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解説記事2019年11月18日 巻頭特集 デジタル課税のキーマン、OECDサンタマン局長、BIAC モリス委員長Wインタビュー(2019年11月18日号・№811)

巻頭特集
消費者向け事業の範囲、セグメンテーション、納税方法、源泉税……注目論点の行方は?
デジタル課税のキーマン、OECDサンタマン局長、BIAC モリス委員長Wインタビュー

 国際課税の分野で今後長期間にわたり支配的なテーマになると言われる「デジタル課税」の輪郭が見えて来るにつれ、企業側からは多くの疑問や懸念の声が上がっている。
 10月9日には、OECDから、デジタル課税のうちネクサス及び利得配分に関する国際課税原則の見直しを取り扱う「第1の柱(Pillar 1)」に関する公開討議草案が公表され、Amount A~Cの3つの利益配分方法を一体的に適用する“統合アプローチ”が示されているが、この新たな課税ルールの対象となる「消費者向け事業(consumer-facing business)」の範囲をはじめ、Amount Aのトータル利益の決定におけるセグメンテーションの要否、納税の方法、税の徴収方法としての源泉税の採用の是非、Amount BとAmount Cの関係(「基礎的な活動」の境界線)や両者の統合論等々、これから答えを探さなければならない課題は山積している。
 そこで本誌では、デジタル課税に関する経団連との会合に参加するために来日したOECD(経済協力開発機構)租税政策税務行政センター(CTPA)のパスカル・サンタマン局長、Business at OECD(BIAC:OECD経済産業諮問委員会)のウイリアム・モリス税制・財政委員長にインタビューし、第1の柱における日本企業の関心事や重要論点についてお話をうかがった。政府系機関であるOECD、企業系機関であるBIACと異なる立場にあるお2人からは、同じ論点について異なる意見も聞かれるなど、興味深いインタビューとなった。

サンタマン局長

BtoB事業であっても消費者とのインタラクションがあれば対象
本誌:10月9日に公表された「第1の柱」に関する公開討議草案(ディスカッション・ドラフト=DD)は日本企業の間で高い注目を集めていますが、同時に疑問や懸念の声も多数聞かれます。特に「消費者向け事業(consumer-facing business)」のスコープ(範囲)は最大の関心事になっています。
サンタマン:「消費者向け事業(consumer- facing business)」のスコープは現在OECD事務局が最もフォーカスしているテーマです。我々の提案では、「消費者向け事業は全部対象」ということになっています。具体的に何が対象になるのかといいますと、まずBtoC事業が入ります。またBtoB事業であっても、例えばグーグルのように、企業に広告を売りながら、実際に消費者やユーザーとインタラクションを持っている事業も入るように消費者向け事業を定義しています。この定義を適切に行うということは、税の安定性確保という観点から極めて重要であるため、目下、詳細かつ慎重に議論を重ねているところです。
本誌:逆にスコープから外れるのはどのような事業でしょうか?
サンタマン:採掘事業や自動車のコンポーネント(部品)を製造しているような事業は入りません。若干微妙なのが金融業です。金融業でもBtoBの部分は入らないと思いますが、BtoCの金融サービスについては議論の余地があります。ただ、金融事業は非常に厳しい規制の下にあるため、BtoCの部分も含めカーブアウト(除外)するべきという考え方もあります。また、航空業は個人にチケットを売っていますが、OECDモデル条約の8条により専属的に企業の実質的管理の場所が存在する締約国において課税できることになっているため、カーブアウトすべきではないかという議論もあります。

製薬は「消費者向け事業」
本誌:残余利益に対する研究開発活動の貢献が大きい企業はいかがでしょうか? 例えば日本の製薬業界からは、デジタル課税の対象と目されていることに対し「唐突」との声も聞かれます。また、製薬事業も金融事業同様、規制産業という側面もあります。
サンタマン:まず銀行や保険など金融事業のBtoCの部分は利益率が低く、また事業全体に占める割合も小さいという特徴があります。また、サービスも特定のテリトリーの中で提供されています。これに対し、製薬事業は極めて利益率が高く、また、IPが大きな役割を果たし、様々な市場で「consumer-facing」な事業を展開しています。金融サービスのBtoCの部分と製薬事業では全くランドスケープ(景色)が違うと言えます。ですから、OECDの事務局の提案では、製薬事業は「消費者向け事業(consumer-facing business)」のスコープに入っています。
本誌:研究開発への投資についてはどのようにお考えでしょうか?
サンタマン:その点はもちろん理解していますが、全く同じことはデジタル企業にも言えます。彼らもR&Dには巨額の投資を行っています。また、純粋な「デジタル企業」というのは存在しないと思いますので、そこで線引きをするのも困難であると考えています。結論としては、製薬会社をカーブアウトすることは難しいでしょう。

ビジネスラインごとのセグメンテーションは不可避
本誌:DDによると、Amount Aのトータル利益を多国籍企業グループ全体の利益とするのか、あるいは特定のビジネスラインごとの利益とするかについては今後検討が必要とされています。これに対し企業からは、ビジネスラインごとのセグメンテーションは、企業に大きな事務負担の増加をもたらすおそれがあるとの懸念が聞かれます。セグメンテーションは不可避でしょうか。
サンタマン:ビジネスラインごとのセグメンテーションはあるかという質問に対する答えは「Yes」です。それは不可避なのかという質問に対する答えも「Yes」となります。
 ただ、それは非常に複雑なプロセスとなりますので、事務負担が増加するという懸念も理解できます。そこでまず手始めとして、連結財務データを使うということが考えられます。というのも、財務データは非常にシンプルで扱いやすいという性質を持っているからです。ただ、財務データだけではビジネスラインのセグメンテーションをすることはできないので、何らかの追加データが必要になってくるでしょう。

一か所で納税し各国に配分等する案は「非現実的」
本誌:もう一つ、日本企業の間でよく聞かれる懸念として、納税の問題があります。各市場国に配分されるべき税額が特定されたとして、それを「誰が」「どこに」「どうやって」申告・納付するのでしょうか? 例えばAmount Aについて、税を一か所で納め、それを各国間で配分・共有・送金するというアイディアは非現実的だと思われますか?
サンタマン:「非現実か」と聞かれれば、その答えは「Yes」です。ここで問題になっているのは課税ベースの再配分ということですが、それぞれの国には独自の税率、税制がある中で、ある国が税を徴収して、それをまた別の国に税として配分するためには、何らかの再計算が必要になりますし、その計算や手続きは政府・税務当局にとって極めて複雑なものにならざるを得ません。今回我々が提案している新たなネクサス・ルールは、PEという物理的なプレゼンスは不要であり、単にタックスベースに税率を乗じた金額の“小切手”を送るだけでよいという非常にシンプルなものです。いただいたご提案は実際に我々が考えているものよりももっと複雑な仕組みなのではないかと思います。

源泉税導入に伴う問題と事務的な簡便さはトレードオフの関係
本誌:企業は、Amount Aに関する税の徴収方法として源泉税が採用されることにも懸念を持っています。なぜなら、いくつかの新興国では(徴収されすぎた場合に)源泉税の還付が容易でない、あるいは還付に時間がかかるためです。この点についてはどうお考えでしょうか?
サンタマン:源泉税に伴う問題として「還付が容易でない」ということは、全くその通りだと思います。しかしながら、この新しい税の下で義務的な負担を低減し、シンプルな仕組みの構築を目指そうという場合には、ある意味で両者がトレードオフの関係になってくるということはあり得るでしょう。ただ、物理的なプレゼンスがない場合、多くのケースでは源泉税という仕組みが正しいものではない可能性はあります。例えば、第三者としての販売代理店があり、国外への支払いが発生しないような場合です。いずれにせよ、現時点では具体的にどのような手法を採用するかというところまでは検討に至っていない状況ですが、事務的な簡便さと、還付がされないという形で実際に払うべき金額よりも多くの税を負担させられるという問題は、ともに今後考えていかなければならないテーマであると認識しています。

「“販社”に固定利益を保証するためのメカニズム」への合意がAmount Bの前提条件
本誌:続いて、Amount Aにおいて適用除外となる企業がAmount Bでは補足される可能性があるという点でやはり企業の関心が高いAmount Bについてうかがいます。Amount Bは市場国で「基礎的な活動」を行う販社に固定利益を保証しようとする仕組みとのことですが、このような仕組みについて、どのような場合にもうまく行く有効な解決策はないという意見も聞かれます。本件についてはどのような決着を予想されますか?
サンタマン:Amount Bに関しては、どのような場合にも上手く行く有効な解決策はないというのはその通りだと思います。結局のところ、Amount Bを実行するためには、関係国がこの「“販社”に固定利益を保証するためのメカニズム」に合意することが必要になります。現在、この点については様々な努力が行われております。OECDの事務局としては、Amount Bは税の安定化に寄与するとともに、コンプライアンス・コストを低減させる効果もあると考えております。また、途上国がこの新たな課税ルールを容易に実施できるのかという懸念を持つ場合、その懸念の低減にもつながるものと思っております。

2020年は第1・第2の柱について政治的な合意を探求する年に
本誌:第1の柱だけでも今後詰めなければならない論点は相当あるのではないかと思います。 デジタル課税プロジェクトの“現在地”はどのあたりにあるのでしょうか?
サンタマン:第1の柱については、来年1月までに包摂的枠組みのメンバーによる採択、6月までに政治的合意に至るところまでもっていきたいと考えています。第2の柱についても11月8日にDDを公表するところですが、大阪で開催されたG20で採択された作業計画に沿って折衝が進んでおり、やはり2020年の半ばまでにソリューションを提供することになっています。
 ご存知の通り、この新たな税の仕組みについての最終合意は2020年末を予定していますが、2019年においては、先般ワシントンDCで開催されたG20財務大臣会合で第1の柱の統合アプローチへの支持が表明されるなど、今後詳細な議論・折衝に進むための“素地”を作ることができたと思います。ここまでの議論の進捗において、G20議長国である日本が大きな役割を果たしたことは明確です。最終合意に向け課題は山積していますが、2020年は第1の柱と第2の柱のアーキテクチャ(構造)について政治的な合意を探求する年になるでしょう。

モリス委員長

「consumer(消費者)」ではなく「consumer-facing(消費者向け)」とした理由
本誌: BIACの税制・財政委員長というビジネス側の視点から、「第1の柱」についてはどのように評価されていますか?
モリス:第1の柱のDDから我々が見たものは、もしこれが実行されれば国際課税の方法を根本的に変えるものとなるであろうということです。ただ、今後詰めなければならないことはまだまだたくさんあり、現在は詳しい情報が出れば出るほど、それとともに多くの疑問・懸念が出て来るといった状況です。我々は経団連とともに第1の柱に対して11月12日にコメントを出しますが、このプロジェクトを建設的に進めるためには、ビジネス界としてもしっかり見解をまとめ、コメントを出し続けていくことが非常に重要です。11月21日と22日にパリで開催される第1の柱の公聴会には日本のビジネス界の方も積極的に参加し、発言していただきたいですね。
本誌:第1の柱のAmount Aでは、「消費者向け事業(consumer-facing business)」の範囲に企業から注目が集まっています。日本企業は第1の柱の対象を限定すべきと考えているようですが、モリス委員長のお考えをお聞かせください。
モリス:「consumer-facing」というのは非常に重要なコンセプトです。なぜ「consumer(消費者)」ではなく「consumer-facing(消費者向け)」という言葉にしたのかというと、単に「consumer(消費者)」とすると、実際には消費者に影響を与えるような、もしくは消費者に関わるような商品であったとしても、直接消費者に販売をしていないということで税を逃れることができてしまうからです。Amount Aが対象にしようとしているのは、最終的には消費者の手に渡ることによって生じる売上、利益ですが、多くのケースにおいて、直接消費者に販売されているとは限りません。「consumer-facing(消費者向け)」という言葉は、こういった問題も解決しようとしています。私達がこれまでBtoCと言ってきた、あるいはBtoBと言って来たカテゴリーが混同されているということもあるでしょう。消費者向けの事業の中にはBtoBに当たるものもあれば、そうでないものもあります。要するに、伝統的に私達が使ってきた言葉が、今回は上手くフィットしないこともあるということです。

カーブアウトされる業種は多くない
本誌:「BtoC」は必ず消費者向け事業と言えるのでしょうか?
モリス:おそらくそうなると思いますが、一方で、DDの定義を見る限りにおいてはそれほどクリアではありません。消費者向け事業であるかどうかを判断するためには、どの程度のアクティビティが必要なのかといったところまで考えなければならないと思います。例えばある商品を消費者に売ろうとしているとします。その際に全く広告宣伝をしていない、あるいはマーケティング活動をしていない、ブランドを保護するような活動もしていないといった場合、これがAmount Aでカバーされるのかどうかはクリアではありません。この問題については言わなくてはならないことがたくさんあります。もっとも、BtoCが「消費者向けビジネス」の対象になる確率の方が、BtoBが「消費者向けビジネス」の対象外になる確率よりは高いと思います。
本誌:今後の議論の中で、「消費者向け事業(consumer-facing business)」からカーブアウトされる業種は出てくるのでしょうか?
モリス:Amount Aからどういうビジネスをカーブアウトすべきなのかということについては既にディスカッションはされています。カーブアウトの候補として明確に挙がっているのが、石油、ガス等の採掘です。金融業もカーブアウトするかどうかが議論されています。金融業はかなり厳しい規制を受けているからです。
本誌:規制業種という意味では製薬業も該当すると思いますが、カーブアウトの対象にはならないのでしょうか?
モリス:同様のことを言っている業種はたくさんあります(笑)。どの企業もカーブアウトされたいというのが本音ですからね。こういう話が出て来ること自体、新しい定義に基づいて“線引き”をするのは非常に難しいということを示しています。
 デジタル課税の目的の一つは、自国以外の場所で、リモートで行われているアクティビティに対して課税をしようということです。そこには、マーケティング活動が積極的に行われている、あるいはブランドの育成活動が熱心に行われているようなビジネスの売上に対して課税を行おうという強い意図があります。ただし、そういったビジネスの中にもかなり厳しい規制を受けているものはたくさんあります。デジタル課税の議論はまだまだ初期の段階ですので、OECDが第1の柱のDDに対しどういうコメントを受け取るのか、また公聴会でどのような話が出るのかは非常に興味深いところです。ただ、たくさんカーブアウトされる業種が出てくるとすれば、それは私にとっては驚きです。カーブアウトされる業種はそれほど多くはないでしょう。

「消費者向け事業(consumer-facing business)」の定義を企業に任せるという選択肢
本誌:「消費者向け事業(consumer-facing business)」の定義付けがいかに難しいかがよく分かりました。この問題に対する答えはあるのでしょうか?
モリス:可能性のある結論は2つあります。正直言って、どちらも良いものではありません。
 一つは詳細な定義を設けることです。実際、私達はかなり時間をかけ、消費者向け事業に該当するかどうかをいかに識別すべきか、議論を重ねてきました。これはVATの問題と同じです。イギリスには「ケーキとクッキーはどう分けるのか」という有名な事例があります。しかし、その区別をしようとすることは、決して生産性の高い議論とは言えません。
 もう一つの可能性としては、詳細な定義は設けず、「一般的な原則」だけを設け、その先は納税者である企業に任せるということです。つまり、企業自身に、自社のビジネスの中でどの部分が「消費者向け」で、どの部分がそうでないのかということを決めてもらうのです。ただ、この方法を採用した場合には、企業と政府の間のみならず、おそらく政府間でも論争が生まれるでしょう。
 結局、どちらの策を講じたとしても、税の安定性は低下すると思います。だからこそ、ビジネス界には是非この問題についてコメントしていただきたいですし、OECDや政府はそれに耳を傾けて欲しいですね。企業からすれば、「消費者向け事業」というのは全く新しいコンセプトであり、まだディスカッションもあまり進んでいませんが、DDに対するコメントにおいても、また今月21日、22日の公聴会においても、この問題については色々な意見が出て来ることを期待しています。

財務数値が課税目的で利用される
本誌:日本企業からは、Amount Aにおいてビジネスラインごとのセグメンテーションが求められることとなった場合の事務負担の増加を懸念する声がありますが、そもそもセグメンテーションを行うべきという国はあるのでしょうか? もしあるとすれば、それはどのような理由によるものでしょうか?
モリス:ビジネスセグメンテーションをしたいという国はあります。その理由はたくさんありますが、私達が最もよく耳にするのは、その国に高い利益を上げているビジネスラインとそうでないビジネスラインを抱える企業がある場合、両者を平均することによって、個別のビジネスラインごとに課税するよりもトータルの税金が少なくなってしまうというものです。つまり、その国としてはビジネスラインごとに課税して欲しいわけですね。
 この問題をより複雑化させているのは、セグメンテーションを「消費者向け」と「消費者向けでないもの」とに分けなければならないということです。例えば同じ製品ラインであったとしても、その売上の一部は消費者向けで、他の部分は消費者向けでないということもあり得ます。しかし、通常、ビジネスというのはそういう形でのセグメンテーションは行っていません。例えばある欧州の自動車メーカーでは、生産した自動車の一部を独立系の販売会社を通じて一般消費者に販売するとともに、他の一部はリース会社に販売し、リース会社は企業に対してそれをリースするという事業を行っています。
 これは会計上も難しい問題を生みます。企業は、「消費者向け」と「消費者向け以外」に分けて会計数値を集計しているわけではないからです。また、会社全体に対しては厳しい会計監査が入りますが、セグメンテーションごとに行われる会計監査というのはそれほど厳しいものではありません。セグメンテーションは企業側が決定することだからです。
 デジタル課税の導入に伴い、仮にビジネスラインごとのセグメンテーションが求められることとなった場合、もしかしたら今後は規制当局からセグメンテーションごとの監査をもっと厳しくするようにとの要請が出て来る可能性もあります。これは企業側にとっては非常に大きな負担となるでしょう。私はこうした状況となることが避けられることだとは考えていません。そうなる可能性は高いと思います。
本誌:デジタル課税は、税のみならず会計にも影響を与えるということでしょうか?
モリス:この新しい課税ルールは、セグメンテーションの問題のみならず、そもそも税額の計算においても、会計監査を受けた財務数値に依存しています。本来、会計の目的はある一時点の会社の財務上の健全性をチェックすることにありますが、もし財務数値が課税目的でも利用されるということになれば、税のルールは会計以上に様々なことを要求してくることになるでしょう。その結果、税と会計の間の緊張が高まるとともに、両者の関係を非常に複雑なものにすると思います。

一か所で納税し各国に配分等する案は「素晴らしいアイデア」
本誌:企業にとって、セグメンテーションの問題と並ぶ実務上の懸念となっているのが納税の問題ですが、例えばAmount Aについて、税を一か所で納め、それを各国間で配分・共有・送金するというアイディアに対しては、OECD事務局は現実的ではないとの見解を持っているようです。モリス委員長のお考えはいかがでしょうか?
モリス:私は素晴らしいアイデアだと思います。少なくともこのアイデアは一企業単位ではなく、ビジネス界全体の利益全体を考えているからです。企業が自国の政府にレポーティングをして、自国の政府が他の国の政府とそれを共有するCbCR(国別報告事項)という例もあります。CbCRは情報共有が目的であって、納税とは関係ないとはいえ、発想としては近いものがあります。
 大国は自分達の権利を諦めようとはしていませんが、このアイデアを実行するにあたっての一つの妥協案として、まずは小さな金額でやってみるということが考えられます。例えば非常に小さい国があり、各企業はそこではあまりビジネスをやっていないという場合、その国の税金を集める責任は自国(ホームカントリー)の政府に負わせます。その結果、企業はより多額の税金をホームカントリーに納めることになりますが、事務作業は簡素化することができます。会計監査もホームカントリーで受けることにします。また、このアイデアでは、大国においても、権利を諦めることなく事務作業が簡素化されることになると思います。逆にある国で非常に大きなビジネスを行い、多額の利益を上げているという場合には、企業は直接その国に税金を納めることにするのです。
 「現実的か非現実的か」ということについては私は分かりませんが、現段階では、ビジネス側は、この新たなルールに係る税の安定性を上げ、そしてビジネス側の負担を減らす可能性を高めるような提案をすべきです。

Amount BやC、「第2の柱」にも源泉税の利用を望む国も
本誌:このアイデアを実行しようとする場合、途上国でも比較的大きな国に親会社があった場合にはどうなるのでしょうか?
モリス:途上国をあたかも“一つのグループ”のようにとらえて議論をすると誤解を生むと思います。途上国と言っても、例えば経済的な影響力を持つインドとアフリカの小さな国では全く違います。この新たな課税ルールの一部には後者、すなわち本当に小さな途上国を対象とするものも含まれています。例えばAmount Bはこうした途上国向けに移転価格を相当に簡素化しようとするものです。これまでの議論を見ても明らかなように、議論を重ねれば重ねるほどルールはより複雑になり、国によっては対応が難しくなるところも出て来ています。
本誌:途上国とそれ以外の国の利益を両立させなければならないという点が、この新しい課税ルールの難しいところですね。途上国に関連した論点としては、源泉税の問題もあります。仮にAmount Aに係る税の徴収方法として源泉税が採用された場合、いくつかの途上国では源泉税に伴う還付が容易でない、又は還付に時間がかかるということへの懸念が企業側から聞かれますが、この点についてモリス委員長はどのようなご意見をお持ちでしょうか?
モリス:Amount AのみならずAmount BやC、さらには「第2の柱」についても源泉税を使いたいといっている国はたくさんあります。確かに源泉税にすると還付が容易でないといった問題がありますし、また、源泉税はネットではなくグロスの金額にかかるという点も問題を大きくしています。私達は30年かけて源泉税の影響を何とか低減しようと努力してきました。なぜなら、源泉税はクロスボーダー取引やクロスボーダーの投資に非常に大きな悪影響があるからです。ただ、そのプレッシャーを強めるのには今は良い時ではありません。むしろ非常に危険だと思います。

Amount BをAmount Cの中に入れ込むべきとの意見も
本誌:先ほど、Amount Bは途上国向けに移転価格を簡素化しようとするものであるとのお話がありましたが、一方で、市場国で「基礎的な活動」を行う販社に固定利益を保証しようとするAmount Bは、どのような場合にもうまく行く有効な解決策はないとの声もあります。本件についてはどのような決着を予想しますか?
モリス:Amount Bは色々な意味でこの新たな課税ルールを簡素化させようとしたものですが、その金額をいくらにするのか、またどうやって計算するのかということについては、各国の間でも合意ができていないようです。一つの統一した数字にするのか、あるいはセクターごとに数字を変えるのかということについてもまだ議論があります。さらには、この数字は毎年変えられるのか、あるいは一定の期間が経過すれば変えられるのかという点についても議論が続いています。これらは各国の間での合意ができていない問題ですが、企業側においても、それは独立企業基準(Arm's Length Standard)にリンクすべきものだと信じている者との間でなかなか合意ができない状態です。
 また、Amount BとAmount Cの関係についても疑問の声があります。「基礎的な経済活動」を行う販社とそれ以上の機能を有する販社の区別も、Amount Aの「消費者向け」なのか「消費者向けでないのか」という区別と同様に線引きが難しいため、Amount BをAmount Cの中に入れ込むべきといった意見も出ています。しかし、仮にこういったことが起こると、移転価格を途上国のために簡素化させようというAmount Bそもそもの目的が実現しにくくなってしまうでしょう。

ビジネス界は「関与し続ける」ことが重要
本誌:ここまで色々なお話をうかがって、デジタル課税の議論はまだまだ端緒についたばかりだということが理解できました。2020年末の最終合意に向け、モリス委員長が日本又は日本のビジネス界に期待されることは何でしょうか?
モリス:日本政府はG20の議長国として、またG7のメンバーとして、このプロジェクトにおいては、OECDとも緊密に連絡をとりながら意見の収斂に向け非常にポジティブで重要な役割を果たしてきていると思います。G20の議長国という日本の役割は間もなく終わりますが、12月から議長国を引き継ぐサウジアラビアは日本ほど所得課税に詳しくありませんので、日本は前任者としてサウジアラビアとも連携を図って欲しいと思います。
 第2の柱についても11月8日にDDが公表され、12月中旬に同じくパリで公聴会が開催されます。2020年末に予定されている最終合意に至るまでには本当に色々なことが起こるでしょう。OECDにとっても各国政府にとっても、そしてビジネス界にとってもしばらく忙しい時期が続きますが、冒頭でも申し上げたように、こういう時だからこそ、ビジネス界としては「関与し続ける」ことが重要だと思います。

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