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解説記事2021年01月18日 ニュース特集 分割持分ルールと簡素化IIRの弊害(2021年1月18日号・№866)

ニュース特集
懸念される低い認知度 第2の柱に組み込まれた2つの“地雷”
デジタル課税青写真・第二弾
分割持分ルールと簡素化IIRの弊害


 今月14、15日には公聴会が開かれるなど、このコロナ禍においても、2021年半ばまでの合意を目指しデジタル課税の導入議論は粛々と進んでいるが、OECDが昨年10月12日に公表したデジタル課税の「青写真(Blueprint)」には、第2の柱(ミニマムタックス)において企業に大きな弊害をもたらしかねないルールが盛り込まれている。それが、所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)に関連する「分割持分ルール(split ownership rule)」と「簡素化IIR(simplified IIR)」だ。
 分割持分ルールとは、要するにIIRにおける租税回避防止措置であり、この分割持分ルールが発動された場合、IIRが採用する「トップダウン・アプローチ」の利点が損なわれ、企業の事務負担が増加するおそれがある。また、簡素化IIRとは、IIRの射程を持分法適用会社にも広げるものであり、資本関係が薄い持分法適用会社から実効税率計算上の税額情報等の入手など、通常のIIRとは別に企業に対し負担を強いることが予想される。
 これらの制度導入に向けてOECDでの議論が本格化する中、企業側における認知度は現時点では極めて低い。そこで本特集では、両制度の仕組みを解説しつつ、企業にとっての弊害を明らかにする。

分割持分ルール

OECDはスピンオフを利用したトップアップ税額の引下げを懸念

 外国子会社の租税負担割合が国際的に合意された最低税率に満たない場合、その最低税率に達するまでトップアップ(top-up=上積み)して課税する所得合算ルール(IIR=Income Inclusion Rule)は原則として「トップダウン・アプローチ」を採用している。すなわち、多国籍企業グループの最終親会社所在地国においてIIRが導入されている場合には、子会社所在地国のIIRは適用停止(de-activate)となる。これは、租税負担割合が低い孫会社等に対し、IIRが二重に適用されることを防止するためだ。
 ただし、「分割持分」(split ownership)がある場合、例外的にトップダウン・アプローチが適用されないことになっている。具体的には、子会社に対する当該MNE(多国籍企業)グループの外の少数株主の直接・間接の株式持分が10%以上の場合には、当該子会社を「部分的に保有される中間親会社」(POIP:Partially Owned Intermediate Parent)とし、POIPが有する租税負担割合の低い子会社の所得については、最終親会社に代わり当該POIPがIIRを適用する。これを「分割持分ルール」という。
 青写真では、このルールが必要となる理由について説明がなされている。例えば青写真の204〜205頁にかけて以下の説明がある。
 図1において、A国、B国は第2の柱の要件を満たすIIRを導入している。C国は軽課税国であり、租税負担割合はミニマム税率に満たない。本来であればトップダウン・アプローチに基づき、親会社である「Hold Co」が「C Co 1」及び「C Co 2」の所得に対しIIRを適用することになる。持株割合はそれぞれ100%であることから、100%のトップアップ(上積み)課税が行われる。

 そこで、IIR課税を軽減するため、図2のように「Hold Co」が「B Co」株式及び「C Co 2」株式の一部を株主にスピンオフしたとする。この結果、「Hold Co」の「C Co1」及び「C Co2」に対する持株比率はそれぞれ60%となり、IIRによるトップアップ税額を40%軽減させることができる。

トップダウン・アプローチの利点消失で事務負担増加

 このような租税回避に対抗するために考案されたのが分割持分ルールだ。
 図2のケースの場合、B Coに対するグループ外の持分は40%(10%以上)となるため、B CoはPOIP(部分的に保有される中間親会社)と認定され、B Coが保有するC Co1については、Hold CoではなくB CoがIIRを適用し、C Coの所得を100%トップアップ課税する。なお、C Co 2については、引き続きHold CoがIIRを適用する。
 このような分割持分ルールに対し、一部の企業側からは「そもそもHold Coが上場会社であれば青写真の図のようなスピンオフをする可能性は極めて低く、非現実的な想定例」「子会社に少数株主がいた時点で究極の親会社がIIRを適用できないのであれば、トップダウン・アプローチの利点が大きく損なわれる」との声が上がっている。
 また、上記事例では資本階層が3段に過ぎないが、企業によってはこれが4段、5段、6段と連なることも珍しくなく、資本階層の中間に位置する各子会社がそれぞれPOIPに認定される可能性がある。この場合、青写真では、軽課税国子会社に資本階層が「最も近い」子会社がIIRを発動するとの適用順序も定められている。したがって、企業は、そもそもどの国がIIRを導入しているのか、また、子会社の株主構成はどうなっているかなどを一つ一つ確認しなければならず、事務負担の増大は避けられないだろう。

簡素化IIR

対象税額の詳細な積上げ、現地租税繰越等の調整規定もなしで一見“簡素”

 IIRの対象となる多国籍企業グループの構成事業体は基本的にCbCRと同様であり、連結財務諸表上の子会社、重要性基準により除外されている非連結子会社及びPEが含まれる。一方、関連会社(associates)及びJV(Joint Ventures)といった持分法適用会社は、現状では対象に含まれていない。ところが青写真では、これらの会社がIIRの適用除外となると課税漏れ及び不公正が生じるリスクがあるとし、IIRとは別に“簡素化”されたIIR(簡素化IIR)を導入し、持分法適用会社が軽課税の場合にはその所得を一定の簡素な算式によりトップアップ(上積み)課税することが検討されている。
 具体的には、ある関連会社又はJVの租税負担割合(ETR: Effective Tax Rate)を、「当該関連会社又はJVに係る持分法投資利益」を分母、「当該関連会社又はJV及びその子会社が負担する法人税に係る多国籍企業グループの持分」を分子として計算する。簡素化IIRは通常のIIRとは異なり、税効果会計を含む財務会計上のルールを用いて計算し(例えば財務会計上「法人税等」とされるものを集計し、通常IIRのようにその他の税も含む「対象税額」の詳細な積み上げはしない)、現地租税繰越やIIR税額控除、カーブアウト(給与や有形資産償却費の一定割合を控除)といった調整規定も置かない。ETRが最低税率に満たない場合、差分をトップアップ課税することになる。

IIRの射程を持分法適用会社にも拡大

 このように、一見すると確かに簡素化IIRは一見すると文字通り“簡素”に見える。しかし、通常のIIRで連結財務諸表上の子会社及び非連結子会社(持株割合50%超)を中心に制度を組み立てている一方、結局、持分法適用会社(おおむね持株割合20%〜50%)にも射程を広げており、「CbCRと同様」という建付けは名ばかりとなっている。
 結局のところ、簡素化IIRはIIRの射程を持分法適用会社にも広げるものであり、この結果、企業には、資本関係が薄い持分法適用会社から実効税率計算上の税額情報等の入手など、通常のIIRとは別に負担を強いることが予想される。
 こうした中、企業からは「持分法適用会社は他の多国籍企業(MNE)グループの子会社かもしれず、そちらでIIRが適用されているならば十分ではないか」「子会社でない以上、支配できていないということであり、持分法適用会社を利用したBEPSリスクはないはず。欲張りすぎではないか」「制度を精緻に作り込みすぎ」といった批判の声が上がっている。また、「そもそも資本関係が薄い持分法適用会社からETR計算上の税額情報等がスムースに入手できるか疑問」との指摘もある。

第1の柱に比べ著しく低い企業側の認知度

 これまで解説してきた通り、分割持分ルールと簡素化IIRはいずれも企業に大きな負担を強いることになりかねないが、現時点では企業の注目が第1の柱に集まるあまり、両制度への認知度は未だ低いままとなっている。
 今後両制度の存在・仕組みが広く企業に知られるようになれば、両制度への批判が高まる可能性もあろう。一部の企業からは、分割持分ルールも簡素化IIRもないに越したことはないが、どちらか片方を選ぶならば、まだ簡素化IIRの方が許容できる、との声も聞かれる。

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