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解説記事2021年04月19日 実務解説 有価証券報告書 作成上の留意点(2021年3月期提出用)(2021年4月19日号・№879)

実務解説
有価証券報告書 作成上の留意点(2021年3月期提出用)
 財務会計基準機構 企画・開示室 室長補佐 高野裕郎

《まとめ》
・令和元年会社法改正に伴う開示府令の改正により、「コーポレート・ガバナンスの概要」、「役員の報酬等」の開示の拡充等が行われている。
・「会計上の見積りの開示に関する会計基準」、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」は当連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から原則適用される。
・「収益認識に関する会計基準」(2020年3月31日)等は2021年3月期の有報から早期適用可能である。

Ⅰ はじめに

 本稿は、2021年3月期の有価証券報告書(以下「有報」という。)における作成上の留意点についてまとめたものであり、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)の改正、及び企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)から改正・公表された企業会計基準等に関する主な留意点を中心に解説する。
 なお、文中において意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ 非財務情報に関する留意点

1 概 要
 2021年3月期の有報に関連する非財務情報の主な改正として、以下の2項目がある(このほかに、令和2年内閣府令第35号(2020年4月3日)及び令和2年内閣府令第61号(2020年9月18日)による改正も行われている)。
 第1の改正は、「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)を踏まえたもので、有報、確認書、内部統制報告書等を紙の書面で提出する場合の押印の廃止、及び役員等の氏名を記載する際に住民基本台帳法施行令第30条の13に規定する旧氏の使用を可能とする改正等が行われたものであり、2020年12月23日に公布・施行されている。
 第2の改正は、令和元年会社法改正に伴う開示府令等の改正である。開示府令においては、株式引受権に関する改正、株式交付制度の制定に伴う改正、補償契約及び役員等賠償責任保険契約(いわゆるD&O保険)の概要の開示及び役員の報酬等における開示の拡充等が行われ、2021年2月3日に公布、3月1日から施行されている。
 このほかに、2021年2月及び3月に金融庁から「記述情報の開示の好事例集2020」等の追加・更新が行われている。これらも、2021年3月期の有報を作成する際の参考になると考えられる。

2 令和元年会社法改正に伴う開示府令等の改正
(1)主要な経営指標等の推移

 令和元年会社法の改正を受けて、ASBJから実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(2021年1月28日。以下「実務対応報告第41号」という。)等が公表された。
 実務対応報告第41号において新たに株式引受権が設けられたが、主要な経営指標等の推移における自己資本比率及び自己資本利益率の算定にあたって、株式引受権の金額は、新株予約権や非支配株主持分と同様に純資産額から控除することとされた。
(2)経営上の重要な契約等
 令和元年会社法改正により、新たに株式交付制度が設けられた。これに伴い、「経営上の重要な契約等」において、株式交換、株式移転と同様に、株式交付が行われることが業務執行を決定する機関により決定された場合には、一定の事項を記載することとされた(開示府令第二号様式記載上の注意(33)d)。
(3)自己株式の取得等の状況
 開示府令第三号様式が改正され、「2 【自己株式の取得等の状況】 (4)【取得自己株式の処理状況及び保有状況】」において、「合併、株式交換、株式交付、会社分割に係る移転を行った取得自己株式」とされた(下線部が追加)。
(4)コーポレート・ガバナンスの概要
 役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人)との間で補償契約を締結した場合には、当該契約の内容の概要(当該契約によって職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあっては、その内容を含む。)を、会社法施行規則第121条第3号の3(会社役員に対して補償契約に基づき費用を補償した場合において、会社役員が職務の執行に関し法令の規定に違反したこと又は責任を負うことを知ったときは、その旨)及び第3号の4(株式会社が会社役員に対して補償契約に基づき損失を補償したときは、その旨及び補償した金額)に掲げる事項を含めて記載することとされた。
 また、役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人)を被保険者とする役員等賠償責任保険契約を締結した場合には、当該契約の内容の概要(当該契約によって職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあっては、その内容を含む。)を、塡補の対象とされる保険事故の概要及び被保険者によって実質的に保険料が負担されているときにおけるその負担割合を含めて記載することとされた。
 ただし、補償契約及び役員等賠償責任保険契約の記載については、2021年3月1日以後に締結された契約に係る事項に限るとされている。
(5)役員の報酬等
 ① 役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針に係る事項

 開示府令の改正により、会社法第361条第7項又は同法第409条第1項の方針(取締役等の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針)を定めている場合には、次の事項(会社法施行規則第121条第6号イからハまでに掲げる事項)を記載することとされた。
・ 当該方針の決定の方法
・ 当該方針の内容の概要
・ 当該事業年度に係る取締役等の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会等が判断した理由
 改正前の開示府令においても、提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の内容及び決定方法を記載することが求められていたことから、改正により追加された取締役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針の決定の方法や内容の概要についても、従来の記載内容に含めて記載することも考えられる。
 なお、役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の内容及び決定方法については、提出日現在の状況を記載することとされ、事業報告と異なる点に留意が必要である。
 このほか、提出会社が指名委員会等設置会社以外の会社である場合において、役員の報酬等に関する株主総会の決議がないときについて、提出会社の役員の報酬等について定款に定めている事項の内容の記載に加えて、当該事項を設けた日の記載が追加された(開示府令第二号様式記載上の注意(57)a)。
 ② 役員の報酬等の種類別の総額
 役員の区分ごとの役員の報酬等の種類別の総額における例示として、非金銭報酬等(会社法施行規則第98条の5第3号に規定する非金銭報酬等をいう。)が追加されたことから、記載事例1のように、「左記のうち、非金銭報酬等」の欄を新たに設けることが考えられる。

 なお、固定報酬、業績連動報酬、退職慰労金等については、非金銭報酬等にも該当するものが含まれることも考えられる。本記載事例は、固定報酬、業績連動報酬、退職慰労金の金額は非金銭報酬等の金額を含めて記載し、それぞれに含まれている非金銭報酬等の金額は注書きにおいて役員の区分ごとに記載することを想定している。
 また、役員の報酬等の全部又は一部が非金銭報酬等であるときは、その内容を記載することとされている。有報において、記載内容が同様である又は重複する箇所がある場合、当該箇所に省略することなく記載することが適当であるものを除き、当該他の箇所と同様若しくは他の箇所を参照する旨の記載を行うことができるとされている(企業内容等の開示に関する留意事項について(開示ガイドライン)5−14、24−10)。このため、非金銭報酬等の内容の記載にあたっては、この点に留意した上で、有報の他の箇所と同様である又は重複する箇所があれば、投資者の理解が容易になる観点から、適宜、当該他方を参照するなどして記載することは差し支えないものと考えられる。
 ③ 取締役会から委任を受けた第三者による取締役の個人別の報酬等の内容の決定
 取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨、委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位並びに担当、委任された権限の内容、委任の理由及び当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合における当該措置の内容を記載することとされた(開示府令第二号様式記載上の注意(57)c)。

Ⅲ 財務情報に関する留意点

1「会計上の見積りの開示に関する会計基準」
 企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(2020年3月31日)は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から原則適用とされている。これにより、重要な会計上の見積りの開示目的が定められるとともに、一定の注記が求められている。
 重要な会計上の見積りの開示目的として、当連結会計年度の連結財務諸表を作成するにあたって行った会計上の見積りのうち、当該会計上の見積りが当連結会計年度の翌連結会計年度の連結財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものを識別した場合には、投資者その他の連結財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならないとされている。重要な会計上の見積りの開示にあたっては、当該目的に照らして注記の記載内容及び記載方法が適切かどうかを判断して記載するとされていることに特に留意する必要がある。
(1)重要な会計上の見積りに関する注記
 重要な会計上の見積りに関する注記として、以下の項目の記載が求められている(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「連結財規」という。)第13条の2が準用する財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「財規」という。)第8条の2の2)。
① 重要な会計上の見積りを示す項目
② 重要な会計上の見積りを示す項目のそれぞれに係る当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
③ ②の金額の算出方法、重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定、重要な会計上の見積りが当連結会計年度の翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響その他の重要な会計上の見積りの内容に関する情報
 ②については、記載事例2では表形式で記載しているが、文章形式で記載することも考えられる。また、当該金額については、連結財務諸表に表示された金額そのものではなく、会計上の見積りの開示の対象項目となった部分に係る計上額が開示される場合もあり得るとされている。

 ③については、②の金額の算出方法等の3項目が例示されているが、これらすべてを記載しなければならないものではなく、また、これらの記載に限られるものではないと考えられる。
 なお、②及び③は、他の注記において同一の内容が記載される場合には、その旨を記載し、当該事項の記載を省略することができるとされている。
(2)表示方法の変更(記載事例3)

 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の適用初年度において、当該会計基準の適用は表示方法の変更として取り扱うとされている。ただし、経過措置として比較情報を記載しないことができるとされている。

2 新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示
(1)重要な会計上の見積り

 重要な会計上の見積りの識別にあたっては、新型コロナウイルス感染症の影響についても考慮する必要があると考えられる。識別したそれぞれの項目について、新型コロナウイルス感染症の影響がある場合、注記の記載内容及び記載方法が適切かどうかを判断するにあたっては、投資者その他の連結財務諸表の利用者がその影響を理解できるものであるかどうかを考慮する必要があると考えられる。
 なお、第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(2021年2月10日最終更新。以下「ASBJ議事概要」という。)においては、重要な会計上の見積りに関する注記において新型コロナウイルス感染症の影響について開示がなされる場合、改めて追加情報として開示する必要はないものと考えられると記載されている。
(2)追加情報
 ASBJ議事概要では、新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが連結財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示することは、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになると考えられると記載されている。

3 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
 改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「会計方針会計基準」という。)は、従来、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」という名称だったもので、2021年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から原則適用となる。
(1)会計方針に関する事項
 今回の改正により、会計方針に関する事項の開示目的が設けられ、投資者その他の連結財務諸表の利用者が連結財務諸表作成のための基礎となる事項を理解するために、連結財務諸表提出会社が採用した会計処理の原則及び手続の概要を開示することとされた。その上で、当該会社において、当該目的に照らして記載内容及び記載方法が適切かどうかを判断して記載するものとされた。
 また、会計方針に関する事項については、改正により、連結財規と「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(以下、「連結財規ガイドラインという。)の条文構成が変更されたが、多くの規定内容については従来のものが引き継がれている。なお、会計基準等の定めが明らかな場合であって、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、注記を省略することができる。
 一方、会計処理の対象となる会計事象や取引に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合(特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を採用する場合や業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続を適用する場合を含む。)には、連結会社が採用した会計処理の原則及び手続を記載するものとされている。
(2)追加情報
 会計方針会計基準を新たに適用したことにより、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記するとされている。

4 「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(記載事例4)

 金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革が進められている中、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止される予定とされている。これを踏まえ、ASBJから実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(2020年9月29日)が公表された。当該実務対応報告は、公表日以後適用することができるとされている。
 報告日時点において、当該実務対応報告を適用することを選択した企業は、当該実務対応報告を適用しているヘッジ関係について、ヘッジ会計の方法その他の一定の内容を注記することが求められている。当該注記は、会計方針に関する事項の重要なヘッジ会計の方法において記載するほか、金融商品関係注記等に記載することも考えられる。
 なお、当該実務対応報告を適用するにあたっては、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができるとされており、当該実務対応報告を一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記するとされている。

5 「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」
 令和元年会社法改正により、金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められたことを踏まえ、ASBJから実務対応報告第41号が公表された。実務対応報告第41号は、2021年3月1日以後に生じた取引から適用するとされている。
(1)本表
 実務対応報告第41号において株式引受権が新設されたことを踏まえて、連結貸借対照表及び連結株主資本等変動計算書の様式が改正され、株式引受権は、連結貸借対照表において、純資産の部において掲記することとされた。なお、連結株主資本等変動計算書においては、実務対応報告第41号の対象となる取引については、株主資本の各項目の変動事由の記載にあたって、通常の新株の発行や自己株式の処分等とは区分して表示することも考えられる。
(2)ストック・オプション等関係(記載事例5)

 実務対応報告第41号の対象となる取引を行っている場合、①事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況、②事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況、③付与日における公正な評価単価の見積方法、④権利確定数の見積方法、⑤条件変更の状況の記載が求められている(実務対応報告第41号第20項)。記載事例5は、事前交付型のみの場合であって、契約ごとに記載する場合の記載事例である。当該注記については、ストック・オプション等関係注記として記載するものと考えられる。
(3)一株当たり情報
 株式引受権の金額は、一株当たり純資産額の算定上、期末の純資産額の算定にあたっては、連結貸借対照表の純資産の部の合計額から控除することとされている。また、実務対応報告第41号において、事後交付型におけるすべての権利確定条件を達成した場合に交付されることとなる契約は、潜在株式として取扱い、潜在株式調整後一株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取り扱うこととされている。

Ⅳ 監査報告書

 当連結会計年度から監査報告書において監査上の主要な検討事項(いわゆるKAM)を記載することになるが、監査上の主要な検討事項は、EDINETで提出される監査報告書において、XBRLのタグ付けの対象に含まれるとされている。当該タグ付けに関して、日本公認会計士協会公表「EDINETで提出される監査報告書のXBRLタグ付け範囲の拡大に関する留意事項」が参考になると考えられる。
 なお、2020年11月に行われた監査基準の改訂に伴い、監査した財務諸表を含む開示書類のうち、当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容である「その他の記載内容」について、当連結会計年度の監査から早期適用することができる。この場合の監査報告書については、2021年4月7日に改正された監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」等を参照してほしい。

Ⅴ 「収益認識に関する会計基準」を早期適用した場合

1 概 要
 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という。)等は、2018年3月に公表され、2020年3月に改正されている。また、2021年3月においては、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」の改正も行われている。収益認識会計基準等の内容については、中根將夫・藤田晃士「新会計基準解説 改正企業会計基準第29号『収益認識に関する会計基準』等について」(本誌No.836)を参照いただきたい。
 2020年改正収益認識会計基準等は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされている。ただし、当年度の期首から早期適用できるとされている。なお、2018年公表収益認識会計基準等についても、当年度において早期適用できるとされている。

2 連結貸借対照表及び連結貸借対照表関係注記
 流動資産においては、受取手形、売掛金及び契約資産について、当該資産を示す名称を付した科目をもって掲記しなければならないとされた(連結財規第23条第1項)。
 ただし、この規定にかかわらず、受取手形及び売掛金並びに契約資産のそれぞれについて、他の項目に属する資産と一括して表示することができるとされている。この場合においては、受取手形及び売掛金(顧客との契約から生じた債権に限る)並びに契約資産の科目及びその金額をそれぞれ注記しなければならないことが定められている(連結財規第23条第5項)。
 記載事例6は、当期の連結貸借対照表において、受取手形及び売掛金を一括して表示している場合の記載事例である。なお、売掛金及び受取手形に顧客との契約から生じた債権とそれ以外の債権を含めて表示している場合にも、顧客との契約から生じた債権の残高を注記しなければならないと考えられる。

3 連結損益計算書及び連結損益計算書関係注記
 2020年改正収益認識会計基準等においては、顧客との契約から生じる収益を、適切な科目をもって連結損益計算書に表示することとされており、例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示することとされている。
 なお、売上高の記載については、顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分して記載するものとされている。この場合において、当該記載は、顧客との契約から生じる収益の金額の注記をもって代えることができるとされている(連結財規第51条第2項)。
 一方、連結財規の規定により特定の科目に関係ある注記を記載する場合には、当該科目に記号を付記する方法その他これに類する方法によって、当該注記との関連を明らかにしなければならないとされている(連結財規第16条第5項)。
 したがって、売上高の記載について、顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分していない場合の注記は、当該科目に記号を付記する方法などによる必要があるが、記載事例7のように、連結損益計算書関係注記において参照する旨を記載し、その金額については、収益認識関係注記における収益の分解情報において記載することも考えられる。

4 会計方針に関する事項
 2020年収益認識会計基準等に関する会計方針に関する事項として注記する内容については、原則として、企業会計原則注解及び会計方針会計基準に照らして判断するものと考えられるが、収益認識会計基準等においては、会計方針として少なくとも注記する内容として、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記するとされている。また、これらの項目以外にも、会計方針に含まれると判断した内容については、会計方針として注記するとされている。
 なお、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)は、会計方針と同一の内容が記載される場合には、収益認識関係注記において注記を省略できるとされている。
 記載事例8は会計方針に関する事項を事業別に記載する場合の記載事例である。なお、記載方法は、会計処理方法別に記載する方法なども考えられ、記載事例に示した方法に限られるものではない。

5 会計方針の変更
 収益認識会計基準等の適用初年度においては、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するとされている。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとされている。
 記載事例9は、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する場合の記載事例であるが、前提は以下の通りであるので注意してほしい。

・過年度において2018年公表収益認識会計基準等は早期適用せず、2020年改正収益認識会計基準等を早期適用する。
・2020年改正収益認識会計基準第84項の原則的な取扱いに従って過去の期間のすべてに遡及適用する。
・2020年改正収益認識会計基準第85項に定める経過的な取扱いに従って、前連結会計年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しない。
 なお、2020年改正収益認識会計基準等の適用初年度においては、実務上の負担を軽減するための経過措置が設けられている。当該経過措置を適用し、これに重要性がある場合には、当該経過措置に係る記載を行うことになると考えられる。

6 収益認識関係注記
 ① 収益の分解情報

 2020年改正収益認識会計基準等では、当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して注記することとされている。収益を分解する程度については、企業の実態に即した事実及び状況に応じて決定することとされている。したがって、複数の区分に分解する必要がある場合もあれば、単一の区分のみで足りる場合もあると考えられる。
 また、収益の分解情報については、当年度に認識した顧客との契約から生じる収益と報告セグメントごとの売上高との間の関係を投資者その他の財務諸表の利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記するものとされている。
 なお、収益を分解するための区分の例として次のものが挙げられる。
(1)財又はサービスの種類(例えば、主要な製品ライン)
(2)地理的区分(例えば、国又は地域)
(3)市場又は顧客の種類(例えば、政府と政府以外の顧客)
(4)契約の種類(例えば、固定価格と実費精算契約)
(5)契約期間(例えば、短期契約と長期契約)
(6)財又はサービスの移転の時期(例えば、一時点で顧客に移転される財又はサービスから生じる収益と一定の期間にわたり移転される財又はサービスから生じる収益)
(7)販売経路(例えば、消費者に直接販売される財と仲介業者を通じて販売される財)
 記載事例10は、上記のうち(1)の記載事例である。収益を分解するための区分については、記載事例等に限定されるものではなく、収益認識関係注記における開示目的に照らして、企業の収益及びキャッシュ・フローを理解するために適切であると考えられる方法で注記する必要があると考えられる。

 ② 収益を理解するための基礎となる情報
 連結財規第15条の26が準用する財規第8条の32第1項第2号により求められる顧客との契約から生じる収益を理解するための基礎となる情報には、次の事項が含まれるとされている(連結財規ガイドライン15の26が準用する「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(以下、「財規ガイドライン」という。)8の32の3)。
(1)顧客との契約及び履行義務に関する情報
(2)顧客との契約に基づいて、財貨の交付又は役務の提供によって得ることが見込まれる対価の額(取引価格)を算定する際に用いた見積方法、インプット、仮定に関する情報
(3)取引価格を履行義務に配分する際に用いた見積方法、インプット、仮定に関する情報
(4)収益を認識する通常の時点の判断及び当該時点における会計処理の方法を理解できるようにするための情報
(5)顧客との契約から生じる収益の金額及び時期の決定に重要な影響を与える収益認識会計基準を適用する際に行った判断及び判断の変更
 収益を理解するための基礎となる情報において注記する情報は、顧客と締結した契約の内容と、それらの内容がどのように収益及び収益に関連する財務諸表の項目に反映されているかに関する情報を開示するものであるとされている。当該情報を記載するにあたっては、単に収益認識会計基準等における取扱いを記載するのではなく、企業の置かれている状況が分かるようにすることで、財務諸表の利用者に有用な情報を開示することになると考えられる。
 ③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
 顧客との契約に基づく履行義務の充足と当該契約から生じるキャッシュ・フローとの関係並びに当連結会計年度末において存在する顧客との契約から翌連結会計年度以降に認識すると見込まれる収益の金額及び時期に関する情報を注記することとされている(連結財規第15条の26が準用する財規第8条の32第1項第3号)。
 連結財規ガイドライン15の26が準用する財規ガイドライン8の32の4(1)では、顧客との契約に基づく履行義務の充足と当該契約から生じるキャッシュ・フローとの関係を理解できるようにするための情報として含まれる事項が挙げられている(記載事例11)。

 また、当連結会計年度末において存在する顧客との契約から翌連結会計年度以降に認識すると見込まれる収益の金額及び時期に関する情報には、例えば当連結会計年度末において未だ充足していない履行義務に配分した取引価格の総額、当該履行義務が充足すると見込んでいる時期等が含まれるものとされている。なお、当該履行義務が、当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合等には、当該情報の注記を要しないとする実務上の便法が設けられている(連結財規ガイドライン15の26が準用する財規ガイドライン8の32の4(2))。
 記載事例12は、当初に予想される契約期間が1年以内の契約に対する実務上の便法を使用しており、収益の認識が見込まれる期間について表形式により定量的に記載する場合の記載事例である。

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