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解説記事2021年02月22日 特別解説 日本企業による会計監査人交替の理由(臨時報告書における開示例)(2021年2月22日号・№871)

特別解説
日本企業による会計監査人交替の理由(臨時報告書における開示例)

はじめに

 会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされており、当該定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、会計監査人は定時株主総会において再任されたものとみなされる(会社法第328条)。
 これまで会計監査人が交替した場合、我が国では、臨時報告書において適時開示が行われてきたが、会計監査人交替の理由が、「任期満了」といった形式的な記載にとどまり、「本音ベースの理由」が外部からは分からなかった。そこで、金融庁は2019年6月に企業内容等開示ガイドライン(以下、ガイドライン)を改正し、臨時報告書に会計監査人が異動した実質的な理由が記載されるよう、具体的な交替理由を例示している(企業内容等開示ガイドラインB基本ガイドライン(監査公認会計士等の異動理由及び経緯)24の5−23−(21))。そして、実質的な異動の理由として、以下のようなものが挙げられている。

① 連結グループでの監査公認会計士等の統一
② 海外展開のため国際的なネットワークを有する監査公認会計士等へ異動
③ 監査公認会計士等の対応の適時性や人員への不満
④ 監査報酬
⑤ 継続監査期間
⑥ 監査期間中に直面した困難な状況
⑦ 会計・監査上の見解相違
⑧ 会計不祥事の発生
⑨ 企業環境の変化等による監査リスクの高まり
⑩ その他異動理由として重要と考えられるもの

 開示ガイドラインは、2019年6月21日付で公布・施行された。本稿では、2019年6月21日よりも後に提出された臨時報告書(会計監査人の交替に関するもの)を調査するとともに、2020年4月1日以後に会計監査人の交替に踏み切った各社が、臨時報告書において開示した会計監査人交替に関する理由や経緯等に関する具体的な開示を紹介することとしたい。

調査対象とした企業

 本稿では、2019年6月21日以降、2020年12月31日までに提出された臨時報告書(会計監査人の交替に関するもの)207件(203社)を調査対象とした。

全般的な分析

 今回の調査の対象とした203社の市場区分等を示すと、表1のとおりであった。

 一目瞭然であるが、ジャスダック、マザーズといった新興市場に属する企業が、より頻繁に会計監査人の交替を行っている(あるいは、会計監査人が交替せざるを得ないような状況に置かれている)ことが分かる。
 次に、調査対象とした企業が会計監査人の交替を行った時期(臨時報告書を提出した時期)を示すと、表2の通りであった。

 我が国の大半の上場企業は3月決算であり、(会計監査人の交替が決議される)株主総会を6月に開催するため、必然的に会計監査人の交替に関する開示は4月〜6月に集中する。しかしながら、それ以外の四半期についてもそれぞれ25社〜30社程度の会計監査人交替が開示されていることが分かる。
 さらに、前任監査人と後任監査人の属性を調査すると、表3のとおりとなった。 

 2020年3月期から会計監査人の継続監査期間に関する開示が始まったこともあり、2020年6月頃までは、キヤノン、味の素、大和ハウス工業などの我が国を代表する大企業が、継続監査期間の長期化等を理由に、会計監査人を(4大監査法人から他の4大監査法人に)交替させる事例が目についたが、2020年度になってからは、中堅規模以下の上場企業に対して4大監査法人が高額の監査報酬を提示し、それに耐えられなくなった企業が規模に見合った水準の準大手、あるいは中小監査法人を会計監査人に新たに選任するケースが目立ってきている。
 また、企業が会計監査人の交替に踏み切った理由を、企業内容等開示ガイドラインで列挙された項目(一部項目を追加)に即して分類すると、表4のとおりであった。

 会計監査人交替の理由として表4の複数の項目を列挙している企業については、それぞれの項目で1件としてカウントしている。
 予想されたことではあるが、会計監査人から高額な監査報酬を提示されたことと、継続監査期間の長さ(あるいはその両方)を理由として会計監査人の交替に踏み切った企業がほとんどを占めた。

具体的な開示例

 本稿では、2020年4月1日以後、同年12月31日までに会計監査人の交替に関する臨時報告書を提出した企業のうち、特徴的な事例を5件紹介することとする。

(1)五洋インテックス(ジャスダック・卸売業)
(2)プレシジョン・システム・サイエンス(マザーズ・精密機器)
(3)ユニデンホールディングス(東証1部・電気機器)
(4)Nuts(ジャスダック・医療関連事業。現在は破産)
(5)ハイアス・アンド・カンパニー(東証1部・サービス業)

 このうち、(1)、(4)及び(5)は、会計上の不祥事を主な原因とした会計監査人の交替であり、(2)と(3)の事例では、新型コロナウイルス感染症の拡大が主な理由として挙げられている。

(1)五洋インテックス(臨時報告書提出日:2020年6月24日)

 当社の会計監査人であります監査法人コスモスは、8月上旬を予定しております臨時株主総会終結の時をもちまして任期満了となり、当社の会計監査人を退任することとなりました。当社が2020年3月11日付で開示した「特設注意市場銘柄の指定及び上場違約金の徴求に関するお知らせ」で開示した通り、第2四半期報告書の訂正報告書の提出遅延に関して当社の対応について同会計監査人から指摘を受けており、主として以下の理由により、2020年1月10日付で、任期満了に伴い契約更新をしない旨の通知を受けました。
① 当社が会計監査人の四半期レビューが終了していないにもかかわらず、真正な四半期レビュー報告書が添付されないまま四半期報告書を提出したこと。
② 四半期報告書の提出後、会計監査人からの再三の要請にもかかわらず、速やかに適切な措置を取らなかったこと。
③ その結果、当社と会計監査人との間の信頼関係が著しく毀損されたこと。
 当社としては、今後、既存のカーテン事業及びインバウンド向け事業の業績改善を図る中、会計監査人が不在になることを回避し、適正な監査業務が継続される体制を維持するため、複数の監査法人を比較検討いたしました。その結果、フロンティア監査法人を新たに会計監査人に選任するものであります。

(2)プレシジョン・システム・サイエンス(臨時報告書提出日:2020年9月2日)

 当社の会計監査人である仰星監査法人は、2020年9月29日開催予定の当社第35回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。任期満了に当たり、同監査法人からは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛要請等により勤務体系の変化に対する対応や、人員不足に伴い決算に関する手続に当初の予定より時間を要している等の当社の経理体制や今後の監査体制等を考慮した結果、監査契約を更新しない旨の申し出を受けました。これに伴い、新たに会計監査人としてOAG監査法人を選任する議案の内容を決定したものであります。

(3)ユニデンホールディングス(臨時報告書提
出日:2020年9月4日)

 当社は、2020年3月期の監査の過程において、三優監査法人が加入するBDO InternationalLimitedのメンバーファームであるBDO USA LLPから当社主要子会社であるUniden America Corporation(UAC)において、製品販売後の客先からの請求額(Chargeback)の見積額の計上に関して、UACの認識額、及びその繰越額算定の根拠となる監査証憑の提示を求められておりました。UACの立地するダラス周辺の予想を大幅に上回る新型コロナウイルス拡大に伴う在宅勤務による証憑捜索の困難さ、また、2019年3月期と2020年3月期の2期分の会計処理の根拠となる多量の証憑の提示対応に長い時間を要したことから、2020年8月18日にBDO USA LLPは、十分な監査を行うための証憑を入手できないこと等を理由に、2019年会計年度における監査業務の契約打ち切りをUACに通知するに至りました。
 三優監査法人とは、引き続き2020年3月期の連結財務諸表に対する意見表明のための協議を進めておりましたが、三優監査法人は、同じメンバーファームのBDO USA LLPが監査契約の打ち切りを決定したことに伴い、当社連結財務諸表の監査についても、継続して実施することは難しいとの見解を頂戴していました。
 当社は、このような状況下、三優監査法人との協議を進めると同時に2020年8月下旬から、一時会計監査人の選任手続を進めておりましたが、監査法人アリアよりUACのChargebackの会計処理の検討を含め当社グループの監査に対応いただけるとの内諾を得たため、当社は、三優監査法人との監査契約を合意解除することとし、本日2020年9月4日開催の監査役会において、監査法人アリアを一時会計監査人に選任いたしました。

(4)Nuts(臨時報告書提出日:2020年5月1日)

 当社は、当社の会計監査人である監査法人元和が、2020年4月3日、当社が保有する現金の実査を実施したところ、2020年3月31日時点における当社が保有する現金は0.5百万円であるにもかかわらず、当社の帳簿上の現金の残高が809百万円と、両者の間に差異(以下「本件現金差異」という。)が存在することが発見されたとの報告を4月7日
に受けました。
 監査法人元和からは、本件現金差異は当社において会社財産の保有に関する適切な管理を担うべき担当役員が、会社財産の保有に関する内部統制上のルールに反する処理を独断で行ったことに起因して発生したものと考えられ、またこのことが2020年3月期にかかる監査及び四半期レビュー契約の監査約款及び四半期レビュー約款の第14条第1項第3号(注)に該当する旨の指摘を受けております。
 これを受けて、当社は監査法人元和と協議した結果、2020年4月24日付で2020年3月期に係る監査及び四半期レビュー契約を合意解除いたしました。なお、監査法人元和からは、当社が今後新たに選任する一時会計監査人への監査業務の引継ぎについて、協力いただけることを確認しております。

(注)監査約款及び四半期レビュー約款第14条(契約の解除・終了)
 第1項第3号 「委嘱者が、その資産の保有等に関する適切な内部統制の整備又は法的もしくは物理的な措置をとらない場合」
 監査法人元和が退任した後、Nuts社は、2020年8月13日付で監査法人アリアを後任監査人として選任した。しかしながら、監査報酬の一部の支払いを期限までにできていない等を理由に、選任から1か月もたたない9月7日に、監査法人アリアはNuts社との監査及び四半期レビュー契約を解除した。そして、9月16日付でNuts社の破産手続開始が決定された。

(5)ハイアス・アンド・カンパニー(臨時報告書提出日:2020年10月1日及び10月5日)

 当社は、売上高の架空計上などの不適切な会計処理が存在する疑義が認識されたことから、第三者委員会による調査を実施しております。有限責任あずさ監査法人からは、2020年9月28日付の第三者委員会の中間調査報告書において、代表取締役及び財務経理・総務部門を統括する取締役(以下「財務経理担当取締役」という。)を含む複数の取締役による不適切な会計処理への関与または認識があったこと、及び、2020年7月に財務経理担当取締役がメール保管期限を操作するという有限責任あずさ監査法人による監査に対する妨害行為と評価せざるを得ない行為があったと認定されていることに加えて、不適切な会計処理が存在する疑義が認識された後の監査の過程においても、有限責任あずさ監査法人に対し、代表取締役による虚偽の説明がなされたと有限責任あずさ監査法人は判断したことにより、監査意見を表明する前提となる、経営者の誠実性について深刻な疑義を生じさせていることから、今後の監査契約を継続することが困難になったと判断したという説明とともに、辞任の申し入れがあり、今般の異動に至りました。
 このような状況の中、会計監査人の不在を回避し、適正な監査業務を早期に再開させるため、監査法人アリアの会計監査人としての専門性、独立性、適切性及び監査品質等を総合的に勘案し、2020年10月5日開催の当社取締役会において、監査法人アリアを一時会計監査人として選任することを決議いたしました。

終わりに

 有価証券報告書における会計監査人の継続監査年数の開示、臨時報告書による会計監査人の交替理由の詳細な開示に続き、2021年3月期からは、我が国の全上場企業の有価証券報告書に添付される監査報告書において、監査上の主要な検討事項(KAM)の開示が一斉に実施される。そして、これらの一連の施策により、これまで外部からはブラックボックスとされてきた、企業と会計監査人との間の関係や重要な監査上の論点に対する監査手続の概要等が明らかになり、投資家に対する透明性も向上するものと期待されている。
 会計監査人交替の理由を見ていくと、新型コロナウイルス感染症の拡大による監査現場の負担増加等を契機として、主に大手の監査法人が監査報酬の増額を打診し、これを受け入れられないような企業を選別するかのような動きが一部で見られた。しかし、一方で、全上場企業の監査報告書においてKAMの記載が強制されると、それらの記載の質が横並びで比較され、その結果、それらの評価をもとに企業の側からも監査法人の選別が進むとの見解もよく聞かれる。企業と会計監査人との間の関係や監査人が行った手続等が外部にも明らかになることによって、両者の間に健全な緊張関係が生まれ、活発なコミュニケーションやより一層の切磋琢磨につながっていくことを期待したい。

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