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解説記事2020年12月28日 特別解説 監査上の主要な検討事項(KAM) 主要な日本企業の事例の調査②(2020年12月28日号・№864)

特別解説
監査上の主要な検討事項(KAM) 主要な日本企業の事例の調査②

はじめに

 本稿では、前回(本誌861号)に引き続き、日本企業の監査報告書に記載されたKAMの事例を紹介することとしたい。前回に掲載したKAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かった項目を以下に再掲する。
 本稿では、固定資産の減損、のれんの評価、収益認識、子会社株式及び関係会社株式(投資)の評価、並びに金融商品・有価証券の評価について事例を紹介することとしたい。

② 固定資産の減損
東急
会計監査人:新日本有限責任監査法人
【固定資産の減損及び開発等関連費用】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 会社は、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートの各セグメントで事業を展開し、多くの固定資産を保有している。2020年3月31日現在の土地、建物及び構築物や借地権、地上権等の有形・無形固定資産残高は852,419百万円であり、総資産の46%を占めている。
 会社は、鉄道沿線地域を中心とした人口動態、 不動産需要、消費動向など、事業環境の変化に迅速に対応するため、継続的な開発・投資を行っている。継続的な開発・投資にあたっては、鉄道やバスなどの交通機関や不動産開発といったハード面と、地域に密着した生活サービスなどのソフト面とを併せて、地域のプラットフォームとしてのまちづくりを推進している。そのため、複数セグメント及び連結グループ各社にまたがる複合型の開発が行われるなど、固定資産の活用方法が変わることがある。
 このため、多岐にわたる既存固定資産の用途・仕様変更、解体等を伴う。また、会社が土地・建物等の固定資産を保有し、連結グループ各社に賃貸することで事業を営んでいることが多く、各事業の業績が評価に影響を及ぼす。さらに、地元・行政との連携・負担関係から、固定資産の減損の兆候や開発等関連費用に関する網羅性及び適時性の検討が複雑となる。
 また、減損損失の認識測定において使用する金額及び開発等関連費用の算定には、不動産評価額、将来キャッシュ・フローの見積りの前提となる営業収益や工事費用といった仮定を用いた、経営者による主観的な判断や立証が困難な不確実性を伴う重要な会計上の見積りが含まれる。
 以上のとおり、固定資産の減損の兆候及び開発等関連費用に関する網羅性、適時性の検討が複雑となり、また、計上額の測定は経営者による判断を伴うものであることから、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に該当すると判断した。
 当監査法人は、会社の事業環境を把握してリスク分析を行い、継続的な開発・投資の推進を伴う、固定資産の減損の兆候及び開発等関連費用に関する網羅性、適時性並びに計上額の測定を重要な虚偽表示リスクと評価した。当該リスクに対応するため、主として以下の監査手続を実施した。

減損の兆候及び開発等関連費用の網羅性・適時性
・固定資産の減損検討における、資産のグルーピングについて、会社の物件別減損判定資料等の関連資料を閲覧した。
・既存固定資産の用途変更、不動産開発、設備の更新投資、店舗閉鎖等の計画及び進捗状況を把握するため、経営者への質問や議論を実施するとともに、各会議体議事録及び関連資料等を閲覧し、減損の兆候及び開発等関連費用の網羅性、適時性を評価した。

減損損失の認識測定
・減損損失の認識測定について、不動産評価資料や使用価値の算定根拠資料等と比較した。
・不動産評価額について、市場予測及び利用可能な外部データ、過去評価額との比較分析を実施した。
・将来キャッシュ・フローの見積りの前提となる営業収益等の仮定について、新型コロナウイルス感染症の影響を含め、経営者と議論するとともに、経営者によって承認された事業計画や設備投資計画との一貫性を検討した。また、不確実性を考慮し、市場予測及び利用可能な外部データとの比較、過去実績からの趨勢分析並びに関連資料の閲覧を行った。さらに、過年度における予算及び中期経営計画とそれらの実績を比較することにより、経営者の見積りプロセスの有効性を評価した。

開発等関連費用の金額の測定
・開発等関連費用について、工事費用の見積根拠資料等と比較した。
・開発関連費用の測定基礎については、経営者と議論するとともに、利用可能な外部データとの比較、過去実績からの趨勢分析、関連資料の閲覧を行った。

 本業の鉄道事業をはじめ、巨額の固定資産を保有して幅広い事業を展開している東急の特性を踏まえた記述がされているといえよう。


③ のれんの評価
富士通
会計監査人:新日本有限責任監査法人
【のれんの評価】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 連結財務諸表注記4,9及び27に記載されているとおり、2020年3月31日現在、主にFujitsu Technology Solutions(Holding) B.V.などの海外子会社での計上分を含む36,709百万円ののれんを計上している。会社は減損テストを実施するにあたり、のれんを含む資金生成単位における回収可能価額を、見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値として算定した使用価値により測定している。
 使用価値の見積りにおける重要な仮定は、経営者によって承認された3か年の中期経営計画における将来キャッシュ・フローの見積り、4年目以降の期間の将来の不確実性を考慮した長期平均成長率及び割引率であり、割引率は加重平均資本コストを基礎として算定している。中期経営計画は、主として販売数量の拡大及び市場の成長率の予測の影響を受ける。
 減損テストは複雑であり、将来キャッシュ・フローの見積り、長期平均成長率及び割引率については不確実性を伴い、経営者の判断が必要であるため、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項と判断した。
 当監査法人は、のれんの評価を検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・当監査法人のネットワーク・ファームの評価専門家を関与させ、使用価値の算定における評価方法を検証した。
・将来キャッシュ・フローについては、その基礎となる経営者によって承認された3か年の中期経営計画との整合性を検証した。また、過年度における中期経営計画とその実績を比較した。 ・中期経営計画の見積りに含まれる主要なインプットである販売数量及び市場の成長率について、経営者と議論するとともに、市場予測及び利用可能な外部データとの比較、類似企業との比較、並びに過去実績からの趨勢分析を実施した。 ・長期平均成長率については、市場予測及び利用可能な外部データとの比較により評価した。
・割引率については、利用可能な外部データを用いた当監査法人のネットワーク・ファームの評価専門家による見積りと比較した。
・将来キャッシュ・フローの見積り、長期平均成長率及び割引率に関して感応度分析を実施した。


④ 収益認識
(a)三井不動産
会計監査人:有限責任あずさ監査法人
【分譲事業に関する投資家向けオフィスビル等の分譲に係る収益認識の適切性】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 三井不動産株式会社の当事業年度の損益計算書に計上されている営業収益776,355百万円には、分譲事業に係る営業収益が含まれている。このうち、分譲事業に関する投資家向けオフィスビル等の分譲に係る収益認識は、複雑なスキームを利用した取引や三井不動産株式会社及び連結子会社により継続的に取引を行っている取引先との取引となる投資家向けの分譲収益に関連する。
 分譲収益は、取引の個別性が高く、一件あたりの金額が比較的大きい。特に、特別目的会社を利用した複雑なスキームの取引や継続的に取引を行っている取引先との取引については、売却取引の前提となる不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが移転しているかの判断において、売却条件の経済的合理性、売却価格の妥当性、売却取引の合理性などについて経営者による重要な判断を伴う。
 以上から、当監査法人は、分譲事業に関する投資家向け分譲に係る収益認識の適切性が、当事業年度の財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。
 当監査法人は、分譲事業に関する投資家向け分譲に係る収益認識が適切になされているかを検証するため、主に以下の監査手続を実施した。
(1)内部統制の評価
 分譲事業に関する投資家向け分譲の収益認識に係る内部統制の整備・運用状況の有効性を評価した。
(2)リスクと経済価値の移転に関する判断の妥当性の評価
・売却先を含めた全体としてのスキームを理解したうえで、決裁書の閲覧及び、不動産売買契約書、物件引渡証等の証憑と会計記録との突合を実施し、売却条件の経済的合理性を評価した。 ・不動産売買契約書の閲覧や売却価格の構成要素となる将来キャッシュ・フローや割引率について、キャッシュ・フローの実績及び外部機関が公表している情報との比較により、売却価格の妥当性を検討した。
・決裁書及び不動産売買契約書の閲覧により買戻しに関連する契約条件を理解し、譲渡不動産への継続的関与の程度を考慮したうえで、売却取引の合理性を評価した。

(b)ソフトバンク
会計監査人:有限責任監査法人トーマツ
【収益計上の前提となるITシステムの信頼性】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 通信サービス契約に基づく収益認識において、課金計算、請求及び会計システムへのインターフェース等、主要なプロセスはITシステムに高度に依拠している。  課金計算システムは、多様な料金プランに対応し、顧客契約データ、従量課金計算に用いられる音声通話及びデータ通信の従量データ、単価データ等の情報を複数のITシステムと連携して処理し、顧客に請求している。  当監査法人は、通信サービス契約による売上高の金額に重要性が高く、顧客に対する課金請求及びそれに基づく収益計上が正確に行われるためには、関連するITシステムが適切に整備されかつ運用されることが極めて重要であると判断したため、当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。  左記の監査上の主要な検討事項に対して、当監査法人は、監査法人内のITの専門家を利用して、特に以下の内部統制の整備・運用状況の検証を実施した。 ・顧客管理システム、課金計算システム及び会計システム等の関連するITシステム間のインターフェースの検証
・課金システムにおける顧客に対する課金及び請求金額の計算処理の正確性に対応する自動化された業務処理統制の検証として、顧客契約データ、従量データ及び単価データ等を利用した請求金額の再計算結果と、実際の請求処理結果データとの整合性検証 ・それらを担う顧客管理システムや課金計算システム等にかかるユーザーアクセス管理、システム変更管理、システム運用管理等のIT全般統制の検証

⑤ 子会社及び関係会社株式(投資)の評価
ソニー
会計監査人:PwCあらた有限責任監査法人
【市場価格のない子会社株式の評価(個別財務諸表の監査報告書に記載されたKAM)】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 貸借対照表の有価証券関係注記に記載のとおり、会社は、2020年3月31日現在、関係会社株式2,090,765百万円を貸借対照表に計上しており、このうち、市場価格のない子会社株式が、1,903,874百万円含まれている。当該金額は総資産額の56.1%に相当する。2020年3月31日現在、会社の連結子会社数は1,490社であり、その所在国や営む事業は多岐にわたる。会社はこれらの子会社の株式を直接的に又は間接的に保有しているが、その大部分は、市場価格のない株式である。市場価格のない子会社株式について財政状態の悪化により実質価額が著しく下落した場合には、相当の減額処理を行う必要がある。但し、実質価額が著しく下落した場合、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められる。  当監査法人は、以下の理由により、市場価格のない子会社株式に係る評価の妥当性の検討を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。
・市場価格のない子会社株式は、財務諸表における金額的重要性が高く、実質価額の著しい下落により減額処理が行われると、財務諸表全体に与える金額的影響が大きくなる可能性があること。 ・実質価額が著しく下落した場合に行う回復可能性の検討は、経営者の判断を伴うこと。
 当監査法人は、市場価格のない子会社株式の評価の妥当性を検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・監査上重要と判断した会社の会議体における議事録の閲覧及び経営者や事業部責任者等への質問を通じて子会社の経営環境を理解し、財政状態の悪化の兆候を示唆する子会社の有無を確認した。
・実質価額の算定にあたり使用する子会社の財務数値が、各子会社において適切に承認されたものであることを確認する経営者の統制を理解し、運用評価手続を実施した。 ・実質価額を各子会社の財務数値より再計算し、帳簿価額との比較に際して用いた実質価額の正確性、及び帳簿価額に対する実質価額の著しい下落が生じた子会社株式の有無について、経営者の判断の妥当性を評価した。

⑥ 金融商品・有価証券の評価
みずほフィナンシャルグループ
会計監査人:新日本有限責任監査法人
【流動性が低く市場価格がない金融商品の時価評価の妥当性】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 会社は、注記事項「(金融商品関係)」に記載されているとおり、銀行業における資金運用及び一部トレーディング業務のために、また、一部の連結子会社では証券関連業務のために様々な種類の金融商品を保有しており、その多くは時価をもって貸借対照表価額とし計上している。時価で評価される金融商品には、株式、債券等の有価証券、及び金利、通貨、株式、クレジット等のデリバティブ取引が含まれ、流動性が低く市場価格がない金融商品の一部は、経営者の見積りにより合理的に算定された価額をもって時価としている。
 当該価額の算定においては、一定の前提条件等として、時価評価モデルを設定し、価格決定変数として、デフォルト率、回収率、ボラティリティ等を使用する場合がある。そのため、異なる前提条件によった場合、当該価額が異なる可能性がある。  流動性が低く市場価格がない金融商品の時価評価においては、時価評価モデルの設定、価格決定変数の決定等、経営者の重要な判断や見積りを伴っている。  また、注記事項「(金融商品関係)に記載されている通り、会社は、2020年3月31日において、流動性が低く市場価格がない金融商品を含む多くの金融商品を有しており、財政状態及び経営成績への影響が大きいことから、流動性が低く市場価格がない金融商品の時価評価の妥当性を、監査上の主要な検討事項であると判断した。
 当監査法人は、時価評価に使用される価格決定変数の検証、時価評価モデルの検証及び取引先との必要担保金額の照合プロセス等の金融商品の時価評価に係る内部統制の整備及び運用状況の有効性の評価手続を実施した。  また、当監査法人は以下の実証手続を実施した。これらの手続の実施には内部の専門家を関与させた。
・会社の時価検証プロセスで実施された検証の結果を閲覧し、検証過程で識別された時価評価の論点について、その内容及び会社の判断の妥当性について検討した。 ・会社の価格決定変数について、時価評価に与える定量面の影響に加え、決定にあたり主観性が介入する程度等の観点からリスクを考慮した上で検証対象を識別し、利用可能な価格決定変数との比較を実施した。 ・時価評価モデルについて、市場慣行との適合性の観点から検討した。
・会社の時価評価結果について、時価評価に与える定量面の影響に加え、使用されるモデルの複雑性等の観点からリスクを考慮した上で検証対象を識別し、独自に算定した時価評価額との比較を実施した。

終わりに

 コロナウイルスによって人の移動や消費行動等が大幅に制約され、企業の業績も大きく揺れ動いた2020年3月期であったが、今期から早期適用が認められたKAMについては、監査報告書にKAMが記載された会社数は予想よりもかなり少なくなり、KAMの導入が決まったころの盛り上がりに比べると、静かなスタートになったといえよう。しかし、現在進行中の2021年3月期からはすべての上場会社について、監査報告書へのKAMの記載が一斉にスタートする。会計監査人と被監査会社の監査役会や経理部門等との間では、これまでにも増して、盛んにコミュニケーションが図られていることであろう。良くも悪しくも横並び的と言われる日本企業ではあるが、会計監査人の努力もあって、2020年3月期のKAMについてはいわゆる紋切り型の記載は少なく、各社の事情を反映した具体的な記載がなされていたと評価できると思われる。2021年3月期の監査報告書に初めてKAMが記載される被監査会社や会計監査人にとっては、今回紹介したような先行事例が参考になるはずである。KAM導入の趣旨を生かし、有用な情報を投資家に提供するためにも、会計監査人、被監査会社双方の建設的な対話に向けた努力が欠かせない。

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