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解説記事2019年10月21日 SCOPE 東京高裁、「翌課税期間」の課税仕入れとした課税処分を支持(2019年10月21日号・№808)

金売買利用した消費税還付で契約基準認めず
東京高裁、「翌課税期間」の課税仕入れとした課税処分を支持


 金の売買を利用した消費税還付スキーム否認案件の司法審理が進んでいる。東京地裁では、平成31年3月に3件の判決があり、いずれも新設分割子法人の設立事業年度における仕入税額控除を否認した課税処分が認容された。3件ともに控訴されたが、令和元年9月に2件が棄却され、残りの1件は今年12月の判決言い渡しが予定されている。控訴が棄却された控訴人らは上告手続きを取っている。

不動産売買契約の「課税仕入れを行った日」が争点に

 訴訟に至った金の売買を利用した消費税還付スキーム否認案件の内容は以下のとおり。

① 原告は、新設分割子法人として設立され、設立時点でいずれも課税事業者に該当。
② 原告は設立事業年度の末日(例:4月30日)近く(例:4月25日)に不動産売買契約を締結し、契約時に手付金を支払い、残金を翌事業年度(例:5月31日まで)に支払うこととした(原告は不動産の買い手)。
③ 契約書には、「不動産の所有権は売買代金の全額が支払われたときに原告に移転する。」と記載されている。
④ 契約書には、「売主は、原告に対し、売買代金の全額を受領したと同時に本件不動産を引き渡す。」と記載されている。
⑤ 契約書には、「売主は、売買代金の全額を受領したと同時に本件不動産の所有権移転の登記手続きをしなければならない。」と記載されている。
⑥ 契約書には、「本件不動産に対して賦課される固定資産税等については、本件不動産の引渡しの日の前日までの部分を本件売主が、本件不動産の引渡しの日以後の部分を原告が、それぞれ負担する。」と記載されている。
⑦ 契約書には、「本件不動産から生ずる収益については、本件不動産の引渡しの日の前日までの部分は本件売主に、本件不動産の引渡しの日以後の部分は原告に、それぞれ帰属するものとする。」と記載されている。

 このスキームでは、設立直後の段階で金地金の少量の購入・売却を行うことで課税売上割合を(100%に)高めている。「金の売買を利用した消費税還付スキーム」とも呼ばれる本スキームに対する課税処分では、スキームの否認ではなく、事実関係に基づき、不動産取引が翌課税期間に行われたとして、設立事業年度での仕入税額控除(⇒消費税の還付)を否認するという手法がとられている。
原告は法基通・所基通に基づく「契約基準」を主張
 原告(控訴人)は、固定資産の課税仕入れを行った日は、法人税又は所得税における帳簿との事実上の平仄を合わせ「固定資産の譲渡(譲受け)の日」とすべきであり、具体的には、固定資産の譲渡に係る引渡しのあった日又は契約の効力が発生した日のいずれかを選択して課税仕入れを行った日とすることができると解すべきであると主張。その根拠として、所得税基本通達36-12においても、法人税基本通達2-1-14(ただし書)においても納税者の選択可能性が認められていることを挙げた。
 国は、課税仕入れを行った日とは、譲受人が当該資産の引渡しを受けた日であると解すべきであるとした。本件不動産については、同日(5月30日)に売買代金の全額が支払われるとともに、所有権の移転の登記及び本件建物の引渡しがされ、かつ、固定資産税等の負担及び本件不動産から生ずる収益の配分も同日を基準にされているだけでなく、原告自身も、同日に根抵当権を設定しているため。すなわち、本件売買契約の内容のみならず、実際に行われた取引の内容からも、同日に本件不動産の引渡しがあったと認められるというものである。
 また、「納税者の選択可能性」については、法人税基本通達2-1-14ただし書は、引渡しに係る事実関係が外形上明らかではなく、引渡しの時期を認識することが困難な場合を前提とするものであり、資産の引渡しが明らかな場合には適用されないと反論した。

東京高裁、「通達は資産の譲渡の時期の自由な選択権を認めるものにあらず」

 高裁判決の1つ(第4民事部)では、以下のとおりの判断が付加された。
 「本件においては、事実関係を具体的かつ詳細に検討しても、契約の締結の日に本件建物の現実の支配が移転し、当該譲渡に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じたと認めることは到底できないから、いずれにしても、本件における契約の締結の日を契約の効力の発生の日として資産の譲渡の時期と認めることは相当でない。
 また、控訴人は、本件通達につき上記判示のような解釈を採ると、本件通達が本文とただし書に区別されていることを否定するものとなり、ただし書の存在意義を失わせる旨主張する。しかしながら、例えば、契約の締結の日であっても、契約条項や両当事者の意思等に照らし、確定するに至ったと認められる事案であれば、引渡しが事後に行われる事案であったとしても、ただし書に基づいて、契約の締結の日が資産の譲渡の時期と認められることになるのであり、上記判示は、本件のように、実態が伴わない状況下で、資産の譲渡の時期につき当事者の自由な選択権を認める(このような選択権を認めると、殊に、契約の効力発生の日を契約の締結の日と解した場合には、当事者が事後的にこの日に合意が成立したと称すれば、いかようにでも契約効力発生の日を操作することが可能になる。)ことは相当でないことを明らかにするのにすぎないから、上記主張は失当というほかない。」
法人税・所得税にも影響
 本件が「消費税」の還付スキームに関するものだからといって、通達に「契約基準」が明示されている法人税や所得税には影響がないと判断するのは早計だ。実際、国は次のようにも主張している。
 「なお、本件においては、原告の法人税に係る更正はされていないが、これは、原告が本件建物を取得したことに係る計上時期を誤ったことによる原告の所得の増減がなかったためにすぎず、原告がした計上時期が適正であったことによるものではない。」
 法人税基本通達・所得税基本通達で認められるとされてきた「契約基準」については、その適用が限定的に解されることになるという点に留意しなければならない。

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