトヨタ自動車が5,739百万円、日本企業全体で支払額が断然トップの三菱UFJフィナンシャル・グループは、9,499百万円の報酬を国内外の会計監査人に対して支払った。米国の巨大企業の中に入ると、三菱UFJフィナンシャル・グループの報酬支払額が4番目。ソフトバンクグループが10位、トヨタ自動車が15位相当であった。

 表2の米国企業10社が会計監査人に支払った報酬の内訳をみると、支払額のほとんどは監査報酬であり、非監査業務報酬が占める割合はさほど大きいとはいえない。なお、シティグループ及びAT&Tが支払った非監査証明業務報酬は、いずれも税務関連サービスに対するものであった。
 次に、主要な米国企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表3のとおりであった。参考として、2018年度の実績も併記している。今回調査対象とした主要な米国企業100社が会計監査人に対して支払った報酬額の平均は、3,203百万円(2018年度は3,321百万円)であった。表3の報酬額の分布を見ると、10億円以上支払っている企業が9割近く(88%)を占めており、支払額が5億円未満の企業はわずか1社であった。

主要な英国企業が会計監査人に支払った報酬

 会計監査人に対して多額の報酬(監査報酬と非監査業務報酬の合計)を支払った主要な英国企業を列挙すると、表4のとおりであった。

 HSBCホールディングスが支払った報酬額が飛び抜けて大きかった。なお、大手広告代理店であるWPP社が支払った非監査業務報酬は、アーンアウト(M&Aにおける対価の調整方法の一つであり、クロージング時における対価支払に加え、クロージング時から一定期間内に、対象会社の業績指標等の目標の達成度合い等に応じて追加的な対価を支払う仕組み)目的の監査と記載されていた。また、今回調査対象とした主要な英国企業100社が支払った監査報酬の平均は1,362百万円であり、米国企業の4割強の水準であった。
 次に、主要な英国企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表5のとおりであった。なお、参考として、2018年度の実績も併記している。

 主要な英国企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を見ると、30億円以上支払っている企業から、報酬額が1億円に満たない企業まで、まんべんなく分布していた。

主要な欧州大陸の企業が会計監査人に支払った報酬

 会計監査人に対して多額の報酬(監査報酬と非監査業務報酬の合計)を支払った主要な欧州大陸の企業(上位10社)を列挙すると、表6のとおりであった。欧州大陸の企業で会計監査人に対して2019年度に最も多額の報酬を支払ったのは、業績不振に苦しみ、何かと話題になっているドイツ銀行であった。ちなみに、今回調査対象とした主要な欧州大陸の企業100社が支払った報酬額の平均は1,962百万円であり、主要な英国企業が支払った報酬額の平均(1,362百万円)よりも約4割高かった。次に、表5の10社が支払った報酬の内訳をみると、チューリッヒ保険グループが支払っている非監査業務報酬の金額の大きさが目に付くが、同社のアニュアルレポートによると、当該非監査業務の内容は、IFRS第9号「金融商品」とIFRS第17号「保険契約」に関連する助言・支援業務であった。表6の会社のうち、スイスの企業が5社を占め、ドイツ企業が4社、フランス企業1社であった。

 次に、主要な欧州大陸の企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表7のとおりであった。報酬の支払額が5億円以上の主要な英国企業の比率が57%であるのに対して、主要な欧州大陸の企業は82%を占めるなど、全体的に見て、英国の企業に比べ、欧州大陸の企業の方が、報酬の支払額が大きかった。なお、参考として、2018年度の実績も併記している。

主要な日本企業との比較

 調査分析の最後に、米国、英国及び欧州大陸の主要な企業が会計監査人に対して支払った報酬額を、主要な日本企業(IFRS、米国基準、及び日本の会計基準を適用)が支払った報酬額と一覧形式で比較してみたい。米国企業、英国企業、及び欧州大陸の主要な企業に加え、主要なIFRS任意適用日本企業、米国会計基準適用日本企業、及び日本基準を適用する主要な日本企業が、会計監査人に対して支払った報酬額の平均を一覧にして比較すると、表8のとおりであった。日本基準を適用する主要な日本企業が会計監査人に対して支払った報酬の水準を1とすると、主要なIFRS任意適用日本企業及び主要な英国企業が1.8、主要な欧州大陸の企業が2.4、米国会計基準を適用する日本企業が3.3、主要な米国企業が4という結果になった。同じ超大企業どうしであっても、日本企業が支払う報酬水準の低さと米国企業が支払う報酬額の高さが目に付いた。また、同じ日本企業であっても、米国会計基準を適用している超優良企業が会計監査人に対して支払った報酬の額は、ほぼ世界標準レベルということができよう。

 最後に、表8のそれぞれの区分の企業について、会計監査人に対して支払った報酬額の分布を一覧にして示すと、表9のとおりであった。

 雑駁なまとめ方ではあるが、各国の主要な企業が会計監査人に対して支払っている報酬額の全体的な水準を比べると、以下のような傾向があると考えられる。
① 主要な米国企業が支払っている報酬額が、欧州(大陸、英国)や日本の主要な企業が支払っている金額よりもかなり大きく、平均すると、主要な欧州企業の約1.6倍、日本基準を適用する主要な日本企業と比べると、4倍近くの開きがあった。
② 我が国では、数は少ないとはいえ、米国会計基準適用企業が支払っている報酬額の大きさが目立つ。そして、日本国内の監査法人よりも、海外の提携先のネットワーク・ファームに対して多額の報酬を支払っている場合が多かった。
③ 非監査業務報酬は、日米の企業による支払額が小さく、欧州(英国、大陸)企業による支払額が比較的大きかった。提供された非監査業務としては、税務関連業務やデュー・デリジェンス業務、コンフォートレター作成業務等のほか、IFRS第9号「金融商品」やIFRS第17号「保険契約」の適用支援業務などが見られた。
④ 日米欧の地域を問わず、大手金融機関(銀行や保険会社等)が、会計監査人に対して多額の監査・非監査業務報酬を支払っていた。

終わりに

 2020年の年初から、コロナウイルス(Covid-19)が全世界で猛威を振るっている。今回の調査では、欧米の企業については主に2019年12月期、日本企業は2020年3月期またはそれ以前のデータを収集しているため、今回調査対象とした報酬額は、コロナウイルスによる影響をほぼ受けていないと言ってよいと考えられる。2020年度の会計監査人に対する報酬(監査業務、非監査業務)支払額は、全世界の主要な企業の急速な業績悪化を反映して、大幅に抑制されることになるであろうか。どのような変化が現れるかはまだ予測ができないが、次年度以降も引き続き調査分析を続けていくこととしたい。

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