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解説記事2021年02月08日 ニュース特集 建物収去費・概算取得費、取消裁決の調査への影響(2021年2月8日号・№869)

ニュース特集
必要経費・家事費の分岐点、名義書換と取得価額の関係
建物収去費・概算取得費、取消裁決の調査への影響


 課税当局作成の取消裁決事例に関する資料から、第三者が所有する建物の収去費用が必要経費と認められた事例、概算取得費を用いた上場株式等の譲渡所得の計算が否定された事例を紹介する。課税当局は、土地賃貸借契約解除後の第三者所有建物の収去費用が必要経費とされたことを踏まえ、空き家問題で同様のケースも想定されると指摘。調査担当者に対し、本事案から建物収去費に係る理解を深めることを求めている。2つ目の事案の取消原因について、課税当局は、信託銀行の証券代行部からの照会回答に「名義書換」としか記載されておらず、有償取得されたものか、無償取得されたものかが判明しなかったため、総平均法に準ずる方法での計算ができないと判断したとしている。

相続財産管理人の賃料不払いで土地賃貸借契約を解除

 1つ目の事例は、第三者が所有する建物の解体費用は、不動産所得の計算上必要経費に該当(建物解体費用の家事費該当性を否定)するとされたもの(令和元年9月20日裁決・裁決事例集No.116)。
 本事例の経緯は、次のようになる。①請求人ら(不動産貸付業)から本件土地を賃借していたA(本件土地上に本件各建物を所有)が死亡し、Aの相続人は相続を放棄。②請求人らは相続財産管理人に未払賃料の支払を催告したが、当該賃料が支払われず土地賃貸借契約を解除。③A所有の本件各建物の収去の代替執行(収去費用は請求人らが負担)、土地明渡しの強制執行。④請求人らが法人Bに対し、新たに駐車場として土地の貸付けを開始(図表1参照)。

 請求人らは、A所有の本件各建物の収去に要した費用(本件各建物収去費)を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して確定申告を行った。
 これに対し、原処分庁は、本件各建物収去費は家事上の経費(家事費)に該当し、必要経費に算入することはできないとして所得税の更正処分等を行っている。

事業の用に供されていない資産、必要経費算入不可と主張

 原処分庁は、本件各建物収去費について、請求人らの事業の用に供されていな他人の建物を任意に処分した費用であり、土地賃貸借契約が終了した日以後は、本件土地は請求人らの事業の用に供されていない資産であるから、必要経費に算入できないと主張した。
 原処分庁の主張に対し、審判所は、①請求人らの本件土地の貸付けに係る業務は、本件土地賃貸借契約の解除後本件各建物の収去に至るまで継続しており、本件各建物収去費は、かかる一連の業務の中で支出されたものである。②本件各建物収去費の支出は、客観的にみて、請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務遂行上必要なものであったと判断。本件各建物収去費は、請求人らの不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとした(裁決要旨は次頁参照)。

不動産の貸付けからその返還を受けるまでが一連の業務

 取消裁決に至った主な原因について、課税当局は、次のとおり記載している。

 原処分庁は、土地賃貸借契約が終了した日をもって土地貸付業は終了したのだから、建物を取り壊す段階では本件土地は事業用の資産ではないと判断した上で、本件各建物収去費は、事業用の資産ではない本件土地の上に所在する請求人らの事業の用に供されていない他人の建物を任意に処分するのに要した費用、つまり、家事上の経費に該当すると認定したことにあります。

契約終了=貸付業務終了ではない
 上記を踏まえ、課税当局は、不動産貸付業務は当該不動産を貸し付けてからその返還を受けるまでが一連の業務であるとされており、原則として、貸付物件が返還されるまで不動産貸付業務は継続しているとみる必要があると指摘。調査担当者に対し、①不動産の賃貸借契約が終了したことをもって不動産の貸付業務が終了したと認定できると思っていないか、②第三者が負担すべき経費を納税者が代わりに支出した場合、一律に必要経費に算入できないと判断していないか確認することを促している。
本件を題材に理解を
 さらに、課税当局は、昨今、空き家問題が話題となっており、同様の事案に当たることも想定されるとして、調査担当者に本件を題材に理解を深めることを求めている。

○令和元年9月20日裁決の要旨

 不動産の貸付業務は、基本的には、当該不動産を貸し付けてからその返還を受けるまでが一連の業務というべきところ、請求人らは、本件相続財産法人から本件土地の返還を受け、新たな賃借人に対する賃貸業務を行うべく、本件相続財産管理人の選任審判を申し立てた上、本件土地賃貸借契約の解除、本件訴訟の提起並びに本件各建物の収去及び本件土地の明渡執行という一連の法的手続を執り、かかる明渡しまでの手続と並行して、新たな賃借人への貸付けに取り掛かかっているとみられる一方で、この間、請求人らが本件土地を賃貸借業務以外の用途に転用したことをうかがわせる事情も認められない。
 このことからすれば、請求人らの本件土地の貸付けに係る業務は、本件土地賃貸借契約の解除後本件各建物の収去に至るまで継続しており、本件各建物収去費は、かかる一連の業務の中で支出されたものである。
 そして、請求人らは、本件土地から収益を得る業務を遂行するためには、本件各建物を収去する必要があり、その収去に係る費用については、当初から自らが負担することを想定して本件各建物の収去までの手続を遂行し、本件各建物収去費を支出したところ、実際にも、本件相続財産法人は無資力であり、当該支出の時点において、請求又は事後的に求償しても、およそ回収が見込めない状況にあったのであり、客観的にみても、本件各建物収去費は、請求人らにおいて、自ら負担するほかなかったものと認められる。そうすると、本件各建物収去費の支出は、客観的にみて、請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであったといえる。

できる限りの調査を尽くしたが、概算取得費で計算

 2つ目の事例は、上場株式等の譲渡所得の取得費について、概算取得費を用いることができるか否かが争われたもの(令和元年11月28日裁決、裁決事例集No.117)。
 原処分庁は、申告漏れとなっていた一般口座内株式(本件各株式)について、信託銀行の証券代行部に対して取得状況を照会した上で、概算取得費を用いて上場株式等の譲渡所得の金額を計算し、所得税の更正処分等を行っている(図表2参照)。

 本件各株式の取得費の算定に関する原処分庁の主張は、①原処分に係る調査において、できる限りの調査を尽くしたものの、有償で取得した上場株式等はごく一部であり、大部分の上場株式等の実際の取得価額は判明しなかった。②①のような状況からすれば、本件各株式の取得費について概算取得費を用いて計算したとしても、必ずしも請求人にとって不利な取扱いになるとはいえないというものだ。

有償取得と推認、総平均法に準ずる方法での算定が相当

 審判所は、本件各株式のうち、照会回答に「名義書換」と記載されている株式については、被相続人が有償取得したものと推認され、有償取得されたことを前提に、名義書換日の相場(終値)で取得価額を算定することも明確かつ簡便な推定方法として合理性を有する取得価額の把握方法であると指摘。本件各株式の取得費については、概算取得費によらず、総平均法に準ずる方法により算定することが相当であるとした。

他の合理的な計算方法がないかも含め慎重に検討

 課税当局は、取消裁決に至った主な原因について、次のとおり記載している。

 原処分庁は、本件各株式の取得価額について、信託銀行の証券代行部に対して取得状況の照会を実施し、取得時期は特定できたものの、取得原因が、「名義書換」としか記載されておらず、本件各株式が、有償取得されたものなのか、無償取得されたものなのかについては判明しませんでした。
 そこで、本件各株式の取得価額について、総平均法に準ずる方法により取得価額を計算することができないと判断し、概算取得費を用いて取得費を算定しました。

国税庁パンフレットに記載のとおり
 その上で、課税当局は、国税庁ホームページに掲載されている「上場株式等の取得価額の確認方法」のパンフレットに記載されているとおり、「名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定」することも、合理性を有する取得価額の把握方法であると考えられるとしている。
概算取得費で更正処分する場合は
 また、調査担当者に対して、以下の(1)(2)を周知するとともに、概算取得費を用いて更正処分等を行う場合には、他の合理的な計算方法がないかも含めて慎重に検討するよう促している。
(1)上場株式等の譲渡所得の金額の計算において、概算取得費を用いて取得費を計算することができるのは、課税庁が、請求人に対する調査を含め、その調査を尽くしても取得時期及び取得価額が明らかにならない場合や、概算取得費を取得費とすることが納税者の利益と認められる場合である。
(2)証券会社や信託銀行等の証券代行部の照会回答には「名義書換」としか記載されておらず、譲渡した株式等の取得価額が明らかでない場合でも、その取得が有償であると推認され、取得時期を把握することができる場合には、その時期の相場(終値)で取得価額を算定することも、明確かつ簡便な推定方法として合理的と考えられる。

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