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解説記事2019年10月07日 特別解説 のれんの計上の状況等の分析(2018年度)(2019年10月7日号・№806)




特別解説

のれんの計上の状況等の分析(2018年度)

~IFRS任意適用日本企業と主要な日本基準適用企業の場合~






はじめに




 国際財務報告基準(IFRS)を作成する国際会計基準審議会(IASB)は、ここのところ数年は金融商品、収益認識、リース、保険契約といった大型の基準書や概念フレームワークの開発・適用支援作業等に追われ、息つく暇もない状況であったが、ここにきて基準書の作成や実務上の適用支援活動等が一区切りしたことから、投資家とのコミュニケーション(IFRSの「使い勝手」の向上)や開示のフレームワークづくり、あるいはリサーチ・プロジェクトといったより長期のプロジェクトに軸足を移している。それらの長期的なプロジェクトの一つとして、のれんの取扱いの見直しの検討がある。我が国でもよく知られているように、IFRSと米国会計基準ではのれんは定額償却を行わず、減損テストのみであるのに対して、我が国の会計基準では、20年以内の期間にわたって定額償却が行われる(それに加えて、減損の兆候がある場合には減損テストも実施する。)。本稿では、日本国内の企業ののれんの計上額や連結純資産に対するのれん計上額の比率、のれんの減損処理額等を調査し、傾向等の分析を試みた。具体的には、IFRSに基づく連結財務諸表を作成・公表した日本企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)、米国会計基準を適用する日本企業、及び日本基準を適用する主要な日本企業(株式時価総額が高い企業。以下、「日本の会計基準を適用する主要な日本企業」という。)を対象として、分析を行うこととしたい。






調査分析の対象とした企業




 今回調査分析の対象としたのは、2019年3月期まで(2018年度)にIFRSを適用して有価証券報告書を作成・提出した日本企業(IFRS任意適用日本企業)の192社であり、いずれも最も直近の本決算での数値を用いている。また、IFRS任意適用日本企業の中には、米国会計基準からIFRSに移行した企業や、IFRSを適用して新規に上場した企業も含まれている。また、本稿の後段では、米国会計基準を適用して連結財務諸表を作成している日本企業12社と、2019年5月末日時点で、東京証券取引所での株式時価総額上位200社にランクインしている日本企業のうち、IFRS任意適用日本企業と米国会計基準を適用する日本企業を除いた計106社(日本の会計基準を適用する主要な日本企業)を対象として、のれんの計上額等に関する調査分析を行っている。






IFRS任意適用日本企業が計上したのれんの調査分析




 のれんの計上額が大きいIFRS任意適用日本企業を列挙すると、表1のとおりであった。なお、参考として、各社ののれんの計上額の連結純資産に対する比率も併記している。



 表1の参考として記載したように、上位10社によるのれんの計上額を合計すると、全192社の計上額合計の58%となり、上位20社まで広げると、70%超にまで達する。なお、1社当たりののれん計上額の単純平均額は、1,348億51百万円であるが、計上額が飛び抜けて大きいソフトバンクと武田薬品を除くと914億43百万円と、1000億円の大台を下回る。2017年度まではソフトバンク1社ののれんの計上額が群を抜いて大きかったが、2018年度に武田薬品がアイルランドのシャイアー社を買収したことに伴い、のれんの額が急増した(2017年度末の武田ののれん残高は、1,029,248百万円であった)。

 また、表1の各社ののれん計上額の連結純資産に対する比率を見ると、10社のうちの5社が50%を上回っていた。

 次に、IFRS任意適用日本企業ののれんの計上額の分布を示すと、表2のとおりであった。



 全192社のうち、半分を超える99社ののれん計上額が200億円未満であり、のれんを全く計上していない企業も20社存在する(後述)。そして、のれんの計上額が1,000億円を超えるような企業は47社と、全体の4分の1に満たない。前記の通り、全192社ののれん計上額の平均は1,348億円であるため、表1で列挙されているような、多額ののれんを計上している一握りの大企業によって、1社あたりののれんの平均計上額が大きく押し上げられていることが分かる。

 次に、のれん計上額の連結純資産額に対する比率が高い企業を列挙すると、表3のとおりであった。



 のれん計上額の連結純資産に対する比率が100%超、すなわちのれんの計上額が連結純資産額を上回ったIFRS任意適用日本企業は、表3の10社のみであった。

 これらの顔ぶれの特徴は、10社のうちの7社が、IFRSを適用して新規に上場した企業であるということである(IFRSを適用しての新規上場に該当しないのは、コロワイド、ウィルグループ及び大陽日酸の3社)。IFRSを適用して新規に上場した企業で、多額ののれんを計上している企業の場合、いわゆる受け皿会社と合併することによって資産の評価替えを行い、その結果としてのれんが計上されていることが多い(外部から企業や事業を取得したことに伴って計上されるのれんとは、少し性質が異なる)。こういったのれんの場合には、収益力の源泉が通常はその会社の本業そのものであるため、よほどのことがなければのれんが減損処理されることはないと思われる。

 さらに、のれん計上額の連結純資産に対する比率の分布を示すと、表4のとおりであった。



 表3では、のれんの計上額が連結純資産を上回るような企業を列挙したが、これはあくまでも「レアケース」に過ぎない。連結純資産に対するのれん計上額の割合が50%を超えるIFRS任意適用日本企業の割合は、全体の2割弱(192社中の34社)である。のれんの毎期定額償却を求められないために、日本企業の中ではのれんの計上額が一般的に大きいと言われるIFRS任意適用日本企業であっても、連結純資産に対するのれん計上額の比率が10%に満たない企業が半分近く(192社中の93社)を占めていることが分かる。なお、のれんを計上していないIFRS任意適用日本企業は、次のとおりであった。


【のれんを計上していないIFRS任意適用日本企業(五十音順)】








小野薬品工業、窪田製薬ホールディングス、クレハ、ケーヒン、サイバーダイン、山洋電気、ソレイジア・ファーマ、中外製薬、ティアック、テイ・エステック、トーセイ、豊田合成、日信工業、日本精機、日本精工、パルコ、ヒロセ電機、本田技研工業、ユタカ技研、夢展望


 また、調査対象とした192社のうちでのれんの減損損失を計上した企業は47社であり、計上額は合計で2,330億円であった。のれんの計上額総額に対する減損損失の計上率(費用化率)は0.9%となった。多額ののれんの減損損失を計上したIFRS任意適用日本企業を示すと、表5のとおりであった。



 日本電信電話(NTT)とNTTドコモは、2019年3月期に、これまでの米国会計基準からIFRSに移行した。米国会計基準は我が国の減損会計基準と同様に、いわゆる3段階アプローチ(減損の兆候がある資産がある場合、割引前将来キャッシュ・フローと該当資産の帳簿価額とを比較したうえで、前者が後者を下回る場合に限って割引後将来キャッシュ・フロー(回収可能価額)を算出し、帳簿価額との差額を減損損失として計上する方法)を採用しているが、2段階アプローチ(割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額との比較を行わない)を採用するIFRSへの移行に伴って、減損損失を追加的に計上したものと考えられる。






米国会計基準適用日本企業が計上したのれんの調査分析




 のれんの計上額が大きい米国会計基準適用日本企業を列挙すると、表6のとおりであった。また、表6では、のれん計上額の連結純資産に対する比率も併せて示している。



 米国会計基準を適用する日本企業の中では、のれんの計上額、及び連結純資産に対する比率はともに、キヤノンが最大であった。米国会計基準適用日本企業の場合、のれんの計上額はそれなりに大きいが、さすがに我が国を代表する業界のリーディング・カンパニーだけあって、連結純資産額がのれんの計上額をはるかに上回っている。






日本の会計基準を適用する主要な日本企業が計上したのれんの調査分析




 のれんの計上額が大きい、日本の会計基準を適用する主要な日本企業を列挙すると、表7のとおりであった。なお、参考のために各社ののれんの計上額の連結純資産に対する比率も併記している。



 今回調査の対象とした日本の会計基準を適用する主要な日本企業106社ののれん計上額を合計すると3兆2,381億円であり、ソフトバンクや武田薬品工業1社ののれん計上額にも及ばない。1社当たりの平均計上額は305億48百万円であり、IFRS任意適用日本企業(1,348億51百万円)のわずか22.6%の水準であった。表7では計上額がトップの東京海上ホールディングスも、IFRS任意適用日本企業や米国会計基準適用日本企業も合わせた日本企業全体でみると、15位相当である。

 次に、日本の会計基準を適用する主要な日本企業各社ののれんの計上額の分布を一覧にすると、表8のとおりであった。



 今回の調査分析の対象とした、日本の会計基準を適用する日本企業は、前述のように、株式時価総額で上位200位以内にランクインするような企業であり、日本を代表するような大企業が多いが、それでも、1000億円以上ののれんを計上している会社が106社中わずかに9社であるのに対して、のれんの計上額が100億円未満の会社が78社も存在する。

 また、連結純資産に対するのれん計上額の比率の分布を示すと、表9のとおりであった。



 今回調査の対象とした日本の会計基準を適用する主要な日本企業の実に半分以上が、のれんを全く計上していない。そして、のれんの計上額が極めて小さいことからの当然の結果ではあるが、連結純資産に対するのれんの計上額の比率が30%を超える企業は1社もなかった。

 また、日本の会計基準を適用する主要な日本企業ののれんの減損損失計上額は、総額で621億円であった。

 のれんの減損損失をのれん残高で除した費用化率は1.9%(IFRS任意適用日本企業の費用化率は0.9%)であった。今回の調査の対象とした日本の会計基準を適用する主要な日本企業は、毎期のれんの定額償却を行った上になお、IFRS任意適用日本企業の2倍の減損損失を計上していることが分かる。






おわりに




 今回の調査分析を行ったことにより、あらためて分かったことは、日本の会計基準を適用する主要な日本企業が計上しているのれんの金額の少なさである。減損テストのみのIFRSや米国会計基準とは異なり、わが国の会計基準はのれんの毎期定額償却を求めているため、IFRS任意適用企業や米国会計基準適用企業に比べて、日本の会計基準を適用する主要な日本企業が計上しているのれんの残高が小さいであろうことはある程度予想されていたが、雑駁な言い方ではあるが、「多額ののれんを計上しているような主要な日本企業の大半は、すでに日本の会計基準からIFRSに移行してしまった」ということが言えそうである。今現在でも日本の会計基準を適用している大企業は、金融機関(銀行、損害保険、生命保険)や小売業、鉄道、電力等のインフラ系の業種の企業と一部の製造業が中心であると考えられる。

 今回の調査対象とした日本の会計基準を適用している日本企業は、あくまでも株式時価総額が大きいごく一握りの「大企業」及び「収益性や将来性が高い企業」であり、日本の会計基準を適用する全ての上場日本企業を網羅的に調査分析したものではない。今回の調査の対象外で、多額ののれんを計上している日本企業もそれなりに存在するであろうが、全体的な傾向としては、前述のようなことが言えるものと考えられる。





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