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解説記事2020年11月16日 SCOPE 納税者、3件の最高裁判例との違いを強調(2020年11月16日号・№858)

「帳簿等の不提示」事案で上告等理由書を提出
納税者、3件の最高裁判例との違いを強調


 帳簿等の不提示(実態的には、無予告調査に反発した実地調査の拒否)が「帳簿等を保存しない場合」に該当するとして消費税等の仕入税額控除を否認した更正処分に対して、納税者がその取消しを求めている事案(本誌848号4頁参照)で、請求(及び控訴)を棄却された納税者が、上告及び上告受理申立てを行った(本誌850号11頁参照)。
 納税者は10月22日、最高裁判所あてに上告理由書及び上告受理申立理由書を提出した。上告理由書では、本件事案の適正手続保障違反に主張の主眼が置かれ、上告受理申立理由書は、本件が、3件の最高裁判例と異なる事案であることを強調するものとなっている。納税者が最高裁判例とは異なる事案であると主張する上告理由・上告受理申立理由を紹介する。

上告理由:適正手続保障違反

 上告人は、上告理由として、適正手続保障違反、租税法律主義違反、比例原則違反、段階的課税原則違反を挙げる。これらの理由のなかでも本件事案に固有な①実地調査の日程調整要請と拒否認定、②調査結果の説明会が開催されなかったこと(不利益処分に対して告知・弁明・防御の機会が設けられなかったこと)について、主張の主眼を置く。
 上告人は、本件について、「実地調査の日程調整要請である連絡票が送付され、これを拒否したら、約40億円もの莫大な制裁処分を課すことができるか」「たかだか日程調整要請をなしただけなのに、告知・弁明・防御の機会を与えず、また、処分理由が不明確な制裁処分は違法ではないか」と位置付ける。
 そのうえで上告人は、「税務調査の応答義務の履行について、その拒否が認定されるのは、一般の債務不履行論に鑑みれば、最後の要請について拒否したかどうかで判定される。本件は、履行不能のケースではなく、第9回目の(最後の)連絡票出状の後、電話によって、その応答の確認がされたが、代理人弁護士は調査の拒否を発言していないし、説明会にも出席することを調査官に返答している。」と主張し、課税庁の拒否認定に反発する。
 「また、本件連絡票が行政指導か、質問検査権行使かを分析し、これを明確にする必要があるとし、一審・二審判決は、質問検査権行使と判断したが、これは大きな誤りである。行政指導による連絡票の出状は、これに反した場合でも、行政手続法32条2項によって、不利益な処分をなすことはできない。」「万一、最後の連絡票が質問検査権行使であるとしても、約40億円の不利益処分を課す場合には適正手続保障として告知・弁明・防御の機会が与えられなければならない。」と主張した。
 このほか、「本件においては、税務代理人のみの言動を根拠に、実地調査拒否を認定している。これは法律の条文に違反するし、実地調査が納税義務者を対象としたものであるので、その拒否は納税義務者しかなしえないので、明らかに事実認定が誤っている。」「適正手続保障として、説明会の開催は、無条件にしなければならないとされている(国税通則法74条の11第2項)が、適正手続保障は告知・弁明・防御の機会を与えることがその重要な内容であるところ、説明会を開催しないで事前に説明を受ける機会を放棄したなどとこじつけることは、重大な人権侵害である。」と主張した。

上告受理申立理由:3件の最高裁判決と事案を異にするもの

 上告人は、上告受理申立理由として、まず、「3件の最高裁判決とは事案を異にする。」と次のように主張した。
 「3件の最高裁判決は、仕入税額控除否認の仕組みの説明教示が十分に行われて、納税者において、その仕組みを十分に理解している場合にこそ、妥当性が首肯されるのであり、本件の場合のように、課税当局が、納税者の仕入税額控除否認の仕組みの不知を認識しながら、あえて、相手方が理解しうるように、仕入税額控除否認の仕組みの説明教示を行わず、消費税法30条7項を、税額算定のためでなく、制裁目的で使用するような場合に適用されるものではない。」「3件の最高裁判決の事案と、本件とは事案を異にするものであって、本件に、『適時保存』の解釈を適用することは、最高裁判例に相反するものである。」
 また、「本件帳簿書類の不提示は、税務代理人が上告人代表者を錯誤・誤信に陥れ、上告人代表者の錯誤・誤信に基づき、上告人代表者の真意・意向に反して、誤った対応をした結果によるものであるから、不提示に『応じ難いとする理由』があり、消費税法30条7項の『保存しない場合』に当たるとするのは法解釈の重大な誤りであること」「調査担当者は、帳簿書類の提示を求めるに際し、納税者側が仕入税額控除を否認されることを知らない旨認識しながら、仕入税額控除否認の仕組みを説明教示しなかったので、提示の求めは違法であり、不提示に『応じ難いとする理由』があるので、消費税法30条7項の『保存しない場合』に当たるとするのは、法解釈の重大な誤りであること」などと主張した。

事案固有の問題点から最高裁に救済を求めることに

 本件においては、最判平成16年12月20日における滝井裁判官反対意見(本誌817号41頁参照)や、大阪地判平成10年8月10日の判示、日弁連意見書の存在などを援用して大上段に最高裁の判例変更を求める主張もありえたであろう。今回の上告理由書・上告受理申立理由書においても、滝井裁判官の反対意見や大阪地判平成10年8月10日の判示、日弁連意見書の存在などにも言及したものとはなっているが、上告理由書・上告受理申立理由書の膨大な文書全体からは、“大物”(判例変更)を釣り上げるというよりも、最高裁が認容しやすい本件固有の争点であっても、莫大な金額の課税処分に苦しむ上告人の窮状を打破したいとする強い意思が窺える主張となっている。

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