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解説記事2021年05月03日 特別解説 IFRSを任意に適用して有価証券報告書を提出する我が国の上場企業の概要(2021年5月3日号・№881)

特別解説
IFRSを任意に適用して有価証券報告書を提出する我が国の上場企業の概要

はじめに

 2010年3月期に日本電波工業が我が国の企業で初めてIFRSを任意に適用して有価証券報告書を作成・提出してから10年以上が経過し、現在は、IFRSを任意に適用して有価証券報告書を作成・提出する日本企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。」は200社を超えるまでになっている。
 本稿では、2021年3月末日現在のIFRS任意適用日本企業を様々な切り口から分類し、調査分析をしてみたいと考えている。

今回の調査対象とした企業

 今回の調査対象とした企業は、2021年3月31日時点でIFRSを任意に適用している我が国の上場企業226社とした(2021年3月期末からIFRSを任意適用する企業までを調査対象としている)。
 なお、IFRSを任意に適用して有価証券報告書を提出している非上場企業(例:ダイナムジャパンホールディングス)は今回の調査対象から除外した。
 また、IFRS任意適用日本企業のうち、グループ内での再編等により、現在までに上場廃止となった企業についても後述している。

IFRS任意適用日本企業の決算期

 まず、調査対象とした226社の決算期の分布を調査したところ、表1のとおりとなった。

 全体のほぼ3分の2の企業が3月決算であり、12月決算の企業は2割強であった。
 また、4月、7月、10月及び1月決算のIFRS任意適用日本企業はなかった。
 なお、電通グループや花王、横浜ゴム、JTなど、IFRSの任意適用を一つの契機として決算期を3月から12月に変更した企業も少なくなかった。

IFRS任意適用日本企業がIFRSの任意適用を開始した時期

 今回の調査対象とした企業がIFRSの任意適用を開始した時期を調査したところ、表2のとおりとなった。日本電波工業1社から始まったIFRS任意適用企業数が、スタート当初の4,5年間は低調であったものの、2013年度頃からは年間20件から30件前後のペースで着実に増加してきたことがわかる。

 なお、例えば2015年3月期第1四半期からIFRSの任意適用を開始した企業、2014年12月期から任意適用を開始した企業、及び2015年3月期末から任意適用を開始した企業はいずれも、表2においては、「2014年度」に分類している。
 現在のIFRS任意適用日本企業の過半数の企業が、2016年度から2018年度にかけての3年間でIFRSの任意適用を開始している。2019年度及び2020年度については、新規に任意適用を開始する企業数はやや減少しているが、2022年3月期第一四半期からはソニーグループがIFRSの任意適用を決定するなど、IFRS任意適用日本企業の数は今後も着実に増加していくことが予想される。

IFRS任意適用日本企業が上場している市場

 今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業(上場企業)の分布を、上場している市場別に分類すると、表3のとおりとなった。

 各市場への上場企業の総数から考えても、東証1部上場の企業がほとんどを占めるのは当然予想されることではあるが、全体の1割以上の企業がマザーズやジャスダックといった新興市場に上場している企業であることは注目に値するであろう。
 IFRS任意適用日本企業は、JT、武田薬品工業やトヨタ自動車のような、海外に事業を展開している大企業が多い一方で、IFRSを適用したうえで新規に上場する企業や、海外投資家が多い一部のベンチャー企業等で、我が国の会計基準に代えてIFRSを適用する動きが見られる。

IFRS任意適用日本企業が属している業種の分布

 次に、今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業(上場企業)の業種の分布を一覧にすると、表4のとおりとなった。

 IFRSの任意適用が開始された当初は卸売業(商社等)や医薬品(大手製薬企業等)が目立ったが、任意適用開始から10年以上が経過した現在は、情報・通信やサービス業等のいわゆる「ソフトサービス系」の企業が多いものの、幅広い業種にまんべんなく分布するようになったと言えるのではないかと考える。
 なお、金融庁が作成した資料「会計基準を巡る変遷と最近の状況」(2020年11月6日)によると、鉱業、建設業、銀行業、海運業、倉庫・運輸関連及びパルプ・紙の計6業種については、IFRS任意適用日本企業がまだ存在しない状態となっている。

IFRS任意適用日本企業がIFRSを任意適用する前に適用していた会計基準

 次に、今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業(上場企業)が、IFRSを任意適用する前に適用していた会計基準を調査したところ、表5のとおりとなった。

 我が国の会計基準からIFRSに移行した企業が全体の8割を占めるものの、米国会計基準からIFRSに移行した企業と、IFRSを任意適用して新規に上場した企業とがそれぞれ1割ずつ存在することが特徴であると言える。
 かつての我が国の企業にとって、米国会計基準を適用してニューヨーク証券取引所等に上場することは、一流の世界企業となったことの証であり、重要なステータスの一つであったが、世界中にIFRSが浸透するにつれて、米国会計基準からIFRSに乗り換える企業が相次いだ。2021年3月期からは、株式時価総額が我が国で首位のトヨタ自動車もIFRSの任意適用に踏み切り、2022年3月期からは、同3位のソニーも、米国会計基準の適用を廃止してIFRSを任意適用することを決定している。現在、米国会計基準を適用する日本企業は、キヤノンやコマツ等、計10社(ソニーを除く)にまで減少している。
 また、IFRSを任意適用して新規に上場した企業(すかいらーくホールディングス他)には、全社が該当するわけではないものの、企業の純資産額に匹敵するような多額ののれんが計上されている場合が多いという特徴がある。

売上高の規模別の分布

 今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業(上場企業)を売上高の規模別に分布を一覧にすると、表6のとおりとなった。

 なお、IFRS任意適用日本企業各社の売上高のデータは、2020年12月期決算までの企業については直近の数値を使用しているが、2月決算及び3月決算の各社については、本稿の執筆時期と有価証券報告書の提出時期との兼ね合いから、1期前(2020年2月期及び2020年3月期)の数値を使用している。
 売上高の規模は、最も少ないヘリオス(2020年12月期)の27百万円から27兆円を超えるトヨタ自動車(2020年3月期)まで、実に100万倍の差が見られた。
 IFRS任意適用日本企業の上場市場の分布の項でも言及したが、世界でもトップクラスの大企業から、売上高が計上され始めたばかりのベンチャー企業まで、さまざまなステージの企業がIFRSを任意適用していることがわかる。

のれん計上額の有無及び残高

 今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業(上場企業)が計上しているのれんの残高の規模別に分布を一覧にすると、表7のとおりとなった。

 なお、表6の売上高の規模の分布と同様に、のれん計上額の残高分布についても、2020年12月期決算までの企業については直近の数値を使用しているが、2月決算、及び3月決算の各社については、本稿の執筆時期と有価証券報告書の提出時期との兼ね合いから、1期前(2020年2月期及び2020年3月期)の数値を使用している。
 IFRS任意適用日本企業ののれんの計上額(残高)は100億円以上500億円未満がボリュームゾーンであり、全体の2割強の企業がこの区分に属している。5000億円を超えるのれんを計上している企業が合計で12社にとどまっている一方で、のれんを全く計上していない企業も21社(計上額に重要性なし、としている企業2社を合わせると、全体の1割を超える)あり、のれんの計上額が1000億円未満の企業が226社中181社(約80%)を占めていた。
 全体的に見て、IFRS任意適用日本企業ののれんの計上額の水準は、一握りの企業(ソフトバンクや武田薬品工業等)を除いてはそれほど高くはないと言えるものと思われる。
 なお、IFRS任意適用日本企業ののれん計上額については、欧州や英国、米国の企業のデータ等と合わせて、また別途に調査分析を実施する予定である。

IFRS任意適用日本企業の監査を担当する監査法人

 今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業(上場企業)の監査を担当する監査法人を調査したところ、表8のとおりとなった。

 今回調査の対象とした226社のうち、196社(87%)の会計監査人が4大監査法人であり、準大手監査法人の太陽有限責任監査法人が15社で続いていた。なお、あらた監査法人とともにPwC(プライスウォーターハウスクーパース)のメンバーファームとなっている京都監査法人は、4社と数は少ないものの、KDDI、京セラや日本電産など、我が国を代表する大企業の会計監査を担当している。

IFRS任意適用日本企業の監査を担当する監査法人の継続監査期間

 今回調査の対象としたIFRS任意適用日本企業(上場企業)の監査を担当する監査法人の継続監査期間を調査したところ、表9のとおりとなった。

 どのカテゴリーにもまんべんなく分布する結果となったが、日本の会計基準を適用する主要な日本企業に比べると、IFRS任意適用日本企業の場合には、継続監査期間がより短い、すなわち監査法人の交代がより頻繁に起こっているように思われる。特に、最も多くのIFRS任意適用日本企業で会計監査人を務める有限責任あずさ監査法人(あずさ)が最近10年間で17社の会計監査人に新たに就任しているのが目立つほか、準大手で15社の会計監査人に就任している太陽有限責任監査法人(太陽)も、15社のうち実に11社について、最近5年以内に新たに会計監査人に就任している。

グループ再編等により、上場廃止となったIFRS任意適用日本企業

 以前にIFRSを任意適用したが、その後グループ内再編や合併等により上場廃止となったために、今回の調査対象の226社には含まれていない企業は、表10のとおりである。

 日立製作所系、本田技研工業系の各社について企業グループ再編が行われているほか、昨年末にはZホールディングスとLINEの経営統合というニュースが飛び込んできた。コロナウイルス感染症(Covid-19)の今後の終息が見通せない中、業績が悪化する前に先手を打った、大胆な企業や事業の再編が今後も起こる可能性も否定できないであろう。

株式時価総額が高いIFRS任意適用日本企業

 IFRS任意適用日本企業は、全体的に株式時価総額が高い企業が多い。2021年3月末日の時点において、株式時価総額(日経平均)の上位300社にランクされる日本企業のうち、3分の1強の103社がIFRS任意適用日本企業であった(このほかに、米国会計基準を適用する日本企業が10社ランクインしていた。)。さらに、株式時価総額の上位100社に絞ると、このうち過半数の54社がIFRS任意適用日本企業という結果となった。
 2020年11月の企業会計審議会に東京証券取引所が提出した資料「IFRS適用状況−2020年10月末時点−≪東証上場会社≫」によると、「①IFRS適用済会社」、「②IFRS適用決定会社」及び「③IFRS適用予定会社」の時価総額の合計は264兆円であり、東証上場会社の時価総額(623兆円)に占める割合は42.3%となるとされている。

終わりに

 本稿では、IFRS任意適用日本企業の属性や上場する市場、売上の規模や会計監査を担当する会計監査人等について、全体的な調査分析を行った。計上されているのれんの残高やのれん計上額の連結純資産に対する比率、のれんの減損額、及び監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項(KAM)などについては、後日、より詳細な調査分析を別途実施する予定である。

参考文献
・「会計基準を巡る変遷と最近の状況」2020年11月6日 金融庁
 企業会計審議会総会・第7回会計部会資料
・「IFRSの適用状況(東証上場会社)」2020年11月6日 東京証券取引所
 企業会計審議会総会・第7回会計部会資料

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