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解説記事2019年09月09日 特別解説 企業が支払った報酬の分析①(2019年9月9日号・№802)

特別解説
企業が支払った報酬の分析①
IFRS任意適用日本企業、米国基準を適用する日本企業、及び日本の会計基準を適用する主要な日本企業の比較分析

はじめに

 今年度から監査上の主要な検討事項(KAM)の導入が始まるなど、監査をめぐる制度の改正が続いている。また、監査人が交替する際の理由が、これまでの「任期満了」では形式的過ぎて不十分であるという声にこたえて、監査人交替の「実質的な理由」を開示する実務も根付いてきた。この監査人交替の「実質的な理由」としては、「親子会社間の監査人の統一」や「不正の発覚や会計処理をめぐる見解の相違等により信頼関係が損なわれた」といった項目と並んで、「必要な監査上の工数や監査報酬の水準で合意できなかったため」というものも少なくない。我が国の企業が会計監査人に対して支払っている監査報酬は欧米企業の数分の1と言われることがあるが、実際のところはどれくらいの水準なのであろうか。本稿では2回に分けて、相対的に報酬金額が高いいわゆる「超大企業」が中心になるが、日本企業と米国、欧州(英国及び欧州大陸)の企業が会計監査人に対して支払った報酬を比較して、分析を試みたい。
 まず今回は、日本企業間での分析として、2019年3月期までに日本基準に代えてIFRSを任意適用し、IFRSに基づく連結財務諸表を含む、有価証券報告書を開示した日本企業(以下、「IFRS任意適用日本企業」という。)、米国会計基準に基づく連結財務諸表を含む有価証券報告書を開示した日本企業(以下、「米国会計基準適用日本企業」という。)、及び日経平均株式時価総額上位200社にランクインした日本企業のうち、IFRS任意適用日本企業と米国会計基準適用日本企業を除いた主要な日本企業(以下、「日本の会計基準を適用する主要な日本企業」という。)を題材とした調査分析を行っている。

今回調査の対象とした企業

 今回調査の対象としたのは、IFRS任意適用日本企業の192社と、米国会計基準適用日本企業12社、及び2019年5月末日時点での日経平均株式時価総額上位200社にランクインした日本企業のうち、IFRS任意適用日本企業と米国会計基準適用日本企業を除いた106社(日本の会計基準を適用する主要な日本企業)である。なお、次回では、これらの日本企業に加えて、米国企業や英国、欧州大陸の企業も対象とした比較分析を実施する予定である。今回の調査分析の対象とした数値は、調査対象の各社が作成・提出した直近の有価証券報告書(2019年3月期のものが大半を占める)から抽出している。

IFRS任意適用日本企業が会計監査人に支払った報酬

 日本企業が決算期ごとに提出する有価証券報告書には、「4.コーポレート・ガバナンスの状況等」という項目があり、その中の監査の状況/会計監査の状況において、会社が会計監査人(監査法人)に対して支払った報酬に関する開示(監査報酬の内容等)が行われている。「監査公認会計士に対する報酬の内容」としては、監査証明業務に基づく報酬と非監査証明業務に基づく報酬が、それぞれ、提出会社分と連結子会社分とに分けて2期分開示されるとともに、その他の重要な報酬(会計監査を担当する監査法人の提携先の海外の会計事務所に対して支払った、海外子会社に関する監査報酬等)や監査公認会計士等の提出会社に対する非監査業務の内容、監査報酬の決定方針等が開示されている。
 会計監査人に対して多額の報酬(監査報酬と非監査業務報酬、並びに海外の提携先ネットワーク・ファームに対して支払った報酬の合計)を支払ったIFRS任意適用日本企業を列挙すると、表1のとおりであった。

 世界中で事業を展開している大手総合商社を中心に、我が国を代表する超大企業が顔をそろえている。
 会計監査人が会社に対して提供する非監査業務の例としては、社債発行時のコンフォートレターの作成や研修、海外税務申告関連業務などが挙げられる。IFRS任意適用日本企業に限らず、非監査業務提供の対価として日本の企業が監査法人に支払う対価は、監査報酬に比較すると非常に少ないと言える。監査法人の側でも、独立性の問題等を勘案して、非監査業務を提供する組織を監査法人から分離したり、提供する非監査業務の種類を絞り込んだりする動きが最近は見られていることから、今後もこの傾向は大きくは変わらないであろう。
 また、表1の各社はいずれも、世界中に子会社を持ち、事業を展開している(海外事業の比率が高い)企業であることもあって、日本の会計監査人の提携先である海外のネットワーク・ファーム(EY、PwC、KPMG及びDeloitte等)に対して支払っている海外子会社の監査報酬等が極めて多額となっている(ほとんどの会社で、日本の会計監査人に対して支払った報酬を大きく上回っている)。有価証券報告書からは、監査報酬等の支払い対象となっている海外子会社の数や規模、業務の内容等が、親会社や国内の連結子会社と比較してどうか、といった分析が完全にはできないため、推測によるほかはないが、日本の監査法人に比べて、その提携先の海外ファームに支払う報酬の相場の方が「割高である」可能性が高いことは伺える。
 次に、IFRS任意適用日本企業の各社が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表2のとおりであった。

 今回の調査対象とした192社のうち、報酬額が10億円を超える企業は34社で、全体の2割弱。約半分の企業(93社)の支払報酬額が2億円未満であった。192社が支払った報酬額の単純平均は660百万円であるが、表1の10社を除いて算出すると、447百万円となる。
 大雑把な言い方になるが、IFRS任意適用日本企業は、大別すると、表1に登場する企業のような、世界中で事業展開をしている超大企業のグループと、海外投資家の比率が高い中規模企業(海外企業の買収等により、会社の規模に比して多額ののれんがある場合が少なくない)のグループ、IFRSを適用して新規に上場する企業のグループ、及び、スタートアップに近い、ITや創薬等を手掛ける小規模な企業グループに分けられる。したがって、会計監査人に対して支払う報酬の額も、10億円を超えるような企業グループと、50百万円を下回るような企業グループの両方が存在しており、前者の企業群が報酬支払額の平均値を引き上げている。

米国会計基準適用日本企業が会計監査人に支払った報酬

 会計監査人に対して多額の報酬を支払った米国会計基準適用日本企業を列挙すると、表3のとおりであった。我が国においてIFRSの任意適用が始まって以来、我が国における米国会計基準適用日本企業の数は減少の一途をたどり、2019年3月期決算の時点ではわずか12社にまで落ち込んだ。しかしながら、これまで長らく、米国会計基準の適用やニューヨーク証券取引所における上場は、我が国の超一流企業のステータスとされていたこともあり、表3には、トヨタ、ソニーをはじめ、まさに我が国を代表するビッグネームが並んでおり、表1に登場する企業と引けをとらない。そもそも表1の10社のうち、ソフトバンクと武田薬品工業を除く8社は、もともとは米国会計基準を適用していた企業であった。

 さらに、表3の10社が支払った報酬の内訳をみると、東芝を除き、海外のネットワーク・ファームへの支払額の方が、国内の会計監査人に対して支払った報酬額を上回っている。米国会計基準適用日本企業はわずか12社と、サンプル数が非常に少ないが、1社当たりの支払報酬額の平均値は2,512百万円と、IFRS任意適用日本企業や後述する日本の会計基準を適用する主要な日本企業の4倍弱の水準となった。

日本の会計基準を適用する主要な日本企業が会計監査人に支払った報酬

 会計監査人に対して多額の報酬を支払った、日本の会計基準を適用する主要な日本企業を列挙すると、表4のとおりであった。

 わが国の3大メガバンクグループが上位3位を占め、金額的にも他を圧倒している。上位10社のうち、3大メガバンクを含む6社を金融機関が占めており(銀行3社、損保2社、生保1社)、その他はメーカー3社、小売業1社という構成になっている。
 また、多額の監査報酬を支払った日本の会計基準を適用する主要な日本企業10社が支払った報酬の内訳では、上位3社を占める3大メガバンクグループを除くと、海外の提携先のネットワーク・ファームに対して支払った報酬額が、国内の会計監査人に対する支払額を上回っている。
 非監査業務に対して支払われた報酬額が、監査報酬に比べて極めて小さいという傾向は、IFRS任意適用日本企業や米国会計基準適用日本企業と大きく変わらない。
 また、日本の会計基準を適用する主要な日本企業が会計監査人に対して支払った報酬額の分布を示すと、表5のとおりであった。

 今回調査分析の対象とした106社が会計監査人に対して支払った報酬額を単純平均すると、668百万円であり、表4の上位10社を除くと350百万円となった。大手メガバンクの3社が報酬支払額平均値を大きく引き上げているという側面はあるものの、前述したIFRS任意適用日本企業の報酬支払額平均値(660百万円)とほぼ同水準であった。

終わりに

 監査人・監査報酬問題研究会(本年度責任者:林 隆敏 関西学院大学教授)の手による「2019年版上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書」によると、2016年度及び2017年度のSEC登録(米国会計基準適用)企業とIFRS適用企業を除く、その他の上場日本企業に対して支払われた監査報酬は表6のとおりであった(非監査業務報酬は含まれていない)。

 今回の調査・分析では、「日本の会計基準を適用する主要な日本企業」として、3,500社を超える上場企業の中から時価総額上位200社にランクインするような、日本を代表する大企業やエクセレント・カンパニーを選んで抽出しているうえ、非監査業務報酬も合算している。したがって、表6の平均値や中央値等と今回の調査分析結果とを比較することにはさほどの意味がないと思われるため、あくまでも参考としての紹介にとどめることとする。
 今回は日本企業のみを調査分析の対象としたが、次回は、米国会計基準を適用する米国企業、IFRSを適用する英国や欧州大陸の企業が会計監査人に対して支払った報酬額を、必要に応じて日本企業の平均値等を参照しつつ、比較分析することとしたい。

参考文献
2019年版上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書(2019年3月31日。監査人・監査報酬問題研究会)

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