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解説記事2021年04月05日 第2特集 税務調査を巡る最近の裁決事例(2021年4月5日号・№877)

第2特集
前回調査に係る納税義務に関する質問検査か否かで判断
税務調査を巡る最近の裁決事例


 審査請求事件で争われるのは課税処分だけではなく、税務調査の手法を巡るものも少なくない。本特集では税務調査を巡る最近の裁決事例を2件紹介する。1件目は前回の調査後に、新たに得られた情報に照らして非違があると認められないにもかかわらず調査が行われたとして請求人(納税者)が不服申立を行った事案。2件目は、請求人の関連法人に対する犯則調査は請求人に対する実地調査ではないとし、請求人の行った修正申告が国税通則法65条5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものではない場合」に該当するか否かが争われたもの。両者ともに請求人の審査請求は棄却されているが、実務上チェックしておきたい事案である。

前回の調査後、新たに得られた情報に照らし非違があれば質問検査が可能

 1件目は、国税通則法74条の11(調査の終了の際の手続)を巡るものである(令和2年6月11日、東裁(所)令元第105号)。同条6項では、同条1項の通知をした後又は2項の調査(実地の調査に限る)の結果につき納税義務者から修正申告書等の提出があった後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、通則法74条の2の規定に基づき、当該通知を受け、又は修正申告書の提出をした納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる旨を規定している。
 本件では、請求人は平成29年所得税等調査により、平成26年分の所得税等は修正申告を行い、平成27年分及び平成28年分の所得税等については更正決定等をすべきと認められない旨の通知を受けたが、調査担当職員が行ったその後の相続税調査及び所得税調査では通則法74条の11第6項の規定に反し、平成26年分ないし平成28年分の所得税等について新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときに該当しないにもかかわらず、各年分の所得税等の調査として質問検査権を行使しているため、更正処分は違法であるなどと主張している。

請求人の所得税等の自発的な見直しを要請するものと判断

 審判所は、通則法74条の11第6項の「質問検査等」に該当するか否かは、前回の調査の対象となった納税義務者に対し、前回の調査に係る納税義務に関して、その課税標準等又は税額等を認定する目的等で行われる質問検査等であるか否かにより判断するとの見解を示している。
 その上で本件における相続税調査担当職員及び所得税等調査担当職員の各行為については、請求人の相続税に関する質問検査等の範囲にとどまるものや請求人の所得税等の自発的な見直しを要請するものであって、請求人の各年分の所得税等の課税標準等又は税額等を認定する目的等で質問検査等が行われたものとはいえないとし(参照)、通則法74条の11第6項に違反しないとの判断を示した。

【表】調査担当職員の行為に対する審判所の判断

調査担当職員による行為 審判所の判断
相続税調査担当職員は、本件相続税について、相続財産の評価や貸付金の有無等その内容に関する質問をしているほか、本件売買契約の代金額に関しても質問している。 本件買換資産の取得価額は不動産所得の金額の計算上の減価償却費の計算の基礎とされるものであり、所得税等は相続税の計算をする際に控除すべき債務となるものであるから、代金額の質問も相続税の課税標準等の計算の基礎となる事実に関するものであり、相続税に関する質問検査等の範囲を超えるものではない。
相続税調査担当職員は、相続税に係る相続財産の価額等について説明をしたほか、請求人の平成27年分の所得税等の申告について見直すよう依頼した。 「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達の制定について」1-2に定める「自発的な見直しを要請」したものであって、請求人の課税標準等又は税額等を認定する目的等で質問検査等が行われたものとはいえない。
相続税調査担当職員は、相続税に係る相続財産の価額等について説明をしたほか、請求人の所得税等に関しても、土地の譲渡価額をどのような根拠で分けたのかを尋ね引継価額の計算方法について説明をし、修正申告の意向を確認した。 土地の譲渡価額の分け方の根拠についての質問は、相続税調査担当職員が「譲渡所得の計算上結果は一緒だが」と述べているように、請求人の所得税等の課税標準又は税額等を認定する目的等でされたものではなく、計算方法の説明や修正申告の意向の確認はそもそも質問検査等に当たらない。
所得税等調査担当職員は、①本件引継資産に係る不動産所得の減価償却費及び同譲渡所得の取得費は、引継価額を基に計算することとなる旨、②①の場合に措置法39条の規定の適用がある旨、③相続税第1更正処分に伴う②の適用金額への影響並びに④本件各年分の更正決定等をすべきと認めた額を説明し、併せて修正申告を勧奨した。 通則法74条の11第2項に規定する「調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)」の説明そのものであって、請求人の課税標準等又は税額等を認定する目的等で質問検査等が行われたものとはいえない。
所得税等調査担当職員は、請求人の税務代理人に対し、相続税第2更正処分に伴い、遺贈土地持分及び譲渡所得の金額の計算上取得費に加算される相続税額が変動する旨説明するとともに、相続税第2更正処分を基に計算した平成27年分の更正決定等をすべきと認めた額を説明し、併せて修正申告の勧奨をした。 措置法39条の適用に係る金額に異動を生じさせる事実である相続税第2更正処分に伴うものであって、通則法74条の11第6項に規定する「新たに得られた情報」が生じたことによるものであるから、同項の「質問検査等」を行うことができる場合である上、当該行為は、通則法74条の11第2項に規定する「調査の結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)」の説明そのものであって、請求人の課税標準等又は税額等を認定する目的等で質問検査等が行われたものとはいえない。

関連法人に対する犯則調査は「更正を予知」していなかったといえるか

 2件目は、国税通則法65条(過少申告加算税)5項を巡るものである(令和2年4月23日、大裁(法・諸)令元第49号)。通則法65条5項は、過少申告がされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出が「更正があるべきことを予知してされたものではない場合」は過少申告加算税を賦課しない旨を規定している。これは、課税庁において調査等の事務負担等を軽減できることも勘案して、自発的に修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、これにより納税者の自発的な修正申告を奨励を目的とするものと解されている。
 本件では、請求人は関連法人に対する犯則調査では請求人に対する実地調査等が実施されていないため、本件犯則調査は請求人に対する調査には当たらず、更正を予知していなかったとして、各修正申告書の提出は通則法65条5項に該当するなどと主張していた。

直接的な調査でなくても更正の予知ができる可能性があれば調査に該当

 審判所は、修正申告の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合」に該当するか否かの判断にあたっては、調査の内容及び進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して判断するのが相当であるとした。
 また、「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件の事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解されると指摘。通則法65条5項の趣旨が納税者の自発的な修正申告を奨励する点にあることからすれば、課税庁が当該納税者を具体的に特定した上でする直接的な調査でなくても、当該調査が客観的にみれば納税者を対象とするものと評価でき、納税者が自らの申告に対して更正のあるべきことを予知できる可能性があるものである限り、「調査」に該当するというべきであるとした。
請求人も不正行為の可能性を視野に
 その上で本件については、犯則調査は請求人を直接の対象とするものではないが、調査の経過等からすれば、国税局職員が請求人も関連法人と同様の不正行為を行っているとの可能性も視野に入れていたものと認められ、請求人の利益が不当に圧縮されていた事実(不正行為)をも明らかにするものであり、請求人の法人税等及び消費税等に係る課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一端であるということができ、客観的にみれば請求人を対象とする調査と評価することができると指摘。加えて、収集された証拠内容等などからすれば、請求人としては、強制調査が行われたことを知った時点で、請求人の申告について、更正のあるべきことが予知できる可能性はあったというべきであるとの判断を示し、請求人の請求を斥けた。

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